某県某市……とある小学校。
校庭の隅っこに、今はもう使われていない倉庫があった。
その倉庫の入り口に、少女が一人立っている。
「よーし、中の片付けは大体終わったかな。次はっと……」
少女は薄い紙を一枚取り出すと、倉庫扉にベタっと貼り付けてしまった。
「出来た!うーん……あたしの字、我ながらいい出来ね」
貼り付けられた紙にはこう書かれていた。
___探偵クラブ 部員もとむ!
少女はドヤ顔を決めると、校舎に戻っていく。
春風に吹かれ、紙が飛ばされていったことも知らずに。
心を昂らせるかの様な導入ッスね、期待ですっ!
3:ふたば◆r.:2019/10/04(金) 19:59 「ねえあなた、クラブに入らない?」
「えっ?」
……私がそう誘われたのは、授業が終わって教室から出ようとしている時だった。
話しかけてきたのは、クラスで一番元気のいい女の子。
名前は、三瀬 愛菜(みつせ あいな)
クラブってどんなもの?そう思っていると、三瀬さんの方から話が進んだ。
「学校生徒のお悩みや事件を解決する、少女探偵クラブよ!その名の通り、女の子限定ね」
「た、探偵?」
少女探偵クラブ……そもそも、そんなクラブ活動が通るのだろうかと私は思った。
三瀬さんは私をじっと見ている。ちょっと怖い。
「な、なに……」
「決めたわ!あなたは、部員1号!あたしが定めたんだから、きっと優秀よね!」
「え……!?」
三瀬さんはそう言うと、私の胸元に別の名札をくっつけてきた。
何々?探偵クラブ部員その1
……何で?
私、結城(ゆうき)ほまれの学校生活は、奇想天外なものへと変わっていってしまうんだろうか?
「ここよ!」
「え、ここって使われてない古い倉庫だよね……?」
私は三瀬さんに、すっごく人気のないところに連れてこられた。
校庭の隅の隅。今は使われていない倉庫が、目の前に聳え立っている。
「安心しなさい!ここがあたし達の活動拠点。ほら、ドアに張り紙が……って、あれ?」
三瀬さんは、不思議そうにドアの方を見ていた。
張り紙がどうのと言っていたけど、それらしき物は見当たらない。
「……ない!張り紙が見当たらないわ!」
「ええっ!? どこかに飛ばされたとか……?」
「そうね、貼り付け甘かったかも……よし、決めたわ!」
一瞬、すごく落ち込んでいたような気がする。
でも三瀬さんは、一瞬で立ち直ってこう言った。
「最初の仕事は、消えた貼り紙探しよ!」
そう言うと、校庭へ駆け出していく。
「ちょっ、待って……!」
貼り紙探し……そもそも、本当に見つかるのかな?
不安があったけど、私は何よりあの表情が忘れられなくて、
三瀬さんについて行くことにした。
あの子は足が速かった。男子ともいい勝負じゃないかな?
「んもー、どこ行ったのよ!」
三瀬さんと私は、飛んで行った……と思われる張り紙を探して、学校中を回っていた。
「はぁー……ちょっと、休憩させて」
私は、すごく疲れていた。普段、ここまで歩き回ったりすることがないからだ。
そもそもこの時間は家に帰ってゆっくりしている頃だし!
「あの……紙は、本当に学校の中に?」
「あるわよ。勘が私に囁いてるわ!」
「か、勘?」
んな適当な。そう思ったけど、三瀬さんの目はとても燃えていて、本気だった。
だけど実際、本当に学校の中にあるんだろうか。誰かが拾ってくれてたりしてないだろうか。
……いいことを思いついた。
「そうだ。誰かが拾ってるかも。片っ端から聞いてみない?」
私は三瀬さんに、提案をした。
友達とかに聞けば、すぐに見つかるかもしれない。
「いい考えね。でも……それをするとなれば、片っ端じゃないわ」
「えっ?」
何か、いい考えがあるんだろうか。
「あたしが貼りに行ったのは、昼休みの最中よ。
ついでに倉庫の掃除にも行ったし。だから……休み時間中に遊んでた人に、話を聞くわ」
「それでも……数、多すぎないかな?」
数が多すぎないかな?って質問に、三瀬さんは首を横に振った。
「先生達に届け出がないって事は、大っぴらな場所で拾われたわけでもないわね。
ついでに言えば……まだ、拾い主が持ってるかも。
だから、グラウンドじゃなくて遊具の周りで遊んでた子達に話を聞くわ」
納得。……していいのかは分からないけど、何となくわかった。
グラウンドで遊んでた子達を除けば、だいぶん数は絞れてくるのだ。
「あ、でも、もう放課後だよ。明日にしない?」
「ダメよ。捜査は初動が肝心なの。時間が経ったら、どんどん風化して行くわ。
今からでも出来る限り、残って遊んでる子達に話を聞きにいかないと」
三瀬さんはやけに真剣そうな顔で、遊具のある場所へ向かっていった。
貼り紙なら、もう一回作れるはずなのに……とても大事なものかもしれない。
私でも、無くしてしまったら同じように探せるだろうか?
