キャラメルデイズ

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1:匿名:2016/06/23(木) 20:30

甘く溶けていく。

とろり、と。

それは、私の心まで、
甘く溶かしていく。

怒りも、嫉妬も、悲しみも、

全部、全部。

この時ばかりは全て忘れる。

「___よく飽きないね」

コト、とカフェオレの入った
飲みかけのカップを梨亜は机におく。

「当たり前でしょ」

私は『それ』を手のひらで転がす。

四角くて、銀紙に包まれた、

甘い甘いキャラメル。

「だって」

私はもうひとつ、それを口に含み、

キャラメルが溶けていくのを

舌で感じながら答える。

「これは私が最も癒されるお菓子、
 キャラメル____
 及び『精神安定剤』だもの」

2:竜皇サチ リュウ:2016/06/24(金) 06:58

はじめまして。匿名さんの小説、なんだか神秘的ですごくキャラメルの特徴が出ていますね

3:匿名:2016/06/25(土) 00:06

別に俺にとっては転校なんて
大したことではないと思う。

何回目かの光景を、竜也はぼんやりと
見つめながら考える。

父さんの仕事の都合か何かで
転校するのは、
もはや当たり前のように感じている。

慣れたことだ。

気になるような奴もいなかったし、
前のクラスメイトの顔も、
よく思い出せない。

覚えているのは、せいぜい
前の席に座っていた奴くらいだ。

隣の席の女子なんて、
絶対に覚えることなんてなかった。

なのに____

腰にまで届きそうな長い髪を
高い位置でくくっている女子。

2つ、だからツインテールとやらか。

背が少し小さい。
おい、本当に中学生か。

しかし、俺が目をひくのは
小さめの見た目ではなく、

___ころころと、
手の中で転がすキャラメル。

銀紙に包まれた、懐かしいお菓子。

俺も小学生のころ駄菓子屋行って
よく買ったな。

駄菓子屋の鶴ばぁ、元気だろうか。

っていやいや。懐かしむんじゃない。

・・・校則違反じゃないのか?

学校にキャラメル
持って来ていいなんて校則、
普通あるのか?

