クレアだよ。
主人公がちょっとお病みになっているよ。
読んでほしいよ。
その瞬間、私は全てを諦めた。
(………ああ)
私の中で確実に築かれつつあった『未来設計』というものが、ガラガラと音をたてて崩壊していく様が脳裏に浮かんだ。全くもって、その通りだった。
所詮、未来だなんて『希望』がなければ思い描けすらしないもの。その『希望』が確実に欠落してしまった今、私の中にあるのはただ、虚しさという感情とさえ呼べないものだけだった。
(なんて、くだらない……)
そう、くだらない。なにもかもが。
“あの人”が、私の手に入ることはない____それだけで、たったそれだけで、こんなにも世界が意味のないものに思えるなんて。……“灰色世界”とは、よく言ったものだ。
『愛おしい、僕だけのアンジェ』
『君を、君だけを、永遠に愛している』
(____もし、あの声が、瞳が、心が、一日だけでも……一瞬だけでも、私の方を向くならば。)
私は……私は、その一日の為に、一瞬の為に、人生の全てを投げ捨てても良かった。
現に私は“あの人”に全てを捧げる為、何もかもの備えをしてきた。持ち出された縁談話は全て払いのけ、純潔だって守ってきた。……その所為で、嫁ぎ遅れと揶揄され嘲笑われることも多々あったけれど。
(______それでも、私は…)
ーーーー
“あの人”の銀髪が、光に当たって輝く。それさえも、眩しい、と感じる。
当然、彼の目は純白のドレスに身を包む、愛らしい彼女に釘付けで。彼女の手を取って踊る貴方を見つめる私の視線になど目もくれはしない。
……不謹慎なのはわかっている。でも、最後だからーーー
「……!!」
彼と、目があった。
一瞬、時が止まったように感じられた。
彼は、私に向かって大きく笑いかけてくれた。
その端正な顔を、幼子のように綻ばせて。社交界で『大輪の向日葵』と称される程の、無邪気な笑顔を。幼い頃からずっと変わらない、あの笑顔を。
そのワンシーンはまるで一枚の画のように美しく、そして残酷に私の胸に焼きついた。私は、その笑顔をずっとずっと、死ぬまで忘れないだろう。否、死して尚も。永遠に、彼を思い続けるのだろう。
(………それでも、良いと思えたのは)
私は思わず彼から顔を背け、ドレスを翻して式場を後にした。
背後で少しばかりのざわめきが広まった気がしたが、もうどうだって良い。
扉を閉めきってさえしまえば、もう会場の騒がしさや明るさが飛び込んでくることはなかった。
静寂だけが、空間を占める。_____途端に、喉の奥から何かがこみ上げてくるような感覚があった。
(____駄目よ私。我慢して。)
泣くな。泣くな。私のなけなしの矜持と、誇りにかけて。
それでも目頭は熱くなり、目尻からはすぐに生ぬるい液体が漏れた。
「ッ私は……私は…!」
______“あの人”が、私を愛してくれるならば。
“あの人”の愛があれば……他には何もいらなかったのに。