感想など貰えると嬉しいです。
2:もふもふ中二病:2016/03/11(金) 20:09 ID:a.U チョコレートは悪魔の食べ物である。人を骨抜きにしてしまう程甘い。
バレンタインデー…それは浮かれた甘い恋愛ソングが街中に流れ、チョコレートの甘い香りが鼻腔をくすぐる。何となく甘い雰囲気で酔ってしまいそうだ。
それは僕、山田太郎の通う桜田門中学校も例外ではない。
贈られる側は、その甘いお菓子を受け取り、まさに骨抜きという言葉が相応しい状態となる。
贈る側は、普段の猿山の猿のような様子は一変し、随分としおらしくなる。
…実に不快である。
たかが甘い食べ物、あのようなただ砂糖で甘い味を付けただけの代物。
あれごときに一喜一憂するなど全く同じ人類として情けない。
僕は廊下のカップル共を睨みつける。
下駄箱にも、机の中にも、念のため体操着袋も調べたが、僕宛の甘い悪魔の食べ物は一つも入っていなかった
。別に、奴らが羨ましいわけではない。これはきっと、人類普遍の心理…異性に好かれたい。あわよくば、人前で大声では言えないような関係になりたい。あんなこと、こんなこと…
ようは、山田太郎(14)は思春期なのだ。
面白いですね。
バレンタインの事をdisっておきながら、チョコレートを探してしまう山田くんにすこし萌えました。w
ゆっくりでもいいので、続きの更新頑張って下さい。応援してます。
>>4
ありがとうございます!
書き溜めていないので、更新遅めですが頑張ります。
面白いです!
思春期の男子かぁ...と思います(笑)←イミフ
頑張ってください!
>>6
ありがとうございます!
男の子の心理なんぞ解らないので想像ですが…w
放課後、僕は図書室に寄った。
なぜなら、僕は四六時中脳を甘い物でいっぱいにした、とろけた甘ったるい奴らとは違うのだ。
常に将来を見据え、勉学に励む…二宮金次郎の様な学生なのだ。
図書室のお菓子の本が陳列した棚に向かう。その棚だけは、妙に甘い香りがする…女子の匂いがする、そんな錯覚を覚えた。
「これは…中々美味しそうだ。」
『超初心者向け!美味しいバレンタインチョコの作り方』
その本は、やたらと「簡単」であることを主張していた。恐らく、猿山の猿でも理解できることを伝えたいのだろう。
ぱらり、ぱらりとページをめくる。
今にも甘い香りがしてきそうなお菓子たちの写真…
基本のクランチ、ガナッシュ、少し難しいガトーショコラに難関の中の難関であるフォンダンショコラ…
「クランチがおすすめだよ。クッキー砕いて入れるだけただからさ。」
不意に背後から奴の声が聞こえた。
「何だよ富岡」
奴…富岡は、僕のそんなふてぶてしい態度すらも滑稽だと言う様に、くすくすと笑った。
「酷いなぁ…チョコが貰えなかったからってそんな苛々しちゃ駄目だよ。」
「苛々?僕がチョコを貰えないごときで?…ふざけるな!僕は他の奴らとは違う。奴らは思春期の欲に負けて獣のごとく求めるものを欲するが、僕はその思春期の欲を理性で抑え、奴らよりも進歩した判別ある文明人であって…」
「よく回る舌だこと。」
ふうふうと息巻いて反論する僕に富岡は冷ややかな目を向け、鞄からすっと小さな包みを出した。
「無欲な山田君には迷惑かな?こんな物」
富岡はくすっと笑い、包みを鞄に仕舞おうとする。僕は消え入る様な声で言った。
「来るものは拒まない…」
あっコテハン忘れてた
12:もふもふ中二病:2016/03/27(日) 20:10 ID:LpM 林檎色の夕焼けが綺麗だ。
身を切る様な冷たい風すら愛おしい。
ああ…富岡から貰った包みに手を触れるたびに、僕は…
笑ってなどいない。異性にチョコを貰う時でさえ、僕はいつもの寡黙な態度を変えることなく、こう返した「甘い物は大好きだ」と。
「いつもに増して、良い湯だった…」
「太郎、今年のバレンタインはチョコ貰えたのかい?随分機嫌が良いがな」
皿を洗っている母が何気なくうかがう。
「僕は平常運転だ」
「太郎」のプレートが掛かった扉を開ける。
参考書が積まれた机の上には一つ、場違いなあの包み。
「チョコ…本命というやつだろうか」
否、そうに違いない。富岡は僕にばかりちょっかいをかける。僕に気があるのだろう。
どきどきと、リボンをほどき、包みを開こうとしたその時、キキィーッと頭にブレーキが掛かった。
「その包みを開けるな山田太郎!」
脳内に屈強な男のイメージが映し出される。これは僕の自尊心の苛責。
厳格で、我慢強い僕の心の具現化。
…危ないところであった。他の奴ら同然、骨抜きになるところであった。
