僕の全て、君の全部。

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1:すぴか。:2016/03/02(水) 18:03 ID:HvU



「…おいで。
 
 ねぇ…、僕の前から消えないで?
 僕が君を愛しているから、だから。

 生きててよ、…ねっ?」

昔から、誰にも愛されなかった。
気づけば、いつも1人でいた。

ただ…、ただいつも、みんなの笑顔を眺めて頬が濡れるのを感じるの。


…それでも貴方だけは、こんな私を見つめてくれていた。

体の芯までとろけるような甘い甘い笑顔で、ふわり、暖かく抱き締めてくれる。

私にだけ見せてくれる姿に、胸がきゅんとなって…、目一杯の幸せを感じる。

…気づいたら、私はもう、

__貴方無しでは生きていけなくなってしまったの。

2:すぴか。:2016/03/02(水) 18:16 ID:HvU



「貴女なんて、誰からも愛されないの よ。
 恨むなら、貴女を置いていった両親 を恨みなさいね。」

記憶にあるかないか。
物心ついていたのか定かでないけれど、何故かこの言葉だけは覚えている。

いや…、正しくはこの言葉と、あの冷たく鋭い視線。


私が幼い頃、事故であっけなく両親は逝ってしまった。
よくある飲酒運転の車との交通事故。
よくあってはいけないことだけれど、それで両親は帰らぬ人となってしまったのだから。

普通だったら、飲酒運転の運転手を憎み恨むのだと思う。
幼すぎて覚えていないのだから、両親のいない悲しみにも暮れず、相手への怒りすら込み上げない。

『冷たい人間』
確かにそうなのかもしれない。
でもね、「愛」を知らないのだから、暖かさも何も分からないのだと言い訳をさせてほしい。

そんな冷たい人間である私、
安藤 奏(あんどう かなで)は、今年
高校1年。

冷たく、嫌われ体質である私は、ろくに友達すら出来ないことくらい分かっている。

…、分かっていても、一筋の線を描きながら頬を濡らす涙は、何よりも素直で正直だった。

3:すぴか。:2016/03/02(水) 18:32 ID:HvU



…ここが私の席か。

初めて入る1-6の教室。
黒板に貼られている席順の紙に群がるクラスメートの間から、安藤の字を見つけ、そこへと座る。

見た限りどうやら出席番号順のようで、頭文字が「あ」である私は一番前の窓側。

窓側は好きだけれど、一番前っていうのが気に入らない。無論、席を変わる事なんて出来るわけないけどね。

頬杖をついて、爽やかに広がる水色の空を眺める。白い雲がゆっくりと動くのを見ながら、「あぁ、今も時間は流れていっているんだな」なんて、思い耽ってみたり。

ぼーっとするのは慣れてしまった。
つまらないのは変わらないけれど、一人での時間は潰せるようにならないと。

がたん、と隣から音がしたから、隣をちらっと盗み見る。

そっか、隣に井上…みたいな名前の男子が来るんだったけ。
黒ぶち眼鏡に、サラサラな黒髪の爽やか好青年な井上(仮)君がこちらを見てにこりと笑った。

綺麗にきゅっと上がる井上(仮)君を見つめながら、笑顔の作り方を知らない私は軽く会釈をする。

…彼みたいに笑えたら、友達出来るのかなぁ。

4:すぴか。:2016/03/02(水) 21:35 ID:HvU



…まぁ、私に友達が出来ても、一瞬で消滅でもしまいそう。

時計を見れば、HRまで後10分。
今度は机に突っ伏して、だらけてみる。

不意に、肩をトントンと優しく叩かれる。
…と、友達…?

あ、いや違うか、私に友達はいないんだった。…うわ、言ってて悲し。
そっちの方向は、井上…みたいな名前の男子…だった…はず…。

ゆっくりそちらに振り向いて見ても…、あれ、おかしいや。

黒髪の爽やか眼鏡井上(仮)…じゃなくて、
隣には、ゆるふわ茶髪のにっこり男子…。

「…井上君、黒髪似合ってたのに。」
そう彼に呟くと、彼は少しも笑顔を崩さずにこやかに言った。

「かなで、何言ってるの?
 僕は井上じゃないよ、
 柊 空良(ひいらぎ そら)。

 よろしくねっ?」

かなで、なんて私の名前を呼んで笑う彼は本当に心の汚れていない綺麗な人なのだと思ったり、こんな人と友達になれたら良いな、とか考えちゃうけれど、

「…、初めて会った人に、軽々しく名 前を呼ばれたくはありません。」

ほら、気づけば口からは冷たい言葉が出てくるの。

5:すぴか。:2016/03/03(木) 07:16 ID:HvU



こんな言葉を言われたら、誰だって拒絶されたと思うだろう。
「なんて冷たい人間なんだ。」
そう言い、離れていくに決まっている。

こんな性格を直せたら、きっと楽しいのに…っ

「う、わ!」

頭の中でぐるぐる回る思考が途切れ、目の前にはあの茶髪男子。
近すぎるほどに近くで、私を見つめる彼の顔は、世に言う「イケメン」。

美形とはこのことだろう、少し愛らしさも残る彼はアイドルやモデルでもおかしくないくらい。

そんな彼は、ジッと私を見つめてから…、

満面の笑みを浮かべて、私の前髪を優しく撫でた。
…え、え?

