何より、プライドが高い私。
私の目指した先には、アイドルだなんて世界があった。
グループのメンバーは私以外男子。
その中でも、色白で美しいと言われる彼はやる気ゼロ。
アイドルとしての能力を持ち合わせていないように見える彼は、何事もそつなくこなしていく。
がむしゃらに練習を積み重ねて進んだ先には、いつも彼がいた。
『何で、私の何があんたに劣ってるっていうの。』
私に勝る彼が羨ましくて、憎かった。
それでも彼は涼しげな顔でいうんだ。
『だって、無い。君が俺に挑戦する場面で、俺に勝てるものは無い。』
あぁ、もう。
どうせ私は、あんたには勝てないよ。
「私Sukai-Haiのファンで、特にレオちゃんなんです!」
「花くん顔ちっちゃいー」
アイドルグループ『Sukai-Hai』に所属する私、萩野怜音。
漢字はれおん、と読むけれど、アイドルとしての私はレオと呼ばれることが多いって最近気づいた。
番組に出演するときも、決まって番組表にはレオちゃん表示。
まぁ、良いんだけど。
そんな私は、練習の合間にメンバーの花田海とコンビニに来ていた。
はなだかい、海の名前みたいだとSukaiメンバーにからかわれるイジられキャラで可愛らしい彼とは話しやすい。
「…花、どうする?マネに、見つかる前に戻れって言われてたよね。」
「でも、見つかっちゃったし…。とりあえず出ていこ。」
茶髪のふわふわを揺らしながら、彼は走ってコンビニから出ていく。その後を追う私。
マネがSNS見てないと良いけどなぁ。
Sukaiメンバーやダンスの先生、マネージャーが待つレッスン室に帰ってすぐ。
「あんたたち2人は学習能力が無いの!?変装するっていうから許しを出したのに、マスクだけってバレるに決まっているでしょ!?
それに、こんな堂々とSNSに上げられて!
『Sukai-Hi、レオと花田を某コンビニで発見!しりとりで花君が言葉を思い出せなくて、レオちゃんも眉間にしわ寄せて考え出す仲の良さ。』
何でしわ寄せてんのよ!花も、こんな馬鹿みたいなことしない!」
もちろん、マネからの説教の嵐だった。
鈴木マネージャー。普通でありきたりな名字だけど、性格はありきたりじゃない。
自慢の黒髪ロングをなびかせながらヒールをコツコツならして歩く彼女は40歳を越えても尚、独身。
もちろん、独身なのも性格が関係してるってメンバーも私も思ってる。
マネ、気づいたら怒ってるしね。
「良い?Sukaiは、今ブレイク寸前とも言われてるのよ。分かるでしょう?
レギュラー番組だって決まったし、ドラマに出るメンバーもいる。2人だって例外じゃないの。
それに…、レオときたらSukaiの紅一点。女子なんだからいつどこで何が起こってしまうか分からない。
これからは、もう少し、物事を慎重に考えるのよ。」
分かったなら、みんな待ってるから振り付け合わせてきなさい。
そうとだけ言って部屋の隅へ行き、スケジュール帳とにらめっこしながら何か悩んでいる様子のかマネは、私達のために身を削って動いてくれているんだと分かる。
私の方をチラリと見て、へにゃっと笑った花は、
「怒られたね。レオが僕を引っ張って連れていっちゃうからだ。」
そんなことを言いながら、優しさのこもる瞳で見つめる彼。
やっぱり、花にからかいは似合わない。