ねぇ、貴方には大切な人がいますか?
この人だけは助けたいって…そんな人はいますか?
日常の中に潜む「当たり前」という「当然」
そんな日常が突如壊れたら…?
舞です。心に残る作品を書きたいと思っています。
文章力に自信はありませんが、読んでくれると嬉しいです。
【主要登場人物】
紫村 尊[シムラ ミコト]
ごく普通の高校に通う高校生。
親友の佐伯らと同じ高校に進んだ。
佐伯 龍[サエキ リョウ]
紫村の親友で、成績優秀。
紫村の幼馴染である、東海のことが好き。
東海 りか[トウミ リカ]
紫村の幼馴染で、容姿端麗。
紫村とは家族のような付き合いがある。
結亜 貴音[ユイア タカネ]
紫村、佐伯と高校で知り合う。
紫村と付き合っているが、彼と家族のような付き合いの東海に妬くことがしばしば。
キーンコーンカーンコーン……
終わったのか。今日もまた1日が終わった。
「今日」が何なのか分からなくなるくらい
当たり前に過ぎていく「今日」の大事さを
もう俺は忘れていたんだ。
「尊!一緒に帰ろ!」
彼女の貴音が後ろの席から声をかける。
「あ、あぁ」
思わず気のない返事を返す。これも日常。
「何よー。Moonbucksの新作飲みに行くんでしょー」
あぁ、そうだった。Moonbucks…有名コーヒーチェーン店の新作を学校帰りに飲みに行く約束をしてた。
「おう、今行く。先準備してて。」
「はーい」
「なんだ尊!!また夫婦でデートか!!」
横から親友の龍が茶化を入れてくる。
「あぁそーだよ。お前も早く東海落とせよ」
「出来りゃ苦労しねぇって。また相談乗ってよな」
「おけおけ。いつも言うけどまずは自分から話しかけろ」
「やっぱそれが第1歩っすか先生。」
「誰が先生だよ全く…じゃあな。」
「おう、じゃあな!」
椅子を入れ、教室を後にする。
定期的に新しいのが出る、Moonbucksの新作は、日常に非日常を与えてくれる。
「わりぃ、待たせた。」
「また弁当忘れてるよ」
「あー…取ってくるわ」
再び教室に戻る。龍はイヤホンを耳に入れて参考書と向かい合っている。
「あんた、今から貴音ちゃんとデート?」
教室で黒板を掃除していた幼馴染の東海が聞いてきた。
「うん。それがどーかした?」
「んーん。感想聞かせてね」
「デートの?」
「違う。新作の。」
「あーおけ。RINEででも送るわ。」
「ありがとう。よろしく。」
「じゃあな」
「はい」
再び教室を後にする。
マフラーを巻いて待っている貴音を見ると、今から行くMoonbucksの新作に胸が多少踊る。
「むすーーん…また東海ちゃんと話してた」
「ごめんって。感想聞かせてほしいんだとさ」
「ウチらのデートの?」
「ちげぇよ。ムンバの新作のだよ。」
「ふぅん……龍と行けばいいのに」
「ははは。それは同感。」
こうして俺らは学校という日常を後にした。
「しっかしまぁ、学校ダルいな」
「現代文とか眠いよねー」
「なんか物凄い日常が壊れること起こんねぇかな」
「やめてよー。けどまぁ、半分起こってほしいかも。」
「貴音もやっぱそう思うだろ。」
「まぁね」
「ま、起こるわけねぇよ。大人しくこの退屈な日々を乗り越えようぜ」
「はぁい」
まだ知らなかった。
お望み通り、まもなくこの日常が崩れるなんて。
俺たちは、歩いてMoonbucksへ向かった。
信号は赤青を繰り返し、車は車道を走る。
本当にこの世の中は当たり前の光景ばかりだなぁ。
もしも今ここであの車が吹き飛んだら…???
もしも今ここで空から魚が降ってきたら??
