何も考えずにだらだらと…
▽文字つめつめ
▽設定ガバガバな上何も考えずに書き始める
▽もはや短編どころか超短編をつめこむかんじ
▽誤字
よろしければ
「お腹すいた」
静寂の中で、その子が言った言葉だけが響いた。
「…お腹。すいたの?」
そう問いかけると、少しだけ居心地を悪そうにして頷かれる。
直後に響く腹の音。なるほど、あながち嘘ではなさそうだ。信じる価値はあるだろう。ここで騒がれても困るのだ。
「そうね…それなら、この先にコンビニがあるから…それまで、我慢よ。いいわね、少しだけの辛抱だから…」
また、頷く。その瞳の奥に怯えが入ってるのを感じて、少しだけ居たたまれなさが湧いた。
ごめんね。それだけ呟いて、手を引く。ごめんね、ごめんね。もう少しの辛抱だから。もう少しで。あと少しだけ待てば、楽になれるから。
からん、と軽い音を立てて近場のファミリーレストランの戸を開ける。防犯カメラだとか、目撃情報だとか、そんなものはどうでもよかった。
程なくして女性の店員がやって来る。この早朝に子連れなど、変だと思われなかっただろうか。
「何食べたい?」
「あ…えっと、あの…」
店のメニュー表を見せてやると、分かりやすいほどにたじろいだ。困ったように眉を下げて、まるで自分の意見がないみたいに。
その様子に憐みの目を向けて、少しだけ泣きたくなったけれども、その感情を笑みに昇華させてまた問いかける。優しく、傷つけないように、花に触れるように。そうでもしないと、この子は何も言ってはくれない。
「…これ」
その年にしては小さい指で、メニューにあるハンバーグを指した。朝からハンバーグ。なかなか厳しいものがあるけれども、これもこの子のためだと考える。食べたいのだから、この子を優先してやる必要があるのだ。これは、親の、義務なのだ。
「いいよ。一緒に、食べよっか」
うん、と微かに聞こえた。俯いていて顔は見えない。ああ、いつか、この子が人の顔を見て笑うことができれば。
頼んだハンバーグがすぐに運ばれてきた。ついでに、この子のためのオレンジジュースも。
それでも、お腹を鳴らして本当は喉から手が出るほど欲しいはずの朝食を前にしても、この子は歯を食いしばって俯いているのだ。
その姿にどうしようもなく悲しくなって、笑うことしかできなかった。ふつふつと、怒りが湧いてくるのがわかる。
「いいよ。…好きなだけ、お食べ」
聞こえるようにはっきりと言って、食べることを促す。
ゆっくりと箸を手に取った。持ち方が変だ。今度、正してあげなければならない。
「いただきます」
二人きり、ファミリーレストランの隅っこ。朝五時のまだ寒い冬、私たちは親子になるのだ。
「おいしかったね」
満腹になって、少しだけ眠そうな様子なのを横目に手を引いた。
どこへ行くの。幼いその目がそう訴えた。
ごめんね、ごめんね、怖いよね。当たり前だ。この子はまだ子供で、不健康な痩せ方をして、私はその服の下の肌に何があるか知っているけれど、しっかりと物を考えて生きているのだ。私が大切にしてあげると決心をしたのだ。
「どこへ行くか…知りたい?…知りたいよね。少しだけ…旅行しましょ。お父さんにも、許してもらったわ…もちろん、お母さんにも…」
白い息が空気に溶ける。この嘘も、一緒に溶けて消えてしまえばいい。
「…そっか……」
きっと、この子はもう分かっているのだろう。それでも黙っていてくれるのだ。私の、ただの自己満足に付き合っていてくれるのだ。
小さい手。幼い声。乱れた髪。ああ、こんなに、こんなにも小さいのに。この子は、我を通すことすらできないのだ。禁じられてきたのだ。なんて、不条理。なんて惨めで、純真な。
「…ごめんね、ごめん……」
その姿にどうしても涙が抑えきれなくなって、うわごとのようにそれだけ繰り返しながら歩いた。