俺は椿野優雅。
どこにでもいる普通の平凡な男子高校生……だったらよいのだが、残念ながら今は醜悪な『犯罪者』である。
といっても、その罪は強盗や殺人なぞ大それたものではなく。
俺の罪は――
『私刑』による『名誉毀損』及び『侮辱罪』だ。
>>02登場人物
T章 <炎上マッチ 椿野優雅>
『近年増加傾向になりつつあるバイトテロ。果たしてその実態は……』
午後6時、椿野家のお茶の間にて。
徒然なるままに(要は暇だったのだ)俺はテレビのニュースを眺めていた。
「バイトテロか……くだらねーことする奴もいるもんだな」
俺はため息混じりに呆れると、親父も
「全くだ!最近この手の犯罪が増えてきてな」
と、声を荒らげ、憤りを隠せないようだった。
バイトテロとは、Twitter上にバイト先でふざけて撮った写真をアップすることだ。
主にバイト先のキッチンのシンクの中に入ってみたり、食器洗い乾燥機の中に入ったり、パンの生地で遊んでみたり……
そんな写真をTwitterにアップし、炎上を煽っていく。
見た人は不衛生だと感じ、その店に行かなくなる。
よって店の経営が破綻するという大事にもなってしまうのだ。
もちろん、写真をアップした当人は賠償金を払う事になる。
それ以外にも、会社をクビになったり会社に就職できなくなったり。
今後の人生に大きく影響が出る。
「この間もそのせいで何件か店が破綻してしまったんだ。全く……」
親父は歯ぎしりしながらテレビの画面を睨みつけていた。
この時の俺は、『見つけたら軽く炎上させてやろう』としか思っていなかった。
翌日、俺は眠い目をこすりながらも起床した。
これだから低血圧は困る……
このまま体調不良だと連絡を入れて休んでしまおうかと思ったが
「おはよう!早く学校行こう!」
幼馴染の可憐に強いられるように引っ張られ、しぶしぶ行くことにした。
駅の改札を過ぎ、「今日もうち寄ってく?」と可憐が言った。
「あぁ。暇だし」
俺が一も二もなく返事をすると、可憐は少し嬉しそうに笑った気がした。
可憐の家はネットカフェ『フロッピー』を経営している。
最新のパソコンやソフト、ハードウェアがあって、設備は申し分ない上に回線も速い。
そしてなによりドリンクバーのオレンジジュースがうまい。
俺はすっかりフロッピーの常連客になっていた。