Twitterに上げないような書き殴り小説。
嫌いな人はどうぞお戻り下さいな。
「 知ってる?俺、留学すんの 」
喧騒の中で、彼の声だけが凛と聞こえたような気がした。
元から騒がしい声など都合良くシャットダウンされる耳だから、そこまで聞こえてはいないもののいつも彼の声だけが鼓膜を震わせていた。
けれども、今の彼の言葉は鼓膜だけではなく心臓も震えさせるものだった。
なあ、と覗き込む仕草。いつも通りの彼の癖。
窓から吹き込む風が冷たくて誰かが「 寒い 」だなんて言って締めてくれた方が心中は良かったのかもしれない。
けれどもこの風が生暖かい、肌をつんと掠める程度の痛さだったから。
依然、吹き続ける風に言葉を乗せた。
「 貴方が知ってて、私が知らなかった事なんてあるの? 」
すると、彼は目を丸くしてからくしゃりと笑ってこう言った。
「 言うと思った 」
言うと思った。
果たしてそうなのだろうか。彼に私の言いたい言葉が分かるのならば、きっとこうやって話してはくれないだろう。
喧騒がゆっくりと静まり返る。
それと同時に扉を勢い良く開ける音が聞こえた。
「ほら、席付け」
「すみません、とか言っても俺が前の席なんすけどね、はは」
先生が無表情で淡々と述べると、彼は陽気に笑って私の目の前に座る。
全然笑えない。彼の言うことはいつでも空回りしているのだ。その証拠に、冷たい視線が嫌でも刺さってきた。
やっぱり、この感じはいつになっても慣れないものだ。しかも私までとばっちりを食らうから、風評被害もいい所である。
けれども、彼の留学の話を聞いてから心に渦巻くモヤはそんな視線もどこ吹く風でどんどん、綿あめを作るみたいに大きくしていった。
やがて、彼が座りそれと同時に教科書を開く音。
それからは、秒針が刻む音。
筆圧の強い先生がチョークで黒板に書き込む音。割る音。
それに伴った、生徒達のシャープペンシルを振る音。ノックする音。書き込む音。折れる音。
無機質が奏でる音はまるでオーケストラ。
しかしそれは、どんどん薄れていくのだ。
私の耳は、都合良く出来ているものだから。
授業が終わると、彼はすぐに後ろを向いて話し掛けてきた。
「授業、やっぱりつまんないな〜」
彼はそう言って苦笑いを浮かべる。
どうせ、海外に行ったら楽しい事をして退屈な気持ちなんて無くなるだろう。私の事も、忘れて。
ある1人の女の子が来た。
「松浦くん。ここの問題、教えてくれない?」
「え、あぁうん…いいけど、」
松浦くん、いわゆる彼に質問をしてきた子は佐藤さん。このクラスで1、2を争うぐらいの美少女。
性格も良いから世の中は本当に不平等だ。
彼が真剣な表情で、何やら問題を教えている。
彼女も頷きながら話していたけれども、途中でこちらに視線をやった。
「……松浦くんって、あのさ」
「ん?何?」
「…いや、なんでもない」
どうやら解き方が分かったらしく、ありがとう、と複雑な表情を浮かべながら彼女は自分の仲良しグループの方に歩いて行った。
彼は不思議そうな表情を浮かべながら、こちらに顔を向けて再び話し始めた。
「俺留学したら外国人と話してみたいんだ」
そんなの、嫌でも話すから大丈夫。彼はそういう所が抜けている。
私は、口を開いた。
「佐藤さん…何か少し様子が変だったわ、」
「んー?そう?てかあの人佐藤さん、って言うんだ」
冗談じゃない、と思った。
この学校はクラス替えがないから、3年間ずっと一緒だったというのに名前すら知らなかったなんて。
名門校の生徒が聞いたら呆れるだろう、こんなのが同じ部類に入るなんて、って。
「じゃあ、……私の名前は覚えているかしら」
「んなの、当たり前だよ……楠本美希だろ?」
楠本美希。
彼の言葉が、私の名前が、クラスの空気を凍らせた。
まるで氷点下まで下がるような感覚。
都合の良い耳は何て言っているかは聞き取れないが冷たい空気に見合った言葉を言っているのだろう、それで私は声が出なかった。
「………もういいわよ、言わなくて」
「じゃあ俺の名前は?知ってるでしょ、」
「………松浦敦、これで充分?」
大正解、と彼はくしゃりと太陽みたいに笑った。
( 人物整理用メモ )
ここまでは序章に過ぎないので 、第1章に入る前にさらっと名前だけ表記しておきます 。
佐藤 夏葵 ( さとう なつき )
→ 第1章ヒロイン / 総合的に主人公
松浦 敦 ( まつうら あつし )
→ 第2章主人公 / 今年中に留学予定
楠本 美希 ( くすもと みき )
→ 第3章ヒロイン / 全ての章のキーマン
合川 千翔 ( あいかわ ちか )
→ 佐藤夏葵の幼馴染み 。
他にも出てきますが 、後に 。