ただの短編よ。
考えて頂戴。
「ねえ、わたしは、世界が腐っていると思うの」
雨が降る日だった。目の前の少女の顔は、雨傘の陰に隠れて見えなかった。だがしかし、その声だけは、揺るぎなく、滴が地面を叩く音よりも明確に、儚く聞こえた。だが俺は、少女のいうことを、理解してはいなかった。
「そうか」
ただ、曖昧な言葉を投げかけることしかできなかった。
「一つだけ聞くわ」
少女の言葉に、俺は静かに頷いた。すると少女は、雨傘を閉じて、腕を下げた。か細い雨が、少女の体に当たって微かに律動を刻む。
「あなたは、わたしを理解してくれるかしら?」
この問いに、微かな希望を孕んでいたと気付けていたならば。俺は、少女の黒瞳から目を逸らして、こういった。
「残念だけど、俺には理解できない」
少女は、微笑んで、再び雨傘を差し直した。
それからも雨は、ずっとずっとやまなかった。
これからも、前も。
俺があの時、無理やりにでもあの雨傘を奪っていたならば。
俺があの時、慟哭と孤独で消え入りそうな黒瞳を、見つめてあげたなら。
俺が、あのとき__
そうこうするうちに、なにもかもが終わった。
別の時間軸の話だけれどね。
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