「非日常」への焦らしは強くなっていく一方だ。
「ねぇってば!!!」
貴音が横から頬をつついてくる。
「んぁ…ごめん。どーした?」
「もしさ、この世で5人しか救えないってなったら、誰助ける??」
「うーん、難しい質問だね。助けて欲しい?」
「最初にウチの名前あげて欲しかったなぁ」
「ごめんって。まぁ助けると思うよ。」
「ほんとにーーー???」
「まぁ、実際そんな状況になったら考えるよ。」
「一生考えないやつじゃん」
「ははは。そうだね」
他愛の無い会話をしていたら、Moonbucksに着いた。
「いらっしゃいませー!!」
緑の服に黒いエプロンをした店員が会釈してくる。
新作には温かいものと冷たいものがあるらしい。
「貴音どっち飲みたい?」
「うーん…じゃあ温かい方かな」
「おけ。じゃあ俺冷たい方買うわ」
それぞれの品を注文し、出来上がりを待っていると、店員が話しかけてきた。
「昨夜の流れ星見ましたか??」
「流れ星ですか?」
「そうですよ。今凄い話題になってますよ。100年に1度地球に近づいて。願いを叶えてくれる星だとか。」
「それは珍しいですね。あとはほんとに叶えて貰えたらいいですけどね」
「その星の名前は、『セントラルドグマ』と言うらしくて、源頼朝とか、徳川家康、さらには海外の皇帝たちも、この星に天下泰平の望みをかけたと言われているんです。」
「セントラルドグマ…ですか。なかなか強烈ですね」
「あ、お飲み物出来上がりました。ごゆっくりどうぞ!」
「ありがとうございます」
両手に飲み物を持って、貴音と席を探す。
「尊、セントラルドグマ知らなかったんだ」
「なんだ、貴音知ってたの」
「源頼朝とか、徳川家康が祈ってたっての聞いてピンと来た。昔から日本では『第六天魔王』って呼ばれてる星だよ。」
「そりゃ、全ての欲望を叶える邪神の名前だろ?」
「邪神なのか悪魔なのか…分からないけどね」
「そんなすごい星が来てたのか…。見たかったな」
「ゆっくり空飛んでるから、今夜も見れると思うよ」
「はは。覚えてたら見てみるよ。」
「しかし、新作美味しいな」
「フルーツの味絶妙でいいね」
「イソスタグラム上げとくね」
「はーい」
こうして俺らは、Moonbucks…しばしの非日常を堪能した。
[場所は変わり、尊たちの通う高校]
「ねぇ佐伯、ここ分かんないんだけど」
「ん?どれどれ…あぁこれね。難しいよね」
「教えて」
東海が佐伯に物理の問題を聞いている。
「まず、その物体にかかる力を全部矢印で表す」
「めんどくさいよー」
「じゃきゃ解けないからやってください…」
「わかったよー」
渋々ノートに図を書いていく東海を佐伯が眺める。
俺から何か話しかけたい!
「ねぇねぇー」
口を開いたのは、東海だった。
「ん?」
「昨夜の流星見た???」
「あぁ、セントラルドグマね」
「そうそう。願いを何でも叶えてくれる」
「そうか…願いを何でもか。」
「佐伯だったら何頼むの??」
「え、俺は……」
「きっと高尚なこと頼むんでしょうね」
「いや、東海とご飯に行きたい」
「え。」
「え?」
「いや、それくらいなら普通に行くけど」
東海は薄く微笑む。
「えっ…ほんと???」
「うん。ふつーに。」
「じゃあこの後食べに行く???」
「いいよ〜」
「じゃあ物理早く終わらせてしまおう」
「そこは抜かりないなぁ」
佐伯はふと考えた。
これは、「セントラルドグマ」の恩恵なのか?
自分の力なのか?…前者だとしたらたった1度のその願いが食事に使われた。そもそもセントラルドグマが一度に願いを叶えてくれるのはたった一人だろう?仮に俺だとしたら…こんなことに使っていいのか?!
