こんにちは、りあです。
小説を書くので、気軽に読んで下さい。
感想を書いてくれたら、嬉しいです。
こんばんは!
私も小説書いてます。紗愛(さえ)です!
私のスレにコメントありがとうございます!
早速ですが読ませていただきました!
とても上手ですごく想像できました!
これからも読ませていただきます!
続き楽しみにしてますー!
(……!使い過ぎたかなw)
>>14
紗愛さん、ありがとうございます!
わざわざ来てくださって、嬉しい限りです…!
こんな小説でよければ、ぜひ、これからも読んでくださいね♪(๑ᴖ◡ᴖ๑)♪
お互い、小説頑張りましょう٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
(私も、紗愛さんの小説、読みにいきます!)
7,七月二十日水曜日。
「大丈夫?陽鶴ちゃん」
「あー、大丈夫大丈夫。こんなのちょっとすれば治……え?」
今、あり得ない声がした。その声のした方を見れば、窓際に美月ちゃんが立っていた。
「え」
美月ちゃん?
「ごめんね、勝手に部屋の中に入って。あのね、その……あたし、どうも陽鶴ちゃんから離れられなくなっちゃったみたいなの」
「は?」
目の前の美月ちゃんは、私の知っているいつも通りの、普段通りの姿だ。
我が校のちっとも可愛くない夏の制服を、可憐に着こなしていた。私の憧れの長くて艶やかな髪も、それをそのまま背中に流しているのも、普段と同じ。
でも、美月ちゃんは亡くなっている。お葬式も済み、美月ちゃんの肉体はこの世に存在しないはずだ。てことは、この美月ちゃんは、幽霊?
それにしては、彼女の体は全然透けていなくて生身って感じで、ほら、足だってちゃんと……。
「浮いてる」
紺のハイソックスに革のローファーを履いた彼女の足は、フローリングより僅かに浮いていた。そして。
「影が、ない」
さんさんとした朝の日差しを背に受けているというのに、彼女の足元には影と呼べるものが一切なかった。アホの子みたいに口をポカンと開ける私に、美月ちゃんが困ったように眉尻を下げて笑う。
「あ、うん。あの、あたし、幽霊ってやつみたいなの」
え。やっぱりそういう呼び方していいやつですか。
次の瞬間、私はひと欠片の迷いもなく、容赦なく自分の頬を殴った。スパコーン!という激しい音とともに、頬に間違いのない痛みが走る。
「うお……いった……ぁ」
痛みが走るっていうか、痛い。とにかく痛い。涙出た。この痛み、間違いなく現実だ。
「ひ……陽鶴ちゃん、急にどうしたの!?」
「い、いや。なんでもない」
じんじんする頬に手を添えて、痛みで少し涙が滲んだ目で、美月ちゃんを見た。やはり彼女は当たり前にそこにいて、消えない。
「美月ちゃん、ごめん。私、この状況に全然ついていけてない。ええと、どういうことになってるのか、確認してもいいかな」
彼女はコクコクと頷いた。
__私の目の前にいるのはやはり、美月ちゃんの幽霊であるらしい。
ゆ、幽霊!?
陽鶴ちゃんから離れなくなったって…?
続きが気になる!
どうも、失礼します。
自分もここで少々小説を連載させて頂いている者なんですが...いきなりですがすみません。これは負けました()
表現力、文法の工夫、ストーリー性、どれを取っても短所が見つかりません。
...なろうで連載したら売れそう(粉ミカン)
あと文才下さい(切実)
ぅ。うまぁあああああああああああああああああああああぃぃいッ!!
何だコレ! ナンダこれ!?
澄み渡るような爽快感。
それでいてスッと心に溶け入るような描写展開。
きちんとキャラの味を感じるのに読みやすくてクセがない。
……絶品じゃないですか!
