感想等、自由にどうぞ。
2:匿名:2018/04/08(日) 21:47スレチです
3:越後:2018/04/09(月) 16:57 >>2
いや、これタイトルで今から中身書くところなんですけど……
ガンバ‼スレチとか関係ない!
小説って大変だから、ガンバ‼
chapter-I -1
……一体、何処で何をやらかしたのだろうか。
この不肖、七ッ木 光介、高校2年生。
今まで教師に立て付いた事など一度も無く、成績はいつも上の中程度。特に可もなく不可もない生活態度で過ごしてきて、何の問題もなく生活してきた。はず。そう、はずである。
だとしたらこの状況は一体何だ。
本日高2の一学期始業式。担任もクラスメイトも変わり、さあ心機一転! 今日もお仕事頑張るぞい!と意気込んでいた。
だというのに、その初日からいきなり先生に「あとで職員室に来なさい」宣言である。
……何処に間違いがあった……⁉
原因はともかくまず職員室に入らなければ話が始まらない。それはわかる。
分かるんだがどうも足がすくんで動かない。明らかに取っ手を掴む右手が震えている。
ここまで来たらもう開き直ってやろうか。
「くっ……俺の右手がうずくぜ……!」みたいな。
中に何が入っているかは考えていなかったな、やめよう。
何はともあれ、俺はそんな震える右手で職員室の入り口である引き戸の取っ手を掴み、ゆっくりと力を入れていく。
と、その時だった。
目の前の扉がひとりでにスライドしていき、俺の理解の範疇から文字通りすり抜けた。
あまりに一瞬で反応し切れなかった俺は、指を取っ手にかけたままだったせいで、指が扉に持っていかれ、そして見事に____
____思いっきり挟んだ。
「_____ギャアァァアァアァアアァイッタァアァアアアッ⁉⁈」
「あっ……ごめんなさい」
情けなく涙目になりながら蹲る俺を見下ろして、とても申し訳ないと思っているように感じられない、一貫とした無表情でそこに立っていたのは……
一人の少女だった。
Chapter l-2
「………………」
「………………」
「………ごめん、見てなかった。それじゃ」
「お、おう……気をつけてくれ……」
さらっと謝りさらっと去っていく少女。
……非常に腑に落ちない部分があるのだが、謝ってくれただけ良しとしよう。世の中には謝りすらしない奴もいるからな。うん。
さっきの少女には見覚えがある。栗色の髪を後ろに一纏めにしたポニーテールの女の子。確か同じクラスの女子だ。
ガイダンスの時に随分と大人しい人だとは思っていたが、多分あの調子だと大人しいというより無愛想なだけだろう。
挟んだ指を見る。腫れて少し赤くなっているものの、爪は剥がれてないし、放っておけば痛みも引くだろう。
気を取り直して、俺は職員室の扉に指をかけ、慎重に開いた。
「えー……2年C組の七ッ木 光介です……あのー、水上(ミナカミ)先生はいらっしゃいますか……?」
「おー、七ッ木くーん、こっちこっちー」
多くの机が立ち並び、卓上に一台ずつPCか置かれている。そのうちの一台の陰から手が伸びてひらひらしているのが見えた。
しかし軽いな。そんな調子でいいのか先生よ。
何を言われるのか、一抹の不安を抱えながら水上先生の机に歩いて行った。
と、目の前まで行くや否や、まず先生が一言。
「七ッ木君さ、帰宅部だよね?」
「……え、はい」
突然何言い出すんだこの人。喧嘩売ってんのか。
少々怒りを覚えるレベルの、あまりに直球な物聞きである。
「んじゃさ、部活作りたいんだけどさ」
「何のですか」
「______ゲームの、だよ」
「____はい?」
Chapter I-3
ゲームの部活。
いや、まあ面白そうだとは思うんだが、そんなことが出来るのか。
というか、何故その提案をよりにもよって俺にして来たのか。訳がわからない。
光が反射して、先生の目がどんな表情をしているのかすら分からない。本気で言っているのか、或いは冗談なのか。
「…………ナンデ?」
思わず反応がどっかのニンジャみたいになる始末である。
「やー、ほら、昨日のガイダンスで自己紹介やらせたじゃない?」
「言い方がいちいち引っかかりますが続きをどうぞ」
「その時に君だけ目が腐ってたんだよね」
