教室に来るのは留年にならないギリギリ。
教室にいても特に何をするわけでもなく、ぼーっとしている。
そんな彼女は、とんでもない悪系美少女なのです。
「最近面白い事ないね〜」
「そうだね…あ、なら作ろうよ、面白い話を。」
「あ、いいね、それ!」
そんな会話から始まった遊びは結構楽しく、色んな女子も入ってきた。
Miki.side
「じゃ、星野さんが…凄腕のアクション女優とかは?」
「いや、星野さんだったら暴走族の総長…なんてことも!
「詩姫って言う名前だし、どっかのお姫様だったりして!」
少し離れた席から、きゃっきゃと声が聞こえてくる。
正直耳障りだけど、これも立派なシキの仕事。
彼女たちは廊下側。
シキは一番窓に近い席で、後ろから2番目。
もう1つ後ろが良かったけど…くじ引きだし、しょうがない。
窓の外を見てぼーっとしてるか、噂話に耳を傾けるか。
シキの学校での生活は、大体それ。
…ちなみに、シキの正体については、さっきの女の子達を参照…ね。
自己紹介とか、めんどくさいし。
そんなこんなの日常を送り、梅雨が近づいてきた。
最近、この学校にはお姫様という子が出来たらしい。
いや〜、これは良いネタ入りましたね〜。
とか考えながら校庭を歩く。
何で校庭に校門をつけるのだろうか。
校庭は別に作って昇降口の目の前に校門作れよ…
あーあ、面白いこと…
「……ぁった。」
靴箱からシキの教室までの間にある女子トイレ。
うん、ナイスタイミングだよいじめっ子たち。
「ふははっ、ざまぁ…!」
どうやらいじめっ子は1人らしくも女子トイレから出てきたのは1人だけだった。
…あんな大きな声、出したら他の人にバレるのに…。
女子トイレに入り、水道の前の女子に近づく。
なるほど、教科書を水浸しにされたってわけか…
「ねぇ、そこの黒髪さん。」
「っ…な、なに?」
恐る恐る、と言った感じでその子は振り返る。
…あー、はいはいクール系ですか。
王道ものだとあいつらの存在を知らなくて気に入られた…まぁ、この子もそんな感じだろう。
「それ、もう使えないでしょ?」
「…だったら?」
「警戒しなくていいのに。私の、名前書いてないから…使って良いよ。」
シキの鞄には、珍しく教科書が入っている。
もちろん、こういう時のために、最近はずっと入れている。
とりあえず全部渡した。
「…ありがと。礼は今度させてもらうわ。…それじゃ。」
「はいはーい。」
礼なんていらない、それはヒロインちゃんの言葉なの。
シキには礼が必要。
…さーて、教室に行ってからサボろ。
いつも通りぼーっとしていたらクラスがざわつく。
ってことは昼休みかぁ…
シキ:とりあえずお姫様に知ってもらえたと思う。そっちはなんかある?
ミヤ:特にない。つーか、今日は来るよな?
シキ:…行く。なんで?
ミヤ:いや、なんでも。
とあるトークアプリでミヤと連絡を取る。
…にしても、ここ一帯を支配しているとか言われてる桜蘭も大したことないなぁ。
情報のガードはゆるゆるだし、下っぱも喧嘩売られたらすぐに買う。
本当に強いのは幹部だけ、ここら辺には強い不良が居ないってことか…
……って、あいつら全国3位だったっけ。
あーいうのって、どうやって決めてるんだろ。
しかも数が多いだけでそこまで強くないし…
なんていういか、お姫様も…
「…星野詩姫さん…はいる?」
………だれだ。
「きゃぁ!桜蘭の紫音さまよっ…!!」
「こんな近くで見たの、初めて…っ」
「かっこいい…♡」
「ほっ、星野さんならあそこに…」
「…そう、ありがとっ。」
「いえっ!」
桜庭紫音…まさか、自分の方から接近してくるとは。
…けどシキ、ここでじゃ何にもやってないよね…?
「星野さん、ついてきてほしいところがあるんですが…」
「………どこですか?」
「屋上なのですが…あ、申し遅れました。僕の名前は桜庭紫苑と申します。」
「あ、星野詩姫です。」
…きたああぁあああああああああああ!!!!
こんなくだらん学校にいてよかった!!
「来てもらえますか?」
「は、はい…」
あーもうこの心の高まりを舞で表したい。
連れてこられたのは空き教室。
前は音楽室だったから、比較的ここは大きい教室。
「で、ここは?」
「僕達…桜蘭の溜まり場です。」
「…ここが?暴走族って言えば屋上じゃないですか?」
素直にそう言ってみる。
だってそうじゃん?シキが読むケータイ小説は大体が屋上だよ?
