__私は一体、何のために生まれてきたの?
親には迷惑かけて、完璧な姉と比べられて、学校では恐れられてて。
全てお前が悪いんだってことくらい、私にも解るわ。
そう、全てお前が悪い。
私の人生がトチ狂ったのも、あんな奴に見つかったのも、そして今こんなところに居るのも。
私はそいつを睨み付けた。
あーあ。
私は談笑する女子グループを横目で見ながらため息を吐いた。
何でだろう。私はこんなにもイライラしてるのに、何でこの人たちは楽しそうに笑ってるの。
不公平すぎる。神様って意地悪じゃない?
神頼みしても、高い金払って御守り買っても、ちっとも幸せになんかなれやしない。
私がこんな姿で生まれてきてしまったのも、きっと____いや、完全に神様のせい!
私は松野 蓮花。
何故だか、私の髪の毛は鮮やかなみかん色をしていた。
通常は黒や焦げ茶色、薄くても茶色なのに、私の髪の毛は完全なみかん色だった。
生まれてからずっと、この髪の毛のせいで不良と勘違いされ、更にはこんな子に育てた母親が悪いと言われる始末。
子供や同級生には恐れられ、大人には非難の眼差しを向けられる。
人は見た目が9割。性格なんて見てもらえないんだね。
そんなせいか、私は小学三年生の頃からぐれていた。目付きもどんどん悪くなり、イライラしている時間も増え、夜遊びや喧嘩もするようになった。
傷だらけになって帰ってくる私を見て悲しそうに笑う母親の顔は堪らなく嫌だったけど、依存したように止められなくなっていた。
そんな私の人生だが、もう少し細かく説明しよう。
始まりは三歳の頃。
新しい環境をわくわくどきどきしながら待っていた私。そう、幼稚園に入園したのだ。
あまり外に出なかった私は、みかん色の髪の毛なんてそう珍しいものではないと思い込んでいたのだ。今思うとバカだな。
そして当日。
母親に連れられて幼稚園に着いた。
周りには知らない人ばかり。まだ純粋な心を持っていた私は、好奇心に瞳を輝かせていたのだ。
しかし、私と同じ瞳をした者は誰一人いなかった。皆私を汚物を見る目で眺めている。
怖い。何なのこの人たちは!
どうして私のことを睨んでるの?
好奇心が一気に恐怖心へと変わった。
母親はうつむいたまま、「ついにこの日が来てしまった」と言わんばかりにため息を吐いていた。
私はこの日、全ての現実を突きつけられた。
次は小学校の入学式。
幼稚園生活はずっとぼっちで過ごしていた私。先生にも避けられ、子供たちには親から私には関わるなと言われたのか声もかけられず。馬鹿馬鹿しすぎて笑えない。何、下らない。たかが髪の毛、しかも色が違うだけ!
差別だ。いじめだ。ふざけるな。
何が先生だ?何が保護者だ。
ふざけるのも大概にして。
まだ幼かった私には抱えきれない程の憎しみに、既に少しぐれていた。
そのせいなのか、私は入学式当日にやらかしてしまった。
入学式が終わるまでは、教師も保護者たちも忙しく私に目をやる暇などなかった。ただ、教室で席に座れば話は違う。
「皆さん自己紹介してくださいね♥」
見るからにほんわかオーラ全開にしたオバチャン先生がゆっくりと言った。
そして私の番がきた。
緊張のあまり胃痛。キリキリとこみ上がってくる痛みに顔をしかめながら立ち上がる。
何を言えば良いのかも解らず、頭に浮かんだ言葉を言った。
「松野……れ…んかです…
趣味はぬいぐるみにカッターブッ刺すことです…」
あー、やっちゃった。
マズいマズいマズいマズい。
今まで自分の子供に視線を集中させていた保護者たちの視線が一点に集まる。その先には私の後ろ姿があったに違いないだろう。
「何あの子…」
「カッターですって!」
「嫌ねぇ…」
幻聴なのか、現実なのかよく分からなかった。でも、その視線は確かにそう言っていた。
先生はしばらく固まったまま動かず、子供たちは何が起きたのかさっぱり分からない様子だった。
そして中学校に入学し、同じような手順で今に至る。
「ひぁ!」
私が見つめていたグループの中の一人が悲鳴をあげた。
「どうしたの?萌菜」
「地獄の女王様が私たちのこと見てる…」
「やばくない!?うるさかったのかな…」
「とにかく行こっ!」
彼女たちはそのまま教室を駆け足であとにした。
…ただ、見てただけなのに。
何も言ってないのに、また誤解されてしまった。
ああ、助けて、神様。
私はどうしたらいいの…?
