(1)
私の目の前には玉座らしきものがあった。
その玉座らしきものには、王道RPGゲームに登場する王様のような恰好をしている中年の男が座っている。
さらにその者の横には少年少女そして中年の女性が立っており、仮に玉座らしきものに座っている中年男性を国王とするならば、中年女性は王妃、そして少年少女は王子や王女と推察することができる。
「ほう……勇者の召喚が成功したようだな。とはいっても4人のはずが、何故か5人であるのが、まあ些細なことは無視して今は召喚に成功したことを祝福すべきだろう」
玉座らしきものに座っている中年男性がそう言った。
「おい! ここはどこなんだよ」
「そうよ! 家に帰ろうと思って校門を出た思ったら、なんでこんなところに居るのよ」
「これはゆ、夢なのかしら」
「…………」
真横から声が聞こえてきたので、そちらを見てみると、私以外に高校生らしき4人がいた。何故、高校生らしきかといえば、4人が制服を着ているからである。
「うむ。突然のことで驚いているようだが、君たちは勇者として召喚されたのだ」
再び玉座らしきもの座っている中年男性が言う。
「はあ? 勇者ってなんだよ。おっさん中二病なのか! 」
「勇者って……、あんたたち馬鹿にしているの! 」
「やっぱり夢なのかな」
「…………」
そして高校生らしき者たちが抗議の声をあげた。
「おい貴様ら! 国王陛下に対してそのような態度をとるとは! 」
抗議の声をあげた途端に、私たちの両サイドに居る貴族風の身なりの男たちからの口撃が始まった。
「まあまあ。彼ら世界を救う勇者様なのだ。しかも突然の召喚で戸惑っているわだから仕方のないことだ」
と、国王が彼らを宥める。
それから国王はなぜ勇者の召喚をしたのかについての説明を行った。まず、約1000年前にこの世界を支配していた魔王をかつての勇者たちが討ち滅ぼしたものの、つい最近になって魔王が復活したとのことである。世界各国の精鋭騎士団等が征伐に向かったものの、返り討ちに遭い、次なる策として勇者の召喚を行ったとのことらしい。そして勇者として召喚された者は、少なくともこの世界では潜在的に人並外れた強さを有し得る素質を持っているのだという。
「もしかして……い、異世界に来てしまったのか? 」
「そ、そんなのありえないわ! 」
「ゆ、夢じゃないの? 」
「…………」
ここが、異世界……。
どうにも実感が沸かない。だが、とりあえずはここが異世界であるということで行動しようかと思う。
「王様。あなたに聞きたいことがあるのですが、先程、『何故か5人であるのが、まあ些細なことは無視して』と言いましたね? 」
私はここにきて初めて口を開いた。
「4人を召喚するつもりだったのだがな。なぜか5人が召喚されてしまったのだ」
なるほど。
もしかしたら、5人の内の1人はおまけとしてこの玉座の間に連れて来られた可能性があり、そのおまけは『勇者』ではない存在と私は推測している。
「例えば、召喚の際に例えば勇者以外の者が巻き込まれるというのはありますかね? 」
「実はそういう前例があったと記されている書物はある。よく見るとお主だけは何故か他の4人に比べて年齢が幾らか上に思えるが…………」
やはり、私は巻き込まれてこのに連れて来られたのかもしれない。
「陛下。確かに彼だけは一切の魔力が感じられません。勇者としての素質があれば、一定上の魔力が感じられるのですが……。もちろん他の4人は相当な魔力が感じられます」
貴族っぽい恰好をした者の1人がそう言った。
「なるほど。魔力が一切無いとなると、お主は巻き込まれたのだろう。では、お主には幾分かのお金を渡す。それで当分は生活するがよい」
そして私は別室に連れて行かれたのである。
(2)
「これが金貨袋でございます」
「どうも」
別室に移動した私は、執事らしき男性から金貨袋を受けとった。
貰う物も貰ったのでそろそろ王宮を出ようと思った私であったが、その前に聞いておきたいことを忘れていた。
と言うのも国王からの話を聞いた限りでは、今回の『召喚』についての主導権はまるでこの異世界側にあるのかのように感じた。そこで『召喚』が異世界側による行為だとして、一体どのような原理によるものだろうか? それが気になるのだ。
という事で、執事らしき男性に聞いてみることにしよう。
