[主人公]
「私は1人でピアノを弾くのが好きだから。」
高ノ宮 子咲(たかのみや こさき)
16歳 高校2年生
ピアノを弾くのが好きで、いつも音楽室にいる。
クールで冷静沈着、友達は居ない。
短く切った、赤く見える髪。その瞳は、たまに青く光って見える。
[登場人物]
「高ノ宮さんって、いつも1人だね。」
彩野 奈子(あやの なこ)
16歳 高校1年生
活発で、走っている姿がほとんど。声が大きく、
無意識に心無い言葉を言ってしまう事も度々。
茶色い髪で、後ろで結んでいる。青い瞳。
〈モブ?〉
風井 ユカリ(かざい ゆかり)
17歳 高校2年生
いじめっ子みたいな感じ。オシャレで、常に周りに人が。
若干金髪で、赤い瞳。
環 優(たまき ゆう)
18歳 高校3年生
イケメンで、誰にでも優しい。
サラサラの黒髪、緑の瞳。
坂尾 隆(さかお たかし)
??歳 奈子のクラスの担任
常に塩対応で、ハンサム。生徒から慕われている。
[環境]
とある田舎のとある学校。生徒は少なく、いつも静かに暮らしている。
生徒の間で、廃校になるという噂が。
*start*
「......はぁ。」
ポロン。
静かなこの教室に、小さな音が響く。
いつまでもここにいたいが、そうはいかない。
今日だって、また––––
「高ノ宮ー。」
「...はい。」
ザワザワと騒ぎ出す教室。
それは、私の好きな教室とはあまりに違っていて...。
もう慣れた。此処には。
嫌な声が耳に入って–––。
『また一番?』
『バケモンじゃね?』
...うるさくて仕方がない。
止むことの無い雑音。
手に持った紙を見る。
100点。この字が目に入って。
「また、だ」
こんな憂鬱な事にも慣れた。
きっと私は、皆からすれば憧れだろう。
「嫌いだ...。」
私は、この学校が嫌いだ。
というより、どうでもいい。
何にも無い。皆同じことを思っている。
いつも同じ光景ばかりだ。
「はぁ。」
また、ため息をついてしまった。
今日で何回目だろうか。
まぁ、こんな学校だったら無理は無いだろう。
私には此処しかない。
そう、此処しか––––。
そっ、とそれを触る。
自分の心が洗われるようだ。
その黒くて大きなそれは、とても綺麗でとても魅力的で––––。
あぁ、何を言っているんだよ、私...。
「...環境のせい、なのか...」
手でそっと触れたそれに向かって呟く。
何にも変わらないが。
ただ、ただ自分がそんな気持ちでいるせいか。
いや、こんな気持ちにしたのは環境のせいであって...。
あぁもう、ややこしいな。とにかく私は、それに両手を付け、前にある椅子に腰掛ける。
その黒くて大きなものは、ピアノ。
私が唯一...好きなもの。
ポロン。
静かな音色だ。
大きくて、騒がしい音が好きという人もいるだろう。が、私は、
私はこれが好きだ。
何より、1人でいれる。
ピアノに興味を持って此処に来る人なんて、この学校にはいないだろう。
「...だから、–––?」
言いかけて、口が止まる。
何だ?
–––何かの気配? 誰?
多分、此処目当てでは無い––––
「...誰?」
「ッ、」
また私の思考を切られた。
突然の音に驚いてしまう。くそっ、
だが、確かに聞こえた音に。
「...何ですか?」
初対面の相手に突然話しかけて「誰?」とは何事か。
思い切って言ってやろうか?
「ごめん、素敵だなぁと思って」
–––––は?
「だって素敵だよ!あなたみたいな綺麗な子がピアノを弾いてる!しかも、1人で。」
–––私は、その声の正体に気づいた。
...一年生だ。リボンの色が違う。
一年にしてはやけに背が高い、なんて思っていたら
「本当に素敵だよ。あなた...名前は?」
さっきから勝手に話しかけてきているこの子は、一体私の何が気になっているのだろうか。
「...普通、そっちから名乗る物じゃないの。一年のくせに、分からない?」
強めに言ってやれただろうか。もう私は1人でいたい。
そう、ずっと1人で––––
「あ––ごめんなさい、私、奈子。彩野奈子っていーます。」
彼女はそう言って私の手を握ってきた。
この子は奈子というらしい。
「私、あなたのピアノに見惚れちゃって...なんか、えっとえっとー...」
言葉を詰まらせる彼女。
「......話すこともないんならどこかに行ってくれるかな?」
邪魔だということをなんとなく伝える。
「あっ、いや!ある!あるんです!」
この子はそうとう鈍いのだろう。
今すぐにでも離したい手にぎゅっと力が入る。
「私、これからも音楽室きます!じゃ!」
彼女はそう言ってタタッと走っていった。
「...え、ちょっと待っ.....なん...っ」
離れていくその手を捕まえたくて伸ばした手は、
何を得ることもできなくてただ空を切った。
次の日。
私は憂鬱で仕方なかった。
昨日の奈子という子が去り際に言った言葉が頭の中で繰り返される。
「これからも音楽室きます!」
目の前に立っている人物のキラキラした瞳を見れば、それが冗談では無かったことが分かる。
「私の方が早かったですね!」
教室に行かずに向かった音楽室には、
自慢げな表情で立っている彼女–––奈子がいた。
開けかけた音楽室の扉を舌打ちしそうな勢いでそっと閉めると、
中からうるさい喚き声が聴こえてきた。
「ちょっ、私ずっとここで待ってたんですよ!?ひどいですよ!」
扉を開け、頬を膨らませて私に文句を言ってくる。
「.....待っててなんて言ってないけど」
奈子を避け、音楽室に入ろうとすると
腕が引っ張られ、その動きは止められた。
「また聴かせてくれるんだ!?」
......はぁ?
何わけの分からないことを–––
...ああ、そうか。私のピアノを聴きにきたのか。
生憎だけど全然嬉しくもなんともないしただただ邪魔なだけです、それに聴かせるつもりもないので、と彼女に告げ、私の腕を掴んでいた手を振り払う。
「そんな...!わたし、5時くらいから待ってたのに〜...」
すると分かりやすくがっくりと肩を落とす。
–––というか、今なんて言った?
5時から...?
「...なんでそんなに、早く...」
と聞くと、彼女は顔をパッと上げ、
「あなたのピアノが聴きたかったから!」
と元気な声で答えた。
...ただの興味だけで、人間は約2時間も人を待つことができるわけがない。
嘘でしょう、と言おうとしたけど、その子–––奈子の純粋な笑顔を見ると、とても嘘とは思えなくて言葉が口から出てこなかった。
「さあさあっ、早くピアノ弾いてよ!わたし、楽しみで楽しみでしかたなくてスキップしながら学校行ってたら、すべって転んじゃったくらいなんだよ〜!」
と言い、彼女の膝がスカートの中から露出される。
絆創膏を貼ってあるものの、私なんかのピアノを聴きたいという軽い気持ちだけでは到底できないような、大きくて痛々しい傷口が絆創膏の上からでもわかった。
すごい!
読みやすいです。
早く続きが読みたくなります!