ジリリリ ジリリリ
小うるさい、目覚まし時計の音が響いている。
「うーん…もう朝?」
その音に叩かれるかのように、私は目を覚ました。
いつも聞いているけど、この音だけは慣れない。
ガッチャン。
目覚ましを止めると、一瞬で静かになった。
外からは、小鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「ふあぁ……」
小さくあくびをしながら横目に見た時計の時間は、朝の六時半。
ベッドから降りた私は、リビングに向かうことにした。
「ママ、おはよう」
「ひな、今日は早いのね。あと30分は寝ててもいいんじゃないの?」
リビングでは、ママが食事の支度をしていた。
食パンの焼かれているトースターからは、香ばしい匂いがする。
「今日は転校初日だよ、ママ。せっかくだから、早く起きたくて」
「あらそう?」
にこやかに言ったせいか、ママは意外そうな顔をした。
「新しい学校、楽しみ?」
「うん!」
今日は、新しいスタートをする大事な日……。
パパの仕事の都合で、この家に引っ越すことになった。
そして、新しい学校も……。
「そういえば、パパは?」
今頭に浮かべていた、そのパパが居ないことに気が付いた。
「パパも、今日は新しい仕事場だから、早めに行っておきたいって。ついさっき家を出たわ」
「ふーん……」
パパも、新しい街で同じことを考えていた。それがうなんだか、れしかった。
面白いです。これからも頑張って下さい!
続きが楽しみです!
「…次のニュースです。一週間後の夜、日本各地で
彗星の通過が見られるでしょう…」
「彗星…星が落ちて来るの?」
朝ご飯を食べながらニュースを見ていた私は、彗星がどうのというのは初めてだったので、なんだか怖くなってしまってママに聞いてみた。
「落ちるんじゃなくて、地球を通り過ぎるだけよ。ひな」
「へえ…」
ニュースでは、彗星が通り過ぎるときのイメージ映像っぽいのが流れている。
とても綺麗で、自分が感じていた怖さは全然ない。
私は安心しながら、この景色が見られることに胸をときめかせていた…。
「ごちそうさまでした!」
「はーい、しっかり食べたわね」
テレビを見つつ食べ終わった時間は、七時。
私は準備をするために、自分の部屋に戻った。
「…うーん」
自分の部屋に戻った私は、着替えたりとかの準備をしていた。
そんな時に、大きな問題に引っかかってしまったのだ。
「髪型、決まらないよ……」
新しいスタートなのだから、自分で髪形を決めてみたい。
…そう思ったが、
肩くらいまである私の髪は、ママがやってくれるみたいに決まってはくれなかった、
「どうしよう……」
時間はまだあるけど、このまま止まっててたら過ぎてしまう。
「やっぱり、ママに……」
考えてもわからない。ママに頼みに行った方が早いのかな……
……
「ダメ…自分でやらないと!」
髪型は自分で決める…最初に言ったこと、やっぱり投げ出したくない!
……そう思ってからは、準備がすいすいと進んだ……。
「ママ、行ってくるね」
準備が終わった私は、玄関で靴を履いていた。
「気を付けて行って……あら?」
いつも通り見送ろうとしていたお母さん。でも、私を見たからかちょっと驚いている。
「ひな……髪型、自分で変えたの?」
「うん!」
新しいスタートにするための、新しい髪型。
ママに最初に気付いてもらえて、とてもうれしかった。
「この子ったら、すっかり大きくなって…」
「ママ!?大げさだよ……」
私はまだ、小学四年生だ。
大きくなったと言われる歳じゃない…と、自分では思う。
「新しい学校、頑張ってね!」
「うん。じゃあ、行ってきます!」
私は、ママに笑顔で見送られながら、家を出るのだった…。
ましろ様の小説だ!!!
8:ましろ◆r.:2018/03/08(木) 05:59 「学校、どんなところかなぁ…」
一人で通学路を歩く私は、新しい学校にワクワクしていた。
見学させてもらったことはあるけど、すみずみまで行ったわけでもないし、どんな子がいるかもよく知らない。
「よーし、早く行っちゃお!」
楽しみすぎる私は、早く着きたくて走って行くことにした。
そして、走りだそうとするその時……。
「……ん?」
足が止まった。というか、自分で止めた。
「何か、聞こえる…?」
しゅー、みたいな、よくわからない音が聞こえてくる。どこからだろう……?
「あ―――」
音の正体は、意外とすぐに現れた。
「ほし……」
それを見た瞬間、私はテレビのニュースを思い出していた。
彗星が、地球を通り過ぎる。
一週間後と言われていたけど、それは今私の目の前に―――
シュンッ!
