「マジさ、あいつうざくない!?」
「それな〜!てかあいつアヒル口ヤバすぎ〜まじ爆笑」
口を開けば、低俗な単語ばかり。
本当、呆れるわ。
リアルが充実している者共、所謂リア充。ーーー
別称が“一軍”というだけあって、クラスや学年、ましてや学校までを牛裏る彼らにみんなは羨望の眼差しを向けるけれど、私はそんな奴らに憧れなんてもの、ちっとも抱かない。
男を侍らせて、訳のわからない言葉喋ってーーーあーゆーのを低知能っていうのよ。
将来的に肌を荒れさせてまで化粧塗りたくって、校則破ってまであんなはしたない格好して。どこが良いと思ってるのかしら?
テスト期間に学校側が儲けた休みも遊び呆けて。テストも平均点を下げるばかり。全く、努力している人の気持ちも分かって欲しいわ。だいたい、テスト休みは勉強するためにあるモンでしょ?
『ズッ友』なんて、口ばっかり。この自動眼力詐欺機(プリクラ機のこと)で撮った写真に写ってるこの子、さっき丁度悪口言われてたんだよね〜。一緒に写ってる女の子たちに。見せびらかすように机に貼ったりして、恥ずかしくないのかな?
とまあ、私のリア充に対する苛立ちは日に日に募っている。
これは僻みでも妬みでもない。ないったらないーーーー兎に角、自分たちが偉いと思って人様の迷惑も考えない糞みたいなやつら、心底いなくなればいいのに、とさえ思っている。
こんな奴らが将来社会の屑となって、皆の足を引っ張るのよ。
こんな屑みたいな奴らと連むぐらいなら別に、友達なんていらない。むしろ、独りの方がずっとマシ______
と思っていた時期が、私にもありました。
______ああもう!ボッチフィーバアじゃねえかくそ!!うんこ!!
リア充に対する強い偏見を持っていたあの頃から、かれこれ二年が過ぎました。
みなさん御機嫌よう。申し遅れましたが、私の名前は倉沢 紬と申します。
さてみなさん、ここでクイズです。私は今何をしているでしょうか?
制限時間は3秒。じっくり考えて。……ハイ終わり。
正解は……
「もうさ!クソやべえええええ!って感じ!!」
「まじ〜!?クッソウケるんですけど〜」
「あ、あははは〜……」
答え:リア充に媚び売ってる。
え?>>1はどうしたのかって?あはは。本当にどうしたんだろ。便所で流されたんじゃないかな?……冗談です。
私がこう至るまでの経緯って話せば長いから話さないけど、なんか友達いないって寂しいな〜、と思ったから………要はボッチと思われるのが怖くて猫かぶってるだけですが何か!?
クズだって?最高の褒め言葉さっ……ぐすん。
……取り敢えず、愛想笑いを浮かべていたらなんとなく切り抜けられるようになりはしたけど。うん。苦しいな。とっても苦しいな。これ。
まあ、あの頃に比べたらマシかな?ほとんど僻みだったからなあ…あの頃は。……典型的な勘違い女になっちゃってたからね。自分がマトモだと思ってた分、あの頃の私が一番タチ悪いんじゃないかとさえ思う。
高校生になって、諦めて、嫉妬心も全部かなぐり捨てたら、人の目が気になり出しちゃった。やっぱりちょっと、というかかなり怖いんだよね。人に嫌われるのは。
『話しかけにくい』『ノリ悪い』という理由で切り捨てられるのは嫌って思い始めて。でも、彼らに着いていける分だけのユーモアとかノリの良さとかとか個性ってものが、今まで彼らを頑なに拒み続けた私には無かったんだよね。
だから今は取り敢えず、鏡で練習した笑顔をはっつけて、彼らに追いつかなきゃいけない。
ーー自業自得だよね。どれもこれも全部。
情けないなあ、私。
『ねえ、紬はどう思う?』
『ぇあ、うん。私もあの先生ヤダな〜。ねちっこい感じが特に!』
『……だよね〜!やっぱマジうざい〜』
本日の友人との一連の会話を思い出しながら、ふと恥ずかしくなって布団に顔を埋めた。
なんだこのなんともない返しは!!もっと気の利いた切り返しで行けよ!!
『それな〜!マジあいつネチリーヌ』とかさ!!
もーちょい捻ろーよ!相手もなんて言えば言い方分かんなくなるじゃん!!
3分くらい布団で悶えたら、反省会開始だ。
ーー吃りとか無言はだいぶなくなったけど、やっぱり受け答えが自然じゃないな……
もうちょっと明るく言うべきか。いやまず、咄嗟の受け答えにも対応できるようにしないと……
「難しい……!!」
自分の意見を求められた場合は、だいたい相手に話を合わせればいい。
具体的な事聞かれたら、相手と同じようなこと言えばいい。
そうするだけで相手は自分と同じ感性を持つ人間だと思って、大層機嫌をよくするから……
でも、実際にそれを口に出す時が問題なんだよな〜
棒読みだと明らかに話し合わせてるだけって分かるし、感情込めすぎても逆に演技くさいし……
今日の私のは、後者気味だったかも……
やっぱり、ギャルっぽい言葉も使うべきだろうか。
『そうだよね〜』だとなんか真面目っぽいし……『それな〜』の方が、馴染んだ感じがある。
今まで真面目キャラを貫いてきた私には少しハードルが高いけど、ぼっち脱会の為だ……意を決してやらねば。
そうと決まれば、イメトレ。
幾つかの相手からの質問や言葉をイメージして、言うタイミングや言葉などを練る、実際に言ってみる。
布団の中で『それな〜!』を反芻する私の姿は、側から見ればとても滑稽であろう。
相手に言葉一つ返すのに、こんな苦労するなんて……ね。