はじめまして 柚子と申します。
小説を書くのは好きなので書いてみることにしました。
至らないところもあるとは思いますが、よろしくお願いします。
〈登場人物紹介〉
後からいろいろ出てくるとは思いますが、とりあえず主要キャラを紹介します
スズカ
ヒロイン。あだ名はスズ。明るく好きなことに一生懸命なる女の子。
しかし、行動力がありすぎてときどきトラブルを起こすことも。
〈アドゥルバイア帝国〉の第二王女。16歳。
リツカ
軍の〈空戦部隊サティリカ〉のメンバーでナンバー2の実力を誇る少年。
18歳。スズカの護衛にもあたった経験から、2人は会えばおしゃべりをす る関係になった。
〈用語紹介〉
〇〈アドゥルバイア帝国〉
農業の盛んな豊かな国。北に〈アルタ王国〉、東に〈シンドゥーエ〉、西 に〈ユーシェ帝国〉、南に〈サルファ〉の国々に囲まれた内陸国。国土面 積は帝国を囲む国々よりも小さく、〈アルタ王国〉の1/2にもなる。
〇〈空戦部隊サティリカ〉
帝国を守る軍隊の中でも、エリートが所属する部隊。空中戦を得意とし、
極秘でつくられた戦闘機を乗りこなす。その戦闘機は鋭く美しい翼を持つ
ことから、〈漆黒の天使〉と呼ばれている。この部隊の人々は国民からの 信頼が厚い。
今のところはこのぐらいの情報で読んでみてください。
次からは本文になります!
それは深く深く、沈んでいった。この〈漆黒の翼〉はもうよどんで、その価値を失ってしまっている。彼は漏れ出した油が周囲を汚していくのを茫然と眺めていることしかできない。最期に見る景色がこんなのなんて・・・。もっと青く透明なのが良かった・・・。彼はそんな馬鹿げたことをそのとき思ったのだろうか。
いや、その人はこう思い、そう悔んだだろう、
あの文書さえ見なければ・・・
アドゥルバイア帝国は、500年に渡った隆盛の袋小路にあった。かつて大陸の半分をすら支配し、太陽の沈まぬ国と呼ばれたかの国は、領土の分離独立を許し萎むようにして衰退していたのである。国家として成立したかつての領土に取り囲まれ、ことに北方のアルタ王国からの度重なる軍事衝突は帝国を消耗させていった。
アドゥルバイアの劣勢、その要因の一つは何といっても資源自給率の低さと工業力の不足である。帝国の衰退の隙を突かれた形で、それらの特区であった地域はその長所を活かし帝国に牙を剥いたのだった。今や帝国の生命線はサルファを通過する補給線のみ。されどサルファとて支配への怨恨は拭いきれず、資源そのものは提供されず、取り決められたのは補給路への不干渉が精一杯であった。
非効率な資源供給は戦線の消耗に追い付かず、また得られる資源も首の皮一枚で繋がる程度のものであった。
もはや帝国にあってはこの戦争に期待するものはいなかった。しかし帝国は往生際悪く国威発揚を絶やさなかった。その一つとして講じられたもの……『サティリカ』の編成であった。
『サティリカ』の前身は飛行教導団であり、その出自は帝国最初の軍用航空機部隊にまで遡る。世界最初の動力飛行機の完成から10年ほどで、アドゥルバイアは国軍近代化の一環として航空戦力の実用化に漕ぎ着けた。それから更に20年を経た今アドゥルバイアの航空機は各国に比しても優れたものとなった。全金属セミモノコック、1000馬力〜2000馬力の発動機が一般化した。
それら最新鋭の航空機を操るパイロット達もまた、非凡なる精鋭が要求され、分けても教導団のパイロットはより一層のエリートであることが義務であった。
しかし戦争の長期化に伴い、優秀なパイロットの喪失と敵航空戦力の強化が進み、無敵と謳われたアドゥルバイア空軍すらも劣勢を強いられてくることとなる。劣勢を埋めるべく、教導団にも実戦の機会が回ってくることとなる。
