たまご。
それは生命の始まりでもあり、豊富な栄養を持つ宝箱でもある。
character
・鶏山 慶(とりやま けい) ♂ 25歳
町はずれにあるこじんまりとしたお店【naissance(ネサンス)のオーナー。
『たまご』に異様な執着を持ち、卵料理専門店を構える。
かなりの美男子だが30年間彼女はなく、独身。
・生原 玉子(いくはら たまご) ♀ 17歳
家計を助けるため、【naissance】でバイトを始めた少女。
両親は養鶏場を営んでいるが生活は厳しい。
双子卵を割らずに勘で当てることができる。
・卵白 ♀
【naissance】で飼育されている雌鶏。
・卵黄 ♂
【naissance】で飼育されることになった雄のひよこ。
元々は玉子の農場にいた。
私と彼──鶏山慶との出会いは、最悪というか険悪というか……とにかく悪かった。
「あ、はいは〜い!こちら生原養鶏場です!」
生原玉子、17歳、高校二年生。
夏休み初日。
特に塾も部活動にも所属していない私は、両親が営んでいる養鶏場の直売店で店番をしていた。
正直いうと学校の宿題もあるし、私だって遊びたくないわけじゃないし、好きでやっているわけではない。
どうせ1時間に5人程度しか来ない、閑古鳥の鳴くようなこじんまりとした養鶏場だ。
そもそも今時養鶏場に直接卵を買いにくる人なんてそうそうなく、大体が業務用だったりする。
「お客さん来ないなぁ」
パイプ椅子の背もたれに体重をかけ、なんとなく天井を見上げてぼーっとする。
蝉の音をバックにうとうとしていると、少し急ぎ目の足音が耳に入った。
「すみません、こちら生原養鶏場ですか?」
「あ、はいはーい!そうで……す……」
微かに吹いた風は彼のサラサラな黒髪を揺らし、真っ白なワイシャツをはためかせた。
映画とかCMのワンシーンを魅せられているような気がして、思わず言葉を失う。
彫りが深くて色白、整った顔立ちであることは確かだけれど……。
それよりも、彼の持つ爽やかさとミステリアスさを兼ね備えた雰囲気が、背筋をゾワリと湧き上がらせた。
「あの、」
「……なーんだ、ガキか。中学生はお呼びじゃねぇよ」
「なっ……!こっ、高校生ですうぅ〜!」
確かにカッコいい。
黙っていれば、ね。