____…、一瞬で、気づいた。
私は、彼に出会うために生まれてきたんだって。
でも、私には…、
本物の恋なんて、出来ない。
>>2
優等生で、誰からも憧れられる存在の女子高校生、牧野 梨都(まきの りと)の、秘密の趣味は乙女ゲーム。
ゲームに出てくるイケメンキャラ、カイトが何よりも好き。
中3の夏休み、友達に誘われていったアイドルのコンサートで、とある人に釘付けになる。
一瞬の出来事。不意にその人が前髪をかきあげたとき、
…あのカイトとよく似た顔なのに気づいた。
高校1年生になった梨都の前に現れた人物は……、
「もしかして、あの牧野さん…?」
「あの東中生徒会長で、3年間学年1位を取り続けたっていう?」
「バスケで全国大会にも行ったって聞いた!」
「修学旅行に行く先々でモデルのスカウトされてたよ」
教室に着くまでの間、沢山の人からの視線を感じた。
そして、色んな話も聞こえる。
確かに、皆が言っていることは本当。
なりたい自分に近づきたくて、努力に努力を重ねていったら、いつしか、
『皆の憧れの存在 牧野梨都』が、
出来上がっていた。
「梨都、告白されたら教えてよ?あんたの告白回数数えるのが私の生き甲斐なんだから。」
横からソッと出てきて、こんなことを言うのは唯一の親友、的場 夕日(まとば ゆうひ)。
中学の頃、出席番号が近かったことがきっかけで仲良くなった。
今では、1番の理解者…かもしれない。
「夕日、なに能天気に言ってるの。その前に私、女子の友達出来るか危ういのにさ。」
自分でいうのも可笑しいけど、私はどうやら男子にモテるようで。
そのせいか、女子の一部から凄く嫌われている。
1-4を目指して廊下を歩く今も視線の中に所々睨みも感じるし…。
「そんなの良いじゃーん、私と同じクラスだし。何か女子にされたら倍返しにしとくから。」
そういってヘヘッ、と笑う夕日は、本当に頼もしい。
美人なのに気取らなくて、友達のために自分を犠牲にしようとするところとか、本当に人間的に尊敬する。
…やり過ぎるときもあるけど。
「あ、ここか1-4。」
夕日はボソッと呟いてから、
アイコンタクトで私を見つめた。
『心の準備良い?』みたいな意味だと思うから、私は頷いた。
中学の3年間、クラス替えの度に沢山の人から視線を浴びた。
メンタルの弱い私は、その視線で結構疲れてしまう。夕日は、そこまで分かってくれてる。
ガラッと夕日が扉を開けた。
夕日の後ろに続いて、私も教室に入る。
一瞬、シンとなった教室。
それから少しずつ活気を取り戻していくけど、会話の中には「牧野さん」だとか、「的場さん」という声もチラホラ聞こえる。
夕日と席が前後で良かったと安堵のため息を漏らしながら、席に着いた。
準備を終えてから、夕日と向かいあって雑談をしていた。
といっても、夕日が振り返ってくれてるだけなんだけどね。
「でさー、すっごい面白くてー!」
「え、そうなんだ?私も今度見よ、」
ドラマの話で盛り上がってた途中に、私の声は遮られた。
廊下から煩く響く悲鳴に近い女子の声に。
多分だけど、黄色い歓声ってものかな。
「…何だろうね?」
「ねー。うるさいなー、もう。」
気がかりでしかなかったけど、ミーハーに見に行くことが少し恥ずかしく思えて、気にしないようにして話を続けていた。
その時。
ガラッ
音をたてて扉が開く。
反射的にその方へ向くと、
私は、瞬きすら出来なくなった。
そこに立つ人物は、
誰もが知る、憧れで。
私も、中3の頃出会ってしまった。
「う、そでしょ。
あの、白石永久(しらいし とわ)…?」
夕日の呟く、白石永久こそ。
今沢山の歓声の中で微笑む、
”絶対的アイドル”
私達とはかけ離れた世界に存在する、幻のような存在の彼が、
どうしてここに来たのか。
どうして制服を着ているのか。
彼のあの顔が、
私の永遠の片想いの相手と酷く似すぎているのは、何かの予兆ですか。
「カ、イト…。」
神様、もしかして。
これは、必然的な出会いですか…?