「ねぇ、何で僕がここにいるか知って る?」

耳元でそっと投げ掛けられるその言葉に、私は首を横に振る。

「し、知りません。
 貴方の席はそこでは無いし、大体知 り合いでも無…」

精一杯紡いだ私の言葉は遮られる。

「かなでに会いに来たんだよ。
 僕以外の男の横にいちゃ、嫌。」

甘く甘く、彼の吐息を感じさせながら耳元で落としたその言葉に、
狂ってしまいそうなほど、心臓は動き始める。

振り返って無言で彼を見つめれば、彼はまた微笑む。

「これからよろしくね、かなで。
 安心してよ、絶対に僕は君から離れ ないから。ねっ?」

その言葉に返事を返す事を忘れてしまっても、彼は怒らない。
それどころか、愛しそうに見つめてくれる。

何で私に優しくしてくれるのか謎でしかないけれど、私はゆっくりと…、

__この優しさに溺れていくんだ。
 

6:すぴか。:2016/03/03(木) 18:53 ID:HvU



「それじゃあ、1人ずつ自己紹介して くれるか?
 先生も皆事の覚えたいし、皆もお互 いの事を知りたいだろ?」

1-6の担任は、熱血風な男の先生。
名前は佐藤だか斎藤だか知らないけれど、とりあえずスポーツマンみたいな30代くらいの人。

そんな先生のせいで、”魔”の時間、自己紹介が設けられることになると、気分はただ下がり。
そう…、「あ」のつく安藤は、

トップバッターですから…。

「えーっと、最初は安藤だな!」

視線でさっさと立てと伝えてくる担任を睨みつつ、盛大なため息を1つ落としてから席を立つ。

…、うわ、視線が凄いなぁ。
もちろん、皆からの視線は凄いもの。

「…安藤奏。」

名前を言ってから、何を言えば良いのか言葉に詰まってしまう。
…あぁ、笑顔も作れなければ、好きな事すら、趣味も特技も何にも無い。

「愛想悪すぎない?」
「何アレ、言わないならさっさと座れ よ。」

こそこそと聞こえてくる声に、
「話す事の無い私はもう座ってしまおう」
ただただ唇を噛み締め、腰を下ろそうとしたその時…、

7:すぴか。:2016/03/04(金) 19:39 ID:KzY



がたっ、と音を立てて立ち上がったのは…、柊 空良だった。
さっきまでの柔らかいオーラとは一転し、冷たく刺々しいオーラを放つ彼に少し怖じ気づく。

「お、おい。今は安藤の番だぞ?」
そう言うのは担任。
担任と言えど、柊 空良を見ながら震えていれば、先生の威厳など無いに等しいだろう。

柊 空良に視線や注目が集まった中、彼が発した一言。

担任やクラスメートを静かに見渡し睨み付けながら…、

「奏を理解しようとしない奴等が、
 奏に指図すんなよ、ふざけんな。」

吐き捨てるように言い放った彼に、気温は氷点下まで下がっただろうか。

彼に後ろ側へと移動させられた井上君や、中学で見た事あるような無いような顔ぶれの数々も、皆みんな凍り付く。

そんな中、私は…、

__ただ1人、涙を溢していた。

これまで、私を見てくれる人なんて…、私を理解しようとしてくれる人なんていなかった。
こんな性格である私のせいでもあるけれど、凄く凄く寂しくて。

それなのに彼は私を理解してくれた上、友達を敵に回してしまうかもしれないというのに、私の味方についたのだ。

へたりと足の力が抜け、私が椅子に座れば、彼はそんな私を見てふわりと笑った。
冷たいオーラなど、少しも纏わずに。

「かなでは、自分の良いところを見つ めきれてないだけなんだよ。
 誰にでも平等に接して、絶対に悪口 も人の嫌がる事もしない。
 冷たいように、素っ気ないように見 せているけれど、本当はね…?