「あれ、何だろう、唐突に一発殴りたい衝動に駆られているんですけど」
「もうね、見た瞬間に『この子ならイケるな』って思ったのよ」
いやもう何だよそれ知らねぇよ。
こっちがこんなに怒りを露わにしているのにツラツラと好き勝手話続けるとは、とんでもない肝の座りようである。
……とは言え、実際今は帰宅部だし、まぁ暇と言えば暇だし、理由が何であろうと学校にそんな部活が出来れば大会なんかも出やすくなったりとか色々楽しそうではある。
そんな事を一瞬でも頭によぎってしまったのが運の尽きだった。
「……まぁ、面白そうなんで良いですけど」
「よく言ってくれた! 君ならそう言ってくれると思ったのよ〜」
昨日初めて会った相手に寄せる信頼度では無いと思うんですがね。
何はともあれ、こうして、人生16年目にして初めてのまともな青春が幕を開ける____
______と、当時は思っていたのだ。
見事に思い込んでしまっていたのだ……。
Chapter II-1
とまぁ、そんな事がありまして。
通称「ゲーム部(仮)」の部長にさせられて早数ヶ月が過ぎ。
今日で、夏休みまであと一週間と言ったところ。
炎天の夏空が地面をジリジリと焦がす中、俺は__
__独り寂しく、画面の前でコントローラーを操作していた。
あえてもう一度言う。独りで、だ。
この部室は普通の教室の半分程度の大きさで、縦長な部屋である。
入り口から見て手前側にパイプ椅子三脚(言うまでもなく、うち二脚は未使用)、その向かい側に据え置き機用のテレビ。奥側に大きめのデスク、デスク用の椅子、ゲーミングPC(自前)が設置されている、といった構造である。
その広さも相まって、虚しさが留まることを知らない。俺は一体何やってんだろう。こんな筈じゃなかった気がするんだが。
「あ゛〜、肩こりそうだなこれ……」
デスク用椅子にグッタリと座ってぐるりと回し、その後ろ、部室の最深部に位置する窓から外のグラウンドを見る。
楽しそうに駆け回ってボールを追いかけている運動部の皆さん方が見える。心無しか、太陽の光と流れる汗で輝いているようにすら見える。お前ら何キラキラして笑顔見せてんだ真面目にやれ。
居たたまれなくなってきたので大人しく椅子を半回転させ、目の前のディスプレイに意識を集中させる。
画面に表示されると、丁度読み込みが終わりそうなところだった。
「はぁ……さてっと、今日も頑張りますかねぇ……」
俺は一言だけ小さくぼやき、コントローラーをしっかりと掴み直した。
Chapter II-2
……無音。ほぼ無音。
PCのファンと、コントローラーのボタンを押す音だけが虚しく響き渡る空間。
放課後に入って早くも1時間半が過ぎ、傾き始めた日の光がディスプレイにクリティカルヒットしている。
「____だあぁ! もう反射がウゼェ!」
あまりに画面がチラつくのに、俺の怒りが沸点に達し、後ろのカーテンを乱暴に閉める。
「あ〜、もうやめだやめ! 本日の営業終了ッ!」
俺は椅子に腰かけたまま縦に伸びをし、そのまま惰性で鞄を持ち立ち上がる。
実際のところ、こんな部活いつ帰ってもいいのだが、「もし誰か入部希望者が来ることがあれば部室を空には出来ないだろう」という、たった一筋の望みにかけて居座っている状況だ。
……まあ、それがなければ、この部活は実体が無いにも等しいわけだが。とどのつまり、俺が最初で最期の砦である。なんか格好いい。
部室の出入り口であるドアまで歩く途中、広げて置いていたパイプ椅子を畳んで隅に立て掛けて、一応の片付けを済ませる。
壁のスイッチに手を掛け、部屋の電気を落とすと、何故か自然に溜息が出た。
「んじゃ、お疲れさんで〜す……」
誰もいない部室に挨拶をして、ドアノブを捻ろうと手を伸ばした____
____その時、ドアの向こう側から、木を叩くような軽い音が聞こえた。
あまりに馴染みの無い音に、「この部室のドアがノックされた音だ」という事に一瞬遅れて気づく。
ドアの真ん中に申し訳程度に付けられたすりガラスの窓の奥には、明らかに人影が見えるを
……誰だ? 先生か? いや先生はわざわざノックなんかしないで入って来るし、何よりまずほぼ来ない。
なら、一体誰だ?