はっ。あ、スミマセン青蓮です。
いやーもう、ほんと。そんな感じです。
冒頭、陽鶴の色彩感でもう……シビれました。
空の風景、白の密度……画材と暮れ行く空のコントラスト……。
あぁ…甘美。おいしい……(恍惚)
もう、なんというかアドバイスと言うか要望。
こうして欲しいなーって感想なんですけど、
何か言えるとすれば、それは
「キャラの味を薄れさせないでほしい」ですかね。
各キャラとてもいい味を出していて、
そのキャラ特性が物語全体に染みわたっている。
(陽鶴の独特な色彩感覚だとか、杏里の美月へのひた向きな思いとか…)
そういう味を、舞台や展開が変わっても奏で続けてほしいです。
(急展開に飲まれて、キャラが無個性化することって結構あるので……)
引き込まれるような急展開で揺れる舞台、
そこで役者(キャラ)がどう躍るのか……ぜひ、続きを見させて下さい!!
おいしい作品をありがとうございます。
ごちそうさまでした。また食べに来ます。それではー
出来たら、今夜には書きたいな…と思っています!
遅くなってすみませんっ!
8,七月二十日水曜日[続き]
彼女が言うには、気付いたら自信の葬儀の、弔問客のど真ん中に立っていたのだそうだ。
「びっくりした。『風浜美月儀 葬儀』なんて看板は出てるし、みんながあたしの名前を呼んで泣いてるし。それに、話しかけても誰も気付かなくて、何も触ることが出来ないの。触ろうとしたらスイってすり抜けちゃうんだ。タチの悪い夢を見てるんだと思った」
悪い夢だ。起きなきゃ。そう思うのに、夢は一向に目覚めない。焦った美月ちゃんは、泣いて叫んで、周囲の人みんなに声をかけた。だけど、誰も気付かない。美月ちゃんを見ない。
「そんな時、あーくんを見つけたの。あーくんなら絶対あたしのこと気付いてくれるって思った」
美月ちゃんの顔が少しだけ明るくなって、そしてすぐに曇った。
「けど、陽鶴ちゃんも見てた通り、無理だった……。へへ」
視線を床に向けて、頼りなく漏らした声は泣き出しそうに聞こえた。
確かに、黒崎くんは全然彼女に気付いていなかった。あんなに憔悴して、死んでも一緒にいたい、なんて言っていたのだ。
姿を見ることが出来ていたら、どれだけ救いになっただろうと思うのに。
「あの時の、あたしを見ないあーくんを見て、ああ、本当に死んじゃってるんだって悟った。そしたらさ、色んなことを思い出したんだ。トラックが……あたしにぶつかってきたことも。救急車で運ばれて、でもそのまま死んじゃったことも」
「美月ちゃん……」
「ひどいよねぇ。あたしの人生、まだまだこれからなのにね。超セクシーな美女モデルにだって、女子アナウンサーにだって、人気小説家にだって、なんにだってなれたのにね。あっさり死んじゃうんだもん。あんな、一瞬でさ。ホント、ひどいよね」
頬をゆっくりと掻いて、彼女は力なく言う。
何も、言えなかった。何を言えるだろう。私たちは同じところにいて、同じようにトラックに接触した。私は少しの傷で済んで、美月ちゃんは命を落とした。私たちの生死の境目なんて、きっと大きな差はない。
それは、運、と呼べる程度のものだったのだろう。私の方が美月ちゃんより僅かに運がよかった、それだけのこと。そんな私が、彼女にどんな声をかけられるというのだろう。布団の端っこを握りしめていると、彼女がぱっと明るい顔つきになった。
「でもね、そんな時に陽鶴ちゃんが気付いてくれて、嬉しかった!あたしのこと見えてる人がいるじゃん!って」
「……うん」
「あの時、すっごく嬉しかった。真っ暗な世界で唯一の光……まさにそんな感じだったんだ」
美月ちゃんは嬉しそうに笑って続けた。
「でさ、陽鶴ちゃん、気を失ったじゃない?で、お姉さんたちが慌てて斎場から連れ出してたんだよね。あたし、陽鶴ちゃんと話したいと思ってついてきちゃったの」
