●作者からメッセージ●
こんにちは!
恋愛小説は3回目。
頑張って、読者の皆さんに希望や勇気を届けられたら嬉しいと思います。
掛け持ちしまくりですが、どうぞよろしくお願いします。
その日、涼くんが来た時に思いきって聞いてみた。
「私のどこが好きなの?」って。
「美海の全部が好き。だから、何とも言えないんだ」
全部って、お金もふくめて?
そんなことでしか、やっぱり無理なのかな、私…。
「毎回外じゃ悪いから、お家へ案内してあげる。別館の客間を使って話をしたり、聞いたりするってことね」
涼くんといると、目立つ〜。
こう見ると、カッコいいのかな?
私はあんまり分かんないけど。
『恋』とか『好き』だとか。
「ここが私のお家。大きいとか思わないで。さあ、別館はこちら」
本館から離れて、ちょっと奥。
別館の玄関のカギを開ける。
誰もいなかった空間に、涼くんが来たからそんなに寂しくなくなった。
ひとりじゃないんだって。
「客間はここ。座ってくつろいで待っててくれる?」
涼くんに座っててもらって、キッチンで紅茶を出す。
ホントは来雅と飲みたかったな、この紅茶。
賞味期限切れちゃう…。
「はい、どうぞ」
涼くんに紅茶を出す。
話し合いが始まっちゃう。
ちょっとドキドキしていた。
ヘンなこと言ったらどうしよう…。
「あはは。もしかして、美海緊張してるの?緊張する必要ないよ」
「でも…」
むぐぐ…。
ヘンなこと言っちゃいそうで怖い…。
引かれたらそれはそれでイヤだし。
「…で、涼くんは私の何を知っているのか教えて」
「いろいろ知ってるよ。誕生日、好きなものや嫌いなものまで」
試しに誕生日を聞いてみると、普通にスラスラと答えてくる。
好きな食べ物、嫌いな教科、その理由まで一致していた。
「どうして知っているの?」
「だから言っただろ?何でも知ってるんだって」
涼くんは立ち上がって、頭をポンポンしてくれた。
……初頭ポンポンがぁ〜っ!
「どうして美海は俺じゃダメなの?」
「全然知らないから!何から何まで全然分からないの。だから…」
…何かヘン。
どうして涼くんがダメなのか分からなくなってきた。
でも、付き合うとかも無理だし…。
「美海、美海、美海っ!」
涼くんが呼んでる。
もう無理だ、私…。
ー第3話ー
目を開けると、蛍光灯がまぶしく光っているだけだった。
看護師さんがいる…?
「あ、目を覚ましたのね」
看護師さんによると、カッコいいイケメンの男の子におんぶされて連れて来られたそうだ。
パパやおばあちゃんには、連絡しても仕事で来れないって断られた。
こんな時までひとりなんて、辛い…。
「美海っ?」
「涼くん…、ありがとう」
病院のベッドに寝てるんだ…。
ここの病院は、もしかして詩神病院!?
そう思ったのもつかの間。
社長であるママが入ってきた。
「大丈夫?美海。疲れたならうんと休まないとダメ。分かった?」
「はい。ごめんなさい…」
ママが出ていくと、涼くんはベッドの布団に顔をうずめた。
そして、顔を上げて言った。
「お願いだから付き合ってよ…!絶対楽しい思い出作るから!」
二度目の告白。
もう付き合っちゃうの…?
イヤイヤ、まだ早いよ。
「涼くんがいいなら、友達から始めてほしいな」
「しょーがねーな。待ってやるよ、美海の気持ちが変わるまで。俺はずっとそばにいるから」
涼くん…。
ちょっとでもプラスの気持ちが心の中に広まった気がした。
何が何だか、本当によく分からない。
だけど、涼くんって面白そう。
「もうゆっくり休んで。俺はずっとここにいる。美海…」
涼くん、どうしてこんな私を好きになったの…?
ちゃんと教えて。
私も…何だかヘンだよ…。
パパが部屋についてくれる。
ちょっと、まだダルいかも…。
「ねえ、美海…」
パパが頭をそっとなでる。
こんなこと、久しぶりかも。
全然時間もないし。
出勤時間が早いパパは、朝ごはんを食べていても出勤してしまう。
一緒にいること自体、あんまり少ないから、昔を思い出してしまった。
「美海が倒れたって聞いた時も、木下さんとの仕事があって、病院に行けなかった。どんなことがあっても、美海より仕事を優先しちゃって済まなかったよ…」
「いいんだよ…。パパは、私のために働いてくれてるんでしょ?ママも病室に来てくれたから、寂しくなかった」
前、おばあちゃんに言われたことがあるんだ。
『おばあちゃんもパパも、あなたのために働いているんだ』。
会社を継ぐために。
何としてでも、詩神家を守るために。
「娘が美海で良かった…。今日はゆっくり休みなさい。明日は行けたら学校へ行くんだよ。こんなときも悪いんだけど、明後日から出張で一週間いなくなっちゃうんだ。お手伝いを雇って、美室さんに来てもらう。困ったことがあれば、すぐ言ってね」
明後日から出張かぁ。
また、パパに会えなくなる。
美室さんが来てくれる…。
だから、寂しくないよ。
「明日はいつも通りだから、美室さんは来ないからね。…おやすみ」
「おやすみなさい」
スクールバッグを肩に引っかけて、とぼとぼ道を歩く。
瑠夏が見えるけど、走る気力も全然なかった。
「ちょっと、美海ー?大丈夫ー?」
「全然大丈夫」
昨日あったこと、瑠夏知らないんだ。
私は『友達から』って話から、瑠夏に話した。
「今日来ちゃっていいの!?また男子が1年2組のプリンセスが〜って言うよ。美海、カワイイからね」
プリンセス、本当にやめてよ〜。
お金だけとかイヤだ…。
すると、クラスメイトの男の子集団が声を上げて駆けてきた。
「ちょっと、美海、走れる?」
「多分…」
瑠夏に手首を引っ張られて走る。
クラスメイトの男の子集団から逃げるのぉぉぉ〜!
瑠夏、早いよ〜!
「ねえ、美海。一緒に帰ろ〜!」
サッカーボールをいくつか手に持っている瑠夏が顔を覗かせる。
今日は仮入部中の卓球部が終わり、校門に向かっているところ。
「じゃあ、校門のところで待ってるからね」
瑠夏、バリバリサッカー部のマネージャーやってるじゃん。
多分向いてるもんな〜、瑠夏。
何事にも真剣で、サポートすることが上手な瑠夏。
「おーい、マネージャー」
ら、来雅じゃん…!
瑠夏のことマネージャーって呼んでるんだ…。
何か話してる…。
「美ー海っ!」
「涼くん!?今日も来てくれたの!?」
肩をポンポンしてきた主、涼くん。
遠いはずなんだけどな、家から。
毎日会いに来てくれてる…。
「今週の土曜日、会わない?」
「えっ…?」
涼くんはニッと笑って、一枚のチラシを渡してくれた。
『桜恋フェスティバル』かぁ。
ちょっと気になるのが、桜恋…。
恋愛系のイベントなのかな?
「あああっ、美海。誤解しないで。桜が関係しているイベントなだけだからさ…っ!その…ね…」
恋愛じゃないってこと?
それなら、いいんだけど…。
すると、涼くんをドンと蹴る足が!
やっぱり主は…。
「私の美海に何してんだ、涼っ!」
瑠夏、終わったんだ!
良かった〜。
今思えば、瑠夏って涼くんのこと呼び捨てで呼んでるよね。
仲良くなったのかな…。
「ってことだから、他のヤツには話すなよ!当日の朝の9時に迎えに行くから、家で待ってて!」
涼くんは、一目散に駆けていく。
帰っちゃった…今日は。
瑠夏はキョトンとしている。
話しちゃダメなのかな…?
「瑠夏、帰ろうっ!」
ギュッと瑠夏の手を握って交差点へ向かって歩く。
もしかしてこの手、マメが出来ちゃってる…?
マネージャー大変なのかな。
「涼と上手くいくといいね、美海!」
「何で…?」
「美海、涼のこと好きでしょ!?」
…えええええーっ?
何を着ていけばいいのかな?
桜恋フェスティバルって何するの?
スカートでもいいのかな…?
「ただいま…」
パパっ!
本館の二階の自分の部屋から身を乗り出す。
「お帰り、パパっ!」
玄関まで降りると、パパが大きなスーツケースを持っていた。
もう、明日の準備されてるんだ…。
行く気満々なのかな。
し、仕事だから仕方ないよね…っ!
「ねえ、今週の土曜日、友達とお出かけしてもいい?誘われたの」
「瑠夏ちゃんとか?」
私は、他中の友達と伝えた。
男の子の名前出すと、不審に思われちゃうよね。
「美海が他の中学校の子と…」
なんか、ちょっと感動してない!?
二階に上り、また服選びに専念する。
どんな服だったらいいの〜?
今日が約束の日。
涼くんがお迎えに来てくれるってことだったよね。
美室さんが別館の掃除をしている間に、急いで服に着替える。
一応、シンプルな黄色の服に刺繍がしてあるトップスに青いスカート。
動きやすいし、カワイイコーデ。
「美海様、涼さんがやって参りましたよ。ご準備をなさってください」
お嬢様扱い!?
美室さん、そんなのいいのに…。
そう思いながらカバンを肩にかけて家を出た。
「おはよう、涼くん」
「美海…カワイイ…」
はっ…!?
そういうの言わないでぇ〜!
涼くんをトンと押す。
恥ずかしいんだよ、そういうのぉ〜!
「今日、空けてくれてありがとう。じゃあ行こっか」
涼くんが手を握ってくる。
恋人繋ぎじゃないけど、手を繋いでることは間違いじゃない…。
どうして涼くんは恥ずかしくないの〜?
着いたここは、広い野原。
ここが、フェスティバルのために屋台が出ていたり、ステージが出ていたりしている。
ここのイベントも、詩神家のサポートがあるのかな…?