…その星は、私の横を通り過ぎた。
「な、なに……?」
落ちた…そう思って、近くを見まわしたけど、何もない。
「…なんだったのかな」
少し怖かったけど、何も起きてないからOKということにして、
私は走って学校に向かった。
――四葉小学校
今日から私が通う学校の、校門が見えてきた。
「ここが……新しい学校!」
どんな子がいるのか…友達になれるかな……
思うことはいろいろあるけど、とりあえず私は、校門をくぐった……。
…今私は、教室の前にいる。
転校生の紹介のタイミングで入ってくるようになってるのだけれど…
「まだかなぁ…!」
今か今かと、心の中ではすっごくドキドキして…今にもドアを開けてしまいそう。
そんな時はぶんぶんと首を横に振って、自分を抑えていた。
「……転校生の人、入って来て良いわよ」
見学の時に紹介された、木村という女の先生の声が聞こえた。
「…よし」
ワクワクが今にも飛び出しそうだったけど、私は落ち着いて、教室のドアを開けた――
「わぁ……」
小声だったけど、思わず発してしまった一言。
知らない子がいっぱいいて、驚いた。
――だけど、緊張はしない。
「朝露ひなです。これから、よろしくお願いします!」
静まり返った教室に、私の高らかな声が響き渡った。
「朝露さん、元気な自己紹介をありがとう!それじゃ、あなたの席は…」
木村先生は少し悩んだあと、何かひらめいたような顔をした。
「窓際の席……星川さんの隣ね!」
先生が指さした方の席には、女の子が座っていた。
あの子の隣に座るらしい。
「あそこか…」
とりあえず、その席に座ろうと歩き出すのだけれど…
歩いている間、クラスのほとんどからキラキラした目で見られていた気がする。
有名人になった気分…。
「あ、あさつゆさん…?」
席に座った直後、星川さんと呼ばれた女の子が話しかけてきた。
「朝露ひな!星川さんだったよね、よろしく!」
「ほ、星川あまの……。よろしくね…」
星川あまのさん……自己紹介をするときその子は、もじもじとしていた。
…恥ずかしがり屋さんなのかな?
「新しく入ってきた朝露ひなさんに、いろいろ聞いちゃうタイム―!」
休み時間になってから、誰かが言い出した。
一人が言ったら、何人も乗ってきた。
「は、はあ……」
そうして私は、フルーツバスケットの体形みたいに並べられた、椅子の輪の中にいる……。
「聞ける限りのこと、どんどん聞いちゃいましょぉー!」
そういってこの会場のリーダーをしているのは、学級委員の里見 文(さとみ ふみ)さんだ。
最初はさとみが名前かと思ったけど、名札を見ると苗字だった。
「好きな食べ物は!」
食べ物かぁ…お母さんの手料理なら、何でも好きだけどなー……。
ここは、カレーライスと答えた。
「カレーは、辛いの大丈夫?」
カレーの話題を続けてきたッ…!?
「甘口しか、無理かなぁー」
カレー屋さんに連れて行ってもらったことがある。
お父さんに一口、辛いカレーをもらった。
食べたことすら忘れたくなるくらい、辛かった。
「好きなスポーツは!」
食べ物の質問の次は、スポーツの話。
運動は苦手ではないけど…
「…かけっこ!」
走るのには、結構自信がある。前の学校でも、運動会は楽しみだった。
「さあ、次の質問がある人は…」
休み時間の終わりまで、質問攻めは続いた…。
「ん…?」
皆が椅子を片付けているとき、教室のドアが静かに開いた。
他の誰にも気づかれずに、教室に入ってきたのは……星川さんだった。
なんだか、焦っているようにも見える。
「そういえばさっき、居なかったな……」
皆が私に集まる中で、星川さんは何をしていたのだろう。
席は隣だし、聞いてみることにした。
「…星川さん!」
「はいっ…!?」
教科書を出していた星川さんは、びっくりしたような返事をした。
「休み時間中、みんな私への質問をしてたけど、星川さんは何してたの?」
「あ、それは……」
星川さんは、初めて話した時と同じようにもじもじとしていて、
何だか言いたくなさそうな感じだった。
「ごめんね、言えないなら無理しなくても…」
「ううん…」
もうやめておこう…そう思って話を切ろうとしたけど、星川さんは続けた。
「…ただ、人の多いところが苦手で……」
それだけ聞いた後すぐ、授業が始まった…。
あれから、星川さんとはそんなに話せなかった。
あっちの事情を詳しく聞くことはできなくて、なんだかもどかしかったけど……
今日はそのまま、下校時間を迎えた。
「せんせー、さよーなら!」
もはや小学校ではお馴染みなのかもしれない、帰りのあいさつの声が教室に響く。
クラスメイト全員で言うもんだから、結構騒がしい。
「朝露さん、放課後遊ばない?」
女子のひとりが、話しかけてきた。
慣れてない私をいきなり誘ってくれてうれしいけど、今日はちょっとダメだった。
「ごめん!用事があるの。ありがとね」
軽くお辞儀をした私は、そそくさとランドセルに荷物をまとめて、教室を出た。
理由は―――
「星川さん!」
「あ、朝露さん……!」
しつこいようだとは思ったけど、やっぱり星川さんのことが気になった。
先に教室を出ていたので、私も靴箱まで急いだのだ。
「ごめん、話があったから……」
「はなし……私に?」
星川さんは、自分なんかが見たいなちょっと驚いた顔をしていた。
「あ―――」
どたどたと、ほかの子の足音が聞こえてくる。
同時に……、星川さんの表情が固まった。
「星川さん?大丈夫?」
「うん……。は、話があるなら、一緒に帰りながら……」
向こうからの提案で、しかも突然だったけど、私たちは道が結構同じだったのだ。
そういうことで、星川さんと一緒に下校することになった……。