自分の姿を見ることができた私となら、会話もできるかもしれない。そう考えた彼女は、ワタルさんの運転する車に同乗してきたのだそうだ。
しかし、待てど暮らせど私は目覚めない。
「ずっとここに居座るのも申し訳ないし、陽鶴ちゃんが寝ている間に、家に帰ったりあーくんにもう一度会いに行ったりしてみようとしたんだ。もしかしたら、見えるようになってるかもしれない、なんて期待があったし。でも、それができなかったの。陽鶴ちゃんから離れようとこの部屋を出たら、そこから先に進めなくなっちゃうの」
「進めない?」
「うん。体が引っ張られて、一歩も踏み出せなくなっちゃうのね。どういうわけだか、あたし、陽鶴ちゃんから離れられないみたいなんだ」
彼女はひょいと肩を竦めて言った。
「は、あ」
「でね、仕方ないから、ここにいたの。あ!あたしね、物を触ったりできないから部屋の物は何も触ってないです。もちろん、引き出しの中とかも見れないし、ていうか見ないし。そこは大丈夫、安心して」
「いや、まあ、うん。それは、いいけど」
「で、陽鶴ちゃんが寝ている間にひとりでずっと考えてたんだけど、これってさ、あたしが陽鶴ちゃんに憑りついたってやつ何じゃないかなあ、って」
可愛らしく小首を傾げて言う彼女に、「ほう?」と奇妙な声が出た。
9,七月二十日水曜日[続きA]
おどろおどろしい単語に少し動揺している私に気付かずに、美月ちゃんは続ける。
「だって、そうじゃない?あたしは今『幽霊』ってやつで、そのあたしが陽鶴ちゃんから離れられなくなってるわけじゃない。憑りついたってやつだよ、きっと」
「はあ」
腕組みをして、うんうん、とひとりで納得した様子で頷く美月ちゃん。それから、彼女は居住まいを正すように、その場に正座した。といっても、やはりフローリングから僅かに浮いているのだけれど。
「美月ちゃん?どうかした?」
「あのさ、陽鶴ちゃん。あたし、これからどうしたらいいんでしょう?」
彼女が妙にかしこまって、私に訊いた。
「え?」
「あたし、どうしたらいいのかな。教えて」
「教えて、って……」
私は目の前の彼女をアホみたいに見つめ返す。今の状況に驚きすぎていて、色んな感情がないまぜになっていて、正直に言うと動揺しまくっている。頭の中の整理ができていない。そんな中、どうしたら、なんて訊かれたって答えようがない。
返事に困っていると、美月ちゃんが口を開いた。
「あの……お願いなんだけど。お祓いとかは、勘弁して欲しいんだよね。あたし、恐怖番組とかでそういうシーンを何回か観たけど、あれってすっごく怖いし、霊の側はめちゃくちゃ苦しんでるじゃない?ただでさえ死んじゃったわけだから、そういう辛いのは避けたいなあって」
美月ちゃんはぶるぶるっと体を震わせる仕草をした。
「だ、大丈夫。そんなことしないよ」
慌てて答える。私も観たことがあるけれど、ああいうのって悪霊と呼ばれる類いのものがされていたはずだ。そんなものに美月ちゃんが当てはまるわけがない。
「ホント?よかったあ」
美月ちゃんが肩で大きく息をついた。何度も胸を撫でおろしているところを見ると、本気で『お祓い』を怖がっていたらしい。
「しないよ、そんなこと。するわけがない」
「えへへ、ありがとう。でもさ、さっきも言った通り、あたしは本当に陽鶴ちゃんから離れられないの。せいぜいが、この部屋から出るくらいの距離しかとれない。そういうの、嫌でしょ?幽霊なんて怖いだろうし……気持ち悪いよね」
彼女の顔つきが少し暗くなる。ホントごめん、と言って頭を下げた。
「陽鶴ちゃんについていかなければよかったんだ、ってすごく反省してる。あの時あたしを見て、気を失うくらい怖かったんだよね。それなのに憑りついてるなんてさ、最悪だよね……」
うなだれた美月ちゃんを見て、慌てた。