アドゥルバイア空軍創成期に国外より詔勅され、航空・軍事顧問に就いたサティリカ・ムハーリ・パシャの名を冠した精鋭部隊『サティリカ』として……。
194X年1月、北方の最前線より帝都へ向かう2機のAr232輸送機の姿があった。護衛戦闘機の姿もなく月光を浴びる姿は美しくも不用心であり、編制としては言うまでもなく不自然であった。
加えて高度は8000mと決して高いものではないが、平原の真上を飛んでおり、薄く立ち込めた雲海は機体の輪郭を露にしていた。
「嫌な天気だ。遊覧飛行にはもってこいなんだが。」
「チクショウ、俺たちゃ天使の御供物じゃねえんだぞ。」
編隊の後ろ、左後背側の輸送機のパイロットが愚痴ると、彼らの背後にいた政治将校が眉を潜めて咳払いした。政治将校は貨物室へ移動すれば、そこに急造された座席に腰掛け溜め息をつく。その隣には女性がおり、喪服を思わせる出で立ち、そのベールの内側で悲しげに俯いた。
「ご安心ください、ああは言っておりますが、必ずや帝都へお連れします。」
政治将校が慌てて繕ったが彼女の思うところはそこになく、目を向けられたのみで半ば無視された。
彼女は護送を受ける身の上を煩わしく感じていたのである。
直後、その機内が俄に、橙に明るくなった。政治将校が慌てて操縦席へ向かうと、右前方の僚機が火だるまとなって高度を下げていくのが見えた。
「指令部の狸どもめ、何が安全な航路だ!こうなっては丸見えだぞ!機長、雲海の下へ逃げ込め。丸見えよりかはマシだ!」
護衛に回す戦闘機もないがゆえの方便に苛立っていた政治将校は遂に怒りを爆発させ、怒鳴り声混じりに機長に命じた。雲の下は酷い悪天候であり、また夜間ゆえ視界すらままならない。加えて雲にも迫る山岳地帯が真下にあり、そこは死の空と呼んで差し支えない危険な空域であった。
それでも政治将校は撹乱を図って賭けに出たが、直後機体が激しい衝撃に見舞われる。後背部からの銃撃だ。敵戦闘機はアルタ王国の主力戦闘機、スーパーマリン「スピットファイア」である。程なくしてAr232の防御砲火に追われ離脱するが、護衛なき輸送機にとっては時間稼ぎでしかなく撃墜は時間の問題である。
「覚悟を決めねばならんか……!」
被弾した僚機が遂に爆発四散を遂げると、政治将校も流石に弱気になって唇を噛み締めた。先のスピットファイアからの反転の際に3機の同型機と合流し、上方から降下しつつ再びの発砲。
「っ!」
Ar232の胴体が弾幕に曝されれば、黒服の要人が頭を抱えて咄嗟に蹲る。墜落こそ免れたものの、銃座の悉くが被弾しささやかな抵抗すらままならなくなってしまった。
発動機も3基が煙を噴いており、2基は停止すらしていた。
そして全てのスピットファイアが止めを刺すべく空中でフィンガーチップを組み、Ar232の後背に一直線に並ぶ……筈のそのその瞬間、スピットファイアの一機が突如分解し、半ダースのスクラップに変わって空へ散っていった。
唐突な事態にアルタ王国側パイロット達は動揺しつつも、すぐさま編隊を解いて自由飛行に移った。
次の瞬間、雲海を貫き天上へと駆け上がる物があった。雲を長く引き、雲海から2000mほど上空でそれが途切れれば今度は一気に降下。再び雲海へ潜る直前、またしてもスピットファイアが火の玉に変わった。
そして再び雲海から飛び出す謎の機影。曳光弾の薄紅の軌跡が空を切り、雲を染めた。スピットファイアとて二度三度と失態を繰り返すまいと、暫しの空中待機と急上昇というフェイントでこれを掻い潜り、飛び出した敵機を追った。