「ステージ見に行こう」
涼くんに手を引っ張ってもらって来たここは、ステージ。
プロデューサーさんのひとりが私に気付き、みんなを引き連れてこちらへ走ってきた。
「これはこれは、詩神のお嬢様!資金をありがとうございます!ご参加なさってくださって…!」
また『詩神』だから頭下げられてる。
ちょっと会話をしていると、案内してくれると言われた。
ステージを見ることをプロデューサーさんに伝えると、特別席を用意してくれて、涼くんとふたりで見れた。
「美海の力すげぇ」
「うんん、詩神がすごいだけ」
パパ、ここにも顔を出して、資金を出しているんだ…。
それってだけなのに…。
プロデューサーさん、パパにお礼言うよね、礼儀として。
涼くんのこと、言わないといいけど。
「あれ?涼じゃん」
誰だろ、この子。
可愛らしくて、ゆるふわ系の女の子。
涼くんと関わりが深そう…。
「あなたの名前は?」
「し、詩神美海です…!」
ふーんと言った顔をして、涼くんに向き直る。
なんか嫌らしい子な気がする。
無関係の私には無視するの…?
「この子とどんな関係なの?」
「友達以上、恋人未満ってことになってるけど」
恋人未満って言葉が出てくる!?
『友達』じゃないの!?
いつの間にか変わってる…。
「良かった〜。ねえ、美海ちゃん」
その子が耳元でささやいた。
言葉は聞き取れなかったけど、だいたい意味は分かった。
『涼くんに近付かないで』って。
「別に、そんなつもりじゃ…っ!」
「言い訳いらないよ〜?私は向こう行くからね、美海ちゃん」
何でそんなこと言うの…?
この子、ちょっと怖いよ…。
涼くんにあの子の名前を聞いてみた。
絶対、あんな子になりたくない!
人といい向き方で向けてないもん。
「美海、ムスッとしないでよ。アイツは朝加真子。俺の幼なじみ」
朝加真子さん…。
もしかしたら、涼くんのこと好きなのかもしれない。
嫉妬しちゃってる?
「美海。真子は、ちょっと怒る時はよく怒ってるけど、いいヤツだから。気にすることねーよ」
いや、気にするよ…。
だって、私と一緒にいる人のことが好きなんでしょ?
涼くん気付いてないのかな?
朝加さんの気持ち、届いてないんだ。
「始まるぞ、美海」
涼くんが言った瞬間。
サーカスみたいな集団の人たちがステージに上ってきて披露が始まった。
今は、朝加さんのこと気にしなくてもいいかな。
このイベント、楽しんでもいいよね。
ステージが終わり、屋台を見に行く。
出来たら、知り合いに会わないといいんだけど…。
「俺、クレープ買ってくる。美海はここで待っててくれる?」
涼くん、私の好きな食べ物知ってて、クレープって言ってくれた?
どうして知ってるんだろう。
涼くんはクレープを買いに行ったので、私は席を探した。
パラソルで日射しが遮られている席をとり、座って待つ。
「美海、お待たせ…」
「ねえ美海ちゃんっ!言ったよね!」
朝加さん…と…会っちゃった…。
涼くん来てないよね…。
なら、言い返しても大丈夫かな?
「朝加さんだって…」
「何言ってるの?全然聞こえない!」
うんん、聞こえてるはず。
朝加さん、そんなに涼くんが好きなんだったら、何かしたらいいのに…。
私だって涼くんが…嫌いじゃないって言うか…。
その…。
真子、美海に何してるんだ!
近くの人にクレープをあげて、美海がいた席に走る。
こんなに真剣になったのなんて、美海のことくらいかも。
俺、続けるの苦手だし。
「何言ってるの?全然聞こえない!」
真子何言ってるんだっ!
ふたりの間に入ろうとしたけど、美海が思いっきり真子に言い返した。
「朝加さんは、朝加さんのしたいようにすればいいんだから、私と涼くんのことはほっといて…っ!」
あんな恥ずかしがりの美海が、大きい声出してるなんて、珍しい。
俺のために…?
めっちゃ嬉しいんだけど。
「私のしたいこと?それは、美海ちゃんと涼が離れるように仕組むこと!だから、今してるの!」
離れるように仕組む…?
絶対、真子が俺と美海の間に入ってきても離れない。
ずっと美海といる…!
どうして離れなくちゃならないの?
私は…私は…。
どうしたいんだっけ…?
「美海ちゃんは、したいことないの?ないなら、私に従ってよ!」
なくない。
だけど、何がしたいのか分かんない。
涼くんと付き合いたい?
それは早いと思うから、無理かも。
じゃあ、友達のままでいたい…!
「そう。私は、涼くんとずっと仲良くしたい!」
「勝手に仲良くしてもいいけど、恋愛の目で涼を見ないでよ」
恋愛の目で涼くんを見る…。
それは、無理かも。
何度か告白してくれてるのに、友達のまま終わらせるなんて無理だよ…。
「美海っ!」
「あれ?涼くん。クレープは?」
もしかして、見てた!?
私の言葉聞かれてた〜?
急にあわあわする。
ど、どうしようっ!
「美海は、俺と仲良くしていたいって気持ちでいい?」
私はコクッとうなずく。
涼くんは、にっこり笑ってギュッと抱き締めてきた…。
(つづく)
あとがき
初めまして。
『キミ色に染まった世界で恋する』の作者、相原梨子です!
1巻はいかがでしたか?
ある漫画を参考に書かせていただき、みんなの青春の恋を描いています。
勝手に参考にさせていただいて、著作権とかダメかもなんですけど、あくまでも参考だからいいよね…?
皆さんは『恋』してますか?
一生に一度の青春。
欠かせないものは恋です!
女の子は、恋すると可愛くなって、変われるんですよ♪
恋したり、好きな人が出来たりしたら、ぜひ教えてくださいね!
ここまで読んでくださった読者さん。
コメントをくれた瑞ちゃん。
本当にありがとうございました!
次回の2巻もよろしくお願いします。
2巻で会えることを楽しみにしていますね!
相原梨子
ー次回予告ー
「私、好きな人出来たんだ〜」
瑠夏に好きな人が出来た!?
「美海、研修へ行こう」
ええええっ?
詩神の仕事の研修!?
『キミ色に染まった世界で恋する 2』
登場人物
詩神 美海
お金持ちの家庭のひとり娘。
みんなは気楽だと思っているが、実はとても苦労している。
冴橋 来雅
美海の幼なじみ。
優しくて頼りになるイケメン。
モテているらしいが、自覚はない。
桜庭 涼
美海の秘密を知っている。
隣町に住むイケメン。
私立に通っている秀才。
今までのあらすじ
突然目の前に現れた男の子、涼にお出かけに誘われた美海。
涼の幼なじみで、涼に恋している真子に出会い、美海が涼に対する気持ちを伝える。
一方の涼は、美海が大好きで好きなものや趣味なども知っていた。
何度も告白した結果、友達から始めることになったけど…?
目次
ー第4話ー
ー第5話ー
ー第6話ー
ー第7話ー
あとがき
次回予告
ー第4話ー
桜も散って、市立園田中学校の裏庭は緑の葉っぱでカーペットが敷かれているかのよう。
どうしてここにいるのかというと…。
「詩神さんのことが、好きです!入学式の時から、ずっと!その…付き合ってくれませんか!?」
私の人生で3回目の告白をされて、呼び出されたのです!
相手は、浜村くん。
違うクラスで、話したこともない。
今日知った子だった。
「ご、ごめんなさい…。私、ちょっと気になってる子がいて…」
浜村くんは、えっ?とした顔をする。
今、頭に思い浮かべている男の子は、涼くん。
あの時抱き締められて、何かあるたびに思い出しちゃうんだよ…っ!
「そっか…。出来たら俺、そいつを越せるように頑張るから、そいつの魅力教えて」
涼くんの魅力…。
私は、指を折りながら浜村くんに教えてあげた。
すごく私に夢中になってくれて、優しくて、気を使ってくれるところって。
「それが、詩神さんのタイプってことだよね!ありがとーっ!」
涼くんの魅力を言ったんだよ〜。
タイプなんて一言も…。
浜村くんは走っていって、裏庭にひとり取り残された。
「お〜い、美海〜?」
遠くから親友の瑠夏が走ってくる。
見てたのかな?
今の浜村くんとの出来事。
瑠夏は、にっこり笑ってつぶやいた。
「私、好きな人出来たんだ〜」
え…瑠夏に好きな人!?
すごく気になる!
瑠夏は、耳元でささやいた。
「リョーなの」
涼くん!?
え、やっぱり仲良くなったから!?
私は気になってるレベルだから…。
「ごめん、美海!涼なのっ!」
マジですか…!
「そんなの全然いいじゃん!私、瑠夏の恋応援するよ!」
「え!?ホント!?ありがと〜」
私と瑠夏の気持ちは違う。
誰が考えても、瑠夏の方が気持ちが大きいから、私は応援側だよねっ!
「ごめんね、本当に。涼は美海のことが好きなのに」
「そんなの気にしないで!瑠夏が気持ちを伝えたら、涼くんはきっと振り向いてくれるよ〜」
すると、瑠夏はちょっと顔をしかめる。
あれ、どうしたのかな…?
あんまりしない方がいいことしちゃったのかな…っ!
「涼のこと、美海って涼くんって呼ぶんだね。両想いじゃない、よね?」
「私がそこまで行ってないから両想いじゃないと思う」
瑠夏はほっとしたのか微笑んだ。
私に出来ること…。
瑠夏は涼くんのことが好きなんだから、出来るだけ距離を取るとか…?
それだと、涼くんが悲しいよね。
じゃあ、瑠夏の魅力を目一杯伝えるとかだったらいいのかな。
「早速協力するね!」
瑠夏とふたりで教室に戻った頃には、もうみんな部活へ行っていた。
仮部活じゃなくて、入部したの!
私は卓球部に。
瑠夏はサッカー部のマネージャーを仮部活でやってたんだけど、涼くんが好きだから変えたんだって。
仮部活でサッカー部のマネージャーをやってたのは、私を守るためだったから。(1巻2話参照。)
始めたのは、陸上部のマネージャー。
理由は知らないけど。
「ねえ、涼と付き合ったら、美海はどうする?」
瑠夏が突然つぶやいた。
心配してくれてるんだ…。
だけど、私はにっこり笑って見せる。
「大丈夫だよ。瑠夏を応援する!」
瑠夏はニカッと笑って、リュックを背負ってグランドへ走っていった。
私も部活行かなきゃ!
