犯罪者専用シェアハウス"避難所"

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1:めくり (ノ>_<)ノ ≡dice5:2019/06/17(月) 13:22

以前使っていた登場人物の名前を流用していたりします。



[シェアハウス "避難所《ひなんじょ》"]
人気の少ない場所にある小さな屋敷で、犯罪者専用シェアハウスとなっている。
家賃は高額だが、買い物などの際は大家が行ってくれるため、外出の必要が無く、身を隠すことができる。


【金刺 鍵久(かんざし かぎひさ)(17)】
ひょんなことから犯罪者専用シェアハウス"避難所"のオーナーとなり、外出できない犯罪者の買い出しや世話を請け負うことになる。
特撮ヒーローが好きで、スーツアクター白銀錠のファン。

【白銀 錠(しろがね じょう)(23)】
指名手配犯だが、冤罪を主張している。
死刑寸前というところで脱獄に成功し、シェアハウス避難所に身を潜めている。
元スーツアクターで、"仮面ファイタークロスゼット"の中の人。

【錆本 鉛(さびもも えん)(73)】
シェアハウス"避難所"の初代オーナー。
旅行が好きで、オーナーを退いた後は温泉巡りの旅に出ている。

【銅島 飛直(どうじま ひすぐ)(15)】104号室。
ヤクザ高梨組の麻雀代打ちや裏カジノで稼いでいる少年。
孤児院から脱走したところを、高梨組の組長に拾われた。
普段は女装しており、かなりの美少女。

【針崎 有美(はりさき あるみ)(24)】
夜は世間を騒がす"怪盗ミニューム"として活動しており、ある理由から宝石や絵画を破壊して回る女性。

【高梨 鉄也(たかなし てつや)(60)】
ヤクザ高梨《たかなし》組の首領で、かつてはスパイとして活動していた。
現在は殺し屋業をしており、犯罪を犯したにも関わらず刑を逃れた人を対象に殺害している。

【錫川 葉鈴(すずかわ はりん)(35)】
かつて研究所でウイルスを流出させた責任を被り、医師免許を剥奪された女性。
剥奪後は闇医者として活動していたが警察に目をつけられるようになり、避難所へ入居。

【錫川 鐘(すずかわ あつむ)(8)】
葉鈴の一人息子。
ニュースで葉鈴《はりん》の事件が流れたことから小学校でウイルス扱いされ、いじめを受けている。
仮面ファイタークロスゼットの大ファンで、白銀錠を尊敬している。

【一ノ関 鋼(いちのせき はがね)(40)】
詐欺罪で警察に追われていたところ、錆本鉛に助けられて入居した女性。
マルチ商法やアンケート商法などで荒稼ぎしていた。

2:めくり (ノ>_<)ノ ≡dice5:2019/06/17(月) 15:49

「君に一ヶ月の停学を命じる。金刺《かんざし》鍵久《かぎひさ》君」

ジャムたっぷり塗りたくったトーストを、新品の白いカーペットの上に落としたような絶望感。

背中を丸めてパイプ椅子に縮こまる俺を、2人の中年教師と親父が見下ろす。
隣で座っている親父の顔は険しく、目も合わせてくれない。

「まさか、君のような優秀な生徒が援助交際するとはねぇ」
「どういうつもりだ、鍵久《かぎひさ》。小遣いだって十分すぎるほどやっただろう」
「だから! 援交なんかしてない!」
「でもね、証拠はあるんだよ」

目の前に掲げられたのは、小太り気味のサラリーマンらしき男と一緒にいかがわしいホテルへ足を踏み入れる俺の写真。
恐らく俺を首席から蹴落とそうとしてるやつらが作った合成だろう。
そんなクソみたいな合成写真を信じた、教頭と生活指導の先生。

「その画像も絶対合成です! そもそも俺、男だし……」
「稀に男子高生を狙う男もいる。君は随分と華奢だし、顔立ちをも幼い。"そういう男"を唆《そそのか》せるのも容易いだろう?」
「はゐ?」