「色々と、疲れてるんだ。多分…」
僕は沈み込む様にベッドに入った。
目をつむり、深い眠りの底へと…
「ねえ山田君…」
富岡の声だ。
ふらりふらりと暗闇の中、誘われるように声のする方へ向かう。
「何だこれ…」
そこには、悪魔の羽を生やした富岡の様な少女が、リボンで拘束されていた。
「私はチョコレートの悪魔…君が嫌悪して抑えようとする性欲の権化とも言えるわ」
にっこりと悪魔が笑った。
「はあ…」
性欲の権化が富岡似の悪魔とは、まるで僕が彼女を性欲の対象と見なしている様ではないか。断じてその様な事は無いだろう?ええ?山田太郎。
「さて、独白がやたらと長く、くどい山田君。君に頼みたいことがあるの」
皮肉っぽい口調も富岡似だ。
「私のこの、リボンを解いてくれない?」
「?別に良いけれど…」
(まるで血液だ…)
だらん、と垂れ下がった赤いリボンの端を引っ張る。
「あれ?」
「ふふふっ…そんな事で解けるわけ無いでしょう?お馬鹿さん!」
引っ張っても、引っ張っても、悪魔を拘束したリボンは緩む気配すら無い。
反響する悪魔の小馬鹿にした様な笑い声が僕を苛立たせる。
「分かってるくせに!頭のかたーい山田君!」
…山田太郎!解かなくても良いのだ…だってこれは…
「何の事だ?」
「この場に及んでかまととを装うつもり?いい加減止めたら。」
「何がだよ…」
山田太郎…落ち着け。挑発に乗るな。
「性欲の権化を解放するんでしょう?それが表す意味すらも分からないお馬鹿さんなのかしら。」
「…」
これは罠…
「それくらい僕には分かる!」
まるで自分の声では無い様な声が反響した。
…僕の声はこんなにも低いものだったのだろうか。
これは成長。
大人に近付いてしまう…厭らしい、不潔な情事を出来る様に、体が形成されていくんだ。
そして、馬鹿な能無し共が鼻の下を伸ばして食い付く脂肪の塊や、柔らかな草原に興奮さえ覚える様になるのだ…嫌だ嫌だそんなの。
「成長が怖いのかしら?」
「違う!違う…僕は嫌悪感を催してるのだ!不潔だ、性欲なんぞ無くなってしまえ!」
…まさにその通りだ山田太郎!その悪魔は縛られたまんまで良いのさ。暴れた性欲は人を駄目にすると、どの本にも書いてあるのだ!
「ふぅん…面倒臭い理屈をこねる山田君には、優しく説明してあげなきゃね」
「はあ?何言って…」
ふと、悪魔が微笑む…否、僕の目の前に居るのは羽の生えた悪魔では無く、富岡だった。
「ねえ、山田君…」
彼女を縛っていたリボンが少し緩んだ…彼女が腕を動かせるくらいに。
「山田君、そういう欲が湧いてしまうのは、君に言わせてみれば人類普遍の心理でしょ?なら、そうして抑えることも無いんじゃないかな」
「だから、湧いてしまうから僕は抑えてるのだ…丁度、生理現象を我慢するのと同じ様に」
これでどうだと、富岡をきっと睨んだ。
それでも富岡は怯むどころか、むしろ小馬鹿にする様に、くすくすと笑う。
「可愛い可愛い山田君…!生理現象だって、ずっと我慢していたら体に毒でしょう?ちゃーんと、どこかで出しとかないと!」
「出すって…」
するりと富岡は腕を伸ばし、僕の肩を抱いた。甘い甘い、蠱惑的なチョコレートの香り…誘惑し、人を骨抜きにしてしまう呪いの含まれた毒…
「富岡…僕は…」
リボンがずるずると床に垂れ下がっていく。
そのリボンは、触手の如く、屈強な男の方へと伸びて行く…
「山田君、これはね、ちっとも厭らしい事でも無いのよ。貴方の言う通り、人類普遍の心理…厭らしいと考える方が可笑しいわ」
富岡は耳元でそっと、くすぐるように囁く。
僕はただ、その毒の香りを吸い込まんと息を止めた。
「山田君、素直になりなよ…みんな素直になるのに貴方だけ意地を張ってるのって疲れない?流されておしまい!絶対楽になるわ…」
苦しくて、息を吸う。
彼女を縛るリボンはすっかり解けてしまった。
…山田、太郎…
「五月蝿いのよ。あんたの心の具現化って奴…」
…太郎!太郎!目を覚ますんだ…僕の声を
「五月蝿いよ…もう良いんだ」
その一言で、富岡のリボンは全て解け、屈強な男を縛り上げた。
ーこうして僕はもう、思春期の葛藤に頭を痛める事は無くなったのだ…
目覚めは素晴らしいものだった。
酷く開放的で、今まで僕を縛っていた憑き物を全て取り払ってしまったかの様。何で今まであんなにも悩んでいたのだろう!
机の上の、富岡からの包みを手に取り、べりべりと包装を剥がす。
そして、僕はそのチョコレートの形状とそこに描かれた文字を見て、すっかり骨抜きになってしまったのであった。
屈強な男の声が聞こえる事は無かった。
めでたしめでたし。