心の魔法は瞳の奥から、

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1: きなこ :2017/01/04(水) 12:17



恋したいのは、誰だって同じ。
 

2: きなこ :2017/01/04(水) 12:32



頬を撫でる生ぬるい風に、少し眉をひそめてしまった。

東京とやらの空気は淀んでいて、こんなところに人間はすんでいるのかと驚かされる。空中飛行も出来たものではない。よろめくのは、私の力量不足なんかじゃない筈。

「ここが、私のターゲットね 」

ゆっくりと足を地につけて、そっと箒から降りる。それからぐるりと街を見渡した。星のような光が点々とあり、夜なのに闇のひとつも見えやしない。

「変なの」

それでも私の着地した場所は、建物と建物の間だ。暗いし辛気臭いし、このような場所を好んでいるわけではないが、また誰かに見つかることもないだろう。

無いはずだった。
 

3: きなこ :2017/01/04(水) 12:54



「 やめて…っ! 」

その弱々しい声と、乱暴な複数の足音が同時にこちらへ近付いてきた。一服しようと持参のお菓子を開封仕掛けていた私、立ち止まる。


「 姉ちゃん可愛い顔してるじゃん、俺達と遊ぼうや? 」

「 いや…ですっ! 」

ヌメッとした白い箱(何かはわからないが、空気の出し入れを感じる)に身をひそめ、そっと顔を覗かせる。ネエチャンと呼ばれた方は、女にしては少しハスキーな声だ。しかし震え上がり瞳には涙を溜め、なるほどいかにも弱そうだ。

遊ぼうとする俺達の方は、二、三人の男達。図体がでかく、形相はいかにも悪いという感じ。ちなみに私の好みでは無い。

壁に女が押し付けられ、小さな悲鳴が聞こえる。私とて年頃の女、これから起こることの察しはつく。悪いがそんなものは見たくないし、身の危険を省みてこの女を助ける義理もない。

残念だが場所を変えようと、のろのろと箒へ手を掛けた時だった。

「 今からアンタを征服してやるよォ! 」


……征服?
 

4: きなこ :2017/01/04(水) 13:05



この男達は征服をしようとしているのか?
それも、こんな時間、こんな薄暗い場所で?
この東京という偏屈な街で?

そんなら、私のライバルだ。

「 古今東西の炎とお菓子の精よ… 」

手をかざし、開きっぱなしのチョコスナックへ呪文を唱える。食べ物を粗末にするなってママには怒られるかもしれないけど、ライバルを駆逐する為だから褒められないといけない。

焦げ茶色の軽いスナックが、紫の光をまといふわりと浮いた。これで準備は出来た。手に思いっきりの力を込め、狙うターゲットを定め__

「 あいつらを、倒して! 」

集中砲火。一撃必殺。私の存在に気付き、慌てた様子でこちらを振り向くライバルと女。
甘く恐ろしい弾丸が、奴等の魂もろとも粉々に撃ち砕く筈だった。

ぷしゅう。

「 …あれ? 」
 

5: きなこ :2017/01/05(木) 11:32



破裂に満たない不釣り合いなそれが、薄い煙と共に弾けた。

「……」

「……」

「……」

驚く私、ライバル共、女は皆同じ反応だ。視線は不可解そうに、また呆気に取られたようにしてかち合った。妙な空気が流れる。

「 そ、その女を離しなさい 」

こういう時は先手必勝だと何か出みたことがあるので、兎に角私から流れを切った。時代の先駆者とはいつもこういうものだ。

「なんだお前!女の癖に!」

小動物は威嚇によく吠えるという。私の偉大さは小物
の琴線に触れたのだろう。女を離すと、足音を響かせこちらへと近付いてきた。荒々しく苛立ちに率直で、その所作はまさに小動物__但し、図体はでかい。

しかし、だから何だって言うんだろう?