「実は先程から、召喚というものが気になっていましてね。一体どのように行われているのかと」
「召喚でございますか。召喚の儀式は毎度、王宮魔導士総長のマレックス様が直々に執り行っております。ですが召喚魔法は一度に多くの魔力を消費してしまうとのことございまして、召喚成功後直ちに別室にて休養をとられております」
ほう? どうやら、『召喚』は魔法によって行われてるらしい。少なくとも科学技術によるものではないということだ。これは面白い情報ではないか。
「ところで、その王宮魔導士総長のマレックス様とは、私のような身分の者がお会いすることはできたりします……? 」
私はダメ元で聞いてみた。まあ、執事相手に聞いても意味のないことかもしれないが。
「失礼ですが、貴方のお名前をお聞かせくださいませ」
そうそう。異世界へ来てから、まだ一度も自己紹介をしていないのだ。
「あ、まだ自己紹介が済んでいませんでしたね。東沼英一郎といいます」
「東沼英一郎さんですね。少なくとも今日は難しいです。ですが私の方からマレックス様に掛け合っておきますので明日にでも、またお越しください。その際には門番に、執事のドナットに用があると告げていただければ結構です」
「承知いたしました」
そして、私は王宮を後にした。
今日を以て、異世界での生活が始まるのである。
これに限った話でもないけど、名前を名乗って漢字まで理解するのは無理がある気がする
4:アーリア◆Z.:2018/05/09(水) 20:20因みに、あえて主人公だけ漢字表記にしてるんだけどね?
5:アーリア◆Z.:2018/05/09(水) 20:26 (3)
「毎月当たりの家賃は、金貨5枚だが、どうだろうかね」
幾分かの金貨を受け取って城を出た私は、早速、住まいを確保するために不動産商人の店を訪ねたのであった。何をするにもまずは住まいは大切だ。
まあ、そもそも国王からお金を貰っていなければ、無一文で住まいどころか飯も食えなかったわけだが、不幸中の幸いとでも思っておこう。いや寧ろ、純粋に幸運か。
「わかりました。それで構いません」
私は不動産商人から提示された物権を賃貸しようと、申込むことにした。
「では、敷金として金貨15枚を予め払ってもうぞ」
敷金か。この世界でもそういう制度はあるようだ。
「敷金ですか……わかりました」
私はそう言って、金貨15枚を取り出して渡した。不動産商人はそれを受け取った後、店奥から地図と鍵などその他、色々と持ってきたのである。
「これが部屋の鍵、こっちは部屋までのルートが記された地図だ。それと、これが契約書と借主であることを証する文書だ。契約書は今ここで名前を記入してくれ」
「ありがとうございます」
私は鍵と地図、そして借主であることを証する文書を受け取り、契約書にサインをした。
……まあ、日本と違って手続きが簡単で楽だけど、怖いな。それはともかく、私はあららためて礼を言って店を後にした。
※
俺……ミサト・ショウヘイは今とても変な場所にいる。と言うのも、ここは異世界の王宮とのことらしい。
最初は馬鹿にされているのかと思ったが、スマホは圏外と表示されているしもしかしたら本当に異世界なのかも? と、今は半信半疑の状態である。
で、俺は何故か勇者の1人として召喚されたとか。他にも4人の日本人(その内、3名は同じ高校の女子生徒)がいたが、1人は勇者ではなかったとのことで、既にこの場にはいない。……そうそう、もう既にこの場に居ないあの男性のことだが、やけに冷静だった。個人的にはあの男性に付いていたいと思っていたりする。だって……心細いし。
「さて、諸君は勇者として召喚された。とはいえ、その力はまだ発揮できないであろう。であるから、まずは我が王国の騎士団と共に訓練に励むとよい」
王様? らしき人物はそう言った。
騎士団と共に訓練に励めって、軍隊みたいな訓練をさせられるのかよ。嫌だな……。
「わかりました……。もうここが日本ではないみたいですし、とりあえず頑張ってみます」
「どうせ夢の中なんだろうけど、頑張ってみよ」
「…………頑張る」
同じく召喚されたであろう他の女子生徒3名はどうやら、心を入れ替えたのかそれぞれ、そう答えた。何だよ、やっぱり精神的には男より女の方が強いってか?