「…君、桜蘭を知ってるの?」
…質問には答えず、桜庭紫苑は目を細めて睨んできた。
なるほど、シキが桜蘭を知ってるとは思ってなかったってことか。
「?この学校で桜蘭を知らない人いるんですか?寝てても耳に入ってきますよ?」
「……それもそうか。ごめん、何でもない。じゃあ入って。」
………予想は当たってそうかな。
「はーい。」
訂正:桜庭紫苑⇨桜庭紫音
「紫苑、連れてきたか?」
「もちろん、ここにいるよ。」
シキが158cmだから…桜庭紫苑は180あたり。
…デカイ。
シキの近くにこんな大きい人はいないからなぁ。
「星野詩姫か?」
「そーですよ?何か用でしょうか。」
「…亜美が、礼を言いたいらしくてな。」
亜美って誰だ。
そんな人知らないんだけど。
待って、幹部?んなわけない。
どうしよどうしよ、桜蘭関係は大体頭に入ってるの思ってたのに…
慌てふためくシキの前に立ったのは…
「…あ、お姫様。」
「………その呼び方、やめてくちょうだい。」
「…すいません?」
朝、助けてあげたお姫様だった。
この人、亜美って名前だったんだ…なんか、美麗って感じがするのに、意外。
「まあいいけど…今日はありがと。」
「…なんでお礼を言うんですか?」
「何でって…迷惑をかけたから…」
「私は別に迷惑じゃなかったですよ?第一、迷惑だったらいじめられてると知っててあそこに行くわけないじゃないですか。」
「…あなたのおかげで、助かったから。」
「根本的な問題は解決してないですし、すぐに私の教科書も悲惨な目に合うと思いますけどね。」
結局、お礼なんていうのはその程度の認識。
人それぞれ礼を言う理由は違うんだろうけど、どれもシキにはピンとこない。
「あなた、なにがしたいの…?」
「何もしたくないですよ〜。私はここに連れてこられただけです。」
「…嘘。」
「そうかもですね。」
相手に踏み込ませちゃいけない、こんなの常識なの。
私が接触許すのは、4人だけ。
あーでも、今は増えたかも。
「気が変わりました。あなた達と、話してみたいです。」
「…亜美、本当にこいつが助けたのか?」
奥に座っている金髪の男が声を出した。
…この人こそ、桜蘭の総長・狭間遼。
お姫様も、この男に気に入られたんだろう。
「…間違いないわ。」
「そうか。ならいい。」
…王道過ぎてつまんないなぁ。
もっと面白いことが起きてほしい。
………なんて、少しは自重しないと。
「ねぇ、どこ座っていい?」
とりあえず横にいる桜庭紫音の服の裾をつまむ。
「え?うーん…あ、僕の隣なら座っていいですよ。」
「んーどこ??」
「こっちおいで。」
………なんか、この人お母さんっぽいな。
さすが副総長。
桜庭side
「ねーねー紫音。」
「…なんですか。」
「………優しいね。」
「は?」
「無視するかと思った。」
「無視する理由が分かりません。」
「そっかぁ。」
隣に座るこの少女はよく分からない。
俺の好みドンピシャだけど…素性が分からない限り遊びにも使えない。
特に話すこともなくなったのか、星野はケータイをいじりはじめた。
真剣になったと思いきや、いきなり立つ。
「じゃあね。」
「…どこに行くんですか?」
「んー、電話。」
「そうですか…」
こんな所で電話されては迷惑だし、引き止めるのをやめる。
「あ、そうだ。ねぇ、紫音。」
「…?」
ドアの寸前で立ち止まった彼女は、俺の方を見て微笑んだ。
「…敬語、気持ち悪いよ。」
「…っ!」
それだけ告げて、星野は出て行った。
何なんだよ、あいつ…
……でも、
「おい、紫音顔真っ赤だぜ?もしかして惚れたとか?あっひゃひゃwww」
「…うるさい。」
少しだけ、守りたいと思ってしまった。
シキ:いく
ミヤ:は?どこに?
ミヤ:おい既読全員ついてんぞ
ミヤ:返信しないと返信するまでスタ爆すんぞ
シキ:語尾に毎回「んぞ」がつくアホはこいつです。
ミヤ:ざけんな◯ね。
チナ:おーい、ここ俺らの会議なんだけどー?ミヤいい加減にしろ
ミヤ:なんで俺だけ?
ミヤ:また無視かよ!!つか、行くって溜まり場に?お前今日学校だろ
リン:まじ?シキくるんだったら行くー!
シキ:今んとこ留年回避してるしおけ。
シキ:鍵忘れてからあけといて。
ミヤ:お前マジ…
シキ:リーダーの指示だよ?ミヤくん。
ミヤ:こんな時だけリーダーとか言ってんじゃねぇぞクソガキが。
シキ:リーダーだよ?逆らっていいのかなー?んー???