 かなで、友達、作りたいんだよ。
 ねっ?」

首をかしげながら優しく問いかけてくれる彼に、無意識に私は何度も頷いていた。

私は、心底彼に感謝した。
これで友達が出来なくても…、後悔はしないから。

私の番は終わり、次々と順番は交代されていく。
友達に話しかけられた時のために皆の名前覚えなくちゃ…、なんて考える私は単純すぎるのかもしれない。

8:すぴか。:2016/03/04(金) 21:00 ID:KzY



そして訪れる休み時間。

私は、ふぅと一息ついて机に突っ伏した。周りからは、ざわざわと声が聞こえてくる。休み時間は騒がしい。

「だよね、だよね!
 あの人超かっこいいよねー!」
「お前、それヤバイって!
 笑いすぎて腹いてぇよー」

聞こえてくる雑談の数々。
低レベルな男子たちの会話もちらほら、ミーハー女子の会話もちらほら。

「あ、あのねっ!
 私っ、堀川 凪(ほりかわ なぎ)っ ていうのっ、えっとね!えっと…、
 凪ちゃんでも、凪でも、何でも呼ん でほしいなっ!
 よろしくねっ!」

……、ん?
さっきまで聞こえてた会話よりはっきり聞こえるこの声は何だろうか。
「堀川 凪」
さっき自己紹介で聞いた名前だけれど。

…、まぁ、こういう場合変に期待しても、結局違う人に話しかけてた落ちが多いんだよね…。

「…、聞こえてないのかなぁ。
 あ、私迷惑なのかなぁ…。」

…何か、聞こえるけれど…。
ダメだ。これまでのいじめ経験によると、これで振り向いて、
『バーカ、お前に友達出来るわけない だろー!』
って言われる落ちだし…。
うわ、何この経験、言ってて辛い。

そう思って顔を上げずにいると、不意に肩を優しくトントンと叩かれる。
これは…、多分返事する場面だよね?

「…何?」

…また冷たい返事に…。

「かなで、友達作るチャンス現在進行 形で逃しそうだよ?」

今日出会ったばかりなのに聞きなれてしまった柊の声に、いち早く反応する。

え…、友達作るチャンス…?

むくりと起き上がり横を振り返れば、
柊と…、クラスメートのちっちゃくて可愛い女の子…、あれ、この子涙目になってる…。

あ、もしかして…!

「…柊、女の子泣かせるのは良くない 。」

私が柊をシラーッとした目で見つめながら静かにそう言えば、柊は声を出しながら笑い始めた。

隣の女の子は相変わらず涙目で、私をジッと見つめている。

9:すぴか。:2016/03/04(金) 21:38 ID:KzY



これは、どういう状況…?
友達に免疫のない私は、おろおろ戸惑うばかり。何となく…、何となくだけど…、

「もしかして、堀川さん私に話しかけ てた…?」

私が控えめにそう聞けば、女の子ははち切れそうなほどに首を振りまくる。
柊は終始笑ったままだったけどね。

私は、少しずつ涙が引っ込んでくる女の子を見つめながら、
あ、そういえば凪ちゃんって呼んでって言ってたな、とか思い浮かべる。

…ちゃん付けは恥ずかしいから、付けない方向でも良いかな…。

私はあることを決心すると、そっと席を立ち、女の子の元へと寄っていく。

女の子は、未だ私を見つめていた。

「…ごめん、私に言ってたの、気づか なかった。
 ……こんな私でも、友達になってく れるならよろしくね、……凪。」

私は、ぎこちない喋り方で精一杯話してみる。女の子…いや、凪の目を見つめながら、期待にはこたえられなくとも、私なりの優しさをこめて。

それから…、凪はふにゃっと笑って、

「奏、よろしくねっ!
 私ね、中学の時から、奏とお話しし たかったんだよっ!
 やっとお話し出来た…、嬉しい!」

そう言ってから、またふわふわふにゃりと笑って、私に抱きついてすりすりしてくる凪を猫みたいだな…、と思うと同時に、
友達が出来た嬉しさ、凪と話せた喜び…、色々入り混じったせいで…、

「…凪、猫みたい。
 ……ふふっ。」

物心ついてから初めて、自然な笑顔になっていたの。

10:すぴか。:2016/03/05(土) 11:47 ID:KzY


「ああああああっ!!」

私を見て、急に叫びだす凪。

「柊君、見たっ?見たよねっ?」

キラキラ笑顔で柊に問い詰めている。
柊も少し目を丸くしてから、ふわっと微笑んで、

「うん、見た。
 まさか、1日目で笑えるようになる なんて…。」

どうやら、2人が話しているのは私が笑った事らしい。私自身、何故笑顔になったかは分からない。

どうしてだろう、と悩んでいると、

「あわわわ、奏がポーカーフェイスに 戻っちゃったよっ!
 いや、そんな奏も私は大好きだっ」

と言いながら、より一層抱き締める力を強めてふにゃふにゃ笑う凪猫。

「奏を最初に笑わせるのは、僕が良か ったな、とは思うけどね。」


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