アニメヲタクな女子高生、嗜木千熱(たしぎ ちねつ)は通販で買った変身アイテムで魔法少女の力を手にしてしまう。
憧れの生徒会長、風上颯の役に立ちたいという想いから魔法少女の力を使って学園の平和を守ると決意。
ひょんなことから同居人になった担任の先生にバレないよう、学園の平和を守るため魔法少女として奮闘するが……
嗜木 千熱 (たしぎ ちねつ)♀
おっちょこちょいでドジだけど、魔法少女として学園の平和を守ってる高校2年生!
アニメヲタクという以外は至って普通の女子高生だったんだけど……
魔法少女メルト
私が変身する魔法少女!
手で触れたものを高熱で溶かしちゃうからメルトって呼ばれてるんだ。
元々はアニメのキャラクターなんだけど……!?
冷泉 氷柱 (れいぜい つらら)♂
私のクラスの担任を務めるイケメン物理教師!
女子生徒からモテモテだけどクールで無愛想なんだ。
ひょんなことから私と同居……!?
マスク戦隊アイシクル
世間を騒がす謎のヒーロー。
水を操ったり氷を使って戦うよ。
私がピンチの時になぜか助けてくれるんだ。
テレビの中な存在だと思ってたんだけど……
風上 颯 (かざかみ はやて)♂
私の憧れの先輩で、生徒会長をしているの!
大手おもちゃ会社の会長さんの息子みたい。
魔法少女アニメが好きで気が合うんだけど、先輩が好きなキャラはメルトのライバル魔法少女、アルトみたいで……
KAZEKAMIトイズ(風上玩具株式会社)
日本最大手のおもちゃ会社で、私の好きな魔法少女メルトの変身アイテムやマスク戦隊アイシクルの武器を作ってるよ。
風上先輩は将来この会社を継ぐみたい。
誰だって、自分がテレビに出てくるキャラクター……魔法少女になるなんて思いもしない。
そりゃ自分が変身したら、なんて妄想は何千、何万としてきたわけだけれど、いざ本当に変身したら頭の中はハテナマークだらけで。
「私……魔法少女メルトになっちゃったぁあ゛っ!?」
フリフリのレースに大きなリボン。
かかとの高いブーツに大きな帽子。
「心に秘めるは神秘の業火! 灼熱のメルト、参上!」
「ゔぅわぁあ゛────ッ!」
聖火を模した赤色のステッキを一振すると、目の前の黒い怪獣はあっという間に炎に飲み込まれ、断末魔の叫びをあげる──。
「灼熱の……メールトぉ〜……」
「嗜木」
「これにて、一件……らくちゃ……」
「嗜木!」
低い男の声がしたかと思うと、後頭部に軽い衝撃が走った。
「嗜木。問2を答えろ」
「ゑ」
鈍い痛みの走る後頭部を擦りながら見上げると、担任──冷泉先生が凍てついた表情で見下ろしている。
彼の手中に収められた音叉を見るに、先程の衝撃はそれだろう。
「あ、れ……? 怪人マヲサスは……? 魔法少女メルトは……?」
「今は物理の時間だ」
クスクスと軽い笑いが周囲から漏れて、私はようやく夢を見ていたことに気がついた。
火を吹くほど顔が熱い。
今なら魔法少女メルトになれそうだな、なんて思ってたけど、真っ赤に火照った顔はすぐに冷えた。
「問2の熱量を求めろ」
絶対零度の視線で。
「えーと、問2……!? あっあっえっと、えーっと……」
さっきまでまっさらだったはずの黒板には既に無数のアルファベットと数字。
きっと私が寝ている間に教科書100ページくらい進んだに違いない。
分かりません、と言おうとしたけど、冷泉先生の顔がさらに引き攣ったのを見て躊躇う。
「……さ、300cal(カロリー)……?」
「適当だな?」
「はい、すみません……」
冷泉先生は深くため息をつくと、早足で教壇に戻った。
「熱力学は次の中間の範囲だからしっかり復習しておけ。他の奴らも、分からないとこらがあれば俺に聞け」
「はい……」
「はぁ〜いっ!」
私の気の抜けた声とは裏腹に、他の女の子たちは黄色い声をあげながら返答した。
ハートマークでもつきそうな勢いだ。
やっとのことで65分の授業が終わり、ようやく訪れた放課後。
教団の周りには人だかりができていた。
主に女子生徒達で、冷泉先生を囲うようにして群がっている。
「れーぜーせんせー、質問です!」
「なんだ?」
「彼女いますか?」
「好きな芸能人は?」
「好きな下着の色は!?」
予想はしていたけど、くだらない質問ばかりだ。
「物理に関しての質問のみ受け付ける。それ以外は勘弁してくれ」
「えぇ〜」
冷泉先生は女子生徒達をさっと一蹴すると、女子達は残念そうにしながらも、やっぱりね、と諦めたように散っていく。
全く、顔がいいだけで怖くて冷たい先生の何がいいんだか。
かなり失礼なことを考えながら、私は生徒会室の扉を勢いよく開けた。
「風上先輩!」
「千熱ちゃん!」
彼の方が……風上先輩の方が、かっこよくて優しくてイケメンなのに。
「千熱ちゃん、昨日の魔法少女アルメルボルト、見た!?」
回転椅子から立ち上がって小躍りしているのは、生徒会長を務める風上颯先輩だ。
一学年上の先輩で、委員会活動を通して仲良くなった。
憧れの先輩であると同時に、私の初恋の人でもある。
「見ました! 先輩の好きなアルトちゃん回でしたね!」
「そ〜なんだよぉ〜! まさかアルトちゃんが主人子のボルト差し置いて最初に強化フォームに変身するなんて!」
興奮気味に早口で語っているのは、毎週日曜午前から絶賛大人気放送中の女児向けアニメ、『魔法少女アルメルボルト』だ。
人の心に魔を差して暴走させてしまう怪人、マヲサスに立ち向かう三人の魔法少女。
電気の力で戦うボルト、音楽の力を使うアルト、そして熱と火を操るメルト。
私が学園内で人気の風上先輩と一歩リードした関係を築けているのも、このアニメがあったおかげなのだ。
「そういえば、千熱ちゃんに渡したい物があったんだ」
「えっ、なんですか!?」
婚約指輪とか!? なんて馬鹿な妄想に自分で呆れながらも、心は小躍りしている。
まぁ先輩から貰えるならなんだって……それこそゴキブリだって嬉しい。
芸を仕込んで大切に飼うつもりだ。
先輩のリュックから取り出されたのは指輪でもゴキブリでもなく──。
「そっそっそっそれは!」
リュックから覗く大きな箱に動揺を隠せない。
声が震える。
「そう。明日発売のおもちゃ……魔法少女メルトのフレイムトーチと変身アイテムセットさ!」
フィルムに包まれた化粧箱のパッケージには我が推し魔法少女メルトが使用する武器である、フレイムトーチが印刷されていた。
オリンピック聖火や松明を模したステッキで、先から熱い炎が放たれる。
そして同梱されているのは魔法少女メルトの変身アイテムのフレイムグローブ。
空手を武器にする主人公らしい変身アイテムで、手にはめると変身する。
自在に熱を纏うことができ、触れたものを溶かすことが出来る代物だ。
明日の発売をずっと楽しみにしていて、お小遣いを貯めていたのだ。
魔法少女の設定が尖ってて面白いと思います!
続き楽しみです(^o^)o