連休真っ只中の、晴れ渡る空の下、かわいい登山ウェアを着て、彩香は一人山道を歩いていた。前からずっと登ろうと思っていた山。まさに今、その山に登っている最中なのだ。
自然好きの彩香は、何日も前からこの日が来るのを待ち焦がれていた。ガイドブックを眺めては、頂上からの景色や、途中の山小屋で食べる名物のお団子の味を想像していた。
(天気が悪かったらやだな)
しかし、朝目を覚ましてみると、まだ薄暗い窓の外は、雲一つない晴れであった。天気予報も絶好のお出陰日和であることを保証している。
(やった)
彩香の願いは叶った。これなら文句なく登山に行ける。
(よし、じゃあ行きますか)
こうして彩香は、家を出て、元気よく山へと出かけたのであった。
春の温かな気候で、登山道の脇には青々とした木々やきれいな花が咲き乱れ、顔を上げて遠くを見渡せば、山々の稜線が深く青い空を切り取っている。まさに、登山にうってつけの季節だ。
彩香もさぞ気分よく、この自然の中を歩いていたことだろう、、、もしこの時、何事もなかったならば……。しかし、予想通りいかないのが世の中である。
(や、やばい……)
実はさっきから、彩香は周りの景色など全く目に入っていなかったのだ。
(もう少し、、、あと少しで休憩地点だから……)
家を出たときの元気のよさはどこへやら。今の彩香は、地面ばかりを向き、一歩一歩ゆっくりと、体に衝撃を与えないように歩を進めていく。考えていたのは、頂上から見える風景のことでも、途中の山小屋で食べる名物のお団子でもなかった。
彩香の頭の中にあるもの。それは……
(あぁぁ、う〇こしたい……)
実は彩香はさっきから、大きい方をもよおしていたのだ。