まあ、こうして俺の異世界生活? は始まったのであった。
東沼英一郎の読みの判別が面倒という事ね。実は東条英機と平沼騏一郎から採った名前で、読みは「ひがしぬま えいいちろう」ということで。
「とうぬま ひでいちろう」ともしたいのだがな……。
因みに他のキャラは日本人も含めて、カタカナに統一している。
8:アーリア◆Z.:2018/05/09(水) 20:43 私の小説にはほとんど人がよりつかないので、この度パニック状態になりました。適切な対応できなかったことをお詫びします。
まあこれでも聴いて、手打ちという事で。
https://youtu.be/X_b0JLor8nQ
(4)
異世界生活2日目。
私は昨日住居を借りて早速、入居したのだが、やはり日本との生活に差があり過ぎた。まずは部屋にトイレが無いことだ。で、どこで用を足すのかと言えば王都には複数の共用トイレが設置されている。そこまで行き管理者に駄賃を支払った上で、そのトイレを使用することになるわけだ。
そして次に、風呂がない。こちらも王都には複数の風呂屋があるので、風呂に入りたければそこへ行く必要がある(もちろん有料)。
「とんでもない世界だよ全く」
私はそう呟きながらも、出かける準備をした。これから王宮魔導士総長のマレックスという人物に会うために王宮へ向かうからである。まあ、実際のところ会えるかどうかは分からないが。
※
「そうですか。会えないのなら仕方ない」
「わざわざ、王宮までお越しくださったところ申し訳ありません」
私は遥々王宮の正門前までやって来たのだが執事のドナッドが言うには、王宮魔導士総長のマレックスは忙しいみたいで今日会うことは難しいとのことである。
「まあ、こちらも召喚についてはとても大事な話なので明日以降も来させていただきますね。では失礼します」
私はそう言って王宮の正門前を後にすることにした。
正門を後にして、しばらく王都を歩いていると正面から如何にも豪華な装飾が施されている馬車がこちらへ向かってきた。そして、馬車は王宮を目指しているのだろう思ったのが、何故か私の目の前で停車したのである。
「私は第2王女のルノアと申しますわ。昨日はご挨拶できずに申し訳ありません」
おいおい。第2王女だと? そのような人物が私に何の用なのだろうかね。
それはともかく、昨日、王宮の玉座の前で国王の脇に立っていた少年少女らの中の何れかという事だろう。
「私は東沼英一郎と言います。昨日は早々に王宮を後にしてしまいましたからね。こちらこそ自己紹介できずに申し訳ありません」
さて、用件だ。用件。
「いえいえ。勝手に我が王国が召喚した以上、そもそもの非はこちらにあります。……ですが、その上で東沼様にお願いがあるのです。実は先程まで、東沼様の借家の方まで赴いていたのですが、ご不在のところまさか王宮の近くでお見かけできるとは思いませんでした」
「左様でありますか。……あっ、で、そのお願いというのは……? 」
王女からのお願いだ。どうせとんでもなく面倒なことに決まっている。ここは覚悟して耳を傾ける必要があるだろう。
(5)
「東沼様。どうか、魔王討伐にお力添えをしてはもらえないでしょうか」
ああ、やはり魔王討伐の件ですか。
「勇者のように素質があるわけでもない私が魔王討伐に参加しても、足手まといになるだけですよ」
魔王というのが、どんな奴なのかは知らないが精鋭騎士団が壊滅したと聞く。要は危険なお仕事をやってくれってことでしょ? 下手したら死ぬかもしれないじゃないか。
「何も直ぐに魔王討伐に向かうというわけではありません! まずは東沼様には騎士団に入団してもらい、一定期間訓練を為さって、それから魔王討伐へと向かうという流れになります」
いや、だからその騎士の精鋭の連中も壊滅したんでしょ?