スクールバッグを肩に引っかけ、教室のドアに手を掛けると。
「詩神さん、ちょっといいかしら」
担任の大島先生が教室に入ってくる。
もしかして、この間涼くんを校内に入れてしまったから?
お叱りなのっ?
ウソ、どうしよう。
パパやおばあちゃんに怒られる…!
「詩神さん、研修頑張ってね。中学校の先生みんなで応援しているから、未来の日本を担う研修、全力でね!」
未来の日本を担う研修?
一体、どういうこと?
大島先生はにっこり笑って教室を出ていってしまう。
パパたち、何かしたの…?
待って、聞いてな〜い!
「おーい、詩神さん」
「木下先輩!」
背中をドンッと叩いてくる木下先輩。
ニカッと笑って「部活遅刻ー!1年なんだし、早く来てよ!」と言う。
あわてて時計を見上げると、もう完全に部活遅刻時刻だった。
「あぁぁぁっ!すみません!」
木下先輩に手首を引っ張られながら体育館へ走っていく。
みんなに迷惑かけちゃったよ〜!
部室を抜けて体育館へ行くと。
「ちょっと、詩神ちゃん遅〜い!もっと早く来てよ〜!」
キャハハと笑いながらつぶやく先輩。
怒られなくて良かった。
ちょっとホッとしていると、同じ1年生の子にボソッとつぶやかれた。
「詩神さんさぁ、やる気ないわけ?」
言ってきた子の胸元には『高橋』と名字が刺繍されている。
高橋さんっていう子かぁ。
「私もみんなも上手くなりたいの。上手くならないと雑用だから。詩神さんみたいな子がいると、正直邪魔」
周りを見ると、うんうんとうなずいている子。
そして、大丈夫とでも言うかのように首を横に振っている子に別れていた。
「さっさと動いて」
「す、すみません…」
こういう時、瑠夏なら、涼くんならどうする?
『邪魔』なんて言わなくてもっ…!
「高橋さんっていうんだよね!私だって上手くなりたいけど、先生に呼び止められたんだから、仕方ないよ!」
「詩神さん?」
「どしたの、詩神ちゃん」
つ、つい大きな声出しちゃった…。
この場に居づらくなる。
みんなの視線がすごく怖い。
「詩神ちゃん…」
「すみません」
さっき首を横に振ってくれていた子が手招きしてくれている。
その子たちの元へ駆け寄った。
「高橋さんさ、自分が一番って考え方だから。詩神さん悪くないよ」
「ありがとう…!」
邪魔だなんて、何度か言われたことあるはずなのに…。
どこか悲しいのか、嬉しいのか分かんないけど、目の縁が熱いよ…っ!
高橋さんに言われた言葉が胸にグサグサ突き刺さる。
そんなことを考えながら校門を後にしようとしていると。
「美海」
「涼くん!」
今日も来てくれたんだ…。
単に嬉しい。
高橋さんとのことが忘れられそう。
涼くんは私の両肩をガシッと掴む。
その時、ふと思い出した。
瑠夏が涼くんのこと好きなんだって。
ちょっと後ずさりする。
「ん?どうした、美海」
「うんん、別に。今日早く帰らないといけないんだ。だから、いい?」
「あ、そういうこと?送るよ」
いいのに…。
瑠夏がそろそろ来るから、待っててあげてよ…。
足を速めると、涼くんも私の速度に構わず食らい付いてくる。
ヤバイ、歩幅が全っ然違う!
「おーい、美海ー!」
あの車、あの声…。
パパだっ!
中学校にお迎えなんて、やっぱり研修があるらしいから?
私がいるところに車を停める。
「美海、乗って」
「分かった。じゃあ、涼く…」
「君は…」
パパ、もしかして彼氏とか思ったりしてないよねっ?
全然…違うからねっ!
パパは私を後部座席に乗せると、涼くんと何か話をする。
何話してるんだろう…。
窓をちょっと開けて聞いてみる。
「お前…だよな?」
「は、はい…」
何か空気重くない?
肝心なところが全然聞こえない。
ふたりはちょっと会話して別れる。
ちょっと、涼くんがトボトボしているように見えた。
パパ、何言ったの…?
「ごめんね、美海。さあ、行こう」
「ねえ、パパ」
パパは運転する前に後部座席を振り返る。
「どこ行くの?」
パパは髪をちょっとポリポリかいて、真っ直ぐこちらを見た。
「ついさっき決まったから、言ってなくてごめんね」
パパはちょっと間を空けて、そして私の頭をそっと撫でた。
「美海、研修へ行こう」
ー第5話ー
「美海、研修へ行こう」
やっぱり行くんだ…。
パパが言うには、詩神の仕事を2週間研修するってことらしい。
このためにわざわざ帰ってきたんだ。
パパが私の未来を考えてくれていて嬉しい気持ちと、怖い気持ちがあった。
おばあちゃんがいるよね…。
また、何か言われるのかって。
「荷物をまとめなさい。今日出発で、美海ひとりで部屋に泊まるんだ」
恐ろしい気持ちが打ち勝つ。
家に着くと、別館の私の部屋から荷物を詰めていった。
「無駄なものは持っていかないように気を付けて。筆記用具と泊まる用具くらいでいいからね。オシャレもダメだから、動きやすい服を3着ね」
リュックに言われたものを詰める。
全て詰め終わると、早速詩神医療会社事務所へ車を走らせた。
ここの近くで泊まるらしい。
「美海、ずっとお世話してくれるのは、基本母さんだけど、いつも通り頑張っていればいいから。何も怖がることは全然ないよ」
研修なんて初めてだし、何をするのかも、何をさせられるのかも知らない。
だけど、分かったことがある。
これはやったらためになるって。
怖くてもやらないと終わらないし、やれば未来楽になるかもしれない。
「着いたぞ」
パパが外から車のドアを開けてくれる。
荷物をガシッと掴んで、パパに必死に着いていく。
これくらいのスピード、慣れないとヤバイのかな…っ!
「あら、美海ちゃん。研修?」
ふふふと笑った女の人…。
働いてる人かぁ。
全然知らないんだけど…。
私は、その人に笑いかけてパパを追いかけた。
事務所の社長はパパだから、いつもここで働いているはず。
おばあちゃんはいたりいなかったりしているみたい。
今日はいないのか、社長室やおばあちゃん専用の部屋もいなかった。
「今日はいないな。パパが部屋に案内するから、部屋の電話でお母さんに電話をかけて報告してね」
おばあちゃんに電話するんだ。
部屋の電話から。
ママにも…もしかしたら電話出来るのかな…。
「必要以上のことはしないように。部屋にカメラが付いてるから」
全然何も出来ないじゃん。
パパは「さすがにベッドルームとキッチンルーム以外は付いてないけど」と小さい声で付け足す。
部屋に着くと、鍵を預かってパパは仕事へ戻っていった。
「よしっ!」
鍵をガチャッと回す。
ここ、普通のホテルみたい。
大きなベッドがふたつ。
カウンターみたいな机があって、キッチンがある。
部屋に入ってすぐのところにお手洗いとお風呂があるだけだった。
「電話しなきゃね…」
わざとつぶやいて、ベッドに荷物を置いて受話器を握りしめる。
受話器の側には、パパとおばあちゃんの電話番号のメモが置いてあった。
こんなの見なくても、出来るよ。
覚えさせられたんだから。
「もしもし、詩神です」
「もしもし。こんにちは。美海です」
おばあちゃんは「ようやく着いたの。明日からは研修をみっちりやってもらうから」とだけ言い、電話を切った。
もう終わった…。
か、カメラがあるんだった!
早速荷物をハンガーにかけたり、カバンをクローゼットに閉まったりと慌ただしくする。
「失礼します」
トントンとノックの音がして、さっき笑っていた女の人が入ってくる。
胸元のネームプレートは『大津』。
「今日から佐江子様に代わって時々お世話させていただく大津です。これが詩神の仕事の本になります。ちょっとでも暇な時間は読んでください。これを全部覚えることが宿題で、明日テストします」
はっ…?
テストがあるの!?
分厚い本5冊をドサッとカウンターに置いて出ていく大津さん。
中学校より超キツいじゃーんっ!
夜ご飯で持ってきてくれたご飯は、パエリア。
電子レンジで温めるだけだって。
早速、電子レンジにパエリアを入れ、温めを開始する。
食器棚から、大きめのお皿とスプーンを取り出してカウンターに乗せる。
こういう間も、本読んだ方がいい?
「美海様、失礼します」
大津さんが入ってきて、紅茶を持ってきてくれる。
これ、来雅が好きな紅茶だ。
すると、電子レンジが音を鳴らす。
温めが終わった合図だ。
「ありがとうございます、大津さん」
「いえ。今日お運びするお品は以上ですので、時間が空いたら本をお読みくださいね」
大津さんが出ていく。
パエリアを電子レンジから出し、カウンターで食べる。
本をパタンと閉じ、本棚に並べる。
これで全部読んだけど…。
まとめたノートをまじまじと見る。
100点満点じゃないと、追試が延々と続くテストだから…絶対…。
すると、突然電話が鳴った。
「もしもし。美海です」
「美海?パパだけど」
パパ…っ!
電話番号を見ると、もう家からかけていて、仕事が終わった印だった。
「早く寝ることは守って。1日の生活も評価に入るんだから」
「分かった」
評価があるんだ…。
多分、めちゃめちゃ細かいよね。
姿勢をあわてて正す。
パパとちょっと会話をして切った。
評価が悪かったら、転校。
お嬢様学校へ行かなければならなくなるかもしれないんだ。
ちゃんとしなきゃ。
瑠夏と別れたくないよ…。
館内放送が朝の5時に流れる。
私以外にも、ここに泊まってる人がたくさんいるんだ。
その人たちのためのホテルみたいな部屋の集まりがあるんだから。
…さて、私も起きなきゃね…。
ベッドから出て、カメラに映らないように洗面所で服を着替える。
ベッドルーム、キッチンルーム、お風呂やトイレの掃除もいないと。
「おはようございます、美海様。起床時間ですよ」
大津さんだ…。
服に急いで着替えて出る。
にっこり笑った大津さんは、職員ご飯のお弁当を持ってきてくれた。
ここ2週間のスケジュールももらう。
「では、5時30分にお迎えに参りますので、それから朝礼です」
朝礼も出るんだ〜。
5時30分からって、めちゃめちゃ早いんだけど。
そう思いつつ、時間がないことに気付いてお弁当を温める。
コンビニのお弁当みたい…。
て、テストがあるんだっ!