「ち、違う!気持ち悪いとか、怖いとか、そんな気持ちはないよ!ただ、本当に驚いたの。こんなこと、常識じゃあり得ないんだもん!」
それは本心だ。だって、怖いと思うには美月ちゃんはあまりに生身じみていて、そして可憐に可愛いのだ。彼女が幽霊であるとして、気味が悪いと考える人間は決していないだろう。
「驚いただけ、びっくりしただけなの。だから、そんな風に言わないで。美月ちゃんを見て、嫌だなんて思うわけないじゃない!」
まくし立てるように言うと、美月ちゃんが大きな目をぱちくりさせた。艶やかな唇が「ホント?」と動く。私は、嘘でないことの証にコクコクと何度も頷いた。首がちぎれそうなくらいに。そうすると、美月ちゃんがいつものひまわりの笑顔を浮かべてくれた。
「だったら、すごく、嬉しい」
「ホントだよ。本心だよ。だから、大丈夫。安心してよ」
「よかった。あたし、陽鶴ちゃんに拒否されることも覚悟してたんだ」
美月ちゃんの肩から、力が抜けた。それからまた、深々と頭を下げる。
「ありがとう。あの、あたし、陽鶴ちゃんから離れられるように頑張るので、少しの間、一緒にいることを我慢してください」
「我慢なんて、そんなことしないって」
彼女と一緒にいることを、そんな風に思うものか。ただ、どうして私なんだろう、とは思う。だから、そのことを美月ちゃんに言ってみた。
10,七月二十日水曜日[続きB]
「うん、そうなんだよね。例えば、あたしに思い入れのある人、という条件なら両親やあーくんになると思うの。でも、三人ともあたしが見えなかった。あたしのことが見えたのは陽鶴ちゃんだけ。それで、陽鶴ちゃんとあたしの特別な繋がりを一生懸命考えたんだけど、他の人にはなくて、陽鶴ちゃんだけある、って条件は思いつかないんだよね」
顎先に手を添えて、考えながら言う美月ちゃんに頷く。
「……うん。そうだよね」
「他に思いつくのは、陽鶴ちゃんが霊感持ち、って言うの?そんな能力があるか、なんだけど」
ちらりと私を見た美月ちゃんに対して、首を横に振る。
「ない。今まで霊的経験なんて、したことがない」
祖父母が亡くなった時も、愛犬のラブリが亡くなった時も、死後の邂逅みたいな特殊イベントはちっとも起きなかった。霊感と呼ばれるような特殊能力は、残念ながら持ち合わせていないだろう。
「ふうん、霊感なし、かあ。それが一番有力かなあって思ってたんだけどなあ」
美月ちゃんは肩で大きく息をついた。
「もしそうなら、あたしにこれからのアドバイスをくれるかも!とか期待もしてたんだよね。上手くいかないなあ」
「これからの、アドバイス?」
訊くと、彼女はこくんと頷いた。
「どうしていいのか、本当に分かんないの。でも、このままはよくないよね。だってあたし、成仏できてない浮遊霊とかっていうやつでしょ」
ふむ、と私も考え込む。確かに、一般的には死者は成仏して、あの世と呼ばれる世界へ旅立つはずだ。そうして、罪を償ったり、はたまたこの世に転生したりする。太古の昔から、死後はそんなシステムであるという話だ。
それならば、美月ちゃんは間違いなく極楽浄土に旅立って、そこで幸せに暮らすか転生するかに決まっている。私から離れられなくなって、あげくに私のアホな寝顔をぼんやり見ている暇なんて、ないはずだ。
「うー、ん……。どういう不具合が起きたのかは分かんないけど、本来なら成仏するはずなのに、できてないってことだもんね……」
考えながら言うと、美月ちゃんが「そうなの!」と言った。
「こんな歳で死んじゃったなんて、もちろん未練はいっぱいあるよ!死んでる場合じゃないって思っているの!未練タラッタラだから、こんな状態になったのかなと思ったんだけど。でもね」
「でも?」