思わず声が裏返る。
真冬に似つかわしくないような大量の手汗を、カーディガンの袖で拭った。

童顔だとか、女みたいだとか言われるようなこの顔も、細いねって女子から羨ましがられるようなこの体も、嫌いではあったが――こんなに呪ったのは、今日が初めてだ。

「君も知っての通り、うちは全国屈指の名門男子校。そんな学校に援助交際をしていた生徒がいるなんて明るみに出られちゃ、困るんだよね」
「だからその写真は合成で、もっとよく調べれば……!」
「言い訳はいいから、ね?」

教頭はまるで、それ以上の詮索を許さないような壁を張って、ぴしゃりと言い放った。
これ以上踏み込まれたくない"何か"がある。
俺は察した。

――寄付金だ。

私立校に寄付金は付き物。
名門男子校と言われるほどの進学校になれば、政治家の息子や大企業の御曹司もいる。
一弁護士の息子じゃ到底叶わないようなボンボン。

前々から首席の座を狙うやつらが俺に対して嫌がらせをしているのにお咎めが無かったのは、莫大な寄付金が背景にあったからだと今頃俺は気づいた。
今回の件も恐らく、寄付金の太い生徒が仕組んだのを黙認しているか、賄賂の力で揉み消しているか。
そんなのは別に――どっちだっていい。

「先生、大変申し訳ございませんでした。以後しっかりと言いつけますので……」

恐らく、無駄に頭の切れる父もそれを察して、何を言っても無駄だと分かって平謝りしている。
今まで見抜けなかった愚か者は俺だ、俺だけだ。
この場で俺だけが気づいていなかった。

「くそ……っ」

悔しさのあまり、拳を太ももを打ち付ける。
ギシッとパイプ椅子が軋んだ。

名門私立の進学校の教師が、寄付金欲しさに冤罪を産む。
一番信じるべき両親も、荒波を立てたくないがために抵抗しない。
聞いて、呆れる。

俺はこんな学校に金を払ってまで学ぶことがあるか。
こんな親に頼ってまで生きる命か。

「援助交際なんてする子に育てた覚えは無い。親不孝者! センター試験も間近だっていうのに。勘当したいくらいだよ、全く……」
「なんだよそれ……!」

父はブランド物のネクタイを整え直すと、面倒くさそうに言った。
親父《こいつ》は絶対、"分かって"言ってる。
俺が冤罪だって"分かった"上で言ってやがるんだ。

荒稼ぎする弁護士のくせにチンケな合成写真の証明ですらできない、自分に不利なことなら息子だって助けない。
そうだ親父はそういうやつだった、なにを期待していたんだ俺は。

「とにかく、金刺《かんざし》君には一ヶ月の停学を命じ……」
「――てやる……」

激情が、止まらない。
急激に沸騰して吹きこぼれるように、激情を抑えるフタが外れた。
俺は四人をキツく睨みつけると、パイプ椅子を蹴り、噛み付くように言い放つ。

「こんなクソ教師がいる学校なんか、退学してやる! こんな……っ、こんなクソ親父がいる家なんかこっちから願い下げだ! 家出してやる!」



――18の1月、センター試験目前。
俺は名門私立高を退学して家出した。

3:めくり ホィ(ノ゚∀゚)ノ ⌒dice6:2019/06/17(月) 17:17

「あーあ……どうせ退学するなら、ガラスの一枚でも割っときゃ良かった」

行き交う人の群れの中、ぼつねんと取り残されたように立っている。
みんな自分の行くべき場所へ――目的地へと迷いなく歩いている。
まるで俺のとこだけ、時間が止まったみたいに。

