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小さい頃から追いかけてたアイツの背中。
いつもドロンコで私より小さいはずなのに大きく見えた背中。
いつしかそれは大きくなっていった。
今では、私の手には届かない。
追いかけたって追いかけたって、手を伸ばしても伸ばしても届くことのない存在になってた。
高校1年の春。
古館高校に入学して1ヶ月半のことだった。
私、西野朱里。
アシメの前髪に胸ぐらいまでの髪をお団子にまとめた濃いめの茶髪。
第2ボタンまで開けたブラウスに太ももまでクルクルに折って短くした灰色の生地に青や黒のチェックの入ったスカート。
派手に制服を着崩しているからいつも風紀委員のターゲット。
そんな見た目からか、先輩からも「偉そう.調子乗ってる」などと目をつけられている。
でも、そんな問題児な私だって恋してる。
相手はアイツ、野球部の河上文人。
坊主でいつもドロンコのユニホーム姿。
学校で着ている制服が全くとして似合わない。
おまけに、モテるモテる。
でも文人は1度も彼女ができたことがない。
何人かに告白はされてるみたいだけど断っているみたい。
私は幼い頃からずっとずっと文人だけを見てきた。
だからもちろん彼氏なんてできた試しがない。
文人以外は嫌だもん。
私は絶対絶対文人のお嫁さんになるもん。
そんなバカみたいな夢を今でも追い続けてた。
「あーやとっ!」
「おぉ、どしたそんなルンルンで」
文人の背中を見つけた瞬間、スキップで駆け寄る。
「文人だって思て急いで来たの」
「相変わらずの馬鹿っぷり」
「うっさいぼけっ!」
そんなやり取りをしながら登校する。
「そういえば朱里、部活は?」
「あー、軽音部入ろうかなって思ったんだけどめんどくさいなーって思ってるとこ」
「お前絶対軽音部入ったら学校中のスターになれると思うぞ?」
「なわけー!」
私は小さい頃から歌とギターが大好き。
お父さんの影響でいつも歌っている。
「俺が野球頑張ってんだからお前も歌頑張れよ」
「…うん」
そう言った文人がどこか別の世界の人に見えた。
ちゃんとした夢を持ってて、目標を持ってて。
私みたいに適当に過ごしてるんじゃないんだなって肌に感じた。