ずっと私は、ボーッとしていたんだと思う。
気づけば担任が入ってくるところだった。
「おはよう皆!」
まさに熱血教師、といった感じの先生。
でも…、そんなのどうだっていい。
今、同じ教室内に白石永久がいることしか気にならない。
私から右斜め前に見える彼は、後ろ姿だけでもオーラが相当なもので。
何だか、別次元に見えてしまう。
…結局は、私もミーハーなんだと知った。
「さっきから皆気になってるだろうけど…、白石、前に出てこい。」
「はい。」
彼に視線が集中する。
サラリと席を立った彼の、そのスタイルの良さに圧倒される。
前へたどり着くまでの歩き方、
前に出てからの微笑み方、全て。
彼を引き立てるほか、何物にもならない。
「実は、ここの理事長が白石の親戚の方なんだ。だから、芸能活動で欠席がちだとしても高校には行こう、そう決断したらしい。
白石、何か話していいぞ」
ここの理事長、なんて顔を見たことがないから知らなかったけど、理事長の名字って白石だったかな…?
「白石永久っていいます。
一応芸能人なので、友達関係も一線を引くことにはなりますが、普通に接してください。
お願いしますね。」
綺麗にお辞儀をして、微笑んだ彼。
周りは拍手をしたりしているけど、どうにもそんな気になれなかった。
だって、普通に接してと言葉では言うのに、瞳も表情もオーラも、まるで
『僕に近づくな』と訴えているようで…。
…トントン、
私の前に座る夕日の肩を優しく叩いた。
もう白石さんは席に戻っていて、先生が話を初めている。
そんな中、すぐにこちらを向いてくれた。
「ん?どした?」
声を潜めて私に聞いた夕日。
「白石さんの空気感、どうしたのかな…って思って。」
耳打ちでそう伝えても、彼女は首をかしげるばかり。
「え、普通じゃない?どんな感じに見えたの?」
びっくりした。
てっきり、皆気づいているものだと思っていたから。
もしかして、私の勘違い…みたいなのかな。
「あ、ううん。ごめん、やっぱりいい。」
申し訳ないけどそう言うと、彼女は、そっか、とだけ言って前を向いた。
私の目に映る白石さんは、凄く分厚い壁を持ってるのにな…。
それからは何事もなく、お昼休みになった。
向かう先は、夕日と見つけ出した中庭の一角。
丁度ベンチがあって、木があるせいで誰からも見られない死角が生まれている。
「ここでもするんだ?」
「…うん、これ無しじゃ生きていけないに等しいから。」
本来ならお弁当が入っている巾着。
確かに、お弁当は入ってるよ。でも…
「ゲーム、スタートッ」
片手におにぎり、片手にゲーム機。
そして、耳にはイヤホン。
夕日の呆れ顔も伺えるけど、今はそんな場合じゃない。
「どうしようどうしよ、ゆうちゃん、カイトがぁ、かっこいい…」
「はいはい。調子のってゆうちゃんとか言わないのー」
さっきまでのモヤモヤの原因だった白石さんは頭の中からとうに消えていて、今はもうカイト一色。
「あー、もう、きゃーッ…」
…そう、私、牧野梨都は周りから優等生だなんて言われているけど、本当はただのゲームオタク、なんです。
それも、イケメンが登場する乙女ゲーム。
耳元から脳内にこだまするイケボ。
画面を見つめれば、すぐそこにイケメンさんがいっぱいいる…。
何よりも、推しメンのカイト…!
「…はぁ。これが無ければ梨都完璧なのになー。…そんな梨都も好きだけどねー」
「え?何か言った?」
「何でもなーい」
ふふ、本当は聞こえてたよ、夕日。
夕日だけだもんね、本当の私を知って離れないでいてくれるの。
「私も好きだよ、夕日。カイトの次に。」
私が悪戯っぽく笑ってそういうと、夕日は少しふてくされて、
「…聞こえてたんじゃん」
そう言って、照れ隠しでかサンドウィッチを口いっぱいに詰め込んでいた。
「はい、デート行きましょうっ、と」
「離れたくないからっ、と」
それからは夕日にチャイムが鳴ったことを知らされるまでゲームに没頭していた。
「あー、楽しかった。」
私がそういって片付けていると、どこからか声が聞こえた。
「永久くんマジかっこよかったぁ」
「でもさ、あんまり話そうとしなかったよねぇ?」
「やっぱり、アイドルだから調子乗ってんでしょー?」
学校内でも目立つギャルの先輩方は、堂々と大きな声で白石さんの悪口を言いまくりながら廊下を歩いていった。
「…やっぱり、女の人とは距離取らなきゃいけないんだろうねー。」
夕日の呟きに、こくりと頷いた。
クラスメートでも、やっぱり世界が違う人なんだね。
「じゃあ、戻ろっか。」
「今は出席番号の席だからな、席替えしようか。」
急遽、そんなことを告げた担任に喜ぶ皆。
…絶句する私と夕日。