「でも、未練なくすっきり死ぬ人なんてそうそういないと思うんだ。誰だって、心残りを抱えてると思う。その人たちみんなが浮遊霊になってたら、この世界って霊が溢れかえっていてもおかしくないよね?そして、それだけ霊がいたのなら、この世の中はもっと幽霊が身近になっているはずじゃない?」
それはその通りだと思う。何年、何十年、何百年もの時の中で、未練を抱えて死んでしまった人たちなんてどれだけいるか知れない。その人たち全員が、今も空中を彷徨っているなんて、あり得ない気がする。果てしない人口密度になっちゃう。
「だから、あたしの今の状況ってやっぱりおかしいんだよ。滅多にないことなんじゃないかな、って思う。どうにかしないといけないんだけど、それはすごく分かってるんだけど、でも誰にも相談できないし……」
頬にかかった髪をひと筋払って耳にかけ、美月ちゃんがため息をついた。その不安そうな、泣き出すのを堪えているかのような顔に、胸がぎゅっと痛む。
命を落としてしまったというだけでも、受け入れがたいことだ。『はいそうですか、分かりました』、なんて、簡単に言えないはずだ。まず私だったら泣いて暴れて、発狂したかもしれない。
その上、誰にも姿を認めてもらえない『浮遊霊』みたいな存在になってしまっている。不安に押し潰されていて当然だ。
なのに美月ちゃんは冷静に、話をしている。それってすごいことだと思う。
「一体、どうしたらいいんだろ。こんな宙ぶらりんな状況、怖いよ」
「……あの、さ。美月ちゃんは他の人にも未練があるって言ったけどさ」
美月ちゃんが私に顔を向ける。
「でもさ、美月ちゃんの中の未練や心残りが、やっぱり上手く成仏できない原因かもしれないと私は思う。ていうか、それ以外今は思いつかないな」
「……うん」
美月ちゃんが頷いた。
「だから、その心残りを少しでも減らしてみる、っていうのは、どうだろう」
考えながら言うと、美月ちゃんが「え?」と言う。その顔を見ながら続けた。
「思い残しを、少しでも減らそう。例えば、園田くんにもう一度会いたいとか、話をしたいとかさ」
「あーくんと、話……」
美月ちゃんの目が、きらりと動いた。
「そう。あとは、えーと、えーと。ああ、なんでもいいよ。やりたかったこととか、したかったこと。思いついたこと何でもしよう。私、協力するよ」
「え? 陽鶴ちゃんが、協力?」
「うん。美月ちゃん、私と一緒にいないと動けないんでしょ?てことは、私も一緒に行動しないといけないんだよ、きっと。私に、美月ちゃんに協力してあげなさい、って神様が言ってるんだと思う」
園田くんでも、両親でも、誰でもなく。
私だけが彼女を見ることができるというのは、もしかしたらそこに何かがあるのかもしれない。私じゃないとできない何かがあるのかもしれない。
それなら、私は何だってしよう。
彼女の為に、何だって手伝おう。
「そんな。陽鶴ちゃんにそこまで、頼っていいの? 迷惑でしょう?」
美月ちゃんが申し訳なさそうに眉尻を下げる。
声はとても頼りなくて、不安げだった。
私はもそもそとベッドから降りた。頭が少しふらついて、捻挫した足に鋭い痛みが走る。それでもどうにか彼女の正面に座った。
「陽鶴ちゃん?」
えへへ、と笑ってみせた。
私の笑顔は、人の気を抜けさせるという効果がある。多分。
姉みたいに美人じゃないというのも、たまにはいいことがあるのだ。
「私が一緒に、何でもやる。だから、安心して。美月ちゃんの不安、私が半分貰う。だから、大丈夫。美月ちゃんは、一人じゃないよ」
もう一度えへへ、と笑うと、美月ちゃんがびっくり顔で見た。
それから見る間に、美月ちゃんの大きな瞳から綺麗な涙が溢れた。
頬を伝ったその涙は、彼女のスカートの上にパタタッと音を立てて落ちた。
「陽鶴ちゃん、ありが、と……」
「う、うわ! 泣かないでよ、美月ちゃん」
私は慌てて美月ちゃんに手を伸ばした。
しかし、触れる前にぱっと止める。
