某、「学校と歌がらみのアニメ」を観ていて軽く思いついたストーリーです。
短めの予定ですから完結できるかと思われます。
尚、帝國戦史は現在、中々進めておりませんが1年に一回は更新できるよう頑張ります。
(1)
私立水平学園高等部に通う里三河梨絵(さとみかわ りえ)は、友人の水野山絹恵(みずのかわ きぬえ)、そして山郷未来(やまさと みらい)の二人と共に校庭で歌を歌っていた。
この歌は三人で作詞作曲したもので、高校生の割には中々のものであると評価できる。現に三人の歌に耳を傾ける聴衆が多く集まっていたのだ。
「「「皆、ありがとう! 」」」
そして、三人が歌い終えると聴衆たちの拍手喝采が巻き起こった。
「こんな歌、生まれて一度も聴いたことがねえな」
「おう。随分と奇抜な歌だぜ。まさかメリケンの歌なんじゃねえか? 」
彼女ら三人が歌った歌は『青春やら恋』そして何故か『英語』が多用されており、さらに『奇抜すぎるメロディ』であることも相俟って、聴衆たちは全く理解が追いつけていなかった。とは言え、多くの聴衆から非難の的にされることは無く、とりあえずは拍手喝采で幕を閉じたのである。
それから数分後、別の女子たちが歌いだした。再び聴衆たちが集まってきて、今度は彼女らの歌に耳を傾けた。歌われているのは、またもや『青春やら恋』『英語』『奇抜すぎるメロディ』以下略な歌である。
「さすが水平学園だ。これが他の学校の生徒なら、今頃大変な事になっちまってたな」
「今は国からの締め付けが強くなってきてるからね。だけどここまで派手なことをして、水平学園も大丈夫かね? いくら理事長が衆議院議員だからって」
「さあな。でもまあ、今ここで訳がわからんが凄い歌を聴けて良かったけどな」
先ほどから雑談に講じていた聴衆の2人も、会話をやめて集中して歌を聴く。後のことはどうでも良い。今、こんな歌が聴ければ。
(2)
翌日の朝、梨絵たちは教室で昨日の歌唱会(?)について総括していた。
「昨日は大勢の人たちから拍手を貰えて良かったね」
梨絵が絹恵と未来、そして他の女子たちに向かってそう言った。その言葉にこの場にいる全員が頷く。
「てっきり、石ころとか投げつけられるかと思ったよ」
未来がそう言った。あまりにも斬新過ぎる歌に、聴衆たちの反応がとても気になってはいたものの、聴衆たちの多くが拍手したのだ。決して悪くは無い反応である。
「でも、ほっとした」
未来の言うとおり彼女らの多くは、ほっとしていた。
「でもさ、理事長もよく許可してくれたよね」
絹恵がそう言うと話題は、理事長の話に変わる。
実は今回の歌唱会(?)は、理事長の許可があってのものであった。当初、梨絵たちは流石の水平学園理事長も、
こんなご時勢であるから国の顔を窺がって許可など出さないだろうとネガティブに考えていたところ、結果はご覧の通り許可されたのである。
「理事長からの許可があったとはいえ、私たちは歌って大丈夫だったのかな」
絹恵は、歌ったことへの代償があるのではないかと考えていたのだ。だから他の者たちとは違って決してほっとなどしていなかった。
「絹恵ちゃん。もう過ぎたことは気にしても意味は無いよ! 」
絹恵と比べて、梨絵はポジティブだった。この言葉に絹恵も、この場限りではあるが、少しは気にすることを忘れられた。
(3)
早朝、梨絵は水平学園の外を散歩していた。
「あの人・・・・・・何をしているんだろう」
梨絵が前方を見ると、スーツ姿の男性が『ゴミ置き場』を漁っているのである。やっている行動は明らかに不審者だ。しかも、その男性の横には、さらにスーツ姿の男が2人立っている。
「ま、まあ触らぬ神に祟りなしだし・・・・・・別に良いか」
梨絵はその男性たちをスルーして学校へと戻ったのであった。
※
「さて、一応、この区画も適量の生ゴミが出されているようだ。次に行くぞ」
