――――若葉が芽生える頃。
それは春。出会いと別れの季節とも言われる季節。
別に君になんて興味なんか無かったのに
種を植えたあの日、君に出会えて全てが変わったよ。
そして私は毎日その芽に愛と、水を与え続けるんだ。
第1話 春風
桜の花びらがはらはらと散っていく。
目の前には制服を纏った大勢の人々とその人々の
目的であるクラス名簿が貼ってあった。
同じが良かった、と嘆く人もいれば歓喜で満ちている人もいる。
「三組……かあ」
ぽつりと呟き一人足早にその場を去る。
名前の入ったシールがある下駄箱に靴を入れて
三年生のクラスがある二階へと向かった。
昨年までは四階と、長かったこの階段もあっという間だ。
ノロノロと看板を見ては歩きを繰り返し自分のクラスへ辿り着く。
教室はまだすっからかんで、私一人しかいなかった。
いや、皆友達のところへ行ったりでまばらになっているだけだろう。
ちらほらと机にバッグが置いてあったりしている。
自分の席を探し、荷物を置く。
窓側の席だったので窓を少し開けて、本をバッグから取り出した。
栞が挟んであるページを開いてゆっくりと目を通す。
本を読むと何処か安心して、無になれる。
今日はうたた寝でもしそうなくらいの暖かさで
時折吹き込む春風がなんとも気持ちがいい。
ただ、ここは一人の場所じゃない。何十人もいる場所だ。
「おはようございまーす」
カラカラとドアが開き、それまた元気な声が教室に響いた。
「お、隣じゃん。桜井……よう??」
「……違う。かなめ。必要の要って書いてかなめ」
そっと指摘すると彼はけらけらと笑いつつ私に謝っていた。