襲撃者は無論アドゥルバイアの航空機であり、主翼と胴体側面にはアドゥルバイア機を示す、剣と三日月のシルエットを描いたラウンデルが描かれていた。
しかしその異様な形状にスピットファイアのパイロットは少なからぬ驚きを感じた。
当該機は機体の前後に三翅プロペラを備えていた。プロペラばかりか、露出した排気管から発動機2基の搭載が見てとれた。
つまり双発機であったが、串型と言われる配置は単発機と見間違うばかりのスマートな機体を作り上げているのだ。
政治将校もAr232のコクピット、機長席越しに身を乗り出せば、飛翔する友軍機に目を見張った。しかし機体の形状にではなく、その出で立ちにであった。レーダー波からの隠匿性を高めるために炭素を含有した特殊な塗料、機体全てをそれに包み込んだ、夜空にさえ輪郭を写すほどの漆黒の機体。
「黒いDo335……サティリカの機体か……!」
ドルニエDo335プファイル、時に「漆黒の天使」と呼ばれる者達の文字通り一翼を担う戦闘機。
「矢」の名に恥じぬ高速を以て既に2機を仕留めたプファイルは、残りのスピットファイアを引き連れ上昇していく。追い縋るスピットファイアだが、その距離は埋まることなく徐々に取り残されていく。そしてスピットファイアが上昇限度一杯を通り越したとき、プファイルはフラップを一杯に開いて減速、再びの急降下を披露する。照準の光像の直中に、つい先程までロッテを組んでいたスピットファイアが収まる。性能限界を越えた上昇、それに伴う発動機の不調によって失速し制御を失うその一瞬、それをプファイルが捉えられたのは、これを操る若きパイロットの経験あっての物だった。スピットファイアが失速するタイミング・環境・戦法を、実戦で、時には鹵獲したスピットファイアを実際に動かして脳へ焼き付けたのだ。自身のプファイルが敵機に優る高度性能である事を知っているのは言うまでもない。
若きパイロットは引き金を引いた。機首から放たれる30mmモーターカノンの大口径弾は、スピットファイアの機体を紙屑の紙屑の様に引き裂いていった。無数に飛散するスピットファイアの外鈑や部品の破片は、月光を照り返し雪のように空を彩った。燃料タンクからは外れたのか、2機のスピットファイアの残骸は、煙こそ吹きつつも不規則に回転しつつ雲下へ消えていった。
綺麗だ、と若きパイロットは呟きかけて止めた。どのような光景であれ、たった今人命を奪ったのだから。若きパイロットもそれは戦時下であり仕方ないこと、敵だって同じ事と割りきっていたし、一々罪悪感に苛まれる程の理想主義者でも現実逃避者でもなかった。
それでも理性なき人間でない彼は、飛び散った破片に対してであっても快楽を見出だした事を恥じ、償うように仕留めた敵全てへ敬礼を捧げた。
満身創痍のAr232に、横付けするように並ぶDo335。
『貴機ノ損傷甚大。我ニ続ケ。』
発動機三基の停止のみならず、黒い雫を空へ散らすAr232の深刻な損傷は、むしろ外側から観察したDo335のパイロットにこそ明らかであった。発光信号で注意を促しつつ輸送機の正面へ出れば、緩やかに高度を下げる。深手のAr232もどうにかこれに続き、月明かりが透けるほどに薄まった雲海の下へ潜っていった。
山岳地帯は遥か後方、進む先には月光の柱さえ見えるなど、飛行条件はすっかり改善されていた。Ar232の内部にも漸く平穏が戻り、護送される黒服の要人も貨客室からコクピットへ移動していた。
機長・副長席の間から顔を覗かせ、その視線は正面のDo335へ向けられていた。旋回時に微かに見えた、シンプルな白頭鷲のエンブレムを見て口元を綻ばせた。
「リツカ……貴方が助けてくれるなんて。」