二人で通ったのは、私が登校に使っていた道だった。
「あの……もしかして、私のために?」
「うん!人の多いところ、苦手って言ってたから」
他の子がそんなに歩いてこないこの道なら、星川さんも安心できると思った。
そして思った通り、星川さんの表情は、さっきより明るくなっている。
「私がさっき言ったから……?ありがとう……それで、話って?」
「うん、あのね……」
私はもう一度、休み時間に何をしていたのかを聞いてみた。
「人の多いところが苦手……それで私、一人で廊下にいるの。廊下の隅っこに」
「そうなの……!?」
一人がいい……それで星川さんは、廊下に出ていることを選んだ。
だけど正直、廊下は風通しがいいから、今の時期でもちょっとは冷えるだろう。
「教室……授業と、ご飯を食べてる時はいいの。でも、休み時間とかはほんとにダメで……」
そう話す星川さんの目は、なんだか涙ぐんでいるようにも見えた。
「廊下で一人、寂しくない……?」
泣いていたから、寂しいはずがないから、私は尋ねた。
「ちょっとは……うん」
「ならさ……!」
歩きながら話していたけど、私は足を止めて、星川さんの手を優しく握った。
「私が一緒に居てあげる……ダメ、かな?」
話を聞いてて思った。この子は、友達を作りたいけど、作れない。
だったら、私から話しかければいい……。一人は、絶対寂しい……。
それに、星川さんは、悪い子じゃないように見えるから……。
「そんなの言ってくれる人、朝露さんが初めて……うん、いいよ。あなたなら私、なんだか安心できるから……」
この街に来て、初めての友達が出来た。
「それじゃあ、また明日ね。星川さん」
「うん。朝露さんも……」
一言、さよならを言った後、私たちは別れた。
星川さんと、少しは仲良くなれたのかな……
そう思っていると、家の近所まで戻ってきていることに気が付いた。
「ここは……」
朝のことを思い出す。星みたいなものが、私に向かって落ちてきて……
何もなかったように、消えた。
……あんな落ちかた、何もないはずがない。
「この辺り、だったよね……?」
茂みや、物陰を調べる……。
「あ……!」
何かが、茂みの陰に埋まっている。
二本、何かが飛び出しているそれは、すっぽりと地面に埋まっていた。
「……えいっ」
私は何も考えず、それを引っ張った。
すぽんと音がして、抜けた。抜けたけど……
「なにこれ」
最初の一言だった。
耳がついてて、うさぎみたいで、でも二本足の動物。
これには、なにこれしか言葉が見つからない。
私が持ったのは、この動物の足だったらしい。
「ここは……」
!?
「ここ、どこなの?」
「えっ」
私が足から持っている動物、しゃべるらしい……。
「ええーっ!?」
驚いた私は、近所迷惑になるかもしれないくらい、叫んでしまった。
「……」
ちょこんと地べたに座っている、小さな動物。
うさぎのようでうさぎじゃない。
「ここ、人間界?そうよね、人間の女の子がいるんだから
「……」
ちょこんと地べたに座っている、小さな動物。
うさぎのようでうさぎじゃない。
「ここ、人間界?そうよね、人間の女の子がいるんだから」
「ねえ、何でうさぎさん、喋るの……?」
このうさぎ、喋るからだ。
「ワタシ、うさぎじゃないわ。妖精なの!」
「え……?」
この動物が喋っていることがもうビックリなのに、さらに信じられないことが起きている。
自分のことを、妖精だと言っているのだ。
「妖精で、名前はスミレ!」
元気よく自己紹介をしてくれる妖精さんだけど、耳はぴくぴく動いている。
本当にうさぎみたい……。
「わたしは、ひなっていうの。あの、妖精さん……」
「なぁに?」
妖精さんは小さいから、私は見下ろして話してるわけだけど……
誰かに見られていれば、凄く不思議に見えるだろうなと、話しながら思った。
「何であんな場所に、埋まってたの?」
「あ、それはね……」
私に向かって落ちてきたものと、絶対何か関係がある。
にしては、すっごく軽い口調で、妖精さんは説明を始めた。
「ワタシは―――」
言いかけた、その時だった。
「あ……!」
「ん、妖精さん、どうしたの?」
「ごめんっ!行かなきゃ!」
私に話すことよりも大事なことを、思い出してるような感じがする。
そのまま妖精さんは、どことも言わず走って行った……。
「ん……?」
なんだったんだろう……とか考える前に、足元に何かが落ちているのを見つけた。
「なに、これ……」
妖精さんが落としたものだろうか。小さくて四角いケースみたいなのが落ちている。
「届けた方が、いいのかな?」
それを拾った私は、妖精さんを追いかけることにした。
「……ない!」
しまった。
ワタシとしたことが、不覚だった。
焦りすぎてしまったのだろうか。とにかくワタシは、一番大事なものを落としてしまった。
……さっきの、あの女の子と出会った辺りか?
引き返せばまだ、間に合うかもしれない。
「お、こんなとこに居たか。妖精」
「え―――」
ーーーーーーーーーーーーーーー
私は、一人というか一匹で走って行った妖精さんを探していた。
慣れない町を走り回ってみるのは、町探検みたいで意外と悪くない。
「どこ行っちゃったんだろ?」
まっすぐ行ったり曲がったり。妖精さんが歩いた道は、ケントウもつかない。
――ぶるっ
「……?」
何かが震えたのは、スカートのポケットの中。
「これ、さっきの……」
ポケットに入れていた、手のひらサイズの四角い箱。
開けてみると、スマホみたいなものが入っていた。
「携帯電話……あ、何か映ってる」
画面には、赤い点や黒い点が、地図みたいなものに表示されている。
……この近くだろうか?
