知る人ぞ知る、実にマイナーな噂だが。
放課後第二理科室に行くと、どんな悩みでも解決してくれる組織があるらしい。
恋愛相談から害虫退治、勉強まで……
報酬は人によりけり。
その組織の名は、『リカシツ』
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-リカシツ-
・数原 理人(かずはら りひと)♂
通称『リッヒー』 【物理】担当
常に全国模試でトップの成績を維持している
クールな性格と端正な顔立ちで女子に人気だが、本人は気づいていない
・葉ノ宮 命(はのみや いのち)♀
リカシツのリーダー 【生物】担当
全国模試では生物のみトップで、その他の成績は理人に劣るものの良好
父親が外科医、母親が内科医。本人も医学部志望
陽気で楽天家、常にリカシツメンバーを振り回す
・天津 大地(あまつ だいち)♂
リカシツの【地学】担当
化石に詳しく、天文学にも精通している
全国模試では地学分野のみトップでその他は悲惨
お調子者でリカシツのトラブルメーカー
・加賀 凛(かが りん)♀
通称『リンさん』 リカシツの【化学】担当
大地の幼馴染で、大地に想いを寄せている
料理が壊滅的に下手、もはや実験
全国模試では化学のみトップ
命曰く、マイペースでおっとり癒しキャラ
その他
・矢城 要(やしろ よう)
通称『教授』
有名大学の元講師だったが、理人達の通う高校へ就任してきた
リカシツの活動を援助している
この高校に入学してから約半年が経とうとしていた。
学校は簡単すぎて退屈だし、部活もやりたいものがない。
委員会活動も面倒だからやりたくない。
とにかく学校は俺にとって時間の無駄でしかなかった。
「知ってるか?第二理科室の噂」
「おう!この間もテニス部の部長が解決してもらったって言ってたぜ」
「じゃああの噂は本当なんだなー!」
「あの噂って?」
後ろの席で数人の男子が井戸端会議をしている。
俺はそこで、第二理科室の噂を小耳に挟んだんだ。
「旧校舎の使われてない第二理科室。そこに行けば、どんな無理難題でも解決してくれるらしいぜ」
くだらない。
どうせ化学部や天文気象部の宣伝だろ。
俺はそんな噂を誰に向けるでもなく、心の中で一蹴した。
そんなある日、俺に転機が訪れた。
放課後帰ろうとした時。
「すまん、数原!」
担任の矢城先生が俺を呼び止めた。
「悪いが、旧校舎の倉庫から辞書を持ってきてくれないか?」
「辞書……ですか?」
「あぁ。国語科の先生が次の授業で使うから持ってきてくれと言われててな。80冊分持ってきて欲しい。台車を使って構わないから」
矢城先生は言うだけ言うと、そそくさと逃げるように教室から去っていった。
彼の挙動不審な態度を訝しむ気持ちと、厄介事を頼まれたという気持ちで頗る気分が悪い。
仕方ない、さっさと持って行って早く帰ろう。
旧校舎の倉庫に行くと、辞書が詰められてある箱が置いてあった。
「これか……」
予想外に辞書1冊が分厚く、それが1つの箱に40冊程度。
計2つの箱を台車に乗せなくてはならない。
1つの箱だけでも30kg近くはありそうだ。
早速1つ目の箱を両手で持ち上げてみるものの……
「くそ……」
箱は少し浮いただけで、すぐ床に置いてしまった。
台車に乗せるまでが厳しい。
「んで俺が……」
そもそも1人に任せるのが間違っているんだ。
誰か手伝ってくれる人を探そう、そう思った時だった――……
「バカだなぁ、理人君。"てこの原理"を使えばいいのに」
背後からからかう声がした。
「は……?」
振り返ると、背後に立っていたのは少女だった。
小柄な体格に、長い黒髪、全く見覚えのない少女だ。
「あれ〜知らない?てこの原理。ほんとに模試主席?」
小馬鹿にするような上から目線の態度に、俺は憤りを感じた。
「それくらい知っている。一般常識だ」
「ならそれを応用すれば、その箱持ち上がるでしょ?ほら、そこに丁度いい感じの板が」
彼女の指す方向には、細長い板が立てかけてあった。
恐らく文化祭の看板に使うであろう板だ。
「作用点から支点までの距離を縮め、支点から力点までの距離を長くする。そうすることで最小限の力で箱を持ち上げられる」
俺がそう答えると、彼女は満足げに頷いた。
「そーそ。私が板を置くから、理人君は箱を少し浮かせといてよ」
「はぁ」
俺は突然現れた訳の分からない女の指示に従い、しぶしぶ箱を持ち上げた。