この王女とやらは、何か魔王討伐以外の意図でもあって勧誘しているのであろうか。
「精鋭騎士団も壊滅したという話でありませんか。精鋭の騎士様たちでも敵わなかったととなると…………私ごときだと、さらに魔王討伐は難しいお話かと思われますよ? 」
「そ、そうですよね……確かに。ですが、私は貴方に同行して欲しいのです。お願いします! 」
わざわざ雑魚に同行して欲しいとなると、やはり何か別のところに意図があるのだろう。
「そうですか。どうしても私を魔王討伐に同行させたいようですが、どのような理由がってのことなのですかね? 」
「そ、それは……」
何だ? 言えないってか。
となると、ろくでもない意図があると……疑わざるおえないね。私を利用して何がしたいのだろうか。
いや、あえて今はこの話を利用させてもらおう。この王女の思惑が何なのかは知らないが、それが私に著しく不利益を負わせるようであれば、その時は逃げればよい。
そして、この第2王女が王宮内でどれほどの立ち位置かは判らない。王女と言っても名ばかりであって何も出来ないということも考えられる。しかし、執事のドナッド以外にも王宮とパイプを持っておくことは後々の利益になるかもしれないと私は考えた。
さて、早速私からも要望を伝えるとしよう。
「あまり、言いにくい理由ということですか。ただ私からもちょっとしたお願いがありましてね」
少しの間、沈黙は続き、
「わかりました。では、そのお願いについて、お話していただけませんか」
と王女は言ったのであった。
「その前に、まずルノア殿下自身は召喚についてはどの程度ご存知なのでしょうか? 」
私の要望と言うのは、とっとと王宮魔導士総長のマレックスと会いたいからなんとかならないか、というものだ。ただ、この第2王女が何かしら知っているかもしれないという期待も多少はあるのでまずはそう訊ねたのである。
「召喚……ですか。申し訳ありませんが、召喚については父上と王宮魔導士総長のマレックスのみしか、詳しい情報は知らないでしょう」
知らなかったのね。まあいいや。
「そうですか。では、今回の私の要望の話になるのですが、王宮魔導士総長のマレックス様と早急にお会いしたいのですが、ルノア殿下のお力添えでなんとかなりませんか? 」
「なるほど。かなり召喚について興味がおありのようですね。そういうことでしたら、私のほうで何とか調整させていただきます」
まあ、これで多少の期待はできるか。
「ルノア殿下。本当にありがとうございます。魔王討伐の件につきましては前向きに検討いたします」
そして、王女の誘いで私は馬車に乗せられ、また王宮へと向かった。よって、早ければ今日中にマレックスと会うことができる可能性が出てきたのである。
(6)
「素振り1000回が終わったら中庭を20周走れ! わかったか! 」
やってられないよ。全く。
異世界に飛ばされて二日目にして俺の心は折れそうになっていた。王国の騎士団の訓練はとても辛かったのである。
「ミサト! そんな嫌な顔をしないで頑張ろう」
と、同級生の1人、タカハシ・ヤヨイに励まされた。随分と元気なことで良いですね。その元気を俺にも分けてくれよ。
「どうせ夢の中なんだし、困ることはないでしょ! 」
そして、ミヨシ・キヨカもそう言ってきた。
またさらに、
「…………頑張ろう? 」
と、アマノ・カオリも言ってきたのである。どちらも同じ高校の同級生だ。実は俺を含めてこの4人高校そして学年も同じなのである。まあ、俺だけ男だという違いはあるが。さらに言えば、女3人は心に余裕があるようで、その点も俺とは違う。本当に、その精神的余裕を分けてください! 何でもしますから!
「お、おう。わざわざ気にかけてくれてありがとう」
とりあえず、3人の好意による励ましは感謝した。
「おいミサト! そんな弱々しい素振りを続けていたら、素質があっても上達などしないぞ。しっかりしろ! 」
教官役の騎士に怒られた。もう疲れてきたし、休ませてくれよ。
と、そう思いつつ横を見ると、3人は全くもって元気である。疲れなど一切感じていないのだろうか?
