つらつらと書いてきます
デスゲームだと
ここは妖の国。
現世で死んでしまった人達の世界。
現世の人々は"魂"と呼んでいるそれが集まり、創り上げてきた文明、それが妖の国。
妖と呼ばれる様々な形をした物は平和に過ごしている。
何も生まれず、何も死なない。
それでも、欲はある。
例えば、また現世に戻りたいなとか。
椿は真っ暗な空間にいた。
上も下も右も左もない処。自分自身が存在しているのかさえ解らない。きっとここはそういうところだ。
重い身体を起こす。真っ黒な部屋に似つかない白い布団を外によけ、壁をつたいながらやっとの思いで灯りをつける。
「まだ夜か」
窓に映る赤い月をぼんやりみて呟く。
本で見た現世の白い月が羨ましいと思う。そうしたら、なんだか心細くなって、青い、何かの石でできたペンダントを握った。
まだ夜だ。起きるには早すぎる。自分の弟子も起きていないし、何より酒場もなにも開いていない。
みんな寝息を立てて布団に潜っている。
歩きにくい寝間着を捲り、灯りを消して、布団に戻る。
「はあ」
ため息。最近はそんなのばかりだ。だけど、難しいことを考えていても目を瞑れば簡単に夢に堕ちる。理不尽だ。意識が無くなっていく。
この時の、"なにか足りない感じ"が私は大嫌いだった。
何も、生前の事を何も思い出せない……
「……おき……………くださ……たすけ……おきて」
朝。この声は弟子か。そう思って目を開ける。
やけに寝ているところが硬い。寝相は悪くは無いと思っている。それになんだか……
「起きてください!」
大きな声で叫ばれ、驚きのあまり起き上がる。
頭に衝撃がきて、悲鳴があがる。
ここは、
「屋敷じゃない……?」
いつもの黒い壁がない。妖の国の楽しそうな声も、何も無い。
ただあるのは木々だ。見たことの無い景色だ。
着ていたのは寝間着だったはずなのに、いつの間にか見慣れた私の袴になっている。青いペンダントは首にしっかりとぶら下がっている。
解らない。なんでこんな……
「大丈夫ですか……?」
悲鳴を上げた妖が私に近づく。その声で我に返り、
「あ、大丈夫だ。その、さっきは本当にすまなかった。」
「いえいえ。大丈夫ですよこのくらい。」
そう言って笑っている。女の子で着物を着ている。ご飯屋の娘にいそうな容姿だ。
名前は琥珀(コハク)と言うらしい。
お互いにお互いの情報を交換する。まだ、私の頭は混乱している。
ここに来た心当たりが、琥珀にも、私にも何も無い。
「困りましたね。私こんな風になるの初めてで……。椿さんはこんなこと今までありましたか?」
「いや、無いと思う。多分。」
琥珀は"らのべのてんせいけいもの"みたいで素敵!と言っているが私には分からなかった。
ただ、ものすごく嫌な感じがする。確信はない。予感だ。
広場のようなところに出る。といっても周りは木ばかりだ。
嫌な感じ。例えば、この奥の森から……。霊気が……。
「下がれ!琥珀!」
「ひぃっ!?」
木の影から幽霊らしきものが出てくる。低級の妖だ。
その時だった。
ヴーーーーーー!!!
けたたましい音が2人から鳴る。バイブレーションがうるさくて、音源を探る。懐に手を入れて探す。あった。
それは黒い板だった。片面が液晶でそこに
『チュートリアルを始めるよ♪』
と書いてあり、さっきの低級霊を倒す趣旨がつらつらと書いてあった。幼児みたいな舌っ足らずな口調や感嘆符がいちいち鬱陶しい。
「倒せばいいんだな。琥珀、下がれ。」
手に力を込める。琥珀は涙目で黙って見ていた。
深呼吸をする。空気が汚い。いつの間にか、たくさんの低級霊に囲まれている。もしかしたら、琥珀の分のチュートリアルの低級霊なのかもしれない。
目の前にいる霊を握る。少し力を入れれば消えてしまった。それを繰り返す。単純作業だ。
妖にはひとりひとつ、能力のようなものをもっている。
何も生まれない世界だからこそだと、私は思っている。
私の力は破壊。なんでも壊せてしまうらしい。低級霊なら少しの力で簡単に潰れる。
だが……
「間に合わない……数が多すぎる!」
汗が首筋に垂れて気持ち悪い。
もしかしたら、琥珀の方に霊が行っているのかもしれない。
後ろを振り向く。琥珀は……
「百鬼たち!お願いします!!」
茶碗、箸、行灯……様々な、日常生活で使う道具が、目玉をつけ、足を生やし、巧みに霊を倒している。
琥珀は泣きながらも、百鬼を召喚し順調に倒している。
チュートリアルの低級霊達は2人によって完全に消えた。
息が苦しい。こんなに動いたのはいつぶりだろうか。荒い息をどうにか抑えようとしていると
ヴーーーーーー!!!
大きな音。
さっきの黒い端末からだろう。耳障りだ。
気だるげに拾い上げると、琥珀は震えながら私に近づいた。私と同じだ。息が荒い。
ごくり、と唾を飲み込み液晶をタップした。
すると
「おっはよーございまーす!!お元気ですか?チュートリアル、楽しかったですか??」
画面から単眼の少女が飛び出す。思わず後ずさる。手で触っても実体がない。立体映像か。
「何者だ。なんであんな襲うような真似を……。」
「あらあら、怖い顔、やめてくださいよ~♪
あたしの名前はメリーです!んふふ。」
私が問えば彼女は何事も無かったかのように自己紹介を始める。メリーという名前の癖に和装でちぐはぐだ。
「なんで、あんな襲ってきたんですか?それに、霊を倒すことって本来許されていないことで……あ、私、悪いことしてる……。」
そうなのだ。低級霊だろうが強い妖だろうが一括りにしてしまえばみんな同族なのだ。妖の国の上層部は騒ぎが嫌いだ。だから基本的に他の妖を傷つけることを禁止している。
妖だから死ぬことは無い。だけど、人間でいう妖の国のように倒されたら行くところはある。でもそれは虚無だ。何も無い、考えも自分も心も体も何も無いところ。人間は妖の国に来て新しい生活ができる。でも、妖にはそれがない。
なのに、私は、私達は
霊を倒してしまった。