「古今東西の神よ…あっちへやっちゃって! 」

 

6: きなこ :2017/01/05(木) 11:36



途端、ライバル共の体が紫色の光を帯び、ふわりと浮かび上がった。成功だ。

「 うわ、うわわわわ!なんだこれ! 」

たじろぐライバル共。無理はない。彼等の体は今、私の手からぶら下がる人形と同じだ。ヒョイと彼方を指させば、面白いぐらいに焦った顔をこちらへ向けながら退場していった。

「おい、お前…何者だよ!」

捨て台詞のように尋ねられた答えは、彼等には聞こえなかっただろう。だからとびっきりのいい声で、私は自己紹介をした。

「魔女だよ」

 

7: きなこ :2017/01/05(木) 11:48



さてと静かになった。ライバルを追い出したということは、私は勝者なのだ。

「あ、あの!」

壁に張り付いてぼんやりしていた女がいそいそと近付いて来た。そうだ、私はうっかり人助けもしていたのだ。勝者だけでなくヒーローにもなってしまうとは、全く罪な魔女である。

「僕なんかを助けてくれてっ…ありがとうございますっ!」

目に涙をいっぱいに浮かべる女が、深々と頭を下げた。か弱そうだと思っていたが、近くで見れば私より背が高い。声もハスキーなのだと思っていたが、何というか何より。

「ぼ、僕!?」

 

8:閖時雨◆YQ:2017/01/05(木) 11:49

続き、楽しみにしてます!(*´♡`*)

9: きなこ :2017/01/05(木) 11:53



>>8

わーいありがとうございます❀.(*´▽`*)❀.

10: きなこ :2017/01/06(金) 09:54




僕、 ハスキーな声。私よりも高い背丈。だけど顔立ちはまるで女の子で、さっきだってそうだ。

頭が混乱する。マジマジと「僕」を見る。髪は確かに短いが、女だってショートヘアくらいするだろう。でもしかし、そんな逆接がどんどん浮かび上がる。

「あの…どうかしました?」

「僕」がおずおずと顔を上げ、心配そうにこちらを覗き込んだ。長い睫毛、くりんとした瞳、柔らかそうな唇。分からない。人間にしては整った顔立ちであることは、わかったけれど。

しかしこの僕にいつまでも構う必要も無いだろう。今日の事は偶然の産物だし、何より夜の只中、そろそろ寝なければ明日からの活動に響いてしまう。

ここは私の征服した拠点なのだ、早く退いて貰わないと。

「いえ何も。それより、用が済んだならさっさと出てってください」

「え、あっ…」

「ここは私のおうちなんですから」



「お、おうち…?」

 

11: きなこ :2017/01/06(金) 10:03



僕が驚いた様に瞬きをした。何がおかしいのか。それとも狭くて滑稽とでも思っているんだろうか。
ならば余計なお節介だ。そう口を開こうとした。

「ダメだよ、ちゃんとお母さんのところへ帰らないと!」

少し強い口調で拳を握られた。それまでが弱かったものだから、思わず肩が揺れてしまった。別に驚いた訳では無い、少しびっくりしてしまったのだ。

しかしママのところとは簡単に言ってくれる。こちとら修行の為にわざわざ飛んできた身、そうやすやすと帰れるものではない。

「そんなの無理です」

「どうして?…まさか、その、追い出された…とか?」

追い出されたというよりかは、慣習的なものなのだが。

「…わかったよ、一泊だけだからね」

少し俯いたあとに、僕は私の手を取り歩き出した。
 

12: きなこ :2017/01/06(金) 10:24



暗がりから僕の背中に明るい光が差す。うるさいガヤガヤに開かれる。片手の箒を手放してしまわないように、されるがままに私は着いて行く。意外と力が強いのだ、不服でとても滑稽な気分だ。

「え、あ、ちょっと」

「こんなところで寝たら風邪ひいちゃうし、悪い人に狙われちゃうよ!」

悪い人に狙われていたのはどこの誰なんだろう。

騒がしい光と、見世物を見るような視線が突き刺さる。それがなんとなく気恥しい。裸を見られているような気分で不快だ。それでもずんずんと固い地面を踏んで、その中歩みを進めてゆく。

こういう時、私は何を喋れば良いのか分からない。僕も何も喋らない。変な空気。風を切る沈黙に耐えかねていると、徐々に光からぼんやりとした暗がりへ出た。
 

13: きなこ :2017/01/07(土) 14:38




「 ごめんねっ、ちょっとせまいけど… 」

光から少し抜けた先の、少し古ぼけた建物の前で「僕」は立ち止まった。ひとつの建物にドアがいくつも付いていたが、その1番右へ鍵を差し込み、錆びた音を立ててドアを開けた。

おずおずと端に寄り、私を中へと促す。なるほど確かに暗くて狭そうだが、匂いはさっきのところよりも良いかもしれない。

「助けてくれた、お礼がしたくて…」

それでも立ち往生する私に、「僕」はおずおずと言葉を繋げる。恐らく厚意だろう。奴に何をしたつもりもないが、掛けられた厚意なら受けてるのが立派なもののつとめだろう。

「……おじゃまします?」

 


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