あわててノートを確認する。
「美海?パパだよ」
「パパっ!」
ノートをベッドにそっと置いて、ドアを開ける。
いつものスーツを着たパパ。
本当はもっと遅い時間に家を出るのに。
私のことを考えてくれてるのかな。
そう考えると嬉しくなる。
「起きてて偉いな。美海。パパの部屋へ来なさい。社長室へ。一緒にお弁当を食べよう」
パパに手を引かれて、温め終わったお弁当を持って社長室へ向かう。
ここの事務所には、いくつかの部があるんだけど、パパは社長だから全てを受け持っている。
私は、主部と社長の秘書、代理社長の研修の仕事がある。
今日の仕事は主部の仕事だ。
「ここだよ、入って」
パパに連れてきてもらった社長室。
すごく広くて、堂々と置かれている椅子と机。
こんなところで仕事してるんだ。
「ここで食べて」
接客の場所でお弁当を広げる。
ハンバーグにサラダ、ひじきといろんな色があって、彩り鮮やか。
こんなご飯を2週間も食べるんだ…。
明日は何が出てくるんだろっ!
大津さんは、わざわざ社長室まで来てくれて、主部の朝礼へ連れていってくれた。
「素晴らしいですね、美海様は。すごく熱心でいらっしゃって」
「いえ」
「ですが、聞きましたよ。社長になりたいんですって。社内では時期社長候補って有名ですよ」
いつの間に広まってるの!?
そんなことを考えているうちに主部の部長室に着いた。
「主部の部長は依田さんです。依田部長に挨拶して、依田部長と朝礼へ行くようにしてくださいね」
大津さんは頭を下げて足早に去っていってしまう。
依田部長って言ってたよね…。
「失礼します。詩神医療会社の研修に参りました。詩神美海です。今日は主部の研修をさせていただくのでご挨拶に参りました」
トントンとノックしながら言う。
だ、第一印象って大切だよね。
すると、部長室からキリッとカッコいい眼差しを向けた男の人。
依田部長が出てきた。
「お嬢ちゃん、待っていたよ。こちらは依田です。主部は大変だけど慣れれば簡単だから頑張ろうね」
あ、温かい人で良かった。
早速朝礼へ向かう。
主部の事務所に着くと、主部で働いていた事務員の人が挨拶してくれる。
「さあ、諸君。今日から数日、主部の研修に来てくれた子、詩神社長の娘さんで、時期社長候補だ」
「初めまして。詩神美海です。分からないことばかりで迷惑をかけちゃうこともあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」
辺りから拍手の音が上がる。
自己紹介、完了。
朝礼で仕事の内容、私の動きをザッと説明されて解散する。
「美海」
「お、おばあちゃん。おはようございます…」
主部の事務所に現れたのは、昨日いなかったおばあちゃん。
背筋がゾッとする。
「美海は、相談室でテスト。それから主部の仕事場所の案内。主部の仕事の見学を午前やってもらうわ。さあ、相談室へいらっしゃい」
おばあちゃんに手を引かれて相談室へ向かう私。
昨日勉強したからできるはず…!
そう思いながら、テストの内容を脳内で確認した。
テストを全て埋め、解き終わる。
ちょっと分からなかった問題はあるけど、合ってるはず!
間違いが許されるのは3点まで。
それ以上のミスは追試になる。
「大津、美海を案内して。終わったら戻ってくるように」
おばあちゃんの後ろから出てきた大津さんは、相談室を出て場所案内に努めてくれた。
「お疲れ様です、テスト。難しかったでしょうに。スラスラ解いていらっしゃって。勉強頑張っていたんですね。さすが時期社長候補です」
大津さんは嬉しそうに微笑む。
まず来たのは、主部の部長室。
それから事務所。
主部用のお泊まりの場所。
お手洗いなどの衛生の場所まで。
「そして、ここが最後の接客室です。では、相談室へ戻りましょう」
意外と狭いんだな。
もっともーっと広くて、覚えられなくてヘロヘロかと思った。
相談室に入ると、おばあちゃんが丸つけ済みのテストを出した。
「まあ、当たり前でしょうけど、追試なんて許さないから」
100点満点のテスト。
良かった…。
心の底からホッとする。
まだ7時ということで、ちょっと休憩の時間を取ってくれた。
毎日あるテストだ。
本も読まなきゃいけないし、掃除もしなきゃいけない。
た、大変だ〜。
部屋の鍵を開け、掃除機を手に取る。
とりあえず、ベッドルームの掃除…。
「美海。8時まで休憩。8時に事務所に着くように来ること。9時まで見学で、11時まで事務所の仕事研修。12時から12時30分まで休憩に変更」
おばあちゃんが変更されているスケジュールの紙をカウンターに置く。
もしかして、私がテスト、追試だと思ってたのかな…?
私、普通の勉強はそこまで得意じゃないけど、やるときはやるよ…!
そう思いながら、掃除機のスイッチを押した。
ベッドルームの掃除が終わり、洗濯を始めようとすると。
トントンとノックの音が聞こえる。
大津さんかな?
まだ8時じゃないけど。
「はーい」
「美海、パパだよ」
にっこり笑ったパパは「美海にお客様が来ている」と言う。
研修スタートしたばっかりの私にお客さん…?
絶対、普通の人じゃない!
主部の接客室へ行くと、見覚えのあるキリリとした顔の主がいた。
「お待たせしたかな、敦樹くん」
「いえ、全然。美海ちゃんを連れてきてくれてありがとうございます」
パパはお茶を運んできて、部屋から退出してしまう。
どうして敦樹くんがいるの!?
何で中学校に行ってないの!?
「久しぶりだね。美海ちゃん」
「うん…」
敦樹くんはハハッと笑う。
今住んでいる家に引っ越す前の幼なじみらしい敦樹くん。
幼なじみってことはあんまり知らないんだけど、敦樹くんのパパが詩神で働いてて、小さい頃遊んだことがある。
「そんな顔しないで。フッ」
不適な感じのする笑み。
これにいつも悩まされていた。
敦樹くんと遊んだのも、前が小学校の1年生とか2年生だから、ちょっと懐かしい。
「私に用があるんでしょ?」
「美海ちゃん全然変わらないね。前からそのクセ」
クセって何…。
そろそろ話してよ。
何で来たの…?
「分かった、分かったって。美海ちゃんには、詩神を離れて灘野に付いてもらいたいんだ」
「どうしてっ?」
灘野看護会社は、灘野病院の看護師のための会社。
敦樹くんのママが経営している会社。
ここに、私が付く?
「美海ちゃんには、詩神の研修なんてしてないで、灘野に来てほしいんだ。時期社長は俺で決定してるから、秘書とか…」
「私は詩神のまま!時期社長候補なんだから!」
敦樹くんは鼻でクスッと笑う。
椅子から立ち上がり、私の顎をクイッと敦樹くんの方へ向かせる。
「詩神にいることで、美海は危険ってこともあるし、利益がないんだ。早くこちらへ戻っておいで」
『戻って』ってどういうこと?
私、一度も灘野に付いてないよ…!
焦りながら、同時に怖くもあった。
このままじゃ、灘野に連れていかれる!
ー第5話ー
「ねえ、美海ちゃん。俺は、美海ちゃんを助けてるんだよ?」
「助けられてなんかないよ…!」
私は、詩神にいて危険なの?
時期社長候補って言われてる私が、詩神にとって危険なわけない!
どうせ、敦樹くんの言い訳だよ。
「お話中失礼するわね、敦樹くん」
「お久しぶりです、おばさま」
おばあちゃんが接客室に入ってくる。
どうにか、反論してっ!
すると、おばあちゃんは敦樹くんにふふっと笑いかけた。
「美海を灘野に連れて行きたいの?」
「ええ、そうですよ。灘野で僕の秘書でもしてほしいんです」
おばあちゃんはバカバカしいとでも言いたげに敦樹くんを指差した。
「灘野は、美海にとって危険な存在ってこと分かってるでしょ?関わってはいけない家庭なのよ、灘野は」
『関わってはいけない家庭』。
全然知らないことばっかり。
『詩神が危険』だなんて、聞いたことがないから。
「ですが、美海ちゃんのお父様の許可は下りています。美海ちゃんのためにもなるかもと」
おばあちゃんは顔をしかめる。
そして、とりあえず敦樹くんに引き取ってもらって、パパを訪ねた。
私のためって、詩神は…?
「開けるわよ、正人」
おばあちゃんが社長室に入る。
私も一緒に入った。
パパは電話中で、少し話して電話を切った。
「聞いてないわよ、正人。美海は詩神の時期社長なんですから」
「敦樹くんのお母様からお電話で、敦樹くんは引き取って帰ってきたと言ってます。何を言ったんですか?」
おばあちゃんが腕を組む。
そして、目を営業の目付きにして、キリッとパパをにらんだ。
「灘野は美海に危険。関われないと事実を述べただけよ」
「でも、せっかく…」
「お黙り!詩神が倒産して困るのは正人でしょう!」
パパが「美海は出てなさい」と言い、大津さんに連れられて社長室を出た。
これからは見学。
事務所へトボトボ向かった。
ちなみに、大津さんは詩神医療会社の掃除員兼心身ケア員の仕事。
私の心身ケアをしてくれている。
「では行ってください。お時間が来たらお迎えに参りますね」
事務所に入ると、依田部長がひとりひとりの仕事を案内してくれる。
部長の補佐として、係長と課長。
その部下の人たち。
これが基本だった。
私が研修する仕事は、部下の人の仕事と秘書の仕事、部長の仕事。
「まずは、部下の中でも一番ベテランの鈴木くんに仕事内容を説明してもらう。では鈴木くん」
鈴木くんと呼ばれたお姉さんは、ふふふと微笑んで胸元のネームプレートを見せてくれた。
「説明していきますね。まず、ここで出勤したことを示すカードを刺すの。ここから仕事スタート。部下である私たちの基本的な仕事は…」
まずはコンピュータ打ち。
これで詩神病院のお客様のデータを収集して、一番最適な医療方法を病院にカルテとして送る。
それから、もし変更や不満の声の電話がかかってきたら、新しい医療方法を新しいカルテで送る。
対応やデータの収集が終わったら、新しい医療方法の研究をする。
これが主部の仕事らしい。
「では、部下の私たちの仕事を見て。事務所を見終わったら、詩神医療会社研究所へ移動してみましょう」
詩神って研究所もあるんだ…。
コンピュータ打ちや電話対応をしている様子を見学し、いよいよ研究所へ。
「私、美海様が社長に任命されるまでずっと詩神で働きますから、灘野へ行かないでくださいね」
「知ってるんですか!?」
「ええ。騒ぎになってましたから」
私を待ってくれてる人がいる…。
灘野なんかに、行くもんか!