※
第2王女のルノアの誘いで、またもや王宮へ戻った私は今は、王宮内の応接室に居た。ルノアの指示でこうして応接室で待っているのだが、既に30分くらいは待たされている。
「これで会えないとなったら、本当に時間を無駄にすることになるんだが……」
そうイライラしていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。恐らく誰かがこの応接室に訪れたのであろう。
そしてドアは開き、
「おお、お前が東沼か。どうやら私に用があるようで? ああ、私が王宮魔導士総長のマレックスだ。以後、覚えておけよ」
どうやら、私が会おうとしていたマレックスがやって来たようだ。そして顔をみるに、何と若い青年だった。若くして出世か。良いね。
まあ、ともあれルノア君、キミも中々やるじゃないか。多少、何らかのお返しはしておくよ。
(7)
「東沼英一郎と申します。この度はお忙しい中……」
「そう畏まらなくていいから、早く用件を述べてくれるか? 本当にこっちは忙しいからさ」
まあ、実際身分が高いのだろうけど、このマレックスとかいう奴は何様のつもりなんだよ。確かに今日はこうして私の方から出向いたわけだが、元は言えば私がこの王宮に飛ばされてきたのはキミが原因だろ? 王女のルノア君なんて申し訳なさそうにしたぞ? 全く。
「左様でございますか。では早速、貴方以外にも召喚魔法を使うことが出来る者はおりますか? 」
「それは、当然いる。だが、この王国では私くらいしかいないだろうな。まあ、他国でも王宮のお抱えの魔導士くらしか召喚魔法は使えないと思うぞ」
他にもいるならそれで結構。
「では、仮にですよ? 例えば同時に召喚魔法が発動された場合、どうなりますかね」
召喚魔法の仕組みはわからない。しかし例えばAという人物がいて、ある2人の者が同時に召喚魔法を発動したことによって、それぞれの魔法の効果がAに及ぼした場合はどうなるのかということである。Aが異世界に飛ばされる際にはどうなるのかと。
「……複数の召喚魔法が偶然、同一人物にその効果を及ぼした場合が前提の話であるなら、召喚魔法を発動した魔導士の力量による」
なるほど。私が訊きたかったのはこれだ。今の話で、私が王宮に飛ばされた理由がある程度、推測できるようになったわけなのである。
「そういうことだったのですね。今回はありがとうございます」
「ふむ……。やたらと召喚魔法について聞いてくるようだが、何か意図でもあるのか? 」
「いやそんな、滅相もありません。個人的な興味がありましてね。何せ、私のいた世界では魔法などと言うものは存在いたしませんので、こうどうしても興味が出てきてしまうのですよ」
こいつのせいで、この王宮に飛ばされたのだとは言えるわけがない。
「そうか。お前のくだらない個人的な興味とやらだけで、ルノア殿下を利用して私に接触するとは……失礼なやつだ。早く出ていけ! 」
と、怒られ、私は大急ぎで応接室を出て行ったのであった。
全てはお前ら原因なんだけどな?
…………まあいいや。
(8)
横柄な態度をとりやがった王宮魔導士総長のマレックスに半ば部屋を追い出された私は、早いところ王宮を後にすることにした。
まあ、王宮魔導士総長のマレックスの野郎は本当に失礼極まりない奴ではあったが、一応は必要な話は聞けたので、良しとしよう。
「あ、東沼様。お話の方はどうでしたか? 」
と、言いながら私に近づいてきたのは何と、第二王女のルノアであった。
「こ、これはルノア殿下。ええ、お陰様でとても大事な話ができました。ありがとうございます」
ありがたいという気持ちは本心である。
このまま執事のドナッドに任せていたら、いつマレックスの野郎と話が出来たかわからない。奴はとても横柄な野郎であるから、ルノアを通してという形でなければこうして会って話すことも出来なかったかもしれないのだ。
「そうでございますか。私も東沼様にご協力出来てうれしい限りです。さて、もう王宮を後になさいますか? もし良ければ王宮で一泊なさっても構いませんよ」
ほう。
王宮で一泊と……? お、おっと危ない。魔王討伐に関する話について勝手に進められるのもたまったものではないので、ここはサッサと王宮からオサラバしなければ!
