正義の味方

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1:ひまり:2018/07/16(月) 17:43

ひまりです☺︎︎
この小説のジャンルはドロドロ系なので、苦手な方は読まない方が良いです。
感想やアドバイスなどあれば、是非書き込んで下さい。

2:ひまり:2018/07/16(月) 18:59

[序章]


いくつもの木が脇に植えられた街道を、沙亜也は歩いていた。
放課後とはいえ夏休みが終わってまだ間もない九月のため、夕陽はまだまだ現れそうもない。
汗でべっとりとした額をさっき濡らしたハンカチで拭く。
テレビのニュースを見る限り、猛暑日はまだまだ続くらしい。
……嫌だな、暑いのは嫌い。
セーラー服のポケットにハンカチをしまい、曲がり角を曲がったところでようやく目的地に到着した。

「あー……やっと着いた」

学校から徒歩十五分ではあるが、この暑さのせいで一時間くらい歩いてるような錯覚に陥りそうになってしまう。
沙亜也は目の前の堂々とそびえ立つ建物を見上げた。
五階建てのこの建物は、近年設立された市立図書館だ。
ブラウンで統一されたシンプルなデザインで、小説をはじめとする本は勿論のこと、子供から大人まで人気な漫画を取り揃えるなど書籍は豊富、またテラス席やヨガ教室、カフェなどもあり、その設備の良さが市民からの人気を得ている。
自動ドアが開き、ロビーに足を踏み込むと途端に涼しい空気が疲労を癒してくれた。
もう皆来てるかな。
いつもの集合場所とされる四階の端のテーブル席を思い浮かべる。
エスカレーターに乗り、四階の学習スペースに行くと見慣れた七人の男女の姿が視界に入った。
もしかして、最後に来たのは私?

「あ、沙亜也来たよ」

一つに結んだふわふわ巻き髪を揺らしながら、愛美が私に手を振った。
釣られて私も振り返す。

「ごめんなさい!遅れちゃったかな」

「そんなことないよ。私達が来るのが早かっただけだから」

絵里奈が手に持っていたスマホをテーブルに置くと、にこりと微笑んだ。

「そうだよ、気にしないで。てか、今日は遅刻魔の橘が早く来たんだからびっくりしたよ」と理佳がからかうように言う。

「うるせぇな、笹本。学校から図書館まで一番遠いのは俺なんだから仕方ないだろ」

唇を尖らせて反論する橘君。

「大体今日は何で早かったの?」と柏崎君が女子のようにくりっとした目で橘君を見る。

「今日は午前授業だったんだよ」

「へぇ……」

興味なさげに小説を手に取りながら相槌を打つ上条君。

「おい、上条!明らかにどうでもいいです、って返事はやめろよなぁ!」

「うるさい橘。出禁食らうよ」

「正論だけど、笹本に注意されると無性にムカつく」

他愛のない会話に私は苦笑しながら、愛美の隣の席に座った。
一つのテーブルに八つ椅子が用意されているため、丁度いい人数だ。
今はあまり人はいないが、テスト期間は勉強をしに来る学生で学習スペースは溢れてしまう。
だから、私達八人が集まれるのは空いている日のみとなっている。
私達が話すことは周囲に知られてはいけないのだ。

3:ひまり:2018/07/18(水) 22:22

「あ、そうそう。DMに新しい依頼が来たよ」

いずみが思い出したように沙亜也に告げた。

「どんなの?」

「まだわからない。【依頼してもよろしいでしょうか?】ってメッセージが向こうから来てたから、了承の返事をしただけ。とりあえず相手からの返信待ち」とスマホの画面をスクロールするいずみ。
いずみが時々先端をいじるショートカットの髪は、クールな彼女の雰囲気をさらに強調している。