「東海……!」
「ん??」
「結婚しよう!!」
教室に残っていた生徒が一斉に彼の方を見る。
「え?嫌だよ」
「おけ」
自分の力だったらしい。セントラルドグマの恩恵は、他の人に向けられたらしい。自分は自力で恋を進めよう。そう誓った佐伯であった。
「いや、やっぱ飯だけでいいわ」
「はい」
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「日常」の崩壊まであと 10 分……
場所はまた戻り、Moonbucks
新作を飲み終え、店を出た2人は、貴音の家の前まで歩いてきた。
「美味しかったな」
「うん!とっても!」
「じゃあまた明日かな?」
「そーだね。また明日学校で会お」
「じゃあな!」
「ばいばーい」
貴音に手を振ると、尊は自分の帰路に着く。
日はすっかり落ちて、夜には一面の星が。
「美しい星空だなぁ…」
1人でそう呟いたとき、ふとあの話を思い出した。
『セントラルドグマ…なんでも願いを叶えてくれるって星だよ』
貴音の冗談だろーな。可愛いこと言いやがって。
流れ星に願いを馳せるなんて今どきな…
けど、たまにはやってみるといいかもな。
そう思って再び空を見上げると…
「あれが…セントラルドグマ…」
暗黒の闇にミルクを零したような星空の中、
血のような赤い尾を引く…肉眼で容易に捉えられるそれは、見る生命全てに己の無力感すら与えそうである。
「なんてことだ…運命すら感じさせる存在感…ただただ自分で感じる無力感…抗える気がしない…不可逆的な何かを感じずには居られない…『セントラルドグマ』とは…そういう事だったのか。」
セントラルドグマとは、本来は動物の体内で起こる、例外のない、反対方向には決して起こらない物質変化の流れのことを言う。昔の人々は、この星を見て、その時感じた無力感を…「セントラルドグマ」そう解釈したのだろう。
「神…?そうだ。例えるなら神だ。この世の何者も抗えない絶対的な力…神だ。あれは神だ。」
尊はとりあえずそう考えることしか出来なかった。
「日本では、昔から『第六天魔王』って呼ばれてきたんだってさ」
…貴音の言葉を思い返す。第六天魔王…仏教における、この世の煩悩だとか、欲望全てを司るという…
こんなの、あの源頼朝も、家康も、外国の皇帝達も…この圧倒的な「神」たる星に願うのも無理はない。凡人の…自分ですら何か祈りたいと。そう思ってしまうのだから。
ねぇあの星に宿る神…魔王…第六天魔王よ。もし俺の願いが叶うなら…
『願いが叶うなら、何を叶えて欲しい?』
…この退屈な日常で、何が大事なのかを教えてくれ…
『それがお前の願いなんだな?』
…あぁ。これが俺の願いだ。
……?!
ここまで話して我に返った。
……「話して」?
俺今誰と話して…声すら出してはいないが…
なんだ今のは。俺の願いを何かが聞いた。
………ははは。圧倒的な「神」を目の前にして、脳内に幻覚すら作ってしまったか。これは相当疲れてるな。家帰って風呂入るか。
尊は再び家に向かって1歩踏み出した…とき、
「それ」が脳内の幻覚では無いことを知る。
『神…はここにいるぜ?』
「は??」
尊に聞こえた心の声…否、ちゃんとした声?!
……この世のモノとは思えないその声色は、
尊を奇妙な「意識の世界」に飲み込んだ……
………………。
……………………。
…………はっ…ここは??
尊が目を覚ますと、一面暗闇の世界。
自分がどこに伏せているのかも見えない。
これは夢の中?それとも現実?何なのか??
荒野って考える意識さえはっきりしない……
時間、空間、意識、自己と他己、夢と現実…
全てが区別のつかない、倒錯した世界に尊はいた。
「やっと気がついたか?」
さっきの声!!尊は耳を塞ごうとする。
…が、今度は何も起こらない。
「???」
声の主を探して、上を見た時、「それ」はいた。
「う、うわぁぁぁあ!!!!」
産まれて以来最大音量で叫んだが、冷静に見ると、そこにいたのは高校生…??けど、飛んでる?
人の形をしたそれの…右手には…
……地球?
…は??
「それ」の周りを見渡すと、あれは……
海王星??土星もある。ってことは太陽系?
……あれ?ここは???
結局最初の疑問に返ってきてしまった。
「…そんなに驚くほど?」
「それ」は歩み…いや、飛び?寄ってきた。
「ま、待て、なんなんだお前は」
尊は、その場しのぎではあるが今するに最も適切な質問をした。
「え、だから神だって。神っていうと語弊があるな…」
「……?」
「俺に名乗る名はない。けど、皆は俺を、『第六天魔王』って呼ぶんだ」
……第六天魔王??ってあの???
「うん。あの。…あのって言われるのも変な感じだけど。」
こ、心を読まれた?!!!
「そんな驚かないでよ。ってか神なんだからなんでも出来るよ。」
良かった。「彼」は話すだけでも息が詰まりそうな存在感だった。心で唱えるだけで会話が出来るなら、それほど楽なことは無い。
「え、じゃあ話してよ」
……なんと意地悪な神なんだ!!!!
