誰かを救うためには誰かが犠牲にならなければいけない―――
感想◎ 荒らし× なりすまし×
「ただいま」も言わずに、靴を脱ぎ捨て、すぐに自室へ向かう。
今日は非常に眠かった。
私の足音に気がついたのか母がこちらを向く。
「あら、帰ってたのね。おかえり」
「ただいま」
私は無愛想に答え、自室のドアを開ける。
私はいつもは真っ先に宿題をする派なのだが今日は真っ先にベッドに倒れこむ。
倒れこんだ瞬間、一気に眠気は襲ってきた。
意識がぼんやりとしていき、私は寝た。
「………い……おーい。聞こえてんのかー?」
誰かが私に呼びかけてるような気がした。
体を起こし、誰かを確認する。
「……ぬいぐるみ?」
右耳は破れ、継ぎはぎのクマのぬいぐるみがボタンの目で私を見つめていた。
あ、これは夢だな。私はすぐに気がついた。
「ぬいぐるみじゃなーーーーーい!!!おれは悪魔だ。次、ぬいぐるみだなんて呼んだら、どうなるか分かってんだろ
うな?」
「悪魔…?」
クマは誇らしげに話した。
「そうさ、おれは悪魔なんだ。夢の中のわっるーい、悪魔さ。おれたち悪魔はテキトーに人を選んで、夢の中に連れ去
り、夢の中に閉じ込めてしまうんだ。お前は運が悪かったな。
あ、いいことを教えてやろう。おれたちが命令を出す。その命令に全部従えたら、出してやるよ」
「おれたち」ということは他にも悪魔が複数いるのだろうか?
夢の中に連れ去った?もし「命令」とやらに従えなければ――――。
「命令に従えなかったらどうなるの……?」
「おっと、物好きだねぇお嬢ちゃん。従えなかったら―――――
死んでもらうよ」
「し、死ぬ?夢の中で?」
「夢の中だから大丈夫だと思ったか?もう二度と目を覚まさなくなるよ。
だからせいぜい頑張ってね。
おっと、言い忘れた。閉じ込められてるのはあんただけじゃないよ。だから協力して頑張るんだね。
さ、他のやつらはこっちにいるから――――」
とクマは言い。私を暗闇に突き落とした。
気がつくと、私はつめたい床の上に倒れていた。
辺りを見渡すと、人が一人だけいた。
クマは「閉じ込められてるのはあんただけじゃないよ」と言っていたが、私の他は一人しかいないのだろうか?
「やっと起きたみたいだね。じゃあ命令を始めるよ」
クマの姿は見えないのに、声が部屋中に響き渡った。
「ちょ、ちょっと待って!」
私は思わず、声をかけた。
「ん、なんだい?」
「閉じ込められてるのって二人だけ?」
「ううん。他にも違う部屋にいるよ」
「会える?」
「ここの部屋を脱出できて、生きていたらね」
クマはニヤリと笑った。
「それって、死ぬかもしれないっとこと?」
私よりも先に、私と閉じ込められている人が聞いた。
「うん。じゃあ命令に移ってもいいかな?」
私たちは返事が出来なかった。
死ぬかもしれない………。
「命令1。
―――鍵を制限時間内に見つけてこの部屋から脱出しろ―――
制限時間は二人の自己紹介とかもかねて、今回は長めに設定してあげるよ。
生きていれば、これからも協力していく「ペア」となるから、しっかりとね。
「ペア」っていうのはね、これからの命令でも一緒になることが多いよ。「ペア」の片一方が死んだら
一人で行動することになるから「ペア」はちゃんと守ってね。
命令1の時間制限は2時間。命令1だから、簡単だよ。これからもっと楽しませてもらわないといけないからねぇ。
ルール説明は終わり!
―――スタート―――」
「おれはお邪魔だと思うから失礼するよ」
といいクマは姿を消した。
「と、取り合えず自己紹介でもしましょうか…?」
と私は話しかけてみた。
「あ、うん。そうだね。僕から言うよ。
僕の名前は 福積 千夜(フクズミ チヤ)チヤって呼んでくれて良いよ。
年齢は16で高1だよ。帰宅部だから、足手まといになったらごめんね……」
チヤと名乗った人は気弱そうな人だった。
ブカブカな黒い服を着ており、襟ぐちは大きく開かれていて肩から今にも服がズレ落ちそうだった。
丈も長く、尻まですっぽりと隠れる長さだった。
明らかにサイズが合っていないようだが、そういうのが流行っているのだろうか?流行に疎い私にはさっぱり分からな
い。
「……この服装気になる?」
ジロジロ見すぎたのだろうか。チヤが自分から聞いてきた。
「あ、はい。私、流行に疎くて……」
「あはは、流行ではないと思うよ
あ、時間もないと思うし、自己紹介お願いしてもいい?」
私は「はい」と言い、自己紹介をする。
「私の名前は 桜木 凪(サクラギ ナギ)です。ナギって呼んでくれていいです。
歳は14で中二です。部活は陸上部をやってるので、チヤさんを連れて逃げるのは任せてください!」
「……頼もしい」
とチヤがつぶやいた。
「あ、ありがとうございます。
あの、自己紹介も終ったので、そろそろ鍵を探しませんか?」
「そうだね、どこにあるのか全く分からないし、散らかしてみる?