「そっか、ありがとう」

去年、Twitter上で設立された中高生のためのサークル、通称【アールズ】に沙亜也は所属していた。
【Resistance】【Revolution】【Remake】の意味を込めて【アールズ】と名付けられたが、それを決めたのは誰だか分からない。
沙亜也はアールズの中で新規のメンバーなのだから。
高校に入学して間もない頃、沙亜也は友達関係に頭を悩ませていた。
もともと人見知りな性格に加え、中学の友人は誰一人おらず、結果クラスで友達は一人しかできなかった。
しかも、その友達は誰とでも仲良くなれるタイプのため、いつも沙亜也と一緒にいるわけじゃない。
実質一人ぼっちだった沙亜也はゴールデンウィーク中のある日、何気なくTwitterのタイムラインを見ていると、フォローしていないあるアカウントのツイートが目に入った。
沙亜也のフォロワーがリツイートしたツイートなんだろう。
普段リツイートにはほとんど目を通さずに画面をスワイプするが、このツイートはまるで魔法のように沙亜也を惹きつけた。
ツイートには【アールズ新メンバーを一名募集】という文字とともに、入会条件と拡散希望などのハッシュタグが表示されていた。
アールズ?何だろう?アイドルグループ?ダンスユニット?
沙亜也はなんとなくアールズのアイコンをタップしてみる。
溢れ出る疑問に答えてくれたのは、アールズのアカウントの自己紹介文だった。

【自分、あるいは友達がいじめられていて悩んでいる方はDMを下さい。貴方に代わって、私達が加害者へ報復します。サークル名のアールズは『Resistance』『Revolution』『Remake』に由来しています。現在七人の高校生で活動中。※東京都やその付近の地域でないと御依頼に応えられません。】

その文章や過去のツイートを見る限り、七人の高校生がDMに送られてきたいじめをしている特定の者への報復を望む依頼に応えているらしい。
そんなアールズの新メンバー募集。
沙亜也は食い入るような目つきで、例のツイートを見た。

【アールズ新メンバーを一名募集
入会条件
・中学生、あるいは高校生であること
・東京都、あるいはその付近の地域にお住いであること
・週一程度に集まれること
・秘密を厳守出来ること
・いじめを無くしたいという意志が強いこと
入会したい方はDMを下さい。
入会希望者が複数いた場合、抽選とさせて頂きます。】

いじめを無くしたいという意志が強いこと。
小学校の頃、女子に半年間いじめられた経験を持つ沙亜也からすれば、いじめは無くしたい。
だが何よりも、他校の者と交流することに沙亜也は惹かれていた。
学校では友達は上手く作れないけど、他校生となら……。
気付けば、沙亜也はアールズのアカウントにDMを送っていた。
それは人生で最も衝動的で大きな決断だった。

4:ひまり:2018/07/19(木) 21:56

入会条件者は複数いたらしいが、結局抽選で沙亜也が入会することになった。
アールズから当選のメッセージが来た時は、しばらくの間頭が真っ白のまま部屋を歩き回ってしまった。
他校生との関わりだけではなく、純粋に活動にも好奇心を抱いていたため実際にメンバーと会う日を沙亜也は心待ちにしていた。
六月の初旬、沙亜也はアールズから送られてきた地図をもとに市内の図書館にやって来た。
勿論自分より年上の人もいるから多少の上下関係はあるだろうと思っていたが、沙亜也を温かく迎え入れてくれたメンバーにはそのような雰囲気など皆無だった。
私と同い年のメンバーは、可愛くてふわふわした雰囲気の柚原愛美と温厚で優しく都内で有名な進学校に通う柏崎有理、高校二年生は気が強いがムードメーカーの役割をする橘十也、十也と喧嘩になることが多くツッコミ気質な笹本理佳、クールで大人っぽい浦田いずみ、三年生は無表情でいることが多いが頭の回転が早い上条大河、そしてアールズを設立したリーダーの神山絵里奈だった。
絵里奈からは「先輩後輩なんて関係ない。敬語も禁止で、名前にさん付けもダメだから」と親しみを込めた笑顔で話してくれた。
学校では友達作りは厳しいけど、私の居場所はちゃんとここにある。
沙亜也はそう確信した。

「そういえば、寺本が来てから依頼に応えるって初めてだよな」と橘君が沙亜也の顔を見た。

「そうだね」

沙亜也は無難な返事をしておく。
沙亜也が入会してからおよそ三ヶ月経つが、本格的に依頼に応えるのはこれが初めてになるかもしれない。
六月以降、期末テストや模試で予定の合わないメンバーが多く、また依頼したくても地方に住んでいるため依頼出来ないという者もたくさんいたのだ。
そんな中、誰かが依頼してきたことに胸を躍らせた。

「そういえば、依頼者のユザネって何だっけ」

理佳が絵里奈に尋ねる。

「【ルリ子】だよ」

ルリ子さんか……。
ルリ子さんは自身がいじめられているのだろうか。
それともルリ子さんの友人がいじめられているのだろうか。
どちらにしろ、返信が来なきゃまだわからない。
その日は何事もなく解散となった。


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