ーこの幸せを使いこなせる人に。
>>2
みなさん、こんにちは。猫仔(ねこ)と申します!
小説スレは初めてです、下手かもですがよろしくお願いしますm(_ _)m
*御意見、御感想歓迎です
*但し「下手」などは承知の上なので御了承下さい
*超スローペースで更新かと思われます
*報告なく打ち切りになる可能性があります
<第1章 ハチミツの夢>
…ハチミツは嫌いだ。元々甘いものとかを好きな性質(タチ)じゃあないけど、あれは本当にダメ。
妙に甘ったるいし、頭が痛くなる。…それに、「あの時」を思い出す。
『ほら、雛乃。あんたも一口ぐらい、舐めてみたら? 絶対気にいるから、ね?』
…あんなもの、僕にとって大嫌いで思い出したくないものだってのに。
どうして僕は今、ハチミツの夢を見たと思うのだろうか?そんな確証は何処にもないし、第一僕が認めたくない。
そもそも、ハチミツの夢って何だ?今の夢、ハチミツが出て来た記憶さえない。というか今、僕は夢を見ていたのか?
…訳が解らない。今日は久しぶりにまぁまぁな日にしようと思っていたのに。
いっそ、もう一度此処で寝てしまおうか…
「…おい、オマエ。こんな生活で本当に良いと思っているのか?」
「…え?」
…突然声を掛けられ、慌てて部屋を見回してみる。
しかし、お菓子のゴミ、カップラーメン?だっけ、のカップ、
丸まったティッシュ、お酒の缶、その他よく解らない物が散乱しているだけの、いつもの部屋だった。
…世界で1番安全で、多分世界で1番危険な部屋。
…あれ?いつの間にか僕の側に来ていたのは、1匹の金色の眼の黒猫。
僕の"たった1人の"家族、リオン。何となく雄っぽいけど、本当は良く知らない。
ひとまず僕は、リオンを膝の上に乗せた。そしてゆっくり撫でながら、「訳が解らないよ…」と呟くと、
「訳が解らないのは、オマエだよッ! 無視するな!」
「…⁉」
僕をジッと睨みあげ、さっきの男の子のような声で喋っていたのは、…まさかのリオンだった。
…ちょっと待って。何が起こったの?本当に僕の家族のリオンなの? でも違ったら逆に誰なの、え?
僕が状況に置いていかれ「⁇?」となっていると、
「…全く。一応オマエは"選ばれた人間"の1人の筈だが…何も気付かなかった、ってか?」
…突然呆れたと言わんばかりにリオン(?)に話し掛けられた。呆れる意味も、言葉の意味も謎過ぎる。
僕がそんなことを思っていると、リオン(?)が溜息を吐き、艶やかな毛の尻尾をゆらりと揺らした。すると…
「…? …⁉ おい、冗談にもならねぇぞ…何で、こんな…」
困惑中のリオン(?)を余所に、僕は開いた口が塞がらない思いだった。
…今の今までリオン(?)がいた筈の其処には、僕よりは幼そうな猫耳の少年が、ぺたりと座り込んでいた。
…僕は、目の前の事実に耐え切れず、さっきよりも心からそう思って言った。
「…訳が解らないよぉぉぉ⁉」
<第2章 今までと初めて>
…状況を整理します。僕の家族猫、リオン(?)が、突然喋り始めたと思ったら人化(?)しました。
で、今に至る。うん、全然何も解らないね。リオン(?)はずっと慌ててるからか、何も話してくれないし。
「待てよ…駄目だ…嘘だろう…?」ずっとこの調子だよ。時々キラっと謎の光に包まれてるけど、何やってんだか?
「リオンなの…かな?あの、一体…どうしたの?此処で何する気か解らないけれど、危ないよ。もうすぐ帰ってくる…」
「…うん?」あぁ、やっと気付いたか。「あぁ、"アイツ"か。気にするな、"アイツ"は帰って来ない。」「…え?」
…どうして。いつも"アノ人"が帰る前に出て行かせていた筈。この子は、リオンは、"アノ人"のことを知っていた?
産まれて12年も経たない位の僕が、この狭い狭い部屋(セカイ)で1番憎くて恐ろしい人。
僕の大切な母さんを狂わせ、追い詰め、殺した人。僕を家から出さず、ただひたすら暴力を振るった人。
ー僕の、僕の…父さん。
僕は我慢の限界だった。とにかくこの謎な状況を何とかしないと。
「…"アノ人"は帰って来ない?"選ばれた人間"って何?…いや、そもそも君は何? 解らないことが多過ぎるよ。」
「…あ、いや…うん。説明不足、だった…な。申し訳ない。だが、その前に、"いつもの"…くれないか?」
おずおずと言い出すリオンに、悪かったかもと思った矢先、"いつもの"…僕のごはん、メロンパンのおねだり?
…悔しいが、7、8歳位の猫耳少年はかなり可愛かった。上目使いで首をこてん、とやられれば勝てる訳がない。
「…まぁ、良いけど?ちゃんと話してくれるんでしょうねぇ…」
何だか、普通にリオンに話し掛けている気分だ。不思議と、少し笑ってしまった。
僕は"アノ人"が唯一くれる食べ物(エサ)、メロンパンを持って来ようと立ち上がった。身体が重いし、ふらつく。
危なっかしく雑誌の山だの服だのを踏み付け、ゴミの海を掻き分け、コンビニ袋を引っ張り出した。
そこからメロンパンを出して渡すと、リオンは嬉しそうな顔をして、半分可笑しそうに言った。
「一応言うが、普通の猫はメロンパン食べないからなぁ?そもそもここから変だと思って欲しかったものだねw」
「…えぇ、そうなの⁉ 知らなかった〜。あ、全部あげるよ?」
「いや、どうせオマエはオレが来ないと何も食べてないだろ。ほら、半分。」
「…ありがとう…」
リオンの言う通り。僕はリオンが来て、"いつもの!"といった…上目使いに首こて。
そう、今の感じでねだられない限りはまず、メロンパン自体を出さない。というよりか…出しても食べられないのだ。
「…んむ、はむ…♡」幸せそうに食べるリオンを見ると、自分も何故か食べられる。「…!」いつもより美味しい。
…まだ何も解決していないというのに、ただただ幸せだった。
…いや、待て待て。おかしいよね?どうして僕は、正体も何も解っていない謎の少年と、呑気にメロンパン食べてるんだ?