「その申し出は大変ありがたく思うところではありますが、私も色々とやることがありまして、私はここで失礼します」
私がそう言うと、ルノアは少し残念そうな表情を見せた。
「そうですか。わかりました。では、王宮の正門までお送りいたしますね」
そして、ルノアに送られて私は王宮を後にした。
尚、色々とやることがあるの本当だ。早速今日から行動するつもりである。
(9)
私は、王宮を後にしてからは行商人が行きかう市場へと来ていた。
とある情報を収集するためである。
と言うのも、現在私がいるこの国はバイレン王国ということが判った。その上で、「色々とやることがある」という話の1つとして、私は何としてでもザクセランド王国という国へ行きたいのだ。
つまり、ここバイレン王国からザクセランド王国まで行くための方法を知りたいわけである。
「おっとお兄さん! これ安いよ! ザクセランド王国産の漬物ですぜ! 」
市場を歩いていると、何と私に向けて営業をかけてきた行商人が現れた。そして、なんて運の良いことか……! 私に売りつけようとしている漬物とやらがザクセランド王国産であるとはすばらしい。
「ほう、そうですか。で、その漬物は大体いくらくらいですかね? 」
「おっと、買ってくれますか! 俺はこの壺ごとに売っています。で、壺1つあたり、銀貨10枚ってところです」
その壺とやらを見てみると、それは小さかった。ただ、壺が小さいといっても日本のスーパでパッケージ化されているものよりは量は多い。5から6倍の量は入っているだろう。私の計算では銀貨10枚は日本円で大体1000円程度であるものとしているので、これが相場かもしれない。
ただ、私は当然にその値段で買うつもりは無い。銀貨10枚で買うとしても条件はつけるつもりである。
「銀貨10枚ですか……ううん。ちょっとね? 」
「高いですかね? では、壺3つで銀貨25枚でどうですか」
「いや、銀貨10枚で壺1つでも買うつもりですが……確かその漬物はザクセランド王国産らしいですね? もしザクセランド王国までの移動手段と着くまでの平均的な日数を教えてくれれば、3つを銀貨30枚で買いましょう! 」
別に私は商人ではない。であるので損をしようとも、そこまで細かく交渉するつもりは無いのだ。
「ザクセランド王国ですか? ああ、ここから馬車で3日程度着きますよ? 急行馬車ならもう少し早く着くとは思いますけどね」
マジか……。近いのかよ、ここから。
まあ良いや。壺3つ買ってしまおう。
「で、では銀貨30枚です」
そう言って私は漬物が入った壺3つを買って自宅へと戻ったのであった。
(10)
翌日(この世界に来てから3日目)。
私は早速、ザクセランド王国に向かうことにしたので、王都バイレンシティの馬車駅に来ていた。
「すみません。ザクセランド王国まで行きたいのですけど」
駅馬車の乗車券販売窓口の職員にそう言った。
「ザクセランド? で、具体的にどこよ」
ああそうか。ザクセランド王国と言っても色々と町はあるだろうし、町ごとに値段は異なってくるであろう。
「ええっと……」
私はポケットからとある紙を取り出して、行くべき場所を確かめた。尚、その紙は日本語で書かれている……と言うよりそもそもこの世界にやって来て、この紙以外についても何故か日本語で会話しているし、文書も何故か日本語で読めているのである。とても不思議だ。
ところで、いま手にした紙は日本から持ってきたものであるので、当然、日本語で書かれている。
「どうやら……フレノバナという町ですね? 」
「フレノバナね。はい銀貨90枚ね」
「あ……、出来れば急行馬車をお願いしたのですが」
「急行馬車は金貨1枚と銀貨75枚だよ」
窓口の職員にそう言われて、私は金貨2枚を差し出した。
「はい。銀貨25枚のお釣りだよ。ザクセランド王国方面行きの急行馬車は2番と書かれた札のある場所から出発する馬車だから間違いないように」
「ありがとうございます」
私はそう言って、窓口の職員に言われた通り2番と書かれた札がある場所へと向かったところ、既にそこには馬車が停車していたので、私はその馬車に乗り込んだ。
それからしばらくして、馬車は出発したのである。
まあ、今回は急行馬車であるので少なくともザクセランド王国には3日もしないで着くだろう(昨日の行商人は、ザクセランド王国までは急行馬車ではない馬車で3日と言ったものだから、具体的にザクセランド王国領内のどこまでの距離で3日と言っているのかはわからないのだ)。
(11)
異世界に飛ばされて3日目にして俺は、王都バイレンシティの近隣に来ていた。と言うも教官役の騎士がある程度の実践も必要であるということで、魔物狩りをしようということになったのである。
今回はまだ魔法についての訓練は一切していないので、剣術による討伐となるらしい。
「よし! 今日は「デカ蜂」という魔物を中心に狩っていくぞ」
教官役の騎士はそう言った。
デカ蜂……って、蜂だよな? とすると、本当にデカい蜂が針を突き刺して攻撃してくるのではないか。
そう考えると怖くて、逃げたくなる。
「まだこっちに来て3日しか経ってないけど、1匹でも多く倒せると良いね!