研究所の螺旋階段を上がっていると、鈴木さんがマスクをくれた。
「こちらでは、薬の開発も行っています。マスクの着用をお願いします」
薬の開発ってことは、薬剤師さんも働いてるってことかな?
研究所の鉄の扉を開けると、ジュワ〜っと音がした。
「美海様、研究所では、私の妹がご案内します」
出てきたのは、鈴木さんによく似た女の人だった。
にっこり笑った顔がそっくり。
「お待ちしておりました。では、研究所をご案内させていただきますね」
まず来たのは会議室。
一応、研究所も会議室はあるんだ。
ホワイトボードを持ってきて、何やらこと細やかに書き込んでいる。
「こちらで行っておりますのは、新しい治療法と共に、それで使われる薬や液などの開発。それから補充です」
会議室からガラスを通して見える研究室を指差して鈴木さんは続けた。
「研究室で働けるのは、看護師ひとりに対して、薬剤師が5人という配分になっております。研究室では、新しい薬の試作品を作りますが、詳しくどのようなものを作るのか。これを研究する仕事は、多目的室で行われます。その仕事は、病院で出た問題を事務所へ送り、それがこちらへ送られてくるシステムになっています」
それから多目的室に案内してもらう。
真剣な眼差しで話し合いをしていた。
そのうちのひとりが声を上げる。
「ウチじゃなくても木下がやればいいじゃん。めんどー」
どうやら見習いの薬剤師さんのようで弱味をすごく吐いていた。
上のベテラン薬剤師さんに怒られている見習いさん。
「ウチ、木下行こーかな。もう詩神つまんなーい!」
えっ、そんな簡単にやめちゃうの?
ベテランさんが鬼の形相で怒っている。
鈴木さんに手招きされて、あわてて多目的室を出る。
「あんな光景、大変申し訳ありませんでした。こちらでも全力で指導していきますので、どうか詩神社長に告げ口しないでいただけないかと…」
「大丈夫です…!」
見習いさん、じゃあどうして、詩神の研究所に入ったんだろう。
きっと詩神の研究所、勉強やテストがめちゃめちゃ難しいはずなのに…。
いよいよ研究室。
入った瞬間、薬の匂いが鼻をツンとさせてきた。
研究員の人の髪の毛がチリチリ…。
「こちらは美海様!こんにちは!」
お出迎えしてくれてる。
研究員の人たちが…。
鈴木さんも目を真ん丸にしてビックリしている。
「実は、失敗してしまって。髪の毛がチリチリに…」
割れてしまっている試験管。
チリチリ髪が抜けていて、あちこちに髪の毛が散らばっている。
そして何よりもビックリなのが、この研究員の人たちの顔!
焦げてところどころ黒くなってる!
「研究所では、大変お見苦しい光景、申し訳ありませんでしたっ!」
「いえいえ。その…大変な仕事だなって思いました。ですがその分、このような仕事があるから、普通に生きられてるんだって実感しました」
研究員の人たちは「まあ…」と感心した様子を見せた。
鈴木さんは「さすが時期社長候補ですね」と微笑む。
ここでも、時期社長候補かぁ…。
「では、研究所は以上でよろしいでしょうか?」
「はい。ありがとうございました」
研究員の人たちにお礼を言って、また螺旋階段を降りていく。
私は、もしかしたら研究所は向いてないかもしれない。
理科とか実験とか苦手だから。
「これで、主部の説明は以上です。主部の中に研究所が入っているという形なので、お忘れなく」
依田部長が歩み寄ってくる。
鈴木さんが自分の仕事に戻っていくので、あわててお礼を言った。
「詩神社長と佐江子様がお呼びです」
急に背筋がゾッとしてきた。
依田部長も一緒に来てくれて社長室へと足を運ぶ。
「詩神社長、佐江子様。美海様をお連れしました」
「入れてちょうだい」
おばあちゃんの野太い声が聞こえる。
社長室のドアノブに手をかけた。
パパがにっこり笑って、お客さんが座る席に腰かけるよううながす。
「依田くん、仕事に戻って。ありがとう」
依田部長は社長室を後にする。
敦樹くんのことだよね。
やだ…聞きたくないっ!
ー第6話ー
待ってよ〜、速いよ〜。
俺は、頑張って大好きな美海ちゃんを追いかける。
「きゃはは!敦樹くん遅いよ〜。早く早く〜」
「えっ?」
お母さんがふとつぶやいた。
美海ちゃんが…?
聞いてない、どうしてだ!
愛海ちゃんはっ?
莉海ちゃんはどう思っているんだ!
「行くなら、行っておいで」
俺は家を飛び出した。
待ってろよ、美海ちゃん…!
何としてでも俺が…。
「どういうことだ!美海ちゃんっ!」
返事がない…。
美海ちゃんが行っちゃう…。
誰だ、あの人は…!
「美海ちゃんっ!」
椅子に腰かけると、パパがにっこり笑って和ませてくれた。
ちょっとだけ落ち着く。
すると、おばあちゃんが口を開いた。
「灘野さんのことについて話し合ったんだけど、やっぱりあなたには詩神にいてもらわないと困るの。他へ行こうとも、お断りね」
良かった…おばあちゃん…!
ほっとしつつ、パパが灘野に行ってほしいと思っていたことに気が付いた。
「ねえ、パパ。どうして私が灘野…」
「もう灘野の話は終わりよ!」
「すみません…」
おばあちゃんが席を立つ。
うんざりとでも言うかのように社長室を出ていった。
おばあちゃんが出ていって数秒。
パパがゆっくり口を開いた。
「ごめんね、美海。パパは、敦樹くんが美海のためって言ったから灘野に付いてもって思ったんだ。昔幼なじみだったからな」
そういうこと…。
パパも考えてくれてるもんな…。
それから、依田部長がお迎えに来てくれて、いよいよ主部の研修。
敦樹くんとのことがなくなって、ちょっと心がすっきりしている。
「これも、担当してくれるのは鈴木くんだからね」
鈴木さんが座っている席のとなりは、私の席用に空いている。
まずは、始めの鈴木さんの説明の通り、出勤した印となるカードを抜く。
特別な紙で『詩神美海』と書かれている。
「鈴木くん」
あわてて歩いてきた鈴木さんは、にっこり笑って胸元にネームプレートを付けてくれた。
『詩神』と記されている。
「では、仕事を覚えていきましょう。ノートにメモをしてくださいね」
鈴木さんの隣の席に腰かける。
コンピュータを起動させるところから始まって、打つ内容の紙を渡された。
「このページに、この内容を全て打ち込み、依田部長へ送信します。とりあえずそこまで、やってみてください」
うわっ、めちゃめちゃ長い!
そう思いつつ、小さい頃から練習させられてきたコンピュータ打ちを難なく終わらせる。
「美海様、さすがですね!お早い…。では、これを残り9枚やります」
計10枚も打つの〜?
その時、ふと瑠夏の顔が思い浮かんだ。
きっと瑠夏も頑張ってる。
私も頑張らなきゃ!
そう思ってコンピュータ打ちをした。
今日も行けるよな…。
美海に会いに…。
「ちょっと!桜庭くん!?」
「はいぃ!?」
ヤベぇ、授業中だったのに…。
しかもこの先生、怖い先生だった…。
先生にキッとにらまれる。
「ちゃんとキリリとメリハリを持って授業を受けなさい!だいたい桜庭くんはねぇ…」
仲良しの玄太がニヤッと笑う。
玄太〜、助けて〜!
お笑いが取れたり、ノリのいい玄太。
きっと何かしてくれる…。
「センセー」
「では始め…。何ですか?榎本くん」
微妙に声を上げた玄太は、たちまちのうちに先生ににらまれる。
ごめん、玄太…。
そう思っていると、また美海を思い浮かべた…。
おばあちゃん専用の部屋に呼ばれた頃は、コンピュータ打ちが終わって11時を回った時間だった。
「今日は大変だけど、美海にお客様がいらっしゃってるわ。灘野の社長様だから、失敗がないようにね」
敦樹くんのママが…?
背筋に冷たいものが走った気がする。
灘野、やっぱりあきらめてないんだ。
接客室へ行くと、パパが敦樹くんのママと話していた。
「あら、美海ちゃん。見ないうちに大きくなって〜。さあさあ座って!」
敦樹くんのママの隣には、ニヤニヤ笑っている敦樹くんがいる。
親子面談みたいな感じなの?
「ちょっと、私たちと美海ちゃんだけにしてもらってもいいですか?」
パパが接客室を後にする。
ど、どうする…?
私ひとりなんて無理だよっ!