「行ってみよう……」
妖精さんが落としたものだから、この表示が何か関係してるに違いない。
そう思った私は、点がありそうな場所へ歩き出した。
「ここかな……」
歩いてるうちに、薄暗い道に入った。
表示はこの近くらしい。
「……人間か?」
「えっ!?」
振り返ると、サラリーマンみたいな恰好をした男の人が立っていた。
真顔で、何を考えてるか、よくわからない感じがする。
「ちょうどいい。お前も玉に変えてやろう」
「た、たま……?」
サラリーマンの男の人は、ポケットから何か、丸いものを取り出した。
「……!!」
玉には、人が入っていた。小さく縮こまった人が。
だけどそれは、信じられない人物で……
「ほしかわ……さん?」
さっきまで、笑いあっていた女の子。
星川あまのさん。
なんでその子が、こんな風になっているのか、私にはわからなかった。
「心の中に明るいものを秘めてたからな。俺らにはそれが邪魔なんだ」
「明るいものが……邪魔?」
男の人は、星川さんの入った玉をかかげながら話し出した。
「いい気分。楽しい事。明日への希望。全部邪魔なんだ。だからそれらを抜き取って……」
「こんな姿にしたの……!?」
自分勝手……そう思った。
きっと星川さんは、私と友達になれたことが嬉しかったんだ。
だけど、この人はそんな思いを踏みにじった……。
「私の友達、返してよ……!」
怖い思いはあったけど、私は精一杯叫んだ。
こんなの、絶対駄目だから。
「友達か……じゃあお前も、同じ姿にしてやるよ!」
「っ……!」
男の人の手から、黒い光が放たれる。
テレビみたいなそれは、私に向かって飛んできて―――
どうしよう。
星川さんを助けたいのに、私も同じ事になってしまうの……?
ああ……ダメだな、私―――
「だああああああっ!」
もう駄目だと思った。目の前がゆっくりと動いて、時間が遅く感じられた。
そんな、遅い時間の中で……
「……これ以上、好き勝手はさせないわ!」
「お前……捕まえていたと思ったのに……!?」
黒い光を打ち消して、私を守ってくれたのは、さっきの妖精さん……スミレだった。
「残念だったわね。逃げ出して、スキを見ていたの」
「小動物が……!」
妖精さんは、体をパタパタとはたくと、私の方を向いた。
「大丈夫?他にけがはない……?」
「う、うん!」
心配ないと手ぶりすると、妖精さんはその手の中に注目したみたいで……
「タブルン、やっぱり拾ってくれてたのね。助かったわ」
「たぶるん……?」
スマホみたいなこれは、たぶるんというものらしい。
……妖精が持ってるんだから、普通の物じゃ、ないよね……?
「……こいつを追い払って、あなたの友達を助けるの!だから、それを使って魔法少女になって!」
……へ?
「タブルンは、魔法が使えて戦える女の子に変身するためのアイテム!あなたなら、きっと使えるわ!」
「は、はあ……」
魔法使いになれ……私は今、とんでもない話をされてるのかもしれない。
信じる信じないの話は、今起きてることを見れば吹き飛んでしまう。問題はそこじゃない。
「私が、魔法少女……」
テレビアニメでは、かわいい女の子が魔法の力で強くなるのをよく見ていたけれど、
それが私となると、どうも実感がわかない、というか、私でいいのかな?
「友達を助けたいっていう、優しくて強い思い!ピッタリよ!」
「星川さんを、助けたい……」
――さっきも思ったじゃないか。そうして、あの男の人に立ち向かおうとして……
魔法少女になったら、今度こそ……!
「なるならなるで早くしろ!定時で上がりたいんだよ!」
サラリーマンの男の人が、大声で口をはさんでくる。
定時で帰るって、ほんとに働いてる人みたい。
…さっきから一言もセリフがない!
「言ったわね?後悔しないでよ!」
妖精さんは、えらく強気だった。
「ふう……」
そして私は、魔法少女になることを決めた……そしたら、タブルンの使い方とかが自然と、
頭の中に入ってくる……。
「―――マジカル・チェンジ!」
「タブルンは、魔法が使えて戦える女の子に変身するためのアイテム!あなたなら、きっと使えるわ!」
「は、はあ……」
魔法使いになれ……私は今、とんでもない話をされてるのかもしれない。
信じる信じないの話は、今起きてることを見れば吹き飛んでしまう。問題はそこじゃない。
「私が、魔法少女……」
テレビアニメでは、かわいい女の子が魔法の力で強くなるのをよく見ていたけれど、
それが私となると、どうも実感がわかない、というか、私でいいのかな?
「友達を助けたいっていう、優しくて強い思い!ピッタリよ!」
「星川さんを、助けたい……」
――さっきも思ったじゃないか。そうして、あの男の人に立ち向かおうとして……
魔法少女になったら、今度こそ……!
「なるならなるで早くしろ!定時で上がりたいんだよ!」
サラリーマンの男の人が、大声で口をはさんでくる。
定時で帰るって、ほんとに働いてる人みたい。
…さっきから一言もセリフがない!
「言ったわね?後悔しないでよ!」
妖精さんは、えらく強気だった。
「ふう……」
そして私は、魔法少女になることを決めた……ん?
いざ手に取ってみたけどタブルンの操作って、どうしたらいいの?
こういうものは、自然と頭の中に入ってくるものと思っていたけど……
「……」
何も浮かんでこない。ここまできてどうしよう。
「ど、どうしたの!?」
様子がおかしいのを心配したのか、妖精さんが話しかけてきた。
「変身の仕方……わかんないよ」
「あっ」
うっかりしてたみたいな顔をした妖精さんは、気を取り直すように咳をして話しだした。
「魔法少女らしく、言葉が必要よ。その言葉は―――」
「……わかった!」
もう一度、私はタブルンを掲げて、言葉を叫ぶ……!
「マジカル・チェンジ!」
勝手ながら、拝読いたしました。
難しい言葉があまりなく、簡潔な文章で情景がすぐに頭に浮かび読みやすいです。
次の更新が楽しみになりました。応援します。
「ここは……」
呪文を唱えたとたん、私の周りを不思議な光が包んでいた。
「たーぶーるん!」
「えっ!?」
光の中にいたのは、私と……変身アイテムらしいタブルンだった。
そしてまた……喋っている。画面には、タブルンの顔っぽいものが映っていた。
妖精さんが喋ってるから、もう何でもありなのかな……?