私の目には、美月ちゃんははっきりと存在している。
栗色の髪は一本一本煌めいているし、桃色のほっぺたは柔らかそうだし、ぎゅっと引き結んだ唇は僅かに震えている。しっかり、見えている。
しかし。彼女の頬を伝う涙を拭おうと伸ばした私の指先は、空を舞った。正確に言えば、彼女の体を何の抵抗もなくすり抜けた。
「あたし、幽霊だよ? なんでもすり抜けちゃう。ほら」
泣き笑いした美月ちゃんが私の手を掴んだ。けれどそれもするりとすり抜けてしまう。私の手を握る感覚は、ない。
>>24
11,七月二十日水曜日[続きC]
タイトル、付け忘れました。
「……そっか。やっぱり、美月ちゃんには触れられないんだね」
分かってはいたことだけれど、そうなんだろうと思っていたことだけれど。それでも、ものすごいショックを受けている自分がいる。
もしかしたら、温かな彼女の肌に触れることができるんじゃないかと、微かに期待していたのかもしれない。彼女は生きていると、期待していたのかもしれない。いや、していたんだ。だって彼女は、あまりにも鮮やかなんだ。なのに。
「ほんとに、死んじゃってるんだね……」
言葉を絞り出すと、美月ちゃんが目じりに涙を残して笑った。
「今さら何言ってるの。陽鶴ちゃんったら、あたしのお葬式にだって来てたくせに、おかしい」
「ごめ……。だってあまりにも、美月ちゃんは美月ちゃんで、私の前にいるから……」
美月ちゃんが、私に指を伸ばした。頬に触れるか触れないかのところで、止まる。
「やだなあ。泣かないでよ、陽鶴ちゃん」
私の目からは、気づかない間に涙が流れていた。
「だ、って……」
声が詰まる。視界が滲む。
だって、死んでなんて欲しくなかった。
世界中の奇跡を掻き集めてでも、私は彼女に生きていて欲しかった。だから、こんなの、認めたくない。嫌なんだ。
「泣かないで。陽鶴ちゃん、疲れるとまた倒れちゃうかもしれないから、ね?」
「だ、ってぇ……」
「陽鶴ちゃんが泣いたら、あたしだって、また泣いちゃうから……」
美月ちゃんの目に、涙があふれる。私の拭えない涙が。
「ごめん……、美月ちゃ……」
私たち二人は、触れあうことのできないまま、向かい合ってただ泣いた。
それが、私と美月ちゃんの、夏の始まりだった。
>>26
12,七月二十日水曜日[続きD]
また、タイトル付け忘れです。すみません。
第ニ章『どうか信じて。どうか、伝わって』
13,七月二十七日水曜日
あれから数日。
もう日常生活に戻ってよいとお医者さまから許可を頂いた時には、学校は夏休みに突入していた。
必要のない、存在を忘れ果てていた通知表と宿題の山をわざわざ家まで届けに来た担任を、私は許さない。
両親にこっぴどく叱られたうえ、塾に放り込まれかねなかった。
高校生にもなるのに、夏休みのドリルを買い与えられた。泣ける。いや、もっと勉強しろって話ですけどね。ええ、分かってます。バカでごめん。
「明日から、学校行くよ」
放置してもいられない宿題をしながら私が言うと、ベッドの上に寝ころんでテレビを観ていた美月ちゃんが「え!」と声を上げて起き上がった。
「どうして? 明日は登校日だっけ?」
「ううん、違う。私、美術部でしょ。夏休みの間に文化祭用の絵を描きたいから、毎日通うんだ」
「へえ、そうなんだ! え、じゃあ久しぶりに学校に行けるんだね」
美月ちゃんは嬉しそうに笑った。
私と美月ちゃんは、大した問題もなく共同生活を営んでいる。特に不便なところは、今のところない。
美月ちゃんは私から3メートルほどの距離なら離れられるらしく、お風呂もトイレも一人で入れる。
美月ちゃんはやっぱりというべきか家族の誰もが見えないので、何を言われることもない。
すみません。黒崎杏里くんの名前を間違えてしまいました…!園田くん、ではなく黒崎くんです。ごめんなさい!
