もう、消えちゃったの : >>2
なんてことない恋愛小説。
亀 / 飽きる / きままに / 辛口コメント◎
ひとりで坂を登って登校する。クラスの人なんて周りにいるけれど、わたしは誰かと一緒に登校しない。誰かのペースに合わせるのが辛い。薄情者だなんて思うかもしれないけど、わたしもそんな気がする。一緒にのろのろ歩いて、誰かを待って、というのが、本当に合う人とでないと出来ないんだ、きっと。
夏休み前の登校は辛い。暑い。肌がじっとりしている。でも、お構いなくわたしは足をざかざかと進める。
やがて自分の席につき、重い鞄を肩から下ろす。どすんと音がした。これだから置き勉無しは――!! と心の中で毒づいて、肩を回した。はあと溜息をついて、既にクーラーの効いている教室で汗拭きシートを出し、身体を撫でる。
これが、いつもの朝。わたしの朝。
休み時間も、あまり誰かと一緒に行動を共にしない。移動教室で誰かを待つことはしない。ただ、移動しないときは近くの席のひとと少し会話を交わす、くらい。
そんなわけで、教室の自分の席で頬杖をついて、ぱらり、文庫本を捲っていた、そこに、
「なーなーおうめ、」
と、男子が言ってきた。おうめ、というのはわたしの苗字、梅川をもじったものであり、わたしを呼んでいるのに間違いはない。声をかけられて無視するほどわたしは薄情ではないので、なあに、と後ろを振り返る。
後ろにいたのは3名程の男子。あまり級友との交わりがないとはいえ、クラスメイトの名前とあだ名ぐらいは言える。朝野と、しゅしょーと、森。入学してから、よく3人で仲良さげにしていたのは見ていた。
さっきわたしに声をかけたのはしゅしょーこと長谷部くん。何でこういうあだ名かまでは知らない。唯一の一年柔道部員なのに、入部してすぐの大会で県大会に行ったらしい。それに相応する強そうな顔つきは、まあ、わたしの好みではない。わたしはもっと、推しみたいなかわいい子が好みで――、と、説明しすぎたか。
「梅川さん、こいつのすきなアニメのジャンル知らない?」
今度口を開いたのは森くん。どこかへたれっぽいふわふわした様子。
こいつ、と指を指されたのは朝野くん。眼鏡で真面目そうだし学級会でも真面目に纏めてくれるんだけど、アニメオタクだというのは聞いていた。
どのひとをとっても、特に友達というわけではない。ただ、朝野くんは席が隣なこともあって、3人の中では一番交流がある、と思う。好きなアニメがひとつ被っているので話ぐらいはしたことがある。
「なんで、わたしに聞いたの?」
「んー、梅川さんってアニメ好きそうだし」
「わたし、アニメも好きだけど漫画の方が好きかな」
「じゃーおうめはしらないかー」
「ちょっと待て、俺の好きなジャンル聞いてどーすんだよ」
「お前、ロリ好きそうじゃん」
「殴るぞ?」
わやわややってて楽しそうだ。わたしもああいう風に出来れば本望だけど、出来ないんだよなあ。せっかちなんだろう。
この話題は面白そうなので、混ざってみる。
「ホラー系すき?」
あー、と朝野くんは声を漏らす。
「ちょっと無理かな…」
それでは、と朝野くんと共通してすきなアニメを思い浮かべて言ってみよう。
「じゃ、魔法少女系」
「ちょっと違う」
「やっぱりお前ロリ好きじゃん」
「そうだそうだー、しゅしょーの言う通りだー」
「おいッ」
はあ、と朝野くんは溜息をついた。
「あー、もう次の授業の始まり近いぞ、。席つけ、席」
「いいんちょーの特権執行だー」
「こわいこわーい」
がやがやと森くんと長谷部くんは朝野くんの席から離れていく。
あはは、と苦笑し、読みかけの文庫本に挟んだ指を取って開こうとすると、朝野くんは言った。
「梅川にだけ言うわ、」
ん、と首を傾げる。
「俺さ、女の子が笑ってるやつがいいんだよな」
朝野くんの横顔は綺麗だ。鴇色の唇をふっと緩めて、目を楽しそうに細める。ちょっと、心を惹かれた。
「ああ、女の子がかわいいやつ」
「あいつらに言ったら絶対騒がしいから、さ」
はは、と朝野くんは頭を掻きながら笑みを零した。
ん、なんか、いいものをみた、気がする。心が洗われた、気がする。
「かわいいの、いいよね」
「ああ」