「るーん!」
画面には、笑顔のタブルンと、クローゼットのような絵が映っている。
「これ……魔法少女のお洋服?選べばいいの?」
「るん!」
ご機嫌そうなタブルンは、押して押してと言ってるかのように見える。
「えと……この服でいいのかな?」
私は、クローゼットの中からふりふりとしたピンク色のドレスを選んだ。
「たーぶるんるんるん!」
タブルンのかわいらしい声が聞こえると同時に、自分の服や足に向かって光が飛んでくる……。
「わぁ……」
暖かいその光は、さっき選んだドレスに変わっていって、私の身体を包んでいく――。
定時で上がりたかった。さっさと任務を終えて帰りたかった。
魔法少女だろうが何だろうが、子供相手なら負けるはずなかった。
だが、今俺は猛烈に、後悔している。
「な、なんだ……」
捕まえた子供の友達だと言う少女は、妖精から貰ったアイテムを使って、光に包まれた。
「お前、何をしたんだ……!」
「あなたがなれって言ったんじゃないの!」
そうだ、俺は言った。「なるならなるで早くしろ」と……。
だが俺の言葉は、とんでもない力を生み出してしまったらしい。
「変身が、終わるわ……!」
「なにっ!?」
「……っ!」
光は小さくなり、四方に散っていく。そして、その中に居たはずの少女は――――
「……これ、私なの……?」
目を開けると、元の世界に戻ってきているようだった。
「すごい!ホントに、魔法少女になっちゃった……!」
妖精さんが、キラキラした目で私を見ている。
「これ、私なの……?」
腕とか足を見ると、さっきタブルンで選んだ格好に変わっている。
ふりふりとしたピンクのドレス。ところどころに花飾りがついているのが可愛らしい。
「魔法少女……マジカルガールってとこかしら?」
「マジカル、ガール……」
恰好だけじゃない。身体の奥から、力がわいてくる。ほんとに、魔法みたいに……。
これが、魔法少女の力なんだ……!
「ああああ!定時で上がれないじゃないかぁ!」
サラリーマンの男の人は、私を見るなりすごく焦った感じになって、飛びかかってきた。
私にこぶしを向けて……殴られる?
「防いで!」
「え、ふせぐって……」
妖精さんに言われて、私は思わず両手でガードをする――――
凄いよ!ましろ!これからも必ず見る!面白い!
29:ましろ◆r.:2018/03/25(日) 10:07 ――ガツンと、重い音が響く。
相手の攻撃が当たったのだろうと思った。私の腕にも、重い衝撃が伝わってくる。
……だけど、何か違和感を感じた。
「いたく……ない?」
すごく重い音の割に、痛みがない。
そして、もう一つ。
目の前が真っ暗で、何も見えない。
……思わず、目をつむってしまったからだろう。
だから、ゆっくりと目を開けてみた……。
「――なんだと……!?」
最初に写ったのは、サラリーマンの男の人が、驚いている顔だった。
「えっ……?」
私も驚いた。
相手のこぶしが、交差させた腕の中でがっちりと固められているからだ。
「ぐっ、ぐうううう……!」
交差させている腕には、不思議と力が入る。相手が引っ張ろうとしても、全く動かない。
動かないのはわかるけど……この状態から、どうしたらいいんだろう?
「防いでるだけじゃだめ!攻撃して!」
「わ、わかってるけど!」
相手の腕を固めれるから、手は使えない。だったら、使える場所は……!
「……えいっ!!」
私は軽くジャンプすると、男の人の顔めがけて思いっきり頭を縦に振った。
「がっ!」
顔……の、鼻先に当たったらしい。
男の人はよろけたけど、私が掴んでいるから倒れることもできないみたい。
「えっと、次は……」
よろけているから、腕を外すスキができた。
「はぁっ!!」
つかんでいた腕をほどくと、私はすぐさま、相手のおなかに自分のグーを叩き込む。
「のわぁぁぁっ!」
痛々しい悲鳴を上げながら、男の人は遠くのほうまで吹っ飛んだ。
……スーツだったけど、傷んだりしないのかな?
面白い!続き楽しみにしてます!
31:Moc◆AIIQ2:2018/03/25(日) 16:26続きが気になる展開が続き、自然とワクワクさせられました!これからも楽しみにしています!
32:ツウィ:2018/03/25(日) 18:09すごい!ましろはそういう才能ある!面白い!
33:ましろ◆r.:2018/03/27(火) 08:59 「……これ、私がやったの?」
男の人は、おなかを抱えて苦しんでいる。
私は、これを自分がやったということが、少し信じられなかった。
「そうよ。一応……、魔法少女の力だけどね」
「それでも、すごいよ……」
攻撃をふせいだり、頭突きしたり……
普段の私なら、考えられないような力だ。
「さて、とどめの一発よ。タブルン、お願い!」
「るんー!」
妖精さんの合図とともに、私のポケットの中からタブルンが出てきた。
ずっとこの中にいたの……?
「タブルンのクローゼットに、魔法のアイテムが入ってるの。探してみて」
私は言われたとおりに、タブルンを操作してクローゼットを調べてみる。
「ええと……これ?」
クローゼットの中に、それっぽいものを見つけた。これは……魔法のステッキ?
