最近いじめ小説多すぎじゃないですかね……(ドン引き)
別ジャンルでちょっとシリアスっぽいやつ書くんで
意見や感想等あれば自由に書いてね
暴力描写とか出てくるんで苦手な人はブラウザバック推奨
花火が一つ、打ち上がった。
綺麗な紅の円を彩ると、刹那の内に消えてゆく。
その後を追うようにして、黄色、青、緑と様々な色の花火が打ち上がる。
「おー! 始まった始まった」
「すごーい! 写真とろ!」
目を奪われ、ざわつく人々。
小学生の頃は、それを見てただ純粋に感動したものだが、どういうわけか中学生となった今ではそれに何も感じることはなくなっていた。
ただうるさく、目に痛いモノ。
どうしてこんな風に捉えるようになったのか、などと考えることすら煩わしくなっていた。
「あれ? もしかしてユウトか?」
夏祭りの雑踏の中で、後ろから声をかけられた瀬山 ユウト(せやま ゆうと)は気だるそうに振り向く。
そこには、小学以来会っていなかった親友、県 タクヤ(あがた たくや)の笑う姿があった。
二年前と変わらない筋骨隆々の体を見て、ユウトは苦笑交じりに「久しぶりだな、タクヤ」と言った。
人ごみから少し離れ、提灯のオレンジ色が弱々しく照らす中、ユウトとタクヤは足を止めて息をついた。
「しかしタクヤ、一人で来たのか? 寂しい奴だな」
「お前に言われたくねえよ。今日はなんつーか、ちょっと暇だったから来ただけだ」
「暇、か。お前は楽そうでいいな。……しかし、相変わらずバカみたいな筋肉だな」
バカ、と罵られたのに、タクヤは怒るどころか嬉しそうにボディビルダーのようなポーズを取り、腕の力こぶをユウトに見せつけた。
「こいつはお前が遠くの中学行ってからもずっと鍛えてんだぜ、オレ」
「ずっと? ンなことに時間割くより勉強した方がいいんじゃねーか? お前その調子じゃ今も成績ビリだろ」
うっ、と気まずそうにするタクヤに、ユウトは冷静な口調で続ける。
「そんなにつけてどうするんだよ。ボディビルダーにでもなる気か?」
タクヤは首を振った。
「また使う時が来るかもしれねーからよ」
「……また使う時、ねぇ」
ユウトは少し呆れた。
この筋肉バカは、きっとまた“正義のヒーローごっこ”がしたくて仕方がないに違いない。二年前のように。
当然、ユウトはアホらしいと思った。もうそんなガキくさいことをやってられるような年じゃない。それを彼なりに自覚しているつもりだった。
しかし、タクヤは二年前と変わらず目を輝かせている。
「なあ、またオレたちで集まって活動しないか? 休みの日にでもさ」
「遠慮するよ。毎日勉強で、暇がないんだ」
「……そうか」
ユウトの返事を聞き、タクヤは笑っていた顔を少しひきつらせた。
目に見えて落ち込む彼にユウトは少し心が痛んだが、別に、嘘ではなかった。ユウトの通う中学校は県内でも有名な進学校で、実際暇はない。
隣町のこの祭りにもほんの息抜きでぶらりと寄ってみただけで、それ以上の意味はなく、すぐに帰るつもりでさえいた。
「まあ、仕方ねぇか。でも祭りくらいは楽しんでけよ。屋台回ろうぜ」
取り繕うように笑顔を作って歩き出すタクヤに、ユウトは「ああ」とだけ返事をしてついて歩き始めた。
――祭りの陰から、ユウトとタクヤを、殺気を孕んだ目で睨む者が二人。
髪を金に染めたいかにも不良といった容姿の一人は林 ハヤト(はやし はやと)、もう一人の角刈りの男は池 ショウマ(いけ しょうま)。
ハヤトはユウトとタクヤを目で追いながら隣のショウマに話しかけた。
「あのクソヤロォ共……俺らの縄張りにのこのことやって来やがって……どうする、ショウマ」
ショウマは首をゴキゴキと鳴らしながら落ち着いた様子で返答する。
「どうもこうもねェ。二年前の恨みを晴らす」
ハヤトはタクヤのがっしりとした体を見て「だがよォ」と弱気な声で言った。
「あいつ見ろよ。まるでボディビルダーだぜ。正面からかかったんじゃあ勝ち目がねえよ。一体どんな鍛え方してやがるんだ、あの野郎」
「……あいつら集めるぞ、ハヤト」
「あ、ああ」とハヤトは急いでスマートフォンを取り出したが、はっと気が付いたようにショウマの方に振り向いた。
「ナツキさんはどうする……? 呼ぶか?」
聞かれたショウマは小さく舌打ちをして目を見開き、ユウトとタクヤを一層強く睨み付けた。
「一応呼んでみろ。……来るかどうかは微妙だが」
ユウトは、フランクフルトを美味そうに頬張るタクヤのやや後ろをのたのたとついていく。
何となく、そろそろ帰ろうかな、などと考えていた。
不意にタクヤは咀嚼するのをやめて振り向いた。
「お前、妹いたんだったか?」
なんで急に妹の話なんか、とユウトは心の中で愚痴った。
目を逸らして、「ずば抜けて優秀なのがな」と答えると、少し不機嫌な声で、お前もだろ、と返ってくる。
だがそれ以上に不機嫌になったのはユウトの方だ。
とても、妹と自分とは比べ物にならない。
容姿端麗、才学非凡。
下駄箱に毎週一通は入れられるというラブレターに返事を書くかたわら中学校で勉強する範囲を終え、今では高校の範囲に入ろうとまでしている。
その上、勉強だけでなくスポーツもよくできる。野球、サッカー、バスケから卓球まで、度々部活の助っ人に呼ばれていて、陸上では全国さえも狙える、将来有望でまさに“完璧”な妹である。
彼女に対する劣等コンプレックスはユウトの抱える闇だった。
何かにつけて彼女と比べられ、そのたび、まるで自分は全てにおいてどこかが欠陥していて、救いようのない人間なのではないかと思った。
「それがどうかしたか? 勉強、教えてほしいなら呼んでやろうか?」
心にもない適当な嫌味を言って電話を取り出すと、タクヤは半目になって無言で肩をどついた。
「祭りに来てるなら一緒に回った方が楽しいかと思っただけだっつーの。来てんのか?」
これにユウトの口は「冗談じゃない」と即答した。言った後、思わず飛び出たその言葉に少し罪悪感を感じて、「あ、いや」と首をさすった。
ユウトから一方的に嫌悪の情を向けているだけで、彼女には何の悪気もない。
大きなため息一つ。自分の愚かさに対しての呆れだ。
諦めたように薄い笑みを浮かべて、頭の後ろで手を組んだ。
「あいつは俺と違って友達と回ってるし、お前みたいなのと一緒に回るんじゃあいつが可哀想だしな」
タクヤは「お前本当、オレにひどくないか?」
少し涙目だった。