夕日が近くにいないとか、やっていける自信ないから…。
5時間目が始まり、入ってきて早々担任の言葉で席替えが決定。
そして、くじ引きをすることになってしまった。
「えー、待って、嫌だ。梨都と離れるとか無理だよ、やめてー?」
「まだ決まってないから!」
魂を込めてくじを引き、席についた私。
どうやら女子の皆さんは、白石さんの隣や近くになれることを狙ってるらしい。
本当のところは…、隣にカイト(白石さん)がいてくれたら凄い嬉しいけど、それより何より夕日と離れたら色々大変。
黒板に書かれた席順と、割り振られた番号。
私は13。夕日は18。
数字で言えば割りと近い方。
場所で言えば…、
「一番、遠い…。」
私は、黒板を前に見て左側の後ろなのに対して、夕日は右側の一番前。
2人して、顔を合わせて…、
「「終わったね」」
…本当に、そういうしかない状況だった。
先生の移動しろー、という言葉に皆が動き出す。
私も、自分の場所まで机を持っていった。
頭の中は、夕日と離れて寂しい、そんなことしかなかった。
だから、全然気づいていなかった。
隣から掛けられた声が、あの人ということに。
「これからよろしくね。牧野さん。」
透き通った、綺麗な声。
目を細めた、綺麗な笑顔。
「…よ、ろしくね。白石さん。」
至近距離で見るカイトは、あまりにかっこよすぎた。
どうしよう、隣の席が…、
白石さん、なんて。
隣の席が白石さんということに驚いていると、いつの間にかグループが決まっていた。
今月末にある合宿の4人組の活動グループ、ということらしい。
メンバーは、今座っている位置の近い4人。
私と、白石さんと、可愛らしい女の子、そして不良みたいな男の子。
今は話し合ってグループの役割分担を決める時間になったそう。
「牧野梨都です。」
向かい合う3人に見つめられ、とりあえず自己紹介をしてみた。
名前しか言ってないけど、良い…よね?
隣の白石さんから、柔らかく「よろしく」と言ってくれたのが聞こえた。
…問題は、あとの2人。
女の子は、手をぎゅっと握りしめて膝の上に置いたままフルフル震えている。
不良の男の子は、睨むようにして私を見るばかり。
どうしよう、と戸惑っていると、その男の子が口を開いた。
「牧野と白石が隣同士とかオーラ強すぎんじゃん?」
……ん?
「え?どういうこと?」
白石さんはまだしも、私にオーラなんて皆無のはず。
意味が分からず、思わず聞き返した。
「だって、牧野梨都だって全国に名前知ってる人いるわけだし、白石永久となれば知らない人はいないだろ?
そんな2人が隣なんて、何かすげぇんだなって思ってさ!
あ、俺ね、西宮 蒼(にしみや あおい)。にっしーでも、何でもどうぞ!」
だんだんと目を輝かせ、白石さんにも顔をぐるんと向けて言うにっしーにびっくりしながらも、「そっか。にっしー、よろしくね」と返して笑うしか出来なかった。
何故なら…、怖いから。
確かに、スナップとかで雑誌に載ったこともあるし、テレビにも東中生徒会長として出たことはある。
それがオーラかは分からないのだけれど。
にっしーは事実を言っているから、彼
自身は怖くない。
怖いのは…、その横の女の子。
人形のように可愛い女の子は、容姿に似合わず、何やら怒っているようで。
「ど、どうしたの?」
私が控えめにそう聞けば、彼女は待ってましたと言わんばかりのキラキラ笑顔でこちらを向いた。
「待ってたのよ、りぃたん!
3年ほど前から、私の心はずっとりぃたんにあるの。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経も抜群で、誰に対しても優しいりぃたんは私の永遠の憧れ!
ちょっとばかり人見知りなところも愛くるしいし、相方ともいえる夕日さんがいないと寂しくて元気がなくなるりぃたん、なんて可愛いの…!?
身長160cm、本当は159,7だけれど頑張って四捨五入。体重…は、あまりに軽すぎて心配で口には出せないわ。
そしてそして、そんなりぃたんの誰にもいえない秘密の趣味は、すっごくドキドキする乙女、「そう!ドキドキする推理小説を読むことにハマってるんだよねー?」
びゅんっ、と飛んできた夕日に助けられて、うんうんと頷いた。
畳み掛けるように彼女の口からスラスラ出てくるのは私の情報。
それに呆気にとられていると、趣味の乙女ゲームを注目を引き付けてしまっているこの教室でバラされるところだった。
「そこの人形ちゃん、ちょっとおいでっ、梨都は教室にいなさいっ」
光のような速さで人形ちゃん(夕日命名)を連れて教室を出ていった夕日。
いや、あの、
教室の空気どうしてくれるの…?