___現場に着くと、三瀬さんが一足先に生徒の子達に話を聞いていた。
「……ありがと!いっぱい遊んで帰るのよー!」
話を聞き終わっていたのか、低学年の子供達に手を振る姿が見えた。
「なにか、情報あった?」
そう聞くと今度は、首を縦に振られた。
「今の子達は、いつもここで遊んでるらしいの。だから話を聞いてたのよ。
そ・し・た・ら!ゆーえきな事を聞けたの!」
ゆーって伸ばしたけど、本当は有益だと思う。
「大きな紙がこっちの方に飛んできて、それを拾った女の子がいるって!」
「ほんと!?その子、何年の、どこのクラスとかは?」
「それは……でも、静かで優しいお姉ちゃんだったって」
静かで優しいお姉ちゃん……心当たりは、あんまり……ある!ある!?
私は心の中で、ほんの少し跳ねて踊った。心当たりが、一つだけあったからだ。
私の考えが正しければ、その子は同じクラスで______
「でもその子、もう帰ってるんじゃないの?」
三瀬さんの言葉に、私は横に首を振る。
「いや、まだ居るはずだよ。教室に」
静かで優しそうな子なんて、学校ではその子一人しか知らない。
もしかしたら、他にいるかもしれない。
だけど私は、三瀬さんみたいに直感で動いてみたいと考えていた。
……教室に戻ると、
その子は一人、窓の外を眺めていた。
「……」
私たちが後ろに来たのがわかると、その女の子はゆっくりとこっちを向く。
「かんざき、さん….…」
「……何?」
神崎(かんざき)シロさん。名前を呼ぶと、少し長めの黒髪をいじりながら小さく返事をした。
わー……その動きだけで、なんかミステリアスな感じがする。
「あなた!大きな張り紙を拾わなかったかしら?」
「張り紙……て言うか、声が大きいわ。三瀬さん」
なんと的確なツッコミだろう。
だけどそう言いながらも、三瀬さんに反応した神崎さんは、
自分の机の引き出しを開けた。
「これ。……あなたのだったの?」
取り出したのは、くるくると丸められた一枚の大きな紙。
「そうよー!これよ、これ!これがあれば、心置きなく探偵クラブを結成できるわ!
……ところで、なんで持ってるの?」
「窓見てたら……飛んできた」
三瀬さんはそれを受け取ろうと手を伸ばしたけど、神崎さんはひょいと腕を上げてそれを阻止した。
「な、何よ!」
「私も……入れて?その、探偵クラブっていうのに。興味あるから」
急な申し出に、困惑する三瀬さん。
だけど、少し時間を置いて返事が返ってきた。
「良いわ!張り紙を見つけてくれたし。じゃあ……部員二号ね!」
「二号?」
「もう一号がいるから」
そう言って、私の方を見る。
は……一号って、私のことか!
「へえ、結城さんだった?よろしく頼むわね」
「う、うん……よろしく!」
神崎さんは、意外と優しい表情だった。
みんな、同じクラスの仲間だけど……仲良くやって行けそう!
そう思っていると、三瀬さんが教室のドアを閉めてこっちに戻ってきた。
「あれ、どうしたの?」
「神崎シロさん……あなた、嘘をついてるね?」
___えっ?
私は、目を点にした。
嘘って、何のこと?
「嘘……? 何処がそうなのかしら、三瀬さん」
神崎さんは、何も隠してないと言うような余裕の顔だ。
だけど三瀬さんは、鋭い目つきを変えることはなかった。
「外から紙が飛んできた。そう言ったわよね。
でもね……私たちは聞き込みをしたの。下級生の話では、おそらくあなたが……紙を拾っていたのを見てたわ。
……外で」
「あ、そうか、そう言えば……!」
確かに、聞き込みした話と神崎さんの話が全然ちがう。
何で気付かなかったのかなぁ?
「ふふっ……成る程ね。そこまで調べたなんて、やるじゃない」
「その張り紙を拾ったなら、見てたはずよ?内容を。探偵クラブなんだし……
私を甘く見たわね?」
笑みを浮かべる神崎さんと、自信ありげな三瀬さん。
十秒くらい時間が止まってたかもしれない。
それくらい静かな時間が過ぎて……
「探偵を試すなんて、良い二号じゃない?
わかったわ。正式に探偵クラブの一員よ」
「えっ、自分のことを……」
自分のことを、探偵って言ったよね?今。
うーん……自信ありげじゃなく、てすっごく強い自信を感じた。
「けーすくろーずど!今日の事件はバッチリ解決したわ!さて、帰ろ帰ろ!」
「case closed……じゃないの?」
神崎さんに突っ込まれながら、三瀬さんは1人教室を出ていく。
私も疲れたな、帰ろう……。
___明日から、どうなるのかな?探偵クラブに入っちゃったけど。
きっと、大変なことになる。だけど、きっと楽しい。