30:理空◆LJ2:2017/01/06(金) 23:57 14,七月二十七日水曜日[続き@]
ここ数日は私の足の怪我のせいで家に閉じこもりきりだったけれど、明日からは学校に行ける。
そして、学校に行くというのには、重大な目的があった。
それは、黒崎くんに、美月ちゃんの幽霊がこの世に存在していると伝えること。
黒崎くんには、真っ先に伝えなくてはいけない。
葬儀の時の、あの憔悴ぶりを思い返すと、胸が痛む。
きっと、彼女が魂だけとはいえここにいることが分かれば、彼は喜ぶんじゃないだろうか。
それに、美月ちゃんの『心残り』はきっと、黒崎くんが関わっていることだと思うのだ。
「ねえ、美月ちゃん。黒崎くん、どういう風に声を掛けたらいいと思う?」
英文と睨めっこをしていた私は早々にギブアップして、冊子を閉じた。それから、体ごと美月ちゃんに向き合う。彼女はくりんと目を丸めて、「簡単じゃない?」と言った。
「美月がここにいますよー、でいいんじゃないかな」
そんな美月ちゃんに、「それは却下」と私は切り捨てる。
「いきなりそんな話題振ったって、信じてもらえる訳がないよ。もっとうまい切り出しかた、ないかな」
「えー、そうかなあ。だって、見えるのは本当だもの。あーくん、ちゃんと話を聞いてくれると思う」
「ダメだよ」
ペンを机に放り、ため息をつく。
「あのね、黒崎くんがちょっとあり得ない話でも耳を傾けるのは、美月ちゃんだけなんだよ。多分、私が急にそんな事を言っても信じてもらえないと思う」
そうなのだ。『美月ちゃんだけ』な黒崎くんに話しかけるだけでも、大変なのだ。
話をする時間をくれるのかどうかも怪しい。
そこに『美月ちゃんの幽霊が見えます』みたいな話を持って行って、果たして彼が素直に聞いてくれるかどうか。答えはノーだ。
彼ときちんと話が出来て、しかも美月ちゃんの存在を信じさせるまで。これは結構ハードルの高い問題だ。
美月ちゃんが思っているよりもずっとずっと難しい。
15,七月二十七日水曜日[続きA]
「うーん、そうかなあ。本気で話せば、あーくんは絶対分かってくれると思うけどな」
ふむう、と腕を組んだ美月ちゃんが、少しだけ考える。それから、ぱっと顔を明るくした。
「あ! こういうの、どうかな。あーくんに、何か質問してもらうの。あたししか答えられないような質問。そしたら、分かってもらえないかな」
「ああ、それはアリだね。名案かも」
コクコクと頷いた。
それなら、黒崎くんも信じようって気になるかも。
「ヒィの知らないようなことを訊いてもらうの。そして、あたしが答える。これでいこう」
美月ちゃんは、私の事を『ヒィ』と呼ぶようになった。
『ヒィ』というのは、私の家の中での呼ばれ方。
姉の千鶴が『チィ』、陽鶴の私が『ヒィ』というわけだ。家族がしょっちゅう『ヒィ』と呼ぶものだから、美月ちゃんにもすっかり移ってしまったのらしい。
「そうだね。明日はそれで行ってみよう」
信じてもらえないだろうから黒崎くんに話さない、なんて選択は無い。私はどうやってでも、黒崎くんに彼女の存在を知ってもらわなくてはならない。
