私の気持ちなんて、皆分かんないでしょう?
こんなんじゃ、もう笑えないよ…。
登場人物(増えるかも)
*川島優芽<かわしまゆめ>*
主人公。いじめられている。いつも笑っている。
*南海真理愛<みなみまりあ>*
優芽をいじめる主犯。すぐに人のせいにする。
*須田秋音<すだあきね>*
いじめグループのひとり。噂大好き。
*山田雛<やまだひな>*
いじめグループのひとり。元は優芽の友達だった。
*咲坂塔子<さきさかとうこ>*
優芽の親友。真理愛をいじめグループに誘う。
第1章[地獄の日々]
こんなの、生き地獄。
ピピピピ…ピピピピ…
私の一日は、スマホのアラームで始まる。重たい身体をおこし、リビングに行く。学校が、脳裏に浮かぶ。
―――――行きたくないなぁ。
今日も生き地獄に行かなきゃいけない。そう思うだけで寒気がしてくる。
「あら、優芽おはよう。」
「おはよう、お母さん。」
私は、さっきまでの感情を押し込めて笑う。お母さんには知られちゃいや。心配かけたくない。だって…
「あ、お母さんとお姉ちゃんおはよー」
妹の美海が、ひょっこりと顔を出す。
「美海おはよ。」
私は、また笑う。繕った笑顔で。誰にも察されないように、私は家を出た。
同じ学校の制服を見るたびに腹痛が襲ってくる。なんでこんなに苦しまなくちゃいけないの?なんで…!
<2年3組>
そうかかれたドアを開ける。教室がどよめく。ヒソヒソ声。あれは私への陰口だ。前から歩いてくるのは、南海真理愛。
「優芽おはよぉ。黒板見てみなよ!キャハハッ!!」
言われた通りに黒板を見ると…
『彼氏300人居ます♥️彼氏募集中!by川島優芽♥️♥️♥️』
『不倫ゲス女!生きてる価値無いね!』
『先生に贔屓してもらおうと媚びてるクズ野郎』
等のひどい言葉が並んでいた。こんな言葉、どこから出るのやら。
今日も地獄が始まる。
真理愛をいじめグループに誘う。→真理愛にグループに誘われる。
です!ごめんなさい!
「ない…!」
私は、次の技術の準備が無くなっていることに気づいた。犯人は、もちろん分かっている。――――真理愛たちだ。どうすることもできないので、なにも用意がないままパソコンルームへ向かった。
「忘れた!?なんなんですか!川島さん!!あれほど忘れるなと言ったはずなのに…!」
私は技術の先生に叱られた。クラスメイトの視線が痛い。そこにはいじめグループも入っていた。
「もう…須田さん、プリント見せてあげて!」
笑い声を受けながら、私は黙って席につく。すると、隣の須田秋音が、
「きゃはっ!これ学年LINEで流したらどーなるんだろ!いつも真面目な優芽が忘れ物したって知ったら!」
と、スマホをいじる真似をした。
「や、やめ…」
私は「やめて」と言おうとしたけど、その瞬間、誰かに腕を捕まれる。
「言っとくけど、あんたに拒否権なんて無いんだから。」
その声は、山田雛だった。
「プリント見せてもらってるんだからぁ、感謝ぐらいしなよぉ?」
その冷たい目は、私を見下していた。
雛…なんで私を裏切ったの?
そう聞こうと思ったが、答えの予想がついてしまったので、諦めた。
「優芽っ!大丈夫?!」
親友の咲坂塔子が、授業後に話しかけてきた。
「塔子…大丈夫だよ。笑われただけだし。」
私は、作り笑いでごまかした。――――本当は、雛に捕まれたところがすごく痛い。今でもヒリヒリしているくらいだ。すると、塔子が言った。
「もう…優芽!無理しないで!腕痛いんでしょ?水で冷やしてくる?保健室行く?私保健委員だし、先生に言っとくから保健室行きなよ?」
「塔子…私本当に大丈夫だって。」
私は先生のところへ行こうとする塔子を止めた。だけど、塔子は、
「それっ!作り笑いってすぐ分かっちゃうから!本当に楽しんでるなら、もっと楽しそうなんだもん!優芽と私の付き合い何年だと思ってるの?」
塔子とは、小1からの親友。同じ高校に入ったときは、泣いて喜んだ。
「うんっ!ありがと、塔子!でも…雛は…。」
私は雛の方を向いた。雛は、真理愛達と共にふざけあって遊んでいる。雛も、元々は、私の親友だった。
「もー!すぐ人裏切るような最低女気にしなくていいよ!さっ!早く保健室いこ!」
塔子は私を押しきって教室を出た。私は、雛の方をずっと見たままだった。あのまま見てれば、また笑われる、殴られる…と思ったのに、目線を離せなかった。
保健室に行って、湿布をもらって、教室に帰った。戻ったらまたいじめかぁ…。そんなことを考えつつも授業が始まらないように急ぎ足で戻った。他のクラスからの楽しげな声が、廊下まで聞こえてくる。
「他のクラスなら、私もっと幸せだったのかな…。」
そんな叶わない願いを、ポツリと呟く。すると塔子が、
「そんなことないよっ!だって私がいるじゃん?」
と、笑わせてくれた。プッと笑いが漏れる。塔子、ありがとう。心の中でそっと呟いた。
教室に帰ってドアを開けたとたんに、なにか落ちてきた。―――――――――――――ポフッ!ものが落ちてきたとき、私は肩まで真っ白になっていた。黒板消しだった。
教室の笑い声が聞こえてくる。クラスに助けてくれる人なんて、誰もいない。笑わない人も、見て見ぬふり。次のターゲットになりたくないから、自分もああいう風にはなりたくないから。皆そういう思いがあったのだろう。私だって、いじめられたくないから、ターゲットが移ったらきっとそうしてしまうだろう…。すると真理愛たちグループが、写真を撮り始めた。
「優芽、こうなったのも、あんたのせいだからね。そのブスな顔を見せるあんたが悪いのよっ!」
甲高い声が教室に響く。私は、先生を探そうと踵を返す。すると、秋音が
「先生に言ったら、どうなるか分かってんだよね?それでもいいなら、どーぞ。」
と鼻で笑って言った。私は、言葉に詰まって言い返せなかった。どこにも居場所はない。私には…。
ガチャッ
私は、家のドアを開けた。今日も地獄から解放された。それだけで私の心は楽になる。腕がまだヒリヒリする。私は玄関にぺたりと座り込んだ。こんな姿、誰にも見せられないなぁ…。お母さんには心配かけちゃダメだ…そう思いながら部屋へと向かう。美海の部屋からは赤みがかったLEDの光が漏れている。
「あんたは幸せそうでいいよね…。だって、お母さんの子供だもの。」
そんなことを呟いた。
棚に並んだ教科書は、とてもではないけどボロボロだった。それは、私の今の心でもあったんだ。