――1月の寒気は息を可視化させる。
少しため息をつけば、白い煙となって目に見えるのだ。


あの後の騒ぎと言ったら、地獄絵図が絵図じゃなくなったみたいな空間だった。
それってただの地獄。

「ふん、馬鹿が。子供一人で生きていけるわけないだろ!」
「……父さんに育てられてこの先生きてくらいなら、真冬の街で野たれ死ぬ」

俺は本気だった。
従順な犬として躾された俺が、初めて親父に本気で噛み付いてみせた。

「そうか分かった。好きにしたらいいさ」

でもその覚悟は届かなかったのか、俺を見てくれなかったのか、彼の反応は薄いもので。
俺が本気で家出しない、もしくはすぐに帰ると思ったのだろう。

一応親父は俺の挑発を受け入れ、その勢いで退学手続きをした。
先生方もさすがに焦ったのか止めに入るも、あぁなった親父は誰の手にも負えない。
親父は、一度痛い目見ればいい、と怒鳴りつけ、あっさりと退学手続きを済ませた。

家に帰っても親父とは口も聞かず、素早く荷物をボストンバッグにまとめた。
そしてハンガーにかかった黒いスカジャン一枚で真冬の夜へと足を踏み入れた。

父は何の躊躇もなく俺を追い出した。
背後から聞こえるガチャッと鍵をかける音が、俺を後戻りできなくさせた。

もともと、学校も親父も好きじゃなかった。
学校は、首席を独占する俺への嫌がらせを相談しても見て見ぬふり。
親父は俺を自分と同じ弁護士にすることしか考えていない。
俺の夢は、本当の夢は違うのに。
毎日予鈴に急かされて勉強し、やりたいことをやれない日々に詰まって、生きる意味を失ってしまった。

俺は脆弱な人間だ。
衣食住恵まれた環境にも文句を言い、耐えきれずに家出するような、生きる意味を失くすような弱い人間。

でも、そんな人間が一人で生きていけるなんて思い上がるほど馬鹿じゃない。
弱い人間は弱い人間らしく、溺れて死ぬ。
凍死が先か、餓死が先か。
援交を疑われるくらいの容姿なら、夜の繁華街で本当に援交して稼ぐのも手だが――それは癪だからやめておくか。


未練は無い、と思う。

5歳から始めた剣道も最近飽きてきたから辞めたかったし、執着してる趣味も、勉強以外視野に入れるなという両親のせいで特に無い。
唯一心残りがあるとするなら……毎週観てた特撮ヒーロー"仮面ファイター"の最終回だが……それは幽霊になってからでも遅くはないか。

本当に、執着するものが無いような薄っぺらい人生。
手放しても惜しくないと思ってしまうような人生。
あげられるものなら、この命くれてやるさ。
神に返すさ。

「……何日まで耐えられるんだろ」

持ち物といえば、は所持金3万、着替えのみ。
ちびちび節約しながら生き永らえるのも悪くは無いが、どうせ死ぬならパーッと豪勢に使ってしまうのもアリ。

「さーて、死に場所でも決めておくか――」
「なぁ、お前さん」

しわがれた老人の声が、喧騒の中はっきりと俺の耳に届いた。
振り向けば、白髪を蓄えた老人が杖を付きながら立っていた。
深緑色の和服は、都会の繁華街だというのに、微塵も時代錯誤を覚えさせないほど彼に似合っていた。
人の交錯する繁華街、俺と彼の間だけ時が止まった。

「随分と賢そうじゃないか。どうだ、君に良い仕事がある」
「……なに、援交?」

夜の繁華街をうろつく餓鬼に声をかけるような人だ、どうせロクなことが無い。
訝しげな視線を送って睨みつければ、老人は高らかに笑って杖を三回地面に突いた。

「はははっ、そうきたか。いやなに、決して汚れた仕事じゃない。人助けだと思って話だけでも聞いてくれんかね」
「へぇ、人助けね……」
「人通りの多い繁華街のど真ん中じゃなんだ、場所を変えようか」

どうせ目的地の定まらない不確かな人生、人助けして終わるのも悪くないかもしれない。
気まぐれに身を任せて、俺は老人にのこのことついていった。


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