さっきだって、おばあちゃんに助けてもらったんだし…。
「どうしたの、美海ちゃん。そんな悪いことじゃないんだから〜。もっと緩くしていいのに〜」
幼なじみのママの顔って感じ。
私の中では、幼なじみのママの顔のイメージが来雅のママだから…。
「こ、今回は、何のご用ですか?」
「さすが詩神の娘ね。礼儀がきちんとしていてすごいわ」
首をすくめて、ゆっくり首を横に振って見せる。
すると、さっきの緩い敦樹くんのママとは一変して灘野の社長の顔になる。
「改めて、美海ちゃん。私の名前は、灘野杏子です」
名刺を差し出される。
パソコンで綺麗に打たれた文字。
灘野杏子さん。
私、名前知らなかったな…。
「ぜひ、杏子さんって呼んでね…。本題に入らせてもらうわね…」
ゴックンとつばを呑み込む。
何を言われても、大丈夫。
そう自分に言い聞かせた。
「先程も、家の敦樹が詩神にお邪魔させてもらって、美海ちゃんのことについて話し合いをしたのだけれど…」
「あの…」
杏子さんは「んっ?」と目を見開く。
ドアの向こうにいるだろう、パパを指差して言った。
「父を呼んでもいいでしょうか…?」
「もうちょっと、待ってくれる?不安なのは分かるんだけどね…」
「すみません…」
杏子さんはにっこりと笑う。
敦樹くんも姿勢を正してこちらをジッと見つめてきた。
「実際の話なんだけど、本当に詩神にいるより灘野にいた方が幸せになれるって証拠もあるの。知りたいなら、灘野においで」
知りたいけど…。
どうして、おばあちゃんと言い、パパと言い、杏子さんと言い…。
私は危険だとか言うの?
「ひとつ分かって。私も敦樹も、みんな美海ちゃんのためなのよ」
そうよ、美海ちゃんのため。
全ては美海ちゃんを助けてあげるためなんだから。
真実を言っているだけ…。
「私のためってどういうことですか?灘野に行くことで…」
「美海ちゃんは幸せになれるの。灘野に来ればね」
幼なじみのママなのに、ずいぶん警戒してるんじゃない?
美海ちゃんったら。
クスクスと笑いながら、美海ちゃんに向き直る。
「詩神にいると、知りたくもない事実を知ることになるのよ。そんなのイヤでしょう?」
これでジリジリと…。
美海ちゃんの顔が変わっていく。
ちょっと緩くなってきた…?
よしよし、いい感じ。
「美海ちゃんには、敦樹はもう決まってるから、別の灘野の男と結婚してもらって、こちらで働いてもらう。結婚した男と一緒にいてもいいけど、敦樹の秘書でもしてもらいたいわ」
「けっ、結婚ですか!?」
そんなに驚くかしら…。
予想外すぎて、こちらがビックリする。
敦樹の婚約相手は、危険かもしれないけど、一応決まっている。
大丈夫なはず…だから…。
「敦樹くん、誰と結婚するんですか!?もう決まっているんですね…」
あ、そっち…?
…言ってもいいのかしら。
『あの子』の名前。
まだ小さいうちだし、いいわよね…。
「木下のお嬢様よ。美海ちゃんも木下は知ってるでしょう?」
木下のお嬢様っていうと、花奈ちゃんを思い浮かべるかしら。
花奈ちゃんじゃなくて、もうひとりのお嬢様なんだけど…。
木下先輩と!?
今度会ったら、それとなく敦樹くんの話を持ちかけてみよっと。
「うーん、そろそろ用事があるわね。悪いけど帰りますね。今度は、木下と高橋を回りますから」
木下は知ってる。
木下救急会社のことでしょ?
だけど、高橋ってどこ?
医療系の会社で聞いたことない…。
「じゃあね、美海ちゃん」
ひらひらと手を振って接客室を後にした杏子さん。
ちょ、ちょっとっ!
パパの登場0っ?
あわてて接客室を出ると、おばあちゃんが立っていた。
「正人は灘野様の見送りよ。…美海のためは詩神なんだから、灘野なんか絶対ダメよ。あと…」
おばあちゃんは言葉を濁らせる。
あれ、聞こえない。
ただずっと、おばあちゃんの口が小さくパクパク動いているのみ。
「…ってことだから」
おばあちゃんは身をひるがえして、専用の部屋に入ってしまう。
聞き逃しちゃった。
だいぶ大事なことだと思ったけど。
「美海様?」
「はい?」
「大津ですけど」
振り返ると、掃除道具を手にした大津さんが立っていた。
どうしてこんなところに?
それを聞くと、大津さんは笑って答えた。
「美海様こそどうしたのです?こんなところで。灘野様がお帰りになられても帰って来ないというので、探しに参りました」
あれ、マジですか…?
大津さんと一緒に主部の事務所へ行く。
鈴木さんが冷や汗を垂らして待っていた。
「良かった…。美海様、心配したんですよ!用事が終わったらすぐ帰ってきてくださいね!」
「すみません…」
すると、鈴木さんはギュッと私を抱きしめてくれた。
ママみたいな匂いがする…。
「佐江子様の指示です。これから12時までお昼休憩。美海様自信で作ってとのことです。12時ちょっきりに、大津がお迎えに行きますと…」
私が作るぅ!?
何にも作ったことないのに〜!
ー第7話ー
「あ、涼じゃん。美海のお迎え?」
瑠夏がドンと背中を蹴らない…。
なんかあるぞ!
「あぁ」とうなずくと、瑠夏は苦笑いしてつぶやいた。
「バーカ。美海のこと好きなら、知っといてやってよ」
瑠夏、コイツ男か?
話し方がずいぶん荒いぞ。
すると、やっと背中をドンと蹴ってきた。
「美海は詩神の会社の社長のひとり娘ってことは知ってるでしょ?」
「もちろんだ」
「ふんっ。もちろんって言えるのかねえ…。美海は詩神の会社の研修。2週間来てもいないよ」
えーーーー!
俺は知らないのに、瑠夏は知ってる。
信頼度薄くねえか?
もっと一緒にいないと…。
「美海のこと好きで追いかけてるんでしょ?だったら、もっと分かってあげてよ。大変なんだからさ」
美海、大変なのか?
詩神って言ったらチョー金持ち。
困ること、あるか…?
美海に会った時は、私も思った。
こんなお金持ちのお嬢様と仲良くなれるわけないって。
だけど、私の好きな人である涼が、美海のこと好きになったんだ。
どうしても、私のこと見てもらいたあったから…。
美海に近づいて一緒にいた。
最初は、めんどくさいヤツって思ってて、嫌いだった。
今までの時間もったいないとも思ったけど…。
どんどんどんどん消えていった。
美海っていい人なんだって。
お金持ちでひとり娘なんて、プレッシャーでしかないはず。
だけど美海は、私のノリにも応えてくれて、優しいし、好かれる。
涼も好きになるに決まってる。
私なんかより全然。
いつの間にか、誰よりも美海の近くにいるのが私になってたんだ。
涼が美海を好きになるまでは…。
確かに大変なのかもな。
ずっと、俺がいたいって思っていたけど、ダメなのかもしれない。
美海パパにも言われたし。
ちゃんとしなきゃな。
「悪いけど、ちょっと美海と距離を置いてくれないか?」
美海パパの言葉が胸に広がる。
一緒にいるの、良くないのか…?
どうして俺が結婚しないといけないんだ、お母さん…っ!
相手の前ではもう言えない。
木下さんの前にいるから。
「カッコいいわぁっ!敦樹くん!」
木下さんのお母さんが声を上げる。
本当にそう思っているのか…?
俺が見る限り、何となく支配されているかのような木下さん。
「とりあえず、ふたりにしますね」
木下さんのお母さんは、お母さんと一緒に退出してしまう。
何話せばいいの?
話題とかないんだけど。
すると、木下さんが口を開く。
「初めまして、敦樹くん。私の名前は木下愛海。私の方がちょっとだけ年上だけど、仲良くしてね」
木下愛海さん…?
めっちゃ前の知り合いにいた名前。
同じ名前くらいで何だって話だな…。
「私ね、敦樹くんのこと知ってる気がするんだ。会社がいろんなとこと関わってるからかもだけど」
俺は木下さんのこと知らなかったよ。
ってか、俺も喋らないとダメ?
そう思って口を開く。
「木下さんは、どこで俺を知ったと思う…いますか?」
ヘンなところで敬語にしちゃった…。
すると、木下さんはふふっと笑う。
「ずうっと前に会ったことがある気がするだけ。敦樹くんはそんな感じしない?…あと…私のこと愛海って呼んでほしいの。木下さんってヘンだし」
「じゃ、じゃあ、愛海さん…」
木下…愛海さんはふふふっと大人っぽい笑いを見せる。
美海とは全然違う。
お人好しで大人っぽい愛海さん。
無愛想で引っ込み思案の美海。
でも似てるところは…。
「敦樹くん緊張してる?大丈夫だよ。もっと楽しくやろう」
和ませてくれて、相手を気遣ってくれるところが似てる。
あと、名前…。
『あみ』さんと『みみ』。
それだけなんだけど…。
「で〜、敦樹くんは昔、私と会ったような記憶ない?」
「ありません…」
初対面だし…。
愛海さんだって初め『初めまして』って言ったでしょ…。
初対面っぷり出てるじゃん。
「じゃあ、今日から付き合うんだよね。いい?敦樹くん」
聞いてねえし!
お母さん、もしかして…。
愛海さんと付き合う…かぁ…。
敦樹くん大丈夫かな?
部屋から、灘野のリムジンを見る。
トボトボ歩いてる敦樹くん。
望遠鏡で追いかけてる私。
なんだか、敦樹くんをストーカーしてる人みたいっ?
あわてて望遠鏡を離す。
これも、カメラに収められてる。
こんなことしてられない!
キッチンに立つと、いざ何をしていいのか分からない。
とりあえず、冷蔵庫を見てみる。
空っぽ…。
「何も入ってないじゃん!」
買い物に行けってこと?
自分のお財布、使うんだ〜。
お金くらいくれてもいいのに。
カバンにお財布とポーチを入れて、最寄りのスーパーへ出かける。
付き合ったんだ…、今日から。
嬉しそうな顔の愛海さんを見る。
今更、絶対断れないな…。
「このまま結婚できたらいいね、敦樹くんっ!」
愛海さんがニコッと笑いかけてくる。
結婚できたら本当にいいか?
今は嬉しそうな愛海さんだけど、結婚なんて選ばれた俺でいいのか?