夕日side
どーも、梨都の相方こと夕日でーす。
今、たいっへんな非常事態が起こったわけ。凄い可愛い人形みたいな子が、迂闊に梨都の秘密バラしそうになっちゃってねー…。
「まず聞くけどさー、何で知ってたの?あのこと。」
ちょっとした階段の踊り場辺りで、声を潜めて聞いた。すると人形ちゃんは盛大にドヤ顔をかましながら、
「くるみは、りぃたんをずっと追いかけていたの!りぃたんで知らないことなんて何1つないっ!」
と、言った。
「…ストーカーってこと?」
私が怪訝に聞くと、彼女はバツが悪そうにシュンとなってしまった。
「知ってるの。くるみ、ストーカーで気持ち悪い人だよ。
…でも、あの日りぃたんと出会って世界が変わったんだ。りぃたんと友達になるために、生きてきたから。」
眉を下げて笑う姿に、胸が打たれたような気がした。
「…うん。
だからこそっ!梨都の秘密は守っててほしい。それを、梨都も望んでる。
友達に、なりたいんでしょ?」
私の言葉に目を輝かせて頷いた彼女は、すっごく可愛かった。
彼女を教室に戻らせてから、1人、踊り場に座りこんだ。
梨都の全てを彼女は知っていても、流石にあれは知らないはず。
…乙女ゲームに依存する理由なんて。
私は、梨都を何があっても守り抜かなきゃいけない。
完璧だといわれて、高嶺の花と崇められているせいで、
梨都が、壊れてしまわないように。
みんなの梨都、憧れの梨都。
梨都を壊しちゃ、だめなんだよ。
「…本当に、お姫様。」
私は女で、梨都も女。
恋愛みたいな、そんな想いがあるわけでもないのに。
「…ふふ、私は梨都依存なのかなー」
これまでの人生で、何回『梨都』と口に出してきたんだろう。
あー、数えきれないや。
<人物紹介>
牧野 梨都(まきの りと)
高校1年生。1-4。
完璧な美少女として崇められている。
男子から人気で、女子の一部からは良く思われない。
大人っぽい顔立ちと口調だけど、割りと可愛らしい性格。
人見知りで、夕日が側にいないと戸惑ってしまう。
乙女ゲームが趣味。好きなキャラのカイトとそっくりな白石永久を少し気にかけている。
夕日がとあることを気にかけ、梨都を守ろうとしているが…?
白石 永久(しらいし とわ)
高校1年生 1-4
絶大的な人気を誇る男性アイドル。
中性的な顔立ちで、美しい、と称される。
グループではなくソロとしての活動をしている。
職業柄、人との壁(特に女子)を作っているが、どうやらそれだけでは無いようで…?
的場 夕日(まとば ゆうひ)
高校1年生 1-4
茶色の髪でセミロングの美人。可愛い系の顔立ち。
言葉を伸ばして話す癖がある。
運動が凄く得意で、中学時代はバスケ部キャプテンの梨都を支えるため副キャプテンをしていた。
ほとんど梨都を基準に考えており、自身では梨都に依存しているという。
梨都のとある過去を知っているようだが…?
西宮 蒼(にしみや あおい)
高校1年生 1-4
チャラい容姿とは裏腹に優しい性格の持ち主。
誰にでも気さくに話しかけてすぐに友達になってしまうので常に人気者。
欠点は、目付きが少し悪いこと。
友達が多いため情報網も広い。
羽城 くるみ(はねしろ くるみ)
高校1年生 1-4
人形のような顔立ちで身長は低め。
とある出来事から梨都を追いかけている。(半ばストーカーなのは本人も自覚)
梨都しか目に入らないため、友達は少ない。夕日を梨都の相方と慕っている。
唯一、梨都をりぃたんと呼んでいる。
「ではッ、俺がリーダーで、マッキーが食事、永久っちが学習、くるみんが保健、
はい、異議ある人!」
夕日と教室を出てきてから、帰ってきた人形ちゃんことくるみちゃんを交えて話し合いがスタートした私達のグループ。
どうしようか、と悩む間も無く、
にっしーがスパッと決めて、スパッと手をあげ私達に勢い良く言った。
「異議ないよ。」
「うん、良いと思う。」
そう答えた私と白石さん。食事なら料理の手伝いをするくらいだから、私にもできそう。
白石さんの役割の学習は事前にしおりを作ったりするだけだから、仕事のことを考えても1番楽だと思う。
私と白石さんを見ながら、「良かったーぁ。」とニコニコするにっしーを見ながら、
1人1人を良く見てるなぁ、と感心しているとき、
「…なんで?りぃたんが包丁でお怪我でもしたらどうなると思ってるの!?
私が食事も保健もするっ!」
ジタバタうるさいくるみちゃんがいた。