「嬉しい。久しぶりに、あーくんに会える」
胸元で両手を組んでにこにこと笑う美月ちゃんを見ていると、尚更そう思う。
黒崎くんと意思の疎通がはかれたら、彼女はきっともっと笑うんだろう。
そして、黒崎くんも。
16,七月二十七日水曜日[続きB]
「じゃあ、今日は早めに寝よっか。明日は忙しくなるかもしれないし」
「うん、そうだね!」
それから、私たちは一緒にベッドに入った。
といっても、美月ちゃんは布団の上にふわふわ浮く感じだけれど。
美月ちゃんは幽霊だからずっと起きているのかな、と思ったりもしたけれど、彼女はよく寝る。すうすうと心地よさそうに眠るのだ。食欲などは一切なく、空腹感もないと本人は言うのだけど、睡眠欲だけは残っているのらしい。
「寝相が悪くても、ぶつかる心配がないからいいよねえ」
私のベッドの端っこに身を寄せた美月ちゃんが笑う。
「そうだね。万が一ベッドから落ちても、痛くないしね」
「まあねー。もう二回くらい落ちたもん」
「えー、私が見ただけでも三回だよ」
「あう、バレてた! 実は床も突き抜けちゃってて、気付いたら一階の真ん中のあたりでふわふわしてたこともある」
「えー、それは知らなかった! それって、ホラーだね」
「ね。超ホラーだよ。部屋の真ん中で浮いてる女子高生の霊! なんてさ」
ベッドの中で、互いが眠りに落ちるまでこそこそと話す。顔を寄せ合って、クスクス笑い合って、それは修学旅行の夜みたいで楽しい。
「ふあ、眠くなっちゃった。じゃあ、おやすみなさい、ヒィ」
「おやすみ、美月ちゃん」
私たちは仲良く挨拶し合って、目を閉じた。
17,七月二十八日木曜日
私立星空高等学校。
通称『星高』と呼ばれる我が校は、マンモス校とまではいかないけれどそこそこ大きな高校だ。
四階建ての校舎は三棟に別れ、それぞれ連絡通路で繋がっている。大きなグラウンドや体育館、剣道場や講堂、レスリング場なんてものまである。
私の所属している美術部の部室は、一棟三階の、一番端っこにある。
「ふわ、広い! しかもなにここ綺麗!」
部室に入った美月ちゃんの第一声に、クスリと笑った。
作り付けのガラス戸の嵌った棚に悠然と並ぶ石膏像。
その数は、一般の高校美術部の所有する量ではない。
プシュケ坐像やブルータス首像、果ては観音立像まである。我が美術部自慢、そして顧問の杉田先生が毎日のように手入れをしている『コレクション』でもある。天井まで届く大きな棚には画材が整列し、描きかけのキャンバスがいくつも並んでいる。
「こういうの、なんて言うんだっけ。ええと、あ、そうだ。アトリエ! アトリエって言うんだよね。ふああ、しかし、ホントに綺麗」
「すごいでしょ、ここ。部室にエアコンつけてもらってるの、うちの部くらいらしいよ」
暑さ寒さを感じない美月ちゃんなので気付かなかったようだけれど、ここは常にひんやり涼しい空気で満たされているのだ。
ここに来るまでにしっとりと汗ばんでいた私の肌も、すっかりサラサラになっていた。