2190年2月23日のことだった。警察官のハワード・マッケインは、久しぶりに休暇を貰ったので、一日中テレビを見て過ごそうと考えた。
彼はさっとリビングへ出ると、テレビの電源を入れた。すると、ニュース番組が出てきた。
「ニュースなんて暗くなるだけだよ……」
と彼は呟いて、チャンネルを回そうとした。しかし、その時流れたニュースのせいで、リモコンを取る手が緩んでしまった。
「アメリカの科学者ダニエル・クラーク氏のチームが未来を予知する装置の作成に成功しました……」
アナウンサーが淡々と説明をし始めた。どうやら、犯罪の未然防止に役立てる積りらしい。
「へえ、死刑執行しなくて済むなら大歓迎だけどな」
いつのまにか見入っていた彼は側の封筒を見ながら呟いた。死刑執行手当だ。こんなもので心が癒えると思っているのか。お陰でどれだけ酒を煽っても、胸が荒縄で縛られるような感情は消えない。彼はため息をついた。
しばらく画面に注目していなかったから、もうアナウンサーの説明は終わっていた。つまらなそうな先生方がつまらない討論を始めていた。奴らは、
「現実的ではない」「悪用されるに違いない」「未然防止は不可能」
と夢も希望もないことを言いやがる。こいつらは夢を叶えてしまったから、夢を見ようなんて思わないんだろうな。と彼は薄く笑った。
現実に引き戻されて、嫌になったところに、突然電話がかかってきた。胸が持ち上がった。電話の音がいつになく威圧的だ。
「はいはい、今出ますよっと」
彼は呻き声を上げながら体を起こして、ゆっくり受話器を取った。そして、すぐに取り落とした。
最悪だ。相手は上司だった。すぐに来いという事らしい。彼は椅子を蹴飛ばして、準備に取り掛かった。
「なんで、死刑が増えたんだろうな」
何のせいか知らないが、国家として死刑を復活させてから100年以上経つらしいが、ここ数十年爆発的に死刑が増えていて、刑務官が不足しているのだ。元々刑務官になりたがる奴が激減しているのに、死刑囚が変に増えたからだ。保安官でも手を上げてしまったので、暇そうにしている警察官がやらされているのだ。そして、自分がその「記念すべき」第一号だった。
確かに、アメリカ……というより人類は、このところ不味くなってきているから、不満が溜まるのはわかるが、迷惑な話だ。殺したくもない奴のために講習の受けさせられるのだ。殺しても殺しても減らないんだから、もう放っておけとは行かないらしい。あんまりにも死刑執行の犠牲者が多いから、全員地雷原に誘導していっぺんに片付けて仕舞えばいいのにと思ってしまう。
そんなつまらないことを考えているうちに、警察署についた。署では顔馴染みの暇人たちが、珍しく忙しそうにしていた。
「やあ、マッケイン君。良く休めたかな?」
署長が言った。マッケインは衝動的に殺意を覚えた。突然呼び出しておいて、「良く休めたかな?」なんて嫌がらせでしかない。もっとも、そんな感情はすぐに引っ込めたが。
「いまいちです」
「そうかそうか。今日は君に重大な任務があるから来てもらった。君ならやってくれると確信している」
「はい。何の任務ですか?」
「それについてだが、君、今日のニュースを見たかね? ほら、あのつまらないやつ」
マッケインの背筋が凍りついた。またややこしいことを任されるのだ。
「君に未来予知装置を用いた捜査を行って欲しい。どうだ、あり得ない任務に聞こえるだろう?」
ギョッとした。テレビではまだ完成したばかりではなかったのか。それとも、何か聞き逃したのか。
署長の説明によると、マスコミにはまだ公表されていないが、あくまで実験として一部の署に配備されたらしい。
「マスコミはうるさいから。州も政府も強引なことをしたものだ」
と署長は嬉しそうに語っていた。確かに配備されたということは実力を認められたということだから嬉しいのだろう。しかし、署長の弾んだ声を聞くたびに、行かされる者の身にもなれという彼の思いは強くなっていた。
「使い方などの資料を頂けますか?」
署長は正直言ってどうでもいい説明ばかりで肝心の取り扱いを教えていなかった。説明書の一枚二枚がなければ、危うく、かわりに始末書を突きつけられるところだった。
「ああ、忘れていた。すまないね。では、この機械について良く学んでくれ。実戦まで半月あるから安心してくれ」
というと署長はどこかへ行ってしまった。全く、無責任なものである。
半月ごときでマスターできるかは、確信できなかったが、最早彼に他の選択肢はなかった。
それからというもの、不恰好で冷たい機械の前で辞書のような説明書を読むという生活が続いた。面白みも達成感も何もない。これはこれで苦痛だった。
フィクションとはいえ妙にリアリティがあって面白そうです
更新楽しみにしています