「夢の中で魔物討伐か……。なんか今までプレイしてきたゲームより現実味があって面白いじゃん! このまま夢が醒めないで欲しいよね」
「魔物討伐…………頑張る」
女性3人は相変わらず精神に余裕があるようで……。本当にその精神的余裕を分けてくれませんかね? 本当に。
そして、しばらく森の中を進み、俺はヤバいものを見てしまった。本当にこれはヤバい。
と言うのも、日本の平均的な一軒家程度の大きさのある蜂の巣があるのを見てしまったのである。
「え……? 」
俺はそれしか声を出せなかった。
一軒家並みの蜂の巣に、そこに群がる蜂の大きさは、パッと見でトイプードルくらいはあるのではないだろうか? 本当にデカい蜂だよ。スズメバチが可愛いくらいだ。
「さて、これがデカ蜂だ。今日はこの蜂の巣に群がっているやつを全部討伐するまで帰さないからな」
えっ……?
ちょっと……勘弁してくれよ。俺死んじゃうよ!
「よし、皆で協力して1匹残らず倒そうね! 」
「さすが、夢の中だね。こんないデカい蜂がいるなんて」
「がっ……頑張る」
そして、女性3人組はこの光景を目撃しても、相変わらず余裕である。
本当にマジで、その精神的余裕をわけてくれない? マジで。
王都バイレンシティの近隣に来ていた。
↓
王都バイレンシティの近隣にある森に来ていた。
以上の通り訂正。
明らかに拉致なのだが王国の法律はどうなってるの?
19:アーリア◆Z.:2018/08/01(水) 23:44 >>18
王様=法
と思ってくれれば。
>>19
絶対王政ですか。ありがとうございます
(12)
「これで、13匹目だぜ! 」
俺は今、とても最高の気分だった。
と言うのも意外と容易くこの「デカ蜂」とやらを狩ることができているからのだ。
「ミサトもやればできるじゃん! 」
「夢の中なんだしさ! 張り切っちゃおうよ」
「ミサト……頑張ったね」
女子生徒3人も無事だったようである。俺としても良かったと思うところだ。とは言っても、俺よりも士気は高いし既に実力の差もある程度ついているかもしれないが。
「ま、まさか、『デカ蜂』の巣を4つも壊滅させるとはな。これぞまさに勇者としてのパワーなのだろうか」
教官役の騎士はそう言いながら、少し離れたところから俺たちを眺めていた。今回の戦果は結構、良かったのだろうか?
ちょっとばかり嬉しいかも……?
こうして、俺たちは良い戦果を得て王宮へと戻るのであった。
※
こんなに乗り心地の悪い乗り物は初めてである。
と言うのも私は今、ザクセランド王国のフレノバナまで行くため急行馬車に乗っているのだ。
「あんた、酔っちまったのか。まあ、急行馬車なんかに乗っちまったのが運の尽きってやつだね」
私ともう一人の乗客である男が、小馬鹿にした感じでそう言ってきた。
なるほど、急行馬車はこの世界の人間でもよく酔うものなのだろう。
「ええ。あまり馬車には乗らないものでしてね。まさかこんなに乗り心地が悪くて酔うとは思いませんでしたよ」
「そうか。なら尚更、馬車慣れもしてないわけだから急行馬車なんかに乗っちまったからさぞ地獄なんだろうね? 」
「馬車慣れしておくべきでしたよ本当に」
そもそも現代日本に生まれたならば、馬車に乗る機会というもの自体なかなかないわけなので仕方ない話である。そして、この世界に来てまだ日は極めて浅い。
「まあ、急ぎなら仕方ないが今後しばらくはなるべく急行馬車を使わずに済む予定を立てるべきだね」
「仰るとおりです」
とはいえ、既に半日(6時間)ほどひたすら乗り続けているので、そろそろ休憩になるのではないかと期待している。
私の期待通り、馬車駅(急行馬車停車駅)に到着し、馬車を引く馬の交換となったので、わずかながら外を歩く時間ができた。
尚、通常の馬車用の馬は質の悪いものらしくあまり体力がないことから、単に速度が遅いのみならず、頻繁に馬を交換するのでいくつもの馬車駅に停車することになるらしい。
そして、馬の交換作業が終わり再び馬車が動き出した。
一緒に乗っている男がいうには、今日中にはザクセランド王国領内に入るとのことである。