ってな会話があり、私は今、とあるチームの溜まり場に来ています
横にも縦にも長いそのビルは、人が一緒に一度見るか見ないかぐらいの珍百景。
縦長の普通のビルじゃない、横にも縦にも長い長方形のビルなのだ。
しかも、見た目も落ち着いたような派手なような、変な感じ。
装飾とか豪華なわけではないが、色合いがおかしい。
上から黒・赤・桜色・水色・橙・白のしましま。
ワンフロアずつ分けられている。
で、一番下はガラス張り。
赤とか、派手なイメージがあるんだろうけど、このビルの赤は違った。
目立たないし、目がチカチカしないし。
もうこれは芸術呼ばれる類の建物だろう。
まぁこの倉庫建築にシキは関わっていないけど。
ほとんどのお金持ちなリン一家がやってくれたから。
…結局、世の中金だよ(悟り)。
建築関係に関わってないとは言えど、ここはシキの所有地。
ここに入る人は限ってある。
そして今から…いつもの、毎度の、おなじみの、恒例行事が始まろうとしている。
…ふぅ、入ろう。
「おはよー「しきぃいいいいい!!!」あふっ…」
はい、恒例行事終了。
勢いよく突進して来たのは我らがビル(通称:倉庫)を建ててくれたリン。
天使だよ、天使。
シキ以上に可愛くて儚くて、背中に翼が見えるの。
まぁ男の子だけど…いや、男の“娘”だ!!
「シキ!ずっと待ってたんだよ?!」
「留年回避しないとだもん。それよりミヤは?」
「むー…ミヤじゃなくて、リンでもいーでしょ?」
「そうだけど、情報交換するし、みんな集めないと。チナは?」
ここではのんびりまったりじゃなく、“リーダーのシキ”として動く。
…いや、基本のんびりまったりだけど。
1チームを束ねる彼らを束ねるのは、大変だ。
「チナは多分アキの所じゃない?」
「…そう、じゃあ後でいっか。」
秋竜(シュウリュウ)…通称、アキ。
秋月茅南が総長を務める、橙色がイメージカラーの暴走族。
本格的な活動は別の街で行われているが、拠点はここ。
橙色のフロアには、秋竜が溜まっている。
…チナは仲間と過ごしてるだろうし、また後にしよう。
「ん!久しぶりにお話ししよ!」
…………ここに天使がいる、天使だよ天使。
話そ!じゃなくて、お話ししよ!ってところがまたたまらん。
「いーよ。」
「やった!じゃーリンはお菓子持ってくる〜♪」
ここの倉庫には5つのチームが入り浸っている。
桜色のフロアには、春竜(シュンリュウ)。
春宮紀桜(ハルミヤキオウ)が総長を務める、桜色がイメージカラーの暴走族。
水色にフロアには、夏竜(カリュウ)。
夏海凜(ナツミリン)が総長を務める、水色がイメージカラーの暴走族。
白色のフロアには、冬竜(トウリュウ)。
冬馬 柊(トウマヒイラギ)が総長を務める、白色がイメージカラーの暴走族。
そして、さっき説明した秋竜。
この4つのグループが下のフロアを使っている。
そして、赤のフロアには、深紅がイメージカラーのチーム。
シキがリーダーの、四季(シキ)。
チーム名は四季だけど、ややこしいから大体の人がチームって言ってる。
メンバーはシキ、ミヤ、リン、チナ、ヒイ。
あくまでも、暴走族じゃなくてチームね。
そして、黒のフロアはシキの部屋。
まぁ総リーダーってとこだし、専用の部屋があってもおかしくはないよね、うんうん。
「シキ、どうしたの?」
「…ううん、何でも。それより、チナ達は?」
「戻って来たよ!」
ほら、と指でドアを指すリンにつられてシキもドアを見る。
そこには、久しぶりに見た仲間が立っていた。
「やほやほ〜」
「ったく…何でお前はいつも急なんだよ。」
「しらーん。それより会議しよーぜ☆」
「きm」
「よしじゃあミヤ表でろ。」
「あーもう、ミヤがいると話進まんな〜い!」
喧嘩まで行きそうになったのを止めたのはチナ。
「さーせんした。」
「…わり。じゃあ会議始めるか。」
「「「「うぃーっす」」」」
それぞれ定位置につき、ミヤが変な紙を取り出した。
この部屋にあるのは全部赤か黒で、紙までもがその二色。
ミヤさんはそんな変な色の紙でやりづらくないんでしょうかね。
「シキ、お前からな。一番接触してるし。」
「…って言っても、ほんの少しだよ?さっきちょっぴり喋っただけ。」
「早く言え。」
「ちょいちょい、ミヤさんなんか怒ってない?…あ、リンそのお菓子おすすめなんだよ。」
「そうなの?食べるー!」
「…………お前らがのんびりしすぎだからだろーがぁあ!!!」
「…あ、すいません。」
真面目に怒ってらっしゃるようなので謝っておく。
ミヤって意外に怖いからさぁ。
「分かればいい。ってか早く報告。」
「むぅ…とりあえず、王道っぽかったかなぁ。お姫様も総長さんもクール系。」
「王道かぁ…つまんな。」
確かにつまんないよね。
こればっかりはチナに同感せざるをおえない。
だって、面白みが欲しいじゃん?
「桜庭紫音…あの人、ここに欲しいなぁ。桜蘭にはもったいない人材だよ。」
なんとなく、そう思った。
桜蘭では情報を担当して戦場に出向くことはあまりないらしい。
…けど、細いのにしっかりとついた筋肉。
あれは情報だけじゃ足りない。
…ま、直感だけど。
こういう世界にいれば、直感が当たることなんてしょっちゅうだから…シキは、少し希望を持ってみる。