「なんてね。からかってみただけ。」
……そ、そうか。そもそも…なんで俺がこんな目に遭ってるんだ?
「あー。そうだった。それはね、君の…尊の望みが1番面白そうだったから。」
望み???そんなの………
あ、まさか……セントラルドグマ…
「正解ー。尊、セントラルドグマにお願いしたでしょ?だから来てあげたの。」
は、はは……。夢にしては精巧に出来てるな。
「え、夢じゃないけど。まぁ現実でもないんだけどね。この世でもあの世でもない。俺の『場所』。」
って言われてもなぁ…早く目覚まそう…流れ的に俺道端に倒れてるだろ…。
「そんなに帰りたい??なら戻ろ」
帰れるんかい!!永遠にこのままかと思ったよ!
「まぁどの道君には戻ってもらわないとダメだからね。じゃあ戻ろう。3…2…1…はい!」
「彼」が指を鳴らした。
「う、うぁ……え………俺の…部屋?」
……あれ?俺の部屋……?
気付くと尊は、部屋のベッドに寝転がっていた。
俺は今まで…寝てた……???
やっぱり夢だったのか…?
「夢じゃないよ」
「?!!」
ハッとして声の方を向くと……第六天魔王!!!
「いつになったら…どうしたら信じてくれる??」
「浮気した恋人みたいな言い方だな」
「あ、じゃあ、俺の『力』見せてあげる。」
「『俺の力』……?」
「うん?知っての通り俺は第六天魔王。色んな生き物の欲望を叶えてきたんだ。簡単にいうと、『その』力だよ。」
いや訳分からねぇよ……
「もうーーー!じゃあ何か小さな願い事してみて!」
あーそうだった。コイツ…この方は心も読めるんだ。
しょうもないお願い……あーじゃあ…
まぁ彼の力を信じる訳では無いけど…
「母さんの病気…ガンを治してくれ…」
俺の母さんは、この前、急に倒れた。
病院に急いで運ばれたけど、ガンの進度は末期…。
出どころは恐らくすい臓で、全身に転移していた。
それからと言うもの、父と妹と3人で意気消沈したような暮らしをしていたのだが…。
あぁ第六天魔王…あなたの力が本物なら…夢でもいいから母の病気を治してほしい…!
「丁寧に解説までありがとう」
「な、治るのか?医者がもう諦めたんだぞ?」
「はい。出来ますよ。」
「…そうか。なら、今から母のところに…」
「え、いや、もう治しました。」
?!
その時、下からドタドタと騒がしい音がした。
そのまま慌ただしく戸を開けたのは、お父さんだ。
「お、おい尊!!!!」
「ど、どどした!?落ち着いて父さん」
第六天魔王は?!他人に見えるだろうから見られちゃまずい!!
「あぁ、俺なら尊以外からは見えないから。」
お、おう……万能かよ…。
「で、どうした!?お父さん!」
「母さんが……!!!!」
「母さんが!!?」
「ガンが……消えたそうだ……」
「えっ…?」
「医者も何が起こったか分かってないらしい…」
「そんなこと…」
尊は第六天魔王の方を一目見る。
「と、とにかく、身体中に蔓延っていたガンが、綺麗すっきり……そう、綺麗すっきり消えたんだ!!!」
「じ、じゃあ母さんの余命は…」
「余命どころか、今日中に退院だ!!!」
「うおおおおおおおお!!!」
尊と父は、しばらく抱き合って声を上げて泣いた。
しばらくして、父が病院に行くと、
「第六天魔王…君の力は本物なんだな……」
「だから言ったでしょう」
「ありがとう」
「…礼?ですか」
「母の病気を完治してくれて…ありがとう!」
「まぁ…礼は受け取るよ。これが本職なんだけどね」
やばい。この人はやばい。こんな奇跡が起こせるなら、逆に言えば物凄い悲劇も……やばい。
「うん?俺はやばいよ」
第六天魔王が部屋に寝転がって漫画を読んでる…
「漫画、好きなのか?」
「うん。地球の漫画は面白いね。我が世界ながら感心感心。」
「ん?この世界は君が作ったのか?」
「そうだよー。俺の力は、無条件に願った物を叶える力だからね。『ローマは一日にして成らず』って言うけど、この世界自体が一瞬で出来てるんだよね」