「るーん!」
タブルンの声とともに、それは私の手元に現れた。
重過ぎなくて持ちやすいステッキ……魔法少女って感じのアイテムだ。先っぽには、花みたいな飾りがついている。
「それで、あいつごとお友達の玉を浄化しちゃって!」
「じょうか……あ、うん!」
星川さんを、ようやく助けることができるんだ……そう思いながら私は、
いまだにしゃがみこんでいる男の人に、ステッキを向けた。
「くっ……特注のスーツが……」
スーツを気にしている場合ではない。このままでは任務失敗だ。
せめて、この玉を持って帰るくらいはしたい。
だが、あの少女の攻撃は、見た目以上に強力だった。
大の大人が起き上がれないレベルとは……。
「くそ……」
しゃがみ込みつつ、俺は目線を少女に戻す。
「……っ!?」
するとどうだろう……少女は俺に向けて、杖のようなものを向けている。
直感した。
あれを食らったら、仕事どころではない――
「いい?呪文は、今教えた通りよ」
「うんっ……!」
妖精さんとうなずき合った私は、自分の中に流れる力をステッキに集中させる。
「ふぅっ……いくよ!」
ステッキの先についた花は、その力を解き放つように、ぱあっと光りだして……
「解き放て、魔法の花!……フローラル、マジック!」
私が呪文を叫ぶと同時に花が開いて、そこからぶわぁーっと、ピンク色のビームが発射された。
「くっ、これじゃどうしようも……!退くしかない!」
「あ……!」
男の人は、出会った時とは全然違う焦った顔をしていた。そして、ビームが当たる直前……
星川さんが入った玉を置いて、消えてしまった。
ビームは、玉だけに当たった。
そして、悪いものが消えるみたいに玉は消えていき……
「助けられた……の?」
ビームも終わったころ、そこには星川さんが、気持ちよさそうな顔をして眠っていた……。
「早く、起こしてあげなきゃ……あ」
「ん? どうかした?」
星川さんを起こそうと駆け寄ろうとしたとき、私はすっごく大事なことに気づいてしまった。
「このかっこう、元に戻らないの?驚かれちゃうよ……」
こんな格好だから、私だとはわからないはず。
でも、それを寝起きの女の子に見せるのはどうかと思う。
「あ、それもそうね。戻りたいって思うだけで、元の姿に戻れるわ」
「そうなの……? 意外とかんたんだったね……」
私は、言われた通り……思ってみた。
「……もどれ!」
思わず口に出てしまった。
直後、魔法少女の服は、ピンク色の光に包まれてぱぁっと消えていく……。
「も、もどった……」
上も下も、さっきまで着ていた洋服に戻っていた。
これで、大丈夫。
「星川さん、起きて!」
私はとりあえず、名前を呼びながら体をゆする。
「ん……あさつゆさん……?」
「うん!朝露ひなのだよ!」
何事もなかったかのように、星川さんは寝起きな顔をしていた。
「わたし……どうしてこんなところに?」
さっきの人に襲われたこと、覚えていないのだろうか。
なんて説明をしたら……。
「あれ、うさぎさん……?」
「えっ――――」
私のすぐ後ろ……妖精さんがいる。
それが、見つかってしまった。
なんでそっちは隠れてないの……!?
どうしよう。妖精さんが見つかってしまった。
よくよく見たらウサギじゃないし、星川さんにもバレちゃう!
「わぁ、かわいい……」
しかし星川さんは、普通にペットを見るような目で妖精さんを見つめていた。
「ワタシ、うさぎじゃないわ」
あっ
「え、うさぎさんが……喋った?」
「だから、ワタシはうさぎじゃないわ。妖精よ」
しかしのしかし。私の思いとは逆に、妖精さんはぺらぺらと、星川さんに話しかけている。
「ようせい……?」
星川さんは、いきなりこんな話をされたからなのか困った顔をしていた。
……一番困ってるのは、私だった。これ、どう説明すればいいんだろう。
「そこにいるひなって子がね、あなたを助けてくれたのよ」
「ちょっ……!」
な、なんでそこまで言われるの!?
魔法少女の話までしなきゃいけなくなる……
「朝露さんが……どういうこと?あと……妖精って……」
そこ、聞き流してくれるはずないよね。
「あのね、星川さん。ここまでに色々と事情があってね。それでね……」
ああもう、どう説明したらいいか全く分からない。
「……魔法少女?朝露さんが?」
「う、うん……」
結局、一から十まで全部話すことになってしまった。
いきなり、正体がバレたのだ。
「こうなる前のこと、何も思い出せない。でも……怖そうな人から、私を助けてくれたんだよね?」
「そう!カッコよかったわ!とっても!」
妖精さん、そんなに言ったら、恥ずかしすぎるっ!
「……あのね、星川さん。これ、内緒にしててほしいの」
「えっ?」
周りの人に知られたら恥ずかしいとか、大騒ぎになるとか、まあ色々と。
「……わかった。助けてくれたんだもん。それに……」
「それに?」
星川さんは、一息おいて続けた。
「……ともだち、だから」
なんだか恥ずかしそうだったけど、その言葉はしっかりと聞こえた。
「星川さん……ありがとう!」
ふう……これで、一安心?
その後私達は、先程別れた道まで戻ってきた。
「ちょっと、遅くなっちゃったかな」
夕日が、ちょこっと顔をのぞかせている。5時前だろうか?
「朝露さん、……またね」
「うん!」
お互いに手を振って、今度こそ私達は別れた。
星川さん、また変なことに巻き込まれないと良いけど……
「また、あなたが変身すればいいじゃない」
表情で、考えてることを読まれた……!?
