プロローグ
ぼんやりと目に浮かぶ、見ているだけでもすっきりする快晴の青空 その青空を、ベンチに座って淡々と眺めるだけの時間。
なにも手を加えていない、無造作でボサボサの黒髪 それが、さらさらと風になびき揺れる。
こんな日は、あの時を思い出すなぁ。
「 ……虹色の、蝶__ 」
今は、どうしているのかな? もう、何年も何年も見ていないけれど……。
久しぶりに見たいなぁ 君の姿…… もしもう一度見れるのなら、すぐにでも写真に収めて、みんなに見せられるんだけどね。
____そうすれば、みんなに信じてもらえるのに。
____そうすれば、みんなが信じてくれるのに。
ただ、今の私に出来ることは____。
あなたが、元気だといいな…… また、会えるといいな…… と、願うだけ。
私は、羽をぱたぱたとさせながら跳んでいたアゲハ蝶に、そう願った。
1 転校してきた少女
夏休みも終わり、もう秋になったこの頃____。
今日も今日とて、生徒たちが学校に通う時間がやってきた 今の時刻は、正確に言うと午前7時の42分くらい。
友達とおしゃべりをしながら学校へと向かっている生徒もいれば、1人で登校している生徒もいる。
その他には、自転車や車が通っていったり__と、私の周りはとにかく騒がしかった。
____そんな中、私だけは溜め息をつき、暗い表情でぶつぶつと独り言をつぶやきながら歩いていた。
「 今日も学校かぁ 嫌だなぁ…… 」
下を向くと、まだ工事をしたばかりなのか、綺麗な道路が見える 私は、なにもしていないそれを睨みつけるように見つめる。
私は、なにも学校のすべてが嫌なわけではないのだ……。
_____ただ、“ あいつら ”が気にくわないだけ。
あいつら、というのは私をいじめてくる奴らのこと。
自分たちが気にくわないと、私をストレス発散道具として扱い、殴ったり、蹴ったり、私物を壊したり____。
……これくらいならまだいい方なのだが、私が1番されてほしくない、嫌なことは……。
「 おはよ、実香ちゃん! 」
「 っ!? あ……お、おはよう 」
私が考えごとをしている時に、肩を軽く叩かれ、話しかけられたので、一瞬ドキっとする。
びっくりして隣を見れば、そこには私が1番に信頼できる親友が、太陽のように明るい笑顔で私の方を向いていた。
……よかった、あいつらじゃなくて。
ちなみに、私の名前はこの子の言った言葉でわかる人もいたとは思うけど…… 私の名前は実香 名字も入れば、葉月 実香 自分でもわかっているが、とても地味なやつだ。
私に話しかけてきた子は、私の親友の加藤 真美 私とは正反対で、明るくて優しくて、人とはすぐに馴染めてしまいそうな子だ。
そして、さっき私が言いかけた“ 私が1番されてほしくない、嫌なこと ”とは____。
それは、“ 真美をいじめること ”だ。
どうして真美をいじめるの? ……という疑問が出てくると思う。
……だって、あいつらは私の見方をしたり、私を庇ってくれたりする人にも、さっき言ったようないじめをするんだ。
____誰も、私の見方をさせないようにね……。
だから、このことで今までに数えきれないほど、真美がいじめられてきた。
……全部、私が悪いんだ 私がいるせいで、真美がいじめられるんだ。
「 ……いつも、ごめんね…… 」
私と真美のふたり、なにも話さずに学校へと登校しているとき、私は1回だけ足を止める そのあとは、小さな声…… と言っても相手に聞こえるくらいの声で、真美に謝った。
今にも泣きそうな、だらしない表情をして。
「 ……実香ちゃん、気にしなくていいからね 実香ちゃんをいじめる人は、私がとっちめてやるんだからな! 」
「 ありがとう! 真美にそう言われると、学校にも頑張って行けるよ 」
それでも、私に優しく接してくれるのが真美 その優しさで、私はいつも支えられている。
しかし、真美は最後の方一瞬だけ眉をしかめていた ……私をいじめた人のことを、怒っているのだろうか。
……やっぱり、私が信頼できる人は真美だけだね。
心の底から、本気でそう思っていた ____この時の私は。
____この時の私は、もう忘れちゃったのかな?
人じゃない__というよりも、人間じゃないけれど…… “ あともうひとり ”だけ、信用できる蝶がいるじゃないか。
虹色の蝶。
今も、元気にしてるかな?