「ははは…。スケールが違いすぎるや」
「もっとこの力見てみたい?ってか欲しい?」
「は??」
「え、だから、この力見たいとか使いたいとかする?」
「そりゃもちろんだよ。そんな力があれば、俺もプチ神になれるんだろ?」
「んー。まぁそうだね」
「くれるなら欲しい…むしろ奪い取りたい程なんだけど、なんで俺に?」
「あー。タメ口効かれたの初めてなんだよね」
「タメ口?」
「うん。みんなみんな、俺を崇め奉って、敬語だらけ。距離持って関わってくる。こんな見た目だけど、俺は無限に、永遠に生きてるよ。けど誰も俺に近づいて話そうとなんてしなかった。尊が初めてだよ」
「えーだって見た目同い年だったし…正体知っても今更敬語なんてなぁって感じだしな」
尊はクスクスと笑った。
「なら、尊にこの力、少しあげるよ」
「いいのか?俺にくれて。上に怒られたりとか…」
「俺は最上位第六天の魔王だよ。神の神。俺より上なんてどこにもいないさ」
「そ、そうか……」
「じゃ、少し力あげるから。使い方とか今日1日かけて教えるよ。今日暇でしょ?」
「今日って言ってももう夜からな。覚えてみよう」
「じゃあ尊。こっち向いて。」
第六天魔王は満面の笑みで「力」のレクチャーを始めた。
「あ、待って。」
尊はふと第六天魔王を止めた。
「ん??」
「第六天魔王って呼びにくいからさ、何か名前付けようぜ」
「あー。名前かぁ…」
「なんか欲しい名前ある?」
「んん……尊決めていいよ」
「そうだなぁ…神…第六天魔王……」
「そんなとこから名前つけたら人間界で浮いちゃうよ」
「んーそうかー…じゃあ、人の夢を叶えるから、
『儚叶』ってかいて「ハカナ」でどう?」
「儚叶…いい名前だね。気に入ったよ」
「じゃあこれから儚叶って呼ぶね。」
「いいよー!……儚叶かぁ」
儚叶は自分の名前を光の線で空中に書いた。
これも儚叶の「力」のひとつなのかな?
「さて、じゃあこの『力』のレクチャーをするよ」
「お、おう??」
「まずはとりあえず『力』を譲渡しないとね。じゃあ、手出して。あと、かなり痛いから覚悟してね」
「い、痛いのか……」
「やめとく?」
「い、いや!!!貰う!貰うよ!貰う。」
尊は恐る恐る手を差し出した。
「じゃあ…尊にあげる『力』は、この辺かな」
ポワァ……ポッ…ポワ…ァァァ…
儚叶は手の平からやわらかな光の玉…
手のひら程度の大きさだけど、物凄い熱量が籠っているのが分かる。
ーーーーーーそれが、尊の手に降りてきた。
「これは、俺が各『神』に与えた力だよ!尊!数秒後君は『神』と化す!『人』を終える覚悟はいい?!」
「あぁ出来てる!!さぁ来い!!!!」
それを聞いて儚叶はニッコリ笑うと、人差し指で光の玉を指差し、下にクイッと指を下ろした。
………………?
……………………?
……!
…………??
……?
……ハッ!!!!
「あー、やっと起きた?」
「儚叶…お、俺は??」
「2時間くらい意識失ってたよ。激痛だからね」
「お、俺はもう人間じゃ無くなったのか?」
「うん。おはよう『神様』って感じ。」
儚叶はケラケラと笑った。
鏡で一通り自分の体を確認してみても、特に変わった事はない。
しかし、この激痛、意識喪失…何かがあったのだろう。
その時。
「尊!!!!」
儚叶が巨大なコンパスを飛ばしてきた!!!
「ん??えっ?!うぉっっっ!!!!」
脊髄反射で回避を試みようとしたその時……
バチィン!!!!!!!
半透明の緑色の壁が突如生じ、コンパスを止めた!
コンパスは壁に当たると同時に霧と化した。
「は…は?え????えっ…何この壁?」
手で触ろうとすると蒸発して霧となった。
ますます何なのか分からない。
「それが『神』の力だよ」
「え??いや……わ、分かんねぇよ」
「まぁ、そーだろね。じゃあ、詳しく教えていくよ」