ホームルームが終わり、私は帰りの準備を始めた。
今日何度目かのため息を吐きながら机の中を手探る。
何かコツンと固くて冷たいものが当たった。あれ、こんなに小さいモノ入れてたっけ?
それを取り出してみると、正体は無色透明の石だった。
前に雑貨屋で見た、天然石………いわゆるパワーストーン。水晶というものらしい。
あまり興味はないが、この石には何故か惹き付けられる。
透き通ったその輝きは真っ直ぐで、まるで私の理想の姿のようだ。
私はその石を制服のポケットに入れ、早足で教室を出た。
「……何だろう、この感じ」
何故か、生きている感じがしないのだ。息を止めても苦しくなく、瞬きを数十秒しなくても目は乾かない。
おかしい。
何なの。それにこの感じ、昔にも感じたことがあるような気がする。何でかな……………
校門をあとにすると、私の足取りはどんどん軽くなってきた。
ポケットから水晶を取りだし、眺めながら歩く。なんかとても気持ちが良かった。次第には足が自然に上がり、スキップするまでに軽やかになった。
こんなに快い気持ちは初めてだ!
もしかして、この水晶のおかげかな?
今なら、このみかん色の髪の毛も許せるよ!自分自身が悪いんだって認められる…!
「今まで逃げてきた分の苦労を全て背負っても…?」
頭の中で聞き覚えのない声がよぎる。
だ、誰…!?
呼び掛けても、返事はなかった。
なんだ、気のせいか。
あーあ、楽しい気分が台無し…
私は別に逃げてなんかない。ちゃんと髪の毛も私の一部だって理解してるもの。
あーあ。もうこの水晶も濁って見えるよ。まるで私の心を映し出したみたいで気にくわない。
もういい。こんなの要らない。何で持って来たのよ私。馬鹿みたい。
近くのゴミ箱に放り投げる。鉄の網に水晶が当たり、高い音が響く。
「気に入らないとすぐに放棄するところ、アイツにそっくり(笑)
流石姉妹だねーアハハハッ」
またあの声がよぎる。
「だ、誰!?」
今度のは幻聴なんかじゃない。はっきり聞こえた。誰かが私に言っている!
「ふざけてないで出てこい!」
喉が痛くなるまで叫ぶ。しかし反応はない。ここは人通りも少ないので、誰か関係ない人に聞こえる恐れはない。よくストレスはここでぶちまける。
「アハハハッ、君、面白いねぇ!
でもごめん、今ペナルティで僕は体が消滅していて君には見えないよ」
あの声がふざけた口調で喋る。
「あんた頭可笑しいの!?
もう私には構わないで!」
なんなの、鬱陶しい。
「君があの情報統合装置を手に取らなければ済んだことさ。全ては情報統合装置に魅了された君が悪い!」
何なのその情報統合装置って。
悪いのは私?私が何をしたって言うの!ただ机の中に入っていた石を持って帰っただけじゃない!
「その『石』が僕の言う『情報統合装置』なんだよ。それは人間のぉおっと、ごめん、こっからはペナルティで言えないな。これ以上普通の人間の君が知ったら、あまりの情報の多さに脳が耐えられなくなってしまうからね。
それと色々マズイし…」
その声はぶつぶつと何かを呟いていた。
それよりあんたの正体は何なの?
「時期に分かるさ。それまでは知らないままの方が身のためだ。
あ、それと一つだけいい情報があるよ」
何?
「情報統合装置に触れた者は必ず近いうちに死去し、死後アナログプラネットにて人間を正しき道に導くいわゆる『神』になる。
そう、君もそうかな?」
くすくす笑いながら、その声は消えていった。
何だったんだ、今のは。
私の頭はおかしくなってしまったのだろうか?
私は足を進めた。
人通りが多くなってくると、いよいよ交差点が見えた。人で埋め尽くされた横断歩道を真っ直ぐ進む。
後ろに居る人に押されて流れに乗るように進むが、向こうからも人が来て挟まれる。
「…っ、この」
私は足を無理矢理差し出してなんとか前に進もうと試みた。
しかし一行に進む気配はなく、足を引っ掛けられて前のめりに転んだ。
顔面をアスファルトに打ち付け、激痛が走った。そしてローファーや革靴に踏まれ、蹴られ、息を吸う暇もなかった。
「…っ」
人が少なくなり、何とか立ち上がる。
しかしその時には既に、信号は赤に変わっていた。
ヤバイ、引かれる!