「また今度、お母さんを使って連絡。デートしようね!」
もうデートかよ…。
理想の高い愛海さん。
理想を叶えられない俺。
愛海さん、離れていくんだろうな。
「そろそろ終わった?愛海」
愛海さんのお母さんが部屋に入ってくる。
にっこり笑った愛海さんはうなずき、今日はこれで木下終了。
次は、高橋さんの家へ行くんだ。
「失礼しました」
愛海さんの家を出ても、微妙な後悔が私の頭の中を渦巻いていた。
呼ばれて来たここは、瑠夏の家。
美海の家じゃない女の子の家。
俺、最低かな。
「クラスの野郎がごめん。マジうるせーから!」
瑠夏、言葉使いが荒いよ…。
女の子だったら、もうちょっと…。
「ねえ、涼?」
「ん?」
「私、涼のことが…」
テレビないじゃん…。
真っ暗になったカーテンの向こうの夜空を見つめる。
星が輝いてる…。
「ごめん、美海ちゃんっ!入るぞ!」
カーテンを急いで閉めて、入り口を見る。
立っていたのは、敦樹くん。
どうしているの!?
すると、ずんずん歩いてきた敦樹くんは、私のほっぺたにキスをした。
「へっ、へえぇぇっ!?」
こ、これって、ファーストキスに入るんでしょうか…?
それとも、やっぱり入りませんか?
どうか入らないで!
「ごめん、美海ちゃん…。俺、どうしてもあきらめられないんだ!美海ちゃんのこと!」
「えっ?」
それって、イコールどういうこと?
もっ、もしかして、告白っ?
そんなことないよ、ね…。
「そいだけ。俺、付き合い始めたんだ。遅くならないうちに、気持ち伝えといた。もう、忘れて!」
「待って!」
忘れられるわけない。
別に、敦樹くんが好きなんじゃ…。
私だって好き。
敦樹くんが好きだよ。
恋愛的にじゃなくて、記憶が曖昧だけど、幼なじみのひとりとして。
「ありがとう!」
敦樹くんは部屋を飛び出して行った。
望遠鏡で灘野のリムジンを見る。
あっという間に発車した。
もう帰ったんだ…。
望遠鏡を置いて夜空を見る。
「今日は、いろんなことがあったな。お客様…きっ、きっ…」
「す」
はっ?
後ろを向くと、おばあちゃんが冷たい目でこちらを見ていた。
「やっぱりね。灘野のお坊っちゃんは美海が好きだったのよ」
どうしておばあちゃんが…っ!
せっかく、敦樹くんが伝えてくれた気持ちなのに…。
何か軽いものに感じてしまう。
「やめてよ、おばあちゃん…」
「ん…?」
「はっ…!や、やめてください。おばあちゃん」
敬語は基本。
タメ口なんてありえない!
なのにどうして…?
「おばあちゃんに口答えする気?何かあるなら言ってごらんなさい」
ない、な、ありません。
おばあちゃんはジリジリと迫ってくる。
どうしたらいい?
神様、仏様、えーっと…。
ピンチがすぐ切り抜けられる、いつでも元気で…。
「涼くん!」
「誰よ、それは。聞いたことがない名前じゃない」
えっと、どうやって説明する?
ためらっていると、おばあちゃんはフッと笑って言い下した。
「おばあちゃんへの礼儀がなってないんじゃない?引っ越すか、捨てるわよ!」
捨てる…?
何、それ…?
(つづく)
あとがき
こんにちは!
『キミ色に染まった世界で恋する』作者の相原梨子です。
2巻はいかがですか?
詩神の研修と言うことで、美海ちゃんや周りの未来への道を近づけました!
ちょっとは歩めたかな?
皆さんの中に知ってくださっている方はいらっしゃいますか?
1月27日が何の日か。
分かる方がいたら、私の小説をめちゃめちゃ読んでくださっている方がいるということですっ!
1月27日は、私のデビュー作『ここは明確スイーツ研究部!』シリーズが1周年を迎える日です!
2周年くらいで完結かな?
今の流れだとそんな感じですね。
よろしければ、1月27日のうちに、明スイのスレや創作板のスレ、短編小説板のスレ、日記板のスレでコメントください!
よろしくお願いします!
さあ、ここまで読んでくださっているあなた!
本当にありがとうございました。
次巻も見守ってください。
よろしくお願いします!
3巻で会えることを楽しみにしてます!
See you.
英単語を使ってみた相原梨子
ー次回予告ー
「捨てるわよ!」
捨てるってどういうこと?
私、どうなっちゃうの!?
「お願い、美海。私のために、涼をあきらめてほしいのっ!」
瑠夏はずっと頑張ってる…。
涼くんへの想いは、きっと…!
『キミ色に染まった世界で恋する 3』
登場人物
詩神 美海
お金持ちの家庭のひとり娘。
みんなは気楽だと思っているが、実はとても苦労している。
冴橋 来雅
美海の幼なじみ。
優しくて頼りになるイケメン。
モテているらしいが、自覚はない。
桜庭 涼
美海の秘密を知っている。
隣町に住むイケメン。
私立に通っている秀才。
今までのあらすじ
友達から始めることになった美海と涼。
毎日、美海を学校へお迎えに行く涼だけど、そんな涼にパパから衝撃の言葉が。
美海は詩神医療会社の研修に呼ばれてしまって、涼と会えない。
そんな中、瑠夏の恋も芽生えていき…?
目次
ー第8話
ー第9話ー
ー第10話ー
ー第11話ー
あとがき
次回予告
ー第8話ー
「引っ越すか、捨てるわよ!」
捨てる…?
どういうこと…?
何で捨てられなきゃならないの…?
すると、おばあちゃんはハッとして手を口元に当てる。
「みっ、美海。今のは忘れなさい。明日も早いんだから、早く起きるのよ」
「待ってっ…!」
ガッチャンと音を鳴らして閉まってしまうドア。
おばあちゃん、私がいらないの?
いつも厳しく育てられた私。
だけど、叱られて、反省したら同じように言われてきた言葉があった。
「全ては、美海のことを思ってやっていることなのよ」
ずっとずっと、私のためにしてくれたことだったらしい。
おばあちゃんも、パパも。
だけど、時々外れるんだ。
捨てるとか、意味が違うことになる。
「美海様、どうしましたかっ?」
大津さんがドアをノックしないまま入ってきた。
いつの間にか泣いている私…。
「カメラ、音はないんですが…美海様が泣いている様子が映し出されたのでやって参りました」
グスグスと鼻を鳴らしている。
大津さんにお願いして、パパに来てもらった。
ちゃんと話がしたい。
おばあちゃんは話してくれないこと。
きっとパパなら話してくれるから。
「美海、パパだよ。大津さんに呼ばれて来たよ」
ドアをゆっくり開けたパパ。
私は本をベッドの上で広げていた。
良かった、まだいて。
もうひとつのベッドに座ってもらって、おばあちゃんに言われたことを正直に話した。
「…で、どういうこと!?捨てるって。私って何…?」
「ごめんね、美海…。だけど大丈夫。捨てないから。おばあちゃんも、ちょっと言い過ぎただけだよ…」
本当に、そうかな?
いつもなら、引っ越すだけ…。
たまにだけど、別館に閉じ込めるって言われるかもしれないけど。
ちょっと様子もヘンだった気がする。
「落ち着いたか?…もう大丈夫?」
「う、うん…。ごめんなさい」
「いいんだよ。パパの方からも、おばあちゃんに言っとくね。ごめんね」
パパはベッドから立ち上がって、ドアノブに手をかけた。
そして、振り返ってにっこり。
「おやすみ、美海」
「おやすみなさい」
朝の5時に流れた館内放送。
その時には、もう身仕度、朝ごはんなどは済ませてあった。
「美海、入るわよ」
入ってきたのは、おばあちゃん。
昨日、パパがおばあちゃんに言ってくれたらしく、今日ちょっとだけ真実を知らせてくれるみたい。
「美海…。昨日はごめんなさい…」
向こう側を向きながら言うおばあちゃん。
きっと、昨日結構反省したんだな。
そんな感じがして顔がほころぶ。
「これは、あくまでも昨日悪いことを言ってしまったと思ったからすることって分かってね」
「うん…」
そういう理由なんだ…。
まあ、知れるからいいんだけどね。
おばあちゃんは、私がスーパーなどに行く時に持っていくカバンをベッドにボンと置く。
「この中に筆記用具と衛生的なもの、サイフを入れてロビーへいらっしゃい。待っているわ」
おばあちゃんはバタンとドアを閉めて行ってしまう。
昨日泣いたおかげで、ヘンなものがなくなった感じがする。
かなり楽になれた…。
ロビーに着くと、スーツに着替えたおばあちゃんが立っていた。
私の格好を見ると、おばあちゃんとは打って変わって、汚れてもいい服。
動きやすい服だった。
こんな格好で大丈夫かな…?
そう言えば、灘野が来た時もこの格好でダサかったな…。
「行くわよ、美海」
おばあちゃんのリムジンは、詩神気の中で一番高くて一番大きい。
何でも良いものを好むからね…。
みんなもそうかもだけど、私は違う。
あえて、小さいものが…。
「早く乗りなさい、美海!この用事は午前中で終わらす予定なんだから!」
急いでリムジンに乗り込む。
どこに行くんだか…。
ちょっと緊張してきた。
「今から行くところは高橋さんの家。ごくごく普通の一般家庭よ」
高橋さんの家?
これに、捨てられることについて秘密が隠されているの…?
高橋さんの家に着くと、家族みんなでお出迎えしてくれた。
その中のひとりが…っ!
「詩神さんだったのっ?来るの!」
「高橋さん!」
同じ卓球部所属の高橋さん。
ちょっと厳しくされたことがあったきり、あんまり話してなかった相手。
高橋さんの両親が驚いている。
「由里、美海さんと仲良しなの?」
「部活が一緒なだけ!別に…」
おばあちゃんは、高橋さんの最後の言葉を聞き逃さなかった。
なので、おばあちゃんは私をゆっくりと見た。
「高橋さんと仲良くないの?美海」
「部活では、指導してくれたり、厳しく…してくれたり…」
「由里、美海さんに指導しているの!?厳しくしているの!?」
高橋さんのママは叱りつけている。
この時の高橋さんの気持ち、分かる。
何度も叱られた私だから。
すると、おばあちゃんが高橋さんと高橋さんのママを見た。
「出来ましたら、そう言うのは後にしていただけませんか?」
うわっ、圧力半端ない。
そう思いながら、ちょっと頭を下げる。
高橋さんのママは謝り、客間に通してくれた。
「では、私と莉海がいたらいいでしょうか?」
「ええ。よろしくお願いします」
莉海と呼ばれたお姉さんは、客間にお茶を持ってやって来た。
カワイイ…キレイの方かな?
