「体は1つでもね、心は違うの」
俺は今、奇妙な女性と居た。
仕事の休憩がてら近所の公園のベンチで座っていたところ、見知らぬ女性に声をかけられたのである。
「私の名前はアゼル。そして、今奥で眠っているのはね、バイジャンっていうの」
奥で眠っている? 今、この公園には彼女と私以外、誰もいないはずだ。やはり、彼女はとても奇妙な人である。
「アゼルさんでしたか……まさか幽霊でも見えてるんて言いませんよね? 」
私はそう尋ねた。
実はこの公園では先日、連続通り魔事件の現場なのである。10人の無辜が殺されたものの、まだ被疑者は逮捕されていないのだ。で、その被害者たちの幽霊が徘徊しているという噂がネットで拡散されていた。とてもくだらない話だが。
「ええ、当然ながら幽霊なんて見えませんよ。さっきも、体は1つでも心は違うといったでしょ? 」
少なくとも幽霊を見たと言いたいわけではないが、意味不明な言動には違いなかった。
「で、そのバイジャンって人はどこにいるんです? 」
私は内心、彼女に対して馬鹿にしていた。今度はどんなことを言うのかと、面白半分で聞いたのである。
「今は奥で眠っているのです。ああ、すみませんね心の奥深くですよ? 」
……?
なるほど、この人は自分を二重人格と言いたいわけだ。
「そういうことですか。で、そのバイジャンさんってどういう人なんですか? 」
「さあ、バイジャンが起きている時は、逆に私が眠っているからわからないわ」
「面白いですね……さて、私はそろそろ仕事に戻るので、失礼しますよ」
私はそう言って立ち上がり、公園を後にした。
「なあ、あんた」
後ろを振り向くと、先ほどの女性が立っていた。だが、話し方は先程とは全くもって違う。まるで男のような話し方だ。
「なんです? 」
「あんたが、11人目ってことで良いよな? 」
彼女はナイフを手にしていたのであった。
私と私【超短編】 完