「よろしくー」

ツインテールを揺らし、
謎の女子は挨拶した。

「・・・どうも」

ガタン、と、出来るだけ
音を立てないようにして椅子に座る。

「えーと、りゅうくん?」

女子は右に首を傾けると、
黒板を見て俺の名前を呼ぼうとする。

「たつやだよ。漢字苦手なのか?」

「うん、まぁねー」

にっこりと笑顔を浮かべる。

「私、レミだよー」

愛くるしい顔をしている。
なんか、妹ってこんな感じなのかな…

「・・・っと、レミ?」

「はい?」

「・・・それ、何?違反してないの?」

俺は手の中にあるキャラメルを指指す。

「あ、えーと、これは私だけ
 持ってくるのOKなんだ」

「・・・何で?」

レミは少し体を縮ませると、
きゅ、とキャラメルを持ってない方の
手を握り口を開いた。

「・・・これはね、『精神安定剤』。
 私みたいな者が
使うべき薬・・・のことかな」

4:匿名:2016/06/27(月) 20:25

精神安定剤。

それは何なのか、なぜそれが
キャラメルなのかを知るために、
転校初日から屋上にいる。

・・・いきなり注意とかなったら
俺の学校生活どうすんだよ。

はーあぁ・・・と大げさにため息を
ついたところで、ガチャ、と
屋上にドアを開ける音が響く。

「やー、ごめんね遅れちゃって」

てへぺろ☆・・・って感じの仕草で
現れたのはレミ。

「途中でせんせーに何で屋上に
 行く必要があるんだー、って
 言われちゃってね」

そりゃそうだろ・・・
と言う心の声は置いておく。

「んで、転校生に説明しにいくんです
 って言ったらそんな必要ないだろ
 って言われちゃった」

「そりゃ災難なことで・・・」

「で、しょうがないから
 最終兵器使っちゃった」

ごそ、とポケットから取り出したのは
あのキャラメル。

「これ使って、私の命あと少しかも
 知れないんですよって言ったら
 せんせーおとなしくなっちゃった」

・・・あと少し。

あははーと笑う彼女の横で、
俺はただただ呆然とする。

精神安定剤を使う理由。

それを使うのは
単純で、残酷な理由。

・・・寿命が少ししかない。

空はだんだん、
オレンジ色から赤色に
変わっていった。

5:匿名:2016/07/02(土) 16:38

「・・・寿命があと少しなのか」

ギシ、とフェンスにもたれかかる。

くるりと長い髪を翻し、
レミはこちらを振り向く。

「・・・え?」

きょとんとした顔を向けた。

「・・・は?」

いや、驚くのこっちの方だろ?

「私の寿命があと少しなんて
 一言も言ってな・・・
 あー、あれは脅し」

やっと思い出したかのように、
キャラメルをぽん、と空に投げた。

「私の病気?は
 そんな物騒なもんじゃないよ」

「でも精神安定剤って・・・」

んーと、と人指し指をあごの辺りに
当てつつ、レミは口を開いた。

「病は気から、ってよく言わない?」

「え、あ・・・まぁ」

「そんな感じだよ。私の病気・・・は
 心の状態が不安定になったときに
 起こりやすいから」

高く投げたキャラメルを、
キャッチした。

「で、大好きなもの食べると
 安心するでしょ?
 だから別名、精神安定剤」

「・・・なんだ」

腰から力が抜けていくのがわかる。

ほっとする俺の表情は見ないで、
誰にも聞こえない声で、
レミは呟いた。

「・・・もってあと1年」

6:朱音:2016/07/09(土) 19:04

ぱちり、と目が覚める。

朝だ。

「うっ・・・」

ズキリ、と頭が痛む。

私は急いで側にあったキャラメルを
口の中に放り込んだ。

頬が濡れている。

泣きながら寝たのだろうか。

ズキリ、とまた頭が痛んだ。

途端に、過去が頭をよぎる。


・・・約束、したのに。なんで。

ひっく、ひっく、と泣きながら、
私はひとりの女子に問う。

『は?私約束したっけ』

呆然とした。

頬を伝った涙は乾いていた。

『・・・っていうかあんたのこと
友達なんて思ってなかったし。』

『親友?
あり得ないにきまってるでしょ』

・・・ひどい。ひどいよ。

あなたに私の気持ちなんて
わかるはずないのに。

約束したことなんて忘れて
みんなに言うなんて。

誰にも知られたくなかったのに。

信じてたのに_____

止まらなかった。

ずっと我慢してたのに。

・・・そっちがこんなことしなけりゃ、
うわべだけの関係、
ずっとずっと続けられたのに。

すっと、右手がのびた。

瞬間、頬を叩いていた。


私は、ワルイコ。

だから罰が下ったんだ。

そっと胸に手をやる。

・・・あと一年だから。

あと一年で、ワルイコは消えるから。

私はもうひとつ、
キャラメルを口に放り込んだ。

7:朱音:2016/07/13(水) 01:30

レミの病は何なんだ____?


レミの秘密(?)を知ってから1週間、
ちょっと驚いたことがある。

それは・・・

・・・異様にレミが
料理を得意としているということだ。

漢字が苦手という先入観から、

レミはきっと何でも
不器用なのだろう____

と考えてしまっていた。

しかし。

調理実習でレミが並べていく料理はどれも鮮やかで、思わずひとつ
つまみ食いしそうなほど
おいしそうなのだ。

あともうひとつ。

レミはいつも同じ誰かと一緒にいる。

弁当のときや休み時間のときにも
一緒にいるのだ。

“親友”とやらか?俺にはいないなぁ・・・

・・・ん?

親友(?)でずっと一緒にいるという
ことは・・・

レミの病について
何かわかるかも・・・?!

よーっし!

俺は手早く開きかけていた
弁当の包みを結び、
着いていくことにした。

尾行、開始っ!