めちゃめちゃ美少女なんだけど!
「おはようございます、美海ちゃん。私の名前は莉海です」
莉海さんは、頭をペコッと下げて、私のちょうど前の椅子に腰かけた。
後から来た高橋さんのママは、おばあちゃんの前に腰かけた。
「今日お訪ねさせていただいた理由は、美海と莉海さんの関係についてです。高橋さんのお母さん、説明してあげてください。あれに従って」
一度、打ち合わせみたいなのしてる?
そう思いつつ、高橋さんのママの方を見る。
「よく聞いてね、美海ちゃん。実は、美海ちゃんとウチの莉海は姉妹なの」
姉妹!?
どっ、どういうこと?
詩神莉海さんってことなの!?
「名前も『海』が入ってて一緒でしょ?それも共通点だと思います」
確かに一緒だ…!
『みみ』と『りみ』。
語呂もそこそこ似てる…!
「どうして離れたかは言えないんだけど、美海ちゃんは詩神にいないといけない存在なの。だから、移動することは許されないってこと。莉海は、私たち高橋家のところにいるのよ」
私は、詩神にいないといけない存在。
だけど、莉海さんは違うの?
どう考えても、莉海さんが詩神にいるべきじゃない?
莉海さんの方が年上だから、私より早く社長になれるし…。
「ここまでしか言えないわ。とにかく分かってほしいのは、莉海と美海ちゃんは姉妹ってこと。由里とも、ずっと離れた親戚みたいな感じかもしれないわね。仲良くしてあげてくれる?」
「はい…。分かりました。ありがとうございました」
莉海さんと姉妹なんだね。
おばあちゃんは、先にリムジンへ戻っていき、高橋さんのママも出ていった。
ふたりの環境を作ってくれてる?
「ねえ、美海。私のこと覚えてる?」
「ごめんなさい、覚えてません」
ふふっと笑った莉海さん。
「タメでいいよ〜。姉妹なんだから」と緩く話している。
「私はちょっと覚えてるよ。妹がふたり…いることはね」
「ふたりいるの?ってことは、私の姉か妹がもうひとり…」
莉海さんが口元に人差し指を近づける。
聞いちゃった…!
また、調べてみよっと。
これから向かったのは、敦樹くんの家だった。
近くにある家は、和泉家、涼くん家が知っている。
灘野家のチャイムを鳴らす。
「おはようございます、詩神様。今日は足をお運びいただき、ありがとうございます。さあさあ、どうぞ」
杏子さんがお辞儀してくれる。
そして、リビングに通された。
前に座っているのは、杏子さんと敦樹くん。
もしかして、敦樹くんも兄弟だったとか言わないよね?
「美海ちゃん、オレンジジュースでいいかしら?」
「あ、ありがとうございます」
杏子さんがオレンジジュースを出してくれて、話が進んだ。
灘野家で知ることが出来るのは…?
ドキドキ胸を鳴らしながら聞いた。
「美海ちゃんは、ずっと昔、私たち灘野と幼なじみだったでしょ?そのことについて説明するわね」
ああ…詩神で敦樹くんのパパが働いていて、遊んでたから幼なじみってわけだったよね。
そう思っていた私に、杏子さんが厳しい目付きで言った。
「美海ちゃんは、本当は灘野家の隣の家で暮らしていたの。だけど、わけあって今のところに住んでいるのよ」
灘野家の隣に住んでたんだ!
知らなかった…。
だから、詩神と灘野の交流がそこそこ多いんだね!
今は空き地のところに、詩神の家があっただなんて…。
「美海ちゃんのお母さんの名前は?」
「詩神彩美です」
ママの名前を言った瞬間、ママが出ていった日のことを思い出した。
あれから、気付けば1ヶ月近く経つ。
こんなに普通に過ごしてる私…。
ママがいないのに、こんな風に過ごしてていいの…?
「美海ちゃんのお父さんの名前は?」
「詩神正人です」
杏子さんはふふふと笑って見せた。
何だか、ヘンな感じ。
どうしてママとパパの名前を聞くんだろうか…。
「美海ちゃんのお母さんの名前とお父さんの名前がヒントよ…。では、朝ごはんにしましょうか」
すると、リビングに敦樹くんのパパやお兄さんたちが集まってきた。
久しぶりに見る顔ばっかり。
特に、敦樹くんのお兄さんは。
「可愛くなったね、美海ちゃん」
「ありがとうございます」
誉めてくれたのは、大輝くん。
がっしりした体つき。
肩幅がすごく広かった。
お兄さんって感じ。
「あはは。タメ口でいいのに〜」
朝ごはんで出されたのはハンバーグ。
わざわざこんなものを!
朝からカロリー高め…。
そう思っていると、私とおばあちゃんの分のハンバーグも出てきた。
「食べてってちょうだい」
杏子さんがオレンジジュースのおかわりを持ってくる。
いいのかな?と思ったけど、おばあちゃんはためらわずに腰かけていたので私も座った。
「おい、悠輝…」
悠輝くんがそそそっと二階から降りてきた。
何だか、タイプ違う…。
何事にも真っ直ぐな敦樹くん。
元気で明るい大輝くん。
オタクみたいなイメージが付いてしまう悠輝くん。
「久しぶりだね、悠輝くん…」
一番遊んでいた悠輝くん。
なのに…どうして?
杏子さんは「ごめんね」と謝る。
「悠輝も結婚候補が上がってて、気を落としてるだけだから」
すると、大輝くんが目を輝かせた。
そして、私の手をギュッと握る。
「美海ちゃんの結婚候補って知ってる?」
「知らないけど…」
大輝くんは、人差し指で自分を指差して声を張り上げた。
「俺だよっ!」
えーーーーーーーーっ!
だっ、大輝くん!?
おばあちゃんがふふふと微笑む。
親公認しちゃってるの!?
「よろしく〜」
大輝くんがイヤってわけじゃないけど引っ掛かる気持ち。
恋もしてなくて、全然そういうのに関心を持っていないけど…。
「はい、そろそろ帰りますよ」
ご飯を平らげたおばあちゃんは、私の前に置いてあるご飯を見る。
まだ、めちゃめちゃ残ってる。
おばあちゃんはため息をついた。
「詩神の者として、時間を気にしなさい。さっさと食べなさい」
みんなの前で怒られて身が縮むよう。
急いでご飯をかきこみ、みんなが見る中で何とか平らげた。
「では灘野さん、今日は美海のためにありがとう。ひとつ忘れないでほしいことは、灘野さんに美海が行くのではなくて、灘野さんに来てもらうということよ。では」
おばあちゃんが厳しい目付きで杏子さんに言い捨てるように言う。
杏子さんはまるで愛想笑いのように笑って見送った。
「さあ、美海。ここからはキャンセルして帰るわよ。かなり知れたでしょ?莉海さんとは会わないように。いいわね?」
お姉さんなのに会っちゃダメなんて。
だけど、逆らったらどうなるか。
私は小さな声で返事した。
車が動くと、景色がゴロゴロと動いて見えた。
途中で涼くんの家も見えた。
起きてるかな、涼くん…。
「美海っ!窓の外をジロジロ見ません!だから礼儀正しくなれないの!」
おばあちゃんが車内の鏡を見ながらキツくにらんでくる。
どうしてこんなことまでダメなの…。
あっという間に事務所に着き、これからの日程を伝えられた。
瑠夏に会いたい…!
私は、空を見上げてそう思った。
ー第9話ー
「俺だよっ!」
どんな日の朝も繰り返し頭の中で言っている言葉。
大輝くん笑いながら言ってた。
もしかしたら、嬉しいのかな…?
「美海ーっ!朝ごはん出来たぞー!」
一階でパパの声が響く。
部屋にも声がちょっと響いた。
もう終わったんだと思うと、すごく清々しい。
研修が昨日で終わった。
今日からいきなり学校。
でも、みんなに会えるからすっごく嬉しい気持ちでいっぱい!
久しぶりにカワイイ制服に着替えて部屋を飛び出した。
リビングにトーストの美味しそうな匂いが広がる。
「疲れは取れたか?おばあちゃんが誉めてたぞ。テスト連続合格で。美海の頑張りが認められたんだ」
おばあちゃんが誉めた?
私を?
そう聞いた瞬間、心をくすぐられたような不思議な気持ちになる。
すごく嬉しい…!
「今日はみんなとたくさん喋って楽しんで来い」
パパがにっこり笑ったのが久しぶりな感じがする。
それだけ会ってなかったってことだ。
家を飛び出すと、瑠夏がすぐそこで待っていてくれていた。
隣には他の子が3人いる。
「久しぶり!美海!」
「瑠夏〜!」
スクールバッグを肩に引っ掻けたまま瑠夏と抱きしめ合う。
寂しかった思い、会えた嬉しさが一度にグンッと押し寄せてきた。
「美海って珠乃と結衣と姫花のこと知ってる?覚えた?」
「ごめんなさい。まだです…」
すると、隣の女の子3人が笑った。
左が珠乃ちゃん。
右が結衣ちゃん。
真ん中が姫花ちゃん。
「詩神さんよろしく〜」
「瑠夏の言った通りの子だね〜」
「やっぱりカワイ〜」
この子たちと上手くやってけるんだろうか…。
うーん…。
あわわ!たくさん投稿してるね〜!最近小説見る暇あんまりなくて…
今度最初からまた読むね!
ありがとう!
良ければどんどん見てね♪
出来たら完結まで見届けてね…☆
知っている方も多いとは思いますが、葉っぱ卒業を決めました。
出来たら完結させて、続きはオリジナル小説を書いていただきたかったのですが、恋愛小説は簡単に完結出来ない物語です。
なので、ちょくちょく来れるときにゆっくり更新します。