梨絵が去った後、そう言って男性3人も去っていった。そして、その姿を1人の警官が見ていたが、この警官も特に咎めることはしなかった。
「朝からご苦労さんだな・・・・・・・」
と、言ったのみである。
そして、その警官から少し離れたところで、今度は別のスーツ姿の男2人組みが居た。
「さて、水平学園の理事長をどうしたもんかね・・・・・・」
「令状が無ければ監視以外、何もできませんけど」
「ああ、それなら、今、証拠を作ったから裁判所へ言って令状を貰いに行くぞ」
と言って、2人も去って行った。
水平学園の周囲では次第にキナ臭さが漂ってきていたのであった。
(4)
「さて、来週だがもう一度、歌唱会を開きたいと思っているのだが、どうだろうか」
と、理事長が言った。今、梨絵たちは理事長室に居た。
「また歌って良いんですか!! 」
「ちょっと、梨絵、大声出しすぎよ」
大声を出して喜ぶ梨絵を嗜める未来だが、彼女も喜んでいた。また、あの歌唱会が開けるからだ。
「で、でも理事長。大丈夫なのですか? 」
相変わらず、絹恵は心配性であった。とは言え、世間体を考えれば当然のことである。
「キミは、水野山君か。心配は要らないよ。何かあれば全責任は私がとる。キミたちはただ思い存分、歌えば良いだけさ」
理事長はそう言った。
「わかりました。理事長がそう仰るなら、私たちも一生懸命歌わせていただきます」
理事長の頼りがいのある言葉に元気付いたのか、絹恵もまたこの場限りではあるが、安心できたのだろう。彼女ももう一度、歌う決心がついたようである。だが、その安心と決心は突然やってきた男2人によってかき消されたのであった。
「ちょっと失礼。理事長さんはここに居ると聞いたのですが」
そう言ってスーツ姿の男が2人入ってきたのである。
「如何にも、私が水平学園の理事長だが? 」
「そうですか。理事長さん、貴方を治安維持法で定められている『国体を変革することを目的とする結社を組織した容疑』で逮捕します」
男の内、1人がポケットから令状を取り出して、理事長に見せると、腕を掴み連行して行ったのである。 その男2人を見て、絹恵は言った。
「また、特別高等警察が奪うんだね・・・・・・」
と。
(5)
「理事長は居るか!! 」
理事長が特別高等警察の2人に連行されてから数分後、今度は怒鳴り声を発しながら、陸軍の軍服を来た男数名がやって来た。全員、『憲兵』と書かれた腕章を付けている。
「ここが理事長室の筈だが、お前ら、ここで何をしている! 理事長は軍機保護法違反の疑いがある」
今度は憲兵隊が来たのであった。
「あ、あの。理事長は警察の人に連れて行かれたばかりです」
未来は憲兵隊にそう伝えた。
「畜生、先ほど見かけた車は特高の奴らだったのか。先を越されてしまった。もう良い。ここには用は無いから帰る」
憲兵隊の男はそう言って、部下と共に理事長室を出て行ったのであった。
「・・・・・・やっぱり、こんな時代に歌ったのが駄目だったんだ。今は大正時代ではない。今は御国を挙げて米英と戦っている時なのに! 」
憲兵隊が去ると、絹恵は今にも泣き出しそうな声でそう言ったのであった。
「私は負けない! 私はあんな横暴な奴らになんか! 」
一方の梨絵も、今にも泣きそうな声で言ったが、彼女はこの時、国家権力と戦う意思を持ったのであった。
「梨絵ちゃん・・・・・・それは駄目だよ。殺されてちゃうよ」
未来が必死に止める。
「私たちの歌う歌が嫌いな人たちが個人として批判するな良いけど、何で、国から無理やり止めさせられなきゃならないの! こんなのおかしいよ。私は死んでもやめないよ! 」
と梨絵は怒った。彼女は単に戦うだけでなく、命もかける覚悟であった。
久しぶりに投稿しようと思う思うので、上げときます
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