散らかすのは……得意なんだよね」
最後の一言を聞き、チヤの自室は想像できた。
「そうですね、散らかしてみましょう」
二人で散らかしていると、思ったより早く、容易に見つけることができた。
「思ったより……早く見つかったね」
「はい。あとはこの鍵で脱出するだけですね」
私はドアに鍵を差し、まわすとカチャリっと開く音がした。
ドアノブに手をかけまわして開けて見ると、何も見えないほど真っ暗な空間が広がっていた。
「い、行きますか……?」
思わず足がすくみ、チヤに聞いた。
「行くしかないよね。僕が先に行くよ」
チヤはそう言い、足を踏み出した瞬間チヤは消えた。
「ち、チヤさん?」
とドアの向こう側に行ったはずのチヤに呼びかけるが返答は返って来ない。
もしかして、真っ暗な空間には道はなくてチヤさんは堕ちた……?
私は落ちることを覚悟して、一歩踏み出す。
思ったとおり、そこに道はなく私は闇に堕ちて行った。
クマに突き落とされた時のように……。
もしかしたら、ここでの移動方法は堕ちることなのかもしれない。
私はそんなことを考えていたが、すぐに気を失ってしまった。
「……さん…ナギさん…!」
私は誰かに呼びかけられる声で目が覚めた。
「ナギさん…!大丈夫?」
チヤが私を心配そうに見ていた。
「ち、チヤさん……ここは…?」
私はあたりを見渡した。チヤと私以外にも複数人の人がいて、みんな私と同じように混乱した様子だった。
「ここは命令2を行うところだよ。でも、新しく会う人もいるから情報交換をする時間を与えてあげるよ」
クマがチヤの代わりに答えた。
「く、クマ…!命令2の内容って……?」
「それはぁ教えられないよ。そんなことよりも情報交換……自己紹介をしておくといいさ。
これから協力していくことになるからね。
……生きていれば…だけどね。
それじゃぁ俺は失礼するよ」
クマは質問をする時間を与えずにさっさと消えてしまった。私だけではなく、他の人たちも呆然としているようだっ
た。
その中でも、スーツ姿のしっかりとしたような風貌の男性が皆に話しかけた。
「敵の言うとおりにするのは悔しいが、情報交換は必要だと思う。自分がなにものか。
ここに来る前、何をしていたか。命令1の内容とか…。
最低限の情報でいい。初対面の人を怪しんで自分のことを言いたくないのは分かる。
だからこそ、皆を信用して言ってくれる人はいないか…?」
私たちは俯いたままで誰も言おうとしない。
「私……言ってもいいです」
小さい声だが確かに聞き取れた。
「私、皆さんのこと信用してみます!」
そういって立ち上がったのは私と同じくらいの年齢に見える、制服姿の女の子だった。
「私の名前は 宇都宮 琴 (ウツノミヤ コト)です。
15歳で中学生です。まさか…こんなことが起きるなんて思いませんでした…」
コトと名乗った女の子は勇気を出して、自分のことを話した。
「ここに来る前、何してた?」
スーツ姿の男性が聞くとコトは少し思い出すような素振りを見せた。
「そうですねぇ……。あ…確か、私は受験勉強してて疲れて寝ちゃったはずです。
いつもは寝ないのに……」
「命令1の内容は?」
スーツ姿の男性がまた問う。
「【ペアと協力してドアを破壊する】という内容でしたよ。幸い、ペアが男性で、ドアが思ったより脆かったので助か
りました」
「そうか……命令1の内容は同じとは限らないんだな。
俺とペアが実行した命令1は【鍵を探して脱出する】とうものだった。
命令1は簡単に作られているようだな」
「そ、その命令1の内容は私たちと同じです…!」
私が口を挟むと、男性はこちらを向いた。
「同じ?命令1はランダムだったのか…?なんか遊ばれているみたいで悔しいな…」
男性はなにかを考え始め黙り込んでしまった。
「このスーツ男。人の情報は聞くのに、自分のことは何も言わないんだね」
誰かがつぶやく声が聞こえ、私は反射的に振り返ってしまった。
目が合う。
「なに?だってそう思わない?人のこと聞くなら先に自分から話すのが常識だろ?」
スーツ姿の男性は彼のことを見ていた。
彼の言うことは正しい。でも、そんなにはっきりと言わなくても………。
―――喧嘩の火種になる。
「そ、そうだな。すまない」
スーツ姿の男性は私が思っていなかった、大人な反応をした。
「俺の名前は 依田 信二(ヨリタ シンジ)だ。
32歳の会社員だ」
32歳…。学生だけかと思いきや、色々な年齢層の人が閉じ込められたのだろうか?
どっちにしろ、大人がいてくれると安心する。
「ヨリタさんは私のペアです」
とコトは言った。
大人の男性がペアならコトの心配は要らないだろう。少し安心した。
「きみは自分のこと、話したくないのか?」
ヨリタは私に聞いてきているようだった。
「あ、私も…自己紹介します!
私の名前は 桜木 凪(サクラギ ナギ)です。
歳は14で中二です。なので…コトさんと仲良くできたら嬉しいです…!」
「わ、私もナギさんと仲良くしたい!よろしくね、ナギちゃん!」
コトは顔を少し赤らめて言った。