妖精さんは他人事みたいに話すけど、もうあんなのはこりごりだ。
「あなたねぇ……はっ!」
自分も家に帰ろう。そう思ったとき、一つの重大な問題が浮かんできた。
「あなたを、お母さんやお父さんに見せるわけにはっ……」
ペットを飼っちゃいけないとかは、ない。だけど、この子は犬でも猫でも、うさぎでもない。
妖精拾ってきたーなんて、言えない。
じゃあ、どうしようか。
「も、もう人前で喋りだすのは、なしだからね!」
「わかってるわよ。安心して」
「ホントかなぁ」
どの口が言うかと思ったけど、今は信じるしかない。
家にたどり着くまでの間……どうやって説明しようかと、私は考え続けていた――
「ママ、ただいま!」
「おかえり、ひな。遅かったわね、どうしたの?」
「あ、それはね……」
その後普通に帰った私は、魔法少女のことは隠しながらも、星川さんという友だちができて、一緒に遊んで帰ったことを話した。……ちょっと嘘が混ざってるけど、良いよね?
「はずかしがりやだけど、優しい子なのね。ひな、仲良くしなさいよ」
「うん!わかってるよ、ママ」
玄関で会話をしたあと、私は自分の部屋へ直行した。
チラッと靴置きを見たけど、パパの靴はなかった。まだ、帰ってないみたい。
「……よし、出してあげるからね」
私しかいない、窓もしまって風も吹かない自分の部屋。
入ってすぐ、私はランドセルを床において、鍵を開けた……。
「ぶはぁっ!ワタシ、死ぬかと思ったわ……」
ぷっちんという言葉にしにくい音とともに、ランドセルに入っていた妖精さんが飛び出してきた!
「ごめんごめん」
「それで済んだら魔法少女はいらないのよ……」
軽い言葉で返事をしたけど、妖精さんの方は暑そうだった。
そりゃ、教科書も入ったランドセルに押し込まれてるもんね……。
「妖精さん、色々と教えてほしいよ……」
今日、妖精さん……スミレと出会ってから、変な人が現れたり自分が魔法少女になったりと、
いろんな事があった。
聞きたいことはたくさんあるけど、小学校三年生の私にはそれを整理するのは難しい。
「わかったわ。ああ、そうそう……」
「ん?」
「妖精さんじゃなくて、スミレでいいわよ」
「それで、何から教えてほしいの?」
妖精さん……スミレは、あぐらをかくみたいに座っていて、すごく人間っぽかった。
「えっと……」
何から聞こう?たくさんあるなぁ……。
「あなたは、どこから来たの?」
とりあえず、一番簡単そうな質問をしてみた。
少なくとも、地球じゃあないと思う。
「……妖精の王国よ!」
「ようせいの、おうこく?」
ババーンという音が聞こえてきそうなくらい、スミレはドヤ顔で言った。
妖精の王国……凄く、ストレートっていうの?わかりやすい名前……。
「この世界の反対側にある、とてもキレイでステキで妖精がいっぱいいる場所なのよ」
「そうなんだ」
他にも、スミレみたいなのがいっぱいいるんだ……
そんな場所は、とてもいいところなんだろうなと私は思った。
「それで、何で人間の世界に来たの?」
「あ、さっきも言ってたわねその質問」
「そういえば――」
私とスミレが会ってすぐ、似たような質問をした。なんだったかな……
「なんで、埋まってたの?って聞いたよね……」
色々ありすぎて、忘れかけていたこと。
スミレは不思議な事に、頭から埋まるというおかしな状態だった。
「その質問、ちょうどいいわ」
「え?」
スミレは、コホンと小さく咳をして続けた。
「その質問が、今日起きたこと全てにつながることよ」
「本当!?」
今日起きた、不思議な出来事……。全部、わかるんだね!
「……長くなるわよ?」
長くなる。そう言われて私は、「うん」とうなずいた。
長い話でも、謎が解けるなら……と。
「妖精の王国は、いつも平和な国だったわ……」
「うんうん」
話しているスミレの顔は、なんだか暗かった。
「ある時、王国に……大きな敵が現れたの」
「てき?」
「敵は、ディスピアーズと名乗ったわ。そして、王国は攻撃を受けた……」
「でぃ、ディスピアーズ……それで、どうなったの!?」
私は、とてもスケールが大きい話に、興味しんしんで耳を傾けていた。
だけどその気持ちは、次のスミレの一言でくずれる事になる……。
「ワタシ以外の妖精は、みんな捕まったわ」
「……ええ!?」
こんなこと、話させたらいけなかったような気がした。自分の友だちがみんな、捕まってしまうなんて……。
私は驚いたと同時に、少し申し訳ない気持ちになった。
「ワタシは、タブルンを持って妖精の王国を離れたわ。
人間の女の子に、この世界を救うよう頼めと言われて」
「それで、人間の世界に来たんだ……」
「でも、それが敵にバレた」
「えっ?」
「さっきのあの男……あいつに追われたの」
あの男……スミレの話から思い浮かぶのは、星川さんをあんなことにしたサラリーマンの男の人だけだった。
「それで、逃げながら人間界に降りたときに……墜ちた」
「あ――――」
落ちた……それで、思い出した。
朝、私に向かって落ちてきたのは……。
「……その瞬間、私見てたかも」
「そうなの!?」
今朝、目の前に迫ってきてギリギリ私を横切ったことを話した。
「なら、気づいたわよね?ワタシがいたこと」
「それは……」
落ちたことすらわからなくて、気づかなかったことも話した。
「ああ、それならしょうがないわね……」
なんかあきれたような顔をしてたけど……きのせいきのせい。
「で、あなたを魔法少女にしたは良いけど、これものすごく危ないわよ?」
「う、うん……」
さっきの男の人も、魔法少女になってなかったらすごく危ない人だった。
私も、星川さんと同じ様になっていたかもしれない。
そう思うと、少し怖い。
