この物語はフィクションです。
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梅雨明けの明るい空の下。
水たまりもよけずに歩く少年の姿があった。
彼の名前は近江碧(おうみ あお)
ごく普通の中学生…という訳ではない。
碧の家はかなり複雑な家庭だ。
母親と父親は別居中。
碧は母親についていくことにした。
母親は言う。
「お母さん選んでくれて有り難う」と。
が、碧は知っている。
母親にも父親にも互いに不倫相手がいることを。
が、碧は大して構わない。
母親はロクに家にいなかったためだ。
朝食は菓子パン、夕食は五百円が置いてあった。
親がいないというのは有り難い。
が、碧は親のことが嫌いじゃない。
それ以上に無関心なのだ。
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「では、これに対し質問がある人は挙手を。」
学校ではクラス委員を碧は務めていた。
テキパキと仕事をこなし相手の身になり考える。
教師からは勿論のこと生徒からの
信頼も厚かった。
とはいえ、碧の家庭環境を知る人間は
学校には誰一人といない。
弱みを、見せるのが嫌いだからだ。
それに碧には秘密を共有できる友人がいない。
碧のことを友人だというものは大変多くいた。
が、碧はそう思っていない。
名だけの友人はいてもあくまでそれは名だけ。
事実、人気者の碧に本当の友人などいなかった。
学校でいい子を演じるのもかなり疲れる。
碧は人気のない場所で思わず溜め息をついた。
「あーおっ」
帰り道、1人の少女が碧に声をかける。
「夏湖…」碧があからさまに嫌そうなな顔をする。
雪代夏湖(ゆきしろ かこ)
夏湖は碧の隣の家に住む幼なじみ。
同い年だが夏湖は違う学校に通っているため
最近顔をあわさなくなっていた。
会って早々に夏湖は言う。
「ウチのママたちまた喧嘩してんだよー!
毎日毎日うるさいったら!この前なんか…
ん?何だっけ…。あ、あれだ!
パパがゴルフクラブをね買ったの。
12万円のやつ。もーママ大激怒で困っちゃう。
あと、私のテストの点数が悪くて喧嘩になった笑
パパがママに言ったの。お前の育て方が悪い!て。
で、ママが何で私ばかりを責めるの!
あの子があんななのはあなたのDNAのせいよ!
って!普通さぁ本人の前で言うかなって思うよっ」
一気に夏湖は愚痴を言い切った。
夏湖も恵まれない環境に育っている。
夏湖の母は幼い頃に亡くなった。
そのため夏湖は父親についていくことに。
その父親が今の母親と結婚。
その義母は夏湖のことを邪魔者にしている。
「大変だな」碧はその一言夏湖に言った。
「碧は?おばさんたち、どうしてんの?」
夏湖の言葉に碧は何も答えずに前だけを向いた。
「そっか…」夏湖も理解したらしい。
碧も夏湖も親の愛情をうけることなく育ってきた。
そういう意味でいえば碧にとって夏湖は
唯一の理解者と言えるのだ。
でも碧はそんな夏湖にでさえ弱音を吐かなかった。
夏湖と別れ家に入ると
玄関に母親の靴があった。
(母さん、帰ってきてるのか…)
碧は物音をたてないように
二階へ上がろうとした。すると…
「碧、遅かったわね。こちらへいらっしゃい。」
と、母の低い声が聞こえた。
(テストのことか…)
碧は憂鬱に感じつつ
荷物を持ったままリビングの扉を開けた。
「おかえり。」母が冷たい目で碧を見る。
「只今帰りました…」
碧は距離を感じさせるような敬語を使い、
母から目を逸らした。
「碧、テストは総合何点だったの?」
結果を知っているくせに母は笑顔で聞く。
「…461点です。」俯いたまま碧が言う。
顔を見なくても母親がいまどんな顔を
しているのかなんて分かりたくなくても分かる。
「なんで480点も採れないの?」
(きた…。)
「大体あなた、たるんできてるんじゃない?
500点満点中のテストで40点も落とすなんて…
聞いたわよ。あなたと同じクラスの子…
498点なんですって。すごく惜しいわよね。
それに比べてあなたはどうなの______」
蒼の母親の説教はまだ続いているが
蒼はロクに聞いていなかった。
母親にへの腹立たしさをじっと我慢していた。
(普段俺へ無関心のくせに…こういうときだけ。
この人にとって俺は単なるアクセサリーだ…)
その後母親の説教は2時間続いた。
(あのババァ説教なげぇーんだよな。)
碧が心の中で母親の悪口を言ったとき
自分と部屋の窓から隣の夏湖の部屋が見えた。
夏湖も母親と揉めているようだった。
口論になっている。
(夏湖はまだいいよ。発言権があんだから…)
碧はただただその光景を眺めていた
しばらくするとその言い争いが終わった。
母親が夏湖の部屋を見ていると
夏湖は窓までずんずんと歩いてきた。
見ていることがバレていたらしい。
「なにボケッと眺めてんのよ(`ヘ´)」
「悪い悪い。」碧はそう言って笑った。
時計を見ると現在夜の11時。
「夜遅くまでお疲れさん。」
碧の言葉に夏湖は言う。
「本当にね。そろそろ疲れてきたな…
家にも学校にも居場所なんてない。」と。
その言葉に碧は何も言えなかった…。
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小さい頃碧はとても泣きむしだった。
ちょっと転んだだけで大泣きしたものだ。
でもその涙はすぐにやんだ。
転んだら起こしてくれる父と母がいたからだ。
そのときの碧は笑っていた。
でも…そんな幸せは長くは続かない。
夜中寝れずに一階へ降りると、
両親が口論をしていた。
碧はその様子をそっとドアから覗いていた。
「喧嘩しないでよ」
そう言ってドアを開けた。
「今はお父さんとお母さんでお話してるの。
ゆっくりおやすみ。」両親が笑っていうのに
「喧嘩しないで…」碧は繰り返した。
その言葉に母親が言った。
「子供の意見なんか聞いてないのよっ!」と。
碧は大人しく部屋に戻った。
この時からだんだん碧自身理解していった。
この家では自分の発言権がないことを。
このとき碧は5歳。
5歳の子供ですらここに愛がないことを悟った。
死をはじめて考えるようになった。
人を嫌うその意味が分かったんだ。
優しいお父さんとお母さんもそこにはいなくて
自分の部屋で布団にくるまって…
声を押し殺して泣いた夜だった。