「……どうぞ〜……?」
そう控えめに声をかけると、少しして。
カチャッ、というドアノブを回した音が聞こえ、直後にドアがこちら側に開いてきて____
あまりにも動揺し過ぎて、手の位置を固定したままでいたのが間違いだった。
グキッ、と。
鈍い音とともに鈍痛が指先に走る。
開いてきたドアに思いっきり指をぶつけた、その結果だ。
「い゛ッッだああぁぁぁぁああぁぁああッ⁉」
突如襲った痛みに、俺は部室の床をのたうち回った。
涙目になりながら、開かれたドアの向こうにいるであろう何者かに抗議の意を示す目を向ける俺。
だが、そこにいた意外な人物に、俺は目を見開いた。
そこには、いつぞやの、ポニーテールの少女がいたのだ。
「………………あれ……何か……デシャヴ……」
前回修正:人の影がみえるを→人の影が見える。
畜生……フリックめ……!
Chapter II-3
一体何が起きている。
この2、3ヶ月間、先生以外の来訪者が0だったこの部室に突然やって来たのがあの時の少女で?
しかもあの時やられた不運が、たった今完全模倣されて俺に降りかかっていると?
奇跡かどうかは知らんが幸か不幸かで言えば幸よりの不幸だろう。
突然の出来事に頭の整理が付かないでいると、かの少女は無表情でこちらを見下ろしている。
同じクラスな訳だし一応名前だけは覚えていた。
こいつは秋宮冬花だ。
クラスでも基本積極的に誰かと話している姿はあまり見たことがない。自分の席で黙々と本を読む姿を、昼休みによく見かけていた。
「……何か用っすか……?」
俺はジンジンと痛む指に気を遣いながら立ち上がり、秋宮に聞いた。
すると彼女は少し視線をズラして、
「………………ええ、少しね」
と小さく呟いた。
……まあ用事無かったら来ないだろうな。
「まあ、その辺で適当な所に椅子置いて座ってくれ」
「____殺風景ね」
「うるせえよ」
言いつつ、秋宮は自分の分のパイプ椅子を持ってきて、テレビ画面の前に置いた。
ファーストコンタクトと態度は控えめに言って悪いと言えど、この部設立以来の初の来客に、俺自身どことなく浮かれている節はある。
「で、何の用だ?」
PCデスク用の大きめのチェアを移動させながら、改めて秋宮に問う。
正直なところ入部してくれれば対戦相手なりチームメンバーなりになってもらって頂きたいところなので、是非とも要件はそれ関係であって欲しい。
が、現実とはそんなに甘くないものである。
「用事と言うか……水上先生に『良いから行け』ってしつこく言われて、まぁ……それで……」
……空気がドズン、と音を立てたように一気に重くなった。
本当にあの先生ろくな事しやしねぇ。ぬか喜びさせやがって。
要するに俺がずっと一人でいるからって先生は先生でこうやって強引な勧誘してるって事なんじゃないのか、それ。
「……え、ちょっと待て、まさかクラスの奴ら全員にそうやって入部促してたりとかしないよね? ね?」
もしもそうだったら俺の高校生活終わりである。
「……いや」
しかし、彼女の口から突いて出た言葉は、想像以上に俺の頭を混乱させるものだった。
Chapter II-4
「そもそも、私も最初から部活やらないかって言われてたから。多分私にしか言ってないと思うけど」
最初から。
要するに「部活を作る前」からってことになるんだろうか。
「……えー? それはつまり……秋宮は俺と同じく『ゲームやらんか』と勧誘されて?」
「そう」
「……ならば何故お前がここに来るのが今なんだ」
「ずっと蹴り続けてたから」
______うん。
物騒に聞こえるがこの場合の「蹴る」は「誘いを断る」って用法でいいんだよな。そうだよな。
とにかく、大体の事情は読めた。