「ディスピアーズのあいつが人間界に来てやっていることは、人間の希望を抜き取ることよ」
「きぼうを……」
さっきも言っていた。明日への希望が、邪魔だと……。
「ホシカワアマノって言ったかしら?あの子みたいな被害者が、また出てくる可能性もある。
阻止できるのは、魔法少女だけ。でも……強制はしないわ」
「……つまり、魔法少女をやめることも出来るの?」
「ええ。ワタシは代わりの女の子を見つけてみせる。あなたは、普通の生活のままでも問題ないの!」
魔法少女じゃない、普通の生活……でも、私は見てしまった。希望を抜かれた人がどうなるかを。
代わりを見つけられなかったら、人間の世界も大変なことになってしまう。
「スミレ……私、やる。魔法少女を続ける!」
「良いのね?」
私はまた、「うん」とうなずいた。
「悪い奴らから、みんなを守れるなら……私は頑張る!」
「……じゃあ、今から正式にお願いね。マジカルガール、ひな!」
「うん!」
マジカルガール……そう呼ばれて、悪い気はしなかった。
「じゃあこれ、さっきのタブルン。あなたのものよ」
そう言うとスミレは、私の手にタブルンを握らせた。
「わあ……」
タブルンにも顔があって、しゃべるのは知っているけど……夜の時間は、
気持ちよさそうに眠っている。いいなぁ
「時が来たら、王国を取り戻すために戦ってもらうと思う」
「王国を……」
また、スケールの大きい話。
そしてそれは、私に与えられた役目。
「私、出来るのかなぁ」
そんな大きなことを抱えるには、まだ私の心は子供だった。
「大丈夫。魔法少女になるのは、あなただけじゃないから」
「えっ?」
スミレはいつのまにか、両手にタブルンを持っていた。
青と黄色……私のピンク色とは違うものだ。
「あと二人よ。魔法少女になれるのは」
「二人もいるの!?」
二人。そう聞いて、さっきの不安が収まってきた。
三人ならなんとか……と。
「でもまだ、見つけてないの」
「そんなぁ!」
一気に落とされた気分。結局一人なの……?
「安心して。タブルンには、魔法少女にふさわしい女の子を見つける機能が付いてるから」
「本当!?」
こうして私は、魔法少女として戦うのと、魔法少女探しの2つを頼まれた……。
あと二人、そもそも私の周りにいるのかなぁ?
「ひな、ごはんよー!降りてらっしゃい!」
下の階から、ママが私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「すぐ行くねー!」
私も、大きな声で返事をした。
そっか、もうご飯の時間か……。
窓の外は、すっかり暗くなっている。
こんな時間になるまで話してたんだね。
「あのー……ひな?」
「ん?」
自分の部屋から出ようとすると、スミレに呼び止められた。
「今から、夕食なのよね?」
「うん」
何か言いたそうだけど、遠慮してるようにも見える。
どうしたのかな?
「実は……ワタシもおなかが空いてるの!」
「あ、そっか……」
人間の世界に来て、何時間もああして埋まったままだったもんね……。
「スミレ、人間のごはんは食べれるの?」
「ええ。向こうでも、食べてるものは人間とほぼ同じよ」
「そうなんだ……」
ほぼ同じ……何を食べてるのか気になって、さらに妖精の世界に興味がわいてくる。
「……あ、そうだ。いいものあった!」
私は、ごはんを食べると同時にスミレに、「いいもの」を取ってくることにした。
「おう、ひな。お帰り」
リビングに降りると、パパが帰ってきていた。
「ただいま!パパも、お帰りなさい!」
私が返事をすると、パパはにこっとした笑顔を返してくれた。
「よし。ひなもパパもそろったことだし、ご飯にしましょうか」
「わーい!」
ごはんをよそったり、お皿を並べたりと、
家の中では一番楽しい時間だ。こうしてる間は、いやなことも忘れることができる……
「パパ、今日学校でね……」
初めてできた、女の子の友達の話をした。
「そうか、転校初日で友達ができたのか!大事にするんだぞ」
「うん!」
……色々話しながら、ご飯の時間は過ぎていく。
「……ごちそうさま!」
「よく食べたわねー。お皿、流しに置いといてね」
ママに言われて私は、流し台に食べ終わった後のお皿を置いて行った。
……そして、ここでやることはもう一つ。
「えっと……あった!」
台所といえば、食べ物がたくさん置いてある。
私の思った通り、お菓子の買い置きがいっぱいあった。
「ひとつ、持っていこう……」
とりあえず私は、一袋ずつになったポテトチップのひとつをちぎって、ママたちに見えないように隠し持つ。
「わたし、部屋に戻るね!」
「あら、勉強?」
「そんなとこ!」
本当のことは隠しながら、私は自分の部屋に帰るのだった。
「スミレ!持ってきたよ!」
「な、なにを?」
私は部屋に戻るなり、お腹をすかせているスミレのため、さっき持ってきたお菓子をプレゼントした。
「え、いいの!食べていいの!?」
「うん。お腹空いてるんだよね?」
私がほほえむと、スミレは感激したようにお菓子の袋を開けた。
……開けられるんだ。
「こ、これはポテトチップというやつね……ん、おいしい!」
びりびりと袋を破ったスミレは、顔を袋に突っ込んで中身を食べている。
「ああ……」
その食べっぷりに、私は出す言葉がなかった。
「ふう……美味しかったわ!」
からだが小さいからか、食べ終わるのに少し時間がかかっていた。
でも、袋の中身はすっかりからっぽ。
「おいし…か……ぐー」
「えー!?」
スミレは、そのまま目を閉じてしまう。
食べ終わってすぐに、眠ってしまったみたいだ。
「まだ、聞いてない話もあったんだけどなぁ。私も寝ちゃおう……」
スミレを私のベッドに寝かせて、私も寝る準備をすることにした。