「安全圏への離脱を確認、無線封鎖を解除する。サティリカのパイロット、お陰で助かった。『漆黒の天使』と呼ばれるだけはあるな?」
Ar232のパイロットが安堵の溜め息をつきながら感謝を述べれば、無線機からは苦笑が小さく漏れ、要人からリツカと呼ばれた若きパイロットからの返信は続く。
「よしてくれ。天使なんて器じゃないよ。殺しの上手さなんて自慢にもならない。さながら『禿鷹』といったとこかな。」
「戦争だ、そう悲観するなよ。俺たちからすれば間違いなく今日のあんたは天使なんだ。」
「そうかな。なら、そうしておくよ。ありがとう。」
サティリカのパイロットは、自身を称える事をあまり好まなかった。王国騎士団の末裔たる地上の兵科に比べ、伝統の浅い航空兵団にはむしろ先進的な人材がよく集まった。
数百年の時代を経てなお、騎士の気風がある種の国民性として根付いたアドゥルバイアにあっては、陸戦、それも己の身一つで死地にあってこそ名誉とする風潮は少なくなかった。
その為航空機の様な軍備の機械化は、伝統あるアドゥルバイアの騎士道を辱しめるものとして、古風な軍人の多くからは蔑視の対象とみなされていた。
一方でそれらの逆風の中にあって航空兵団を志願した者達はの多くは、騎士道は伝統的な精神思想として重んじつつも、重要なのは国家の防衛そのものにあると考えていた。
その思想は新技術の積極的な利用に留まらず、軍人という職業があくまでも国策の道具であることを強く自覚させていた。
航空兵団のエリートたるサティリカにあっても例外ではなく、むしろそういった志向は他の航空兵団に比して一層強いものだった。
プロパガンダの為に付けられた『サティリカ』の公式名称、並びに『漆黒の天使』の異名は部隊内では好まれておらず、専ら部隊名は前身の『教導団』ないしは中途で併合された『実験航空団』、異名は『黒蝿』や『禿鷹』といった自嘲的なもの、事に不吉なイメージがよく用いられたれた。
教導団のパイロット達は軍人の本分が『合法化された殺人』であることを自覚し、軍功を誇る事を嫌った。
華やかと言いがたい不吉な自称はそれが由来である。
こうした経緯からか、『教導団』のパイロット達はしばしば戦意に欠けると評され、ともすれば愛国心を疑われる事もあった。
しかし彼らは紛れもない愛国者であり、あくまで国家、引いては守るべき故郷の為に戦う一心故に、功名にかまける暇がないのが実態であった。それはこの"リツカ"と呼ばれた若きパイロットもまた変わらなかった。
「それにしても天使様よ、どうして俺達が分かったんだ?あの悪天候の上に夜中だぜ。」
「哨戒で近くを飛んでたんだ、たまたまだよ。あとは、この機体のお陰かな。特別製でね。」
プファイルの機首を見れば、プロペラを囲んで鹿の角めいて生えたアンテナが備わっており、知識あるものならばそれが優秀なレーダーを備えている証と見てとれた。
「基地が見えてきた。じゃ、後は管制に従って着陸してくれ。ご苦労だった。」
「こちらこそ。後でお礼参りに行かせてもらうぜ、名前を教えておくれよ。」
「お礼ってほどの事はないけど……顔が見たけりゃ、第2中隊のベーリツカ・オルブラント準尉を探してくれ。それが僕だ。」
"リツカ"ことベーリツカ・オルブラントのプファイルが翼を振って離れていく。
しばらく放置しておりました、柚子です。
放置してしまってすみません。
そして、サントロンの幽霊物書きさん、書いてくださり
ありがとうございます。
>>17
恐縮でございます。埋もれてしまうには惜しい題材に感じたので、お戻りになるのを待ちつつ勝手ながら続きを書かせていただきました。よろしければ、いつでもスレをお返しさせていただく準備がございます。