つまるところ、勧誘をされては断りされては断りを続けた結果、根負けして渋々やってきた、と言った所だろう。
……いいのか、それ。
「あの、別に本気で嫌なら無理して来なくても良かったんだぞ……?」
少し居たたまれない気持ちになり、オドオドしながら慎重に言葉を続ける。
「いや、でもまぁ、何だかんだで来てみれば面白そうかなって」
「あ、そう……」
別に、来たところで大して面白いもんでもない訳なんだが。
「あー……ってかあの先生にここ関係で目を付けられたって事はそこそこのゲームの腕前はあるんだろ?」
「まあ……何回かFPSで全国ランキングで100位以内入ってる程度」
「程度ってお前」
とんでもない暴論が繰り出された気がする。そんな簡単に行けるもんじゃないぞ、全国トップ100とか。
「後まあイカのXパワーランキングで20……何位とか」
「ヘビーゲーマーじゃねぇか‼‼」
是非とも入部して頂きたい。大会出るにはあと二人は必要だが、とりあえずこの逸材を逃す手は無い。
……因みに俺の名誉の為言っておくと俺はXパワーランキングで8位に入ったことがある。勝った。
「成る程ねぇ……んじゃとりあえずあれだ。腕前確認も兼ねて……」
俺はチェアから立ち上がり、黒光りするオーソドックスな形の、持ち手付きコントローラー……所謂proコンを持ち出して一言。
「……乱闘、やります?」
「………………あ、私GCコン派なんで」
「ガチじゃねぇか! いやあるけど!」
……ほんっと、入部して欲しい。
Chapter II-5
まあ、とは言えども。
人が一人増えただけで、やる事は何ら変わらない訳なんですが。
少しだけ賑やかになった筈の部室には、相変わらずボタンをカチカチと打ち鳴らす音が響き渡る。
率直に言えば、秋宮は期待通り、相当に上手かった。
パターン攻撃から脱出するテクニック、所謂ヒットストップずらしも当たり前のように成功させてくるし、ジャストガードの精度も高い。
「……秋宮さんよ」
「何よ」
画面から目を離さないまま、俺は秋宮を呼び止める。
「今何部なんだ?」
「帰宅部だけど」
俺の問いに、別段興味を示したわけでもなさそうにそう返答する秋宮。
どうやら他に入っている部活は本当に無いらしい。流石にあったら先生もそんな熱烈に勧誘しないだろうが。
「んじゃあ一つ提案があるんですけど。はいドーン」
「ぅあッ⁉」
話しかけるのと同時に、秋宮が見せた隙に俺が容赦なく入りこみ吹っ飛ばした。なんか睨んできたが知らん。隙を見せた方が悪い。
ともかく、これで秋宮はストック0。ゲーム終了だ。
俺はコントローラーを乱雑にデスクに置いて、秋宮に向き直る。
「頼む。この部入ってくれないか」
言うと、彼女は少しの間、顎に手をやって思案顔をしていたが、やがて一息ついて気怠そうに言った。
「……良いわよ別に。どうせ早く家帰ってもやること無いからね」
__あっさりと快諾されてしまった。
「よっしゃ! 言ったな⁉ 絶対だぞ⁉」
初の部員獲得に、これ以上ないほどテンションが上がる俺。その様子に、秋宮は「別にこんな事で嘘なんかつかないし……」と面倒臭そうにこちらを睨んでいた。
何はともあれ、夏期休暇前に部員を獲得出来たのは幸運だったのだ。
今日の出来事は、大きな一歩なのだ。
「……ところで、この部活、名前は?」
秋宮の純粋な問いかけに、俺は「ゔっ」と声を詰まらせる。
「いや、その……まだ無い」
目をそらしながら俺が言うと、秋宮は多分今までで一番大きな溜め息を吐いた。
「______馬鹿?」
ええ、馬鹿ですよ。どうせ馬鹿ですよ。部活の名前一つ決められない、センス皆無の馬鹿ですよ。
気がつけば、部室にはもう赤みがかった光が差し込んでいた。