8:匿名:2016/07/29(金) 22:23

尾行、というかなんなのか。

調べてみると…レミについているのは
梨亜、という美少女、だ。

肩のところ辺りで切られた黒髪が
美しい。

美しいってこう言うものなんだな…

「…っておい、ダメだろ…」

ふぅ、と一度深呼吸すると、
「…あの」と声をかけてみた。

「はい?」

あぁ、まるで鈴を震わせたような…
っておい。いい加減にしてくれ。

「…レミの病について、何か
 知っていますか」

梨亜さん、の表情が曇る。

「…レミに言われたの?」

潜めるようにして聞かれる。

「…知ってるんですね」

「敬語じゃなくてかまわないわ。
 そうね…あなたなら
 言ってもいいかしら」

突然社長のような態度にとられた
梨亜、に戸惑いながらも聞く。

「レミの病って…」

「感情不安定時暴行症候群」

…?聞いたことのない病だ。

「まぁ、正式な名ではないしね。
 症状は…感情が高ぶったときなどに
 起こり、近くにいる人に
 暴行を加える、という症状かしら」

「…暴、行」

「小さい頃に友達からひどい
 裏切りのようなのを受けたから
 なったそうなの」

…あの小さな体には、どんな過去が
あるのだろう。

9:匿名:2018/03/21(水) 23:48

レミは中学で入学したときに、出会った。

蝶よ花よと愛でられ、見た目も中身も文句なく育てられた私は、嫌味ではないが、初めて私より美しい人に出会った。
それがレミ。

腰にまで届く髪と、人形のように整った顔立ち。そして____もうすぐ消えてしまうのではないかというその儚さ。
全てが彼女を引き立て、見る人を魅了していた。

彼女は初めて私と出会ったときから気さくに話しかけてくれて、おかげで私は小学生のときのように1人になることはなかった。

しかし、仲良くなってから3ヶ月になろうとするころ、レミはひとつの秘密を打ち明けてくれた。


感情不安定時暴行症候群。


聞きなれない言葉と、彼女の手のひらで転がされるキャラメルに、私は一瞬言葉を失った。

「私ね、もう3年もないらしいの」

「…え」

「やっぱり、神様ってちゃんと見てるんだよね。悪いコには、きちんと罰を与えるもの」

カラカラと笑う彼女からは、寿命の短さを感じなかったが、初めて出会ったときの儚さを思い出し、嘘ではないと悟った。

「…小学校のときにね、親友だと思ってた人に裏切られてね、思わず殴ったらしくて…記憶は飛んでたけど、気づいたときには目の前に血だらけのその子がいてびっくりしたよ」

「…それが、初めて発症したときなの?」

「うん」

手のひらで転がしていたキャラメルを見つめ、レミは頷いた。

「そのときから、不安とか、怒りとか、悲しみとか…感情が不安定になると、周りの物を手当り次第、壊していくようになっちゃったの」

レミは転がしていたキャラメルの中からひとつ選び、銀紙を剥がして口に放り込み、食べる?と私に差し出した。

私は流されるままに、ひとつ選んで口に入れる。

とろりと舌上で溶けていくキャラメルは、とても美味しかった。

「美味しいでしょ?これのおかげで、私、これでもだいぶ寿命のびてるんだよ」

「…?どういうこと?」

「んっとね、やっぱり我を失うほどになると脳とか体にダメージがかかって寿命がだんだん削れていくんだよね。でもそうなる前に美味しいものを食べると、心が落ち着くの」

ふふっと笑って、レミはこっちを向く。

「そういう訳だからさ…梨亜、いられる時間は短いけど、これからもよろしくね?」

にっと笑った彼女の瞳からは、悲しみが滲み出ていた。

また裏切られたくないという思いからなのだろうか。

なら。私の答えはひとつだ。

「…もちろんよ、レミ。これからも…よろしくね」

あのときから、私たちはずっと一緒にいる。

私たちは、寿命という短い時間の中、精一杯人生を楽しんでいるのだ。

でも、この目の前にいる竜也とかいう男には、この重みに耐えられるのだろうか?

一年前の私のような表情の彼にちらりと目をやって、私は窓から青空を見上げた。


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