私は全身に力を入れて立ち上がるが、目の前にはトラックが迫っていた。薄汚れた灰色の壁が私のすぐ近くまで来ていた。次の瞬間、何かにぶち当たった。
体を捻り、そのまま二メートル程飛ぶ。
再びアスファルトに全身を強く打ち付ける。さっきの痛みとは比べ物にならないくらいに強く。
「………!かはっ…
………うぅ…」
手のひらにできた大きな擦り傷をボーッと見つめる。
そのまま目の前は掠れ、ふっと暗くなった。
「……この人、ただ者ではないですね」
「ああ。その証拠に、手のひらにマークがある。」
「この赤いのですか?擦り傷に見えるけど…」
「ああ。これは間違いない。ちゃんと十字だ」
……ん。何?
驚くほどに低い声と、可愛らしいロリ声に目が覚める。
「あ、柳澤先輩、目を覚ましました!
気分はどうですか…?まだ痛みます?」
視界に入った少女は、私を心配そうに見つめていた。可愛らしい声の主はこの子のようだ。
「い、いえ、大丈夫です…」
実は少し…かなりの痛みがあったが、知らない人に迷惑はかけられない。笑顔を無理矢理作って見せた。
「そうか…良かった」
今度は低い声。声の主は長い髪の毛を後ろでくくったポニーテール。どこかで見たような気がするが思い出せない。
「あのとき何か気配を感じ来てみたら…全く、私の能力がなければお前は死んでいたよ」
「あなたが助けてくれたの?」
「ああ。お前がトラックにぶつかる直前に飛び出してお前と道の脇に転がった。少しばかり怪我をしたが、問題ない。」
そうなんだ…
「今ここに居るのも、私が運んできた、と言うわけだ。ちなみにここは我々デジタル部の部室だ。
安心しろ、お前の怪我も大したことない。」
そっか。よかった…
それにしても「デジタル部」って何をする部なのかな?
「私は柳澤 ルル。中等部三年生だ。」
あ、一応先輩か。
まあそうだよね、背も高いし、顔つきも凛々しくて「女子生徒の憧れの先輩」って感じだし。
柳澤先輩は顔にかかる長いポニーテールを左手で払いながら、小さな女の子の背中を押した。自己紹介しろ、ってことかな?
「私は姫野ゆりなです。中等部二年生です…よろしくね。」
白くて小さくて、可愛らしくて綺麗な手が差し出される。
「あ、よろしくお願いします…」
私も傷だらけの汚い手を差し出す。流石に少しためらったけどね。
「あの、私は、一年の……松野 蓮花です…」
「松野な。噂の地獄の女王ってお前だったのか!」
やっぱり知ってたよね。
「その橙色の髪は、染めたんじゃないだろ?」
そりゃ、もちろん。出来るなら今すぐにでも無難な黒髪になりたいもん。
「そうだよな。
でもその髪もお前の一部だ。大切にしてやれよ。それに私は、その色が好きだ。落ち着くし、元気が沸いてくる色だ。
きっと、お前自身の色なんじゃないのか?」
私自身の…色…?
私自身は、きっとこんな鮮やかは色じゃないよ。それこそ真っ黒な筈だ。
27:苺ましまろ*◆LM:2015/12/24(木) 23:52 ID:W6s 「分かったようなこと言わないで!
貴女たちに私の何が分かるって言うの!?今日会ったばっかりの貴女たちに!
今まで散々苦労してきて、しかも…しかも大切な人も巻き込んで…!
助けてくれたことには感謝する!でもそんな綺麗事言ったってダメ…もう私の心は真っ黒なの!」
私はそう叫んで部室から飛び出した。
ズキズキと痛む足も、ガクガクと震える腕も、どんどん荒くなる呼吸も、今はどうでもいい。
とにかく、今すぐに楽になりたい。
一人静かな場所で、横になりたい。
ああ、私は一体何をしているの?
自分が分からない。
私はどうしたいの?
どうして貰いたいの?
何を望むの?
何を望まれているの?
ああ…私って、
誰からも愛されない存在なんだ。
「そんな風に自分を見失って恥ずかしくないの?」
私の前に仁王立ちしているのは、姫野さんだった。
「な、何…いつの間にここに…」
さっきまで部室に居たじゃない!
「うん。ほんの数秒前まで居た。」
じゃあどうしてここに…!
「『能力』だよ。私たちには特殊な能力が宿っているから」
何それ…。有り得ないでしょ、そんなこと。
「知りたいなら、また部室に来てね。
いつでも教えてあげるから」
それだけ言うと、彼女は校舎の方に歩いていった。
すみません、飽きたんでやめますw
画像|お絵かき|長文/一行モード|自動更新