さて本作は、
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この小説の改良版です。改良版と言っても、かなり変わっていますので、新規にスレを立てました。
プロローグ
妹が婚姻したのは、4年前のことである。妹が王立高等学園一年生で俺が二年生の時の夏のことだ。
婚姻から1年後には双子の男女が生まれ、今現在、歳は3歳になっている。俺からすれば甥と姪にあたるわけだが、お目にかかれたのはたったの2回だけである。その理由は、簡単な話で妹は婚姻後は王宮に住むようになったからだ。
何を言おう……相手は、現国王である。
先の国王は現国王が生まれて直ぐに他界し、即ち現国王は生まれて直ぐに即位したという。ただ実際の政務は、その即位当時から現在に至るまで王太后と現宰相が行っており、現国王は比較的自由な生活をしてきたとのことだ。そして、王立高等学園に入学後に妹と出会い互いに恋におちて(年齢的に直ぐ冷めないか心配だが)、婚姻するに至ったのだという。
しかも妹は平民ながら、正室として王家に迎えられたわけだが、このあたりは王太后や現宰相が支援したらしい。推測では王太后自身も歴史はある名家の娘であるものの有する爵位は準男爵位で先の国王と婚姻する前は、ほぼ平民に近い生活をしてきたことから、今回の婚姻を支持したのだと言われている。
尚、現宰相が支持した理由は定かではない。
まあ、兎にも角にも妹は王妃である以上は、王族になってしまったわけだ。俺にとってはとんでもなく迷惑な話なのだがな。
というのも、俺はリベラール合州国という国に憧れており、いずれ渡ってみたいと考えていた。この大ハイデルン王国とは違い、貴族など存在せず身分制度も存在しないのだという。であるから、貴族か否か又はどの家の出身かで差別されることなど一切ない……と、いくつもの本に書かれている。
こんな素晴らしい国はリベラール合州国を除いてどこにあるのだろうか?
伝統が無いなどと騒いで批判している者も多いのだが、伝統というだけで考えが凝り固まっている奴らこそが、どうかしている。
と、いうわけで、俺はとにかくリベラール合州国へ渡りたかった。ところが、妹が大ハイデルン王国の国王と婚姻したことで、俺も迂闊に身動きが取れなくなってしまったのだ。俺や両親は王族ではないものの、それに近い存在ということで護衛が付くようになり、しかも王宮からの指示で自由な行動も制限された。
さらに俺の父親は、男爵位を王より与えられ、それで天狗になったのか知らないが、勝手に俺の縁談まで持ちかけてきたのだ。その相手はどうやら貴族の娘であるそうだ。俺は実質平民である以上、仮に婚姻でもしたら終わりだ。
毎日死ぬまで周囲の貴族の連中に馬鹿にされ続けストレスを溜め、人生を棒に振るは明白である。
で、あるから俺は、
「俺は人間である以上、個人として尊重されるべきだ。自由が保障されるべきだ! 自由万歳! 」
そう叫んで、縁談の前日に家を飛び出した。ちょうど王立高等学園の卒業式も終わった時期であり、就職は家業を継ぐということにしていたので、俺は乗船券を手に入れて遥か遠くの国へと旅立ったのである。
こうして俺は自由を手に入れることに成功した。
ああ、素晴らしい! 生まれながらにして天より授かった自由が、こうして再び俺に戻って来るのだ!
と、興奮していたのが懐かしい。
今からちょうど3年前に大ハイデルン王国を飛び出して、ここリベラール合州国にやって来た頃は、「素晴らしい」と何度、心の中で思っていたことか。
現在は新聞配達の仕事で、日銭を稼いでいる毎日である。
第1話 給料日は証券会社へ行こう
俺の生まれは、大ハイデルン王国である。大ハイデルン王国は列強国とされており、その二番手に当たるという。
そんな大国を離れて3年間、お世話になっているこの国はリベラール合州国という。つい15年前に建国された歴史の浅い若い国だ(俺は今21歳であるから、6歳の頃にこの国は建国されたこととになる)。
今後どのようになっていくのか、色々とこの国には期待が膨らむところではあるが、決して大国と言えない。であるから、列強国と戦争にでもなったら直ぐに滅ぼされてしまいかねないだ。このあたりがとても心配である。
まあ、俺の人生の方が先に終わってしまうかもしれないが。
「クロイン! リアカーに新聞を積んでおいたぞ」
と、社長が叫んだ。
ああ、今日も新聞配達の業務が始まるのである。
「わざわざ、社長自ら積んでくださったのですか。ありがとうございます」
俺はそう言ってリアカーを引き、会社を出発した。
この仕事にやりがいなど感じられない。しかし、今日は士気だけは高かった。と言うのも今日は給料日なのである。
「さて、今日はとっとと仕事を済ませて給料を貰おう」
こういう日は、普段よりも速く仕事を終わらせることができる。
※
さて、今日の仕事を終わらせた俺は、社長から給料をもらい証券会社へと急いだ。実は俺は給料日になると毎回、給料の半分をつぎ込んで、とある会社の株式を買っているのである。
因みに、株式を買っているわけではあるが、投機目的だけで買っているわけでではない。一応は配当金目当てでもある。
「前場開始まで時間が無いな、急がないと」
時刻は午前8時50分。社長が給料日当日になって、給料計算をしたもんだからもうこんな時間になっているのだ。本来、配達業務の終了時間は大体、どんなに遅くとも午前7時くらいまでには終わる。
尚、証券会社の担当社員に株式購入の注文を依頼すれば、その日のうちに何とか取得してくれるのだ。ただ、例えば前場が開始すると担当社員たちは証券取引所に行ってしまうのである。まあ、この場合でも証券取引所まで行って、担当社員を見つけてその場で依頼すればいいのだが、証券取引所は人が多いものだから見つけるのにとても面倒なのである。
そして、全速力で走って何とか証券会社に何とか辿り着いた。
時刻は午前8時55分だ。
「マリオットさんを呼んでくれ! もしかして、もう証券取引所に行ってしまったか? 」
俺は、証券会社の受付にそう叫んだ。
「マリオットさんですね? 承知しました。まだ会社に居ると思うので、至急呼んでまいります」
と、受付の1人がそう言って、走ってマリオットさんを呼びに行った。
少しして、その受付の者がマリオットさんを連れて戻ってきた。
「おや、クロインさんではないですか……。ああ、今日は給料日でしたか。で、いつもの会社の株式で良いのですよね? 」
「はい。これが買い付け資金です。まあ、いつも通り成行注文で良いのでお願いします」
「承知ました。ではいつも通り前場が終ったら一旦、会社に戻ってきますので、その時には取得できたかどうか報告しますね」
と、マリオットさんは言ってから証券会社を後にした。
そして、俺も給料日は前場終了時刻まで近くの喫茶店で時間を潰すことにしているので、喫茶店へと向かった。
※
そして、前場終了時刻になったので、俺は証券会社へと戻った。
「クロインさん、今回は45株を取得できました」
「おお、そうですか。ありがとうございます。ではまた来月に給料日なったら伺いますのでよろしくお願いしますね。それでは失礼します」
「ええ、待ってます」