頭を振り、相手のペースに乗せられるなと自分に言い聞かせる。するとリオン(?)が、ジッと見つめて来た。
懐疑心を持ちながらも、目を逸らすのは不自然過ぎるか、と見つめ返す。…リオン(?)が、妙に癪な声で言った。
「…何かに気付いた、って顔してる。…なぁ、当たっただろォ?」
ポカーンと、何も言えなくなっている僕に、リオン(?)は尚話し続ける。
「…いや、解るさ。猫が喋り、人間になり、しかも意味不明なことを話す。
こんなことになりゃ、流石のオマエでも何かに気付く。だからオレの"能力"を使っていたっていうのにね。
オマエは気付いた、そうだろ。おかしいと思った。変だと思った。オレの"能力"を打ち破った。
…オレの"能力"じゃあ、オマエにゃ太刀打ち出来ねぇんだな。…ずっと、一緒に、居たって、…いうのに。」
最後の方では、半分泣きそうになっているリオン(?)に、僕はどうしたら良いのかなんて"知らなかった"。
…僕の知識は、この部屋の本と時々聞こえる…テレビの音だけ。それでも結構なことは解る。
一人称のことなんて知らない時にこの"僕"を身に付けてしまったから、自分が女の子と解った後もこのままだけど。
僕が、知らないのは…
…友達の作り方。 誰かを笑わせる方法、喜ばせる方法、楽しませる方法。
…"友達"の、慰め方。
涙目のリオン(?)、重苦しい空気に、未だリオン(?)を信じかねる僕は困っていた。
…しかし、いつまでもこのままでは進歩がない。僕は、"リオン"の隣に座った。
「…リオン、なんだね。大丈夫…なのかな?…ごめん。何かしたいけど、僕じゃ大したことは出来ない。」
一応、"リオン"は信じることにした。「…ずっと、一緒に、居たって、…いうのに。」…嘘とは、思えなかった。
「…やっぱり聞きたいの。リオンの…"能力" がどういうものかも解らないけれど、"打ち破った"って、いうのは…?」
こんなことを聞いて良いのか。もう少し待ってあげたら。いや、かえって気を遣わせる…この思いの、どれが正しいのか。
…そもそも、正しい答なんて僕に見つかるのか。そんな問答を、自分の中で繰り返していた。すると、
「…世の中にはな、"ヒナノ" 。ほんの一握り、"能力"使いが居るんだよ。
だがその"能力"は、何かきっかけがないと開花しない。その開花をさせるのが、オレの役目の1つ。
そしてオマエは、"特別な能力"を使える"選ばれた人間"なんだ。だから、ずっと能力開花の機会を窺ってた。
…しかし、だよ。ずっと猫化していたせいで、"アズサ"の能力が解けにくくなってたらしいな…」
と、ここでリオンは困ったように、自身の猫耳と尻尾を撫でた。
…ううん、成る程とまではいかないが、一応理解はした。
リオンは猫じゃなかった。僕は"能力"を持っている。だからリオンが来ていた。リオンが猫だったのも能力。…ん?
「"アノ人"が帰って来ない、っていうのは…?あと、リオンの"能力"って…?」
リオンは、少しピクリと肩を反応させたが、ゆっくり言った。
「ーあぁ。…………」
「…オレの能力は、"洗脳"…だ。だからその力で、アイツの此処の場所の記憶を書き換えた。
今頃、何処かを家だと思って勝手に入ってるんじゃないか。…これで良いか?」
「ふうん…じゃあ、僕の能力って?"特別な能力"って言ったよね。」
「…ああ。オマエの能力は、"夢想操作"だ。ううん…聞きたいことは多いだろうが、今は一緒に来てくれないか?」
「…えっ?」
「…もう一度聞こうか。オマエは、今までの生活で本当に良いと思っているか?逃げ出したい、そうだろ?」
…そんなの。だって、そんなこと、思って良いなんて知らなかった。僕は、1つ深呼吸をしてから、言った。
「…当たり前、でしょ。初めての外の世界、リオンがナビゲート、してくれるの?」
「あぁ。…まぁ、すぐ"この世界"ともおさらばだけどな。」
「…うん?」
「…いや。…ほら、行くぞ? 」リオンが扉を開けた。
…僕は、今までの狭い狭い部屋(セカイ)から、初めての世界に飛び出した。ぱあっと明るくなる視界に目が眩んだが、
それよりも僕は、初めての外に、興奮が抑えきれなかった。僕の言葉じゃ表せない位に、自由は最高な幸せだった。
…純粋で無垢な少女の、素直な喜びの溢れを見つめながら、猫耳少年リオンは何故か寂しげに微笑んでいた。
「…あ、は…"御主人様"、オレだって"人間"なんですよね…そう…あの日々が懐かしいです…」
そんな静かな呟きは、幸せの骨頂にいるヒナノに、届く訳もなかった。