僕を置いていかないで。
【登場人物】
大槻 朝陽(男)おおつき あさひ
細雪 来夏(女)ささめゆき らいか
左高 仁(男)さだか じん
水上 玲乃(女)みなかみ れいの
世界で最も人間に近いAIを作って、もう一度君に会いたいんだ。
本当の君じゃなくていい。これは、僕の自己満足なんだ。ごめん。どうしても言いたいんだ。この言葉を、君に伝えたいんだ。
これは、僕だけじゃなくみんなのための使命だから。
-幼少期-
僕は本当に悪ガキだった。
「はよ!取れるもんなら取ってみろよ!」
人の所持物を強奪しては泣かせて楽しんでた。相手に虫を付けて嫌がらせ、友達をパシリにしてはこき使って、その度に先生、親に叱られてた。
その頃、僕には大嫌いな奴がいた。
俺の敵とも言える。「細雪 来夏」っていう女。本当に嫌いな奴だった。僕のやりたいこと全部阻止して、チクって、正義感の強い女だった。僕は大嫌いだったのに、みんなの中心にいるから、益々気に食わない。いなくなればいいのに、と思ってた。
「ほら!カエルだ!きもちわりーwww」
「ねぇ、やめなよ」
「はぁ?なんだお前、邪魔すんなよ」
「いや、関係あるんだけど」
「どこがwww」
「いや、この子知らないけど、お前が嫌いっていう共通点では仲間なんだよね」
僕は、あれほど侮辱されたことが無かったから、本当にムカついた。
だから、いじめるターゲットを来夏にしたのだ。
上履きを盗み、クレヨンを折り、給食を零し、不潔な掃除をやらせようとした。グルの二人の友達と、散々蹴散らした。
この時点で俺らはクラスでかなり嫌われていたが、俺は特に唾棄されていた。
そんなの、どうでもよかった。
来夏は意外と服従した。きっと、周りの友達が虐められるのが嫌で、逃げて行ったんだろ。所詮そんなもんだ。せいぜい苦しめばいい。
それなのに、来夏はいつも笑顔だった。それも、悪魔のようににやついているも、爽やかで魅入られそうな表情だ。
悔しい、悔しい!あああ、もっと嫌がれ、苦しめ!
そう思っていた。
「大槻、校長室に来い」
俺のしたことは全てばれていた。
「やっぱりチクったんだな、来夏の取り巻き・・・」
僕のしたことは、親だけでなく学校中に広まり、みんなから唾棄された。
来夏は逆に、みんなから慕われ、擁護され、歯向かえない立場へと昇りつめてしまった。
その反面、来夏はみんなの中心にいるようになった。そこにいるだけで花が咲くような存在。僕と真逆だ。
僕はグルの友達にも見捨てられ、クラスに一人でいるようになった。
「あいつ来夏のこといじめたんでしょ?」
「あの二人はいいとしても朝陽君はやりすぎじゃない・・・?」
「あいつよく学校来れるよなw」
そんな言葉を度々聞いた。
息苦しい。そう思うようになった。
だから、休み時間はいつも、外の隠れ場所で一人でいるようになった。場所は百葉箱の後ろ、木の下だ。
みんなのいる場所で帰りたくないから、みんながいなくなってから帰ってるんだ。
「やっぱ、したことって全部返ってくるんだな・・・。」
放課後、ひとりで隠れ場所で呟いたときだった。
「うん、そうだね」
後ろから声がした。この透き通った声、魔女のような笑み、一人しかいない。
「さ、細雪っ・・・!なんで」
「いやいっつも見てるから、真上にうちの教室あるの知らないの?」
あっ・・・うっかりしてた。これじゃ広ま・・・
「二人の秘密にしよ?」
来夏から予想もしない言葉が返ってきた。
なんなんだこいつ、僕のこと嫌いなくせに、なんでこんなに平気で絡んでくるんだ?
「お前、むかつくんだけど」
「え?」
「鬱陶しいんだよ。僕はお前のせいで居場所を失った。お前がいなければ、まだばれなかったかもしれないのに」
「でもいつかはバレるよ」
はぁ。ほんとうざい。もういっそ・・・
僕は来夏の胸座を掴んだ。
「なんなんだよお前!うっぜぇよ!ほっといてくれ!!!」
僕は思い切り腕を振り上げて来夏に向けた。
パァン
僕の拳は来夏の手で押さえられていた。
痛い、右手がとんでもなく痛い!来夏に押さえられてるだけなのに・・・
「痛いでしょ?痛いなら強くならないとね、ほら、私の爪が食い込んで血が出そうだよ?」
「っ・・・やめろよ!」
「嫌だよ?やりたいことやって何が悪いの?」
「お前いじめとか酷すぎ・・・」
あ・・・
そうだ、僕が言えないや。
やっぱり、僕はこうなって当然なんだよな。
「ごめん細雪・・・」
来夏は僕を押し倒した。
「謝るなら!」
え・・・
「私じゃなくて、お前がいじめてきた人全員に謝れ」
来夏は、見たこともない悲しそうな顔で叫んだ。
僕は震えた。
これほど恐ろしい目を見たことが無い。いつも透き通っているように美しい来夏の目がこんなに鋭く僕の心を貫く。
怖い・・・怖い怖い怖い!
「ごめん・・・許して・・・ごめんなさい・・・」
僕は縋るような気持ちで謝った。
来夏は、
「うん、いいよ」
爽やかな笑顔で答えた。
そして、立ち上がって僕の目の前から消えた。
白昼夢を見ているようだった。
「ありえない・・・」
翌日
今日も僕はクラスで孤立するはずだった。
それなのに、僕が下駄箱で靴を履いていると
「む・・・無視して、一人にしてごめん・・・」
僕の元取り巻きが謝ってきたのだ。
「え、な、なに急に」
動揺を隠せない。
「いやー、なんか申し訳ねーじゃん。わりかったよ。それだけ」
二人はそれだけ言い残して立ち去った。
「なんで・・・」
僕が教室に行くと、突然みんなが僕に明るく挨拶してきた。
「朝陽ーおはよー」
「大槻君、おはよ」
なにこれ・・・気味が悪い・・・
僕は無意識に、来夏のほうを向いた。
友達といつものあの笑顔で会話している。でも今日はいつもに増して、かなりの人が来夏を囲っている。
やっぱり来夏が仕組んだとしか考えられないな・・・
でも、こんなことされたらみんなに謝りに行くしかないじゃん・・・。
僕は一人一人、いじめたやつに謝罪した。
「あのさ、ごめんな?こんなんじゃ許されないと思うけど、ちゃんと償うから。行動で示すよ」
こんなことを言っていった。
最後に、僕は「左高 仁」という男子に謝ることにした。こいつはかなり傷つけた。
彼は来夏の幼馴染らしい。よく来夏と一緒に喋っている。明るく、運動神経の良い、人気者だ。
僕は、奏楽のいる机の近くへ行った。
「あのさ・・・前、いろいろごめんな?」
僕は頭を下げた。
「は?」
え?
「お前、なめてんの」
「え・・・違・・・」
「来夏がちょっと気になるからって、真面目になろうなんて、バカにするなよ」
「そんなつもりじゃ・・・」
「謝るくらいなら、最初からしないでほしかったよ」
そう言って来夏の元へ、立ち去ってしまった。