やってしまった……。 こんなはずじゃなかったのに……。
眼の前に広がった光景に、私はどうすればいいのだろうか分からず、ただ茫然とするばかりであった。せっかくOLとして社会に出たばかりなのに、まさかこんなことになろうとは。
できれば夢であってほしかった。しかし、まぎれもなくこれは現実だ。私は後戻りできないことをしてしまったのだ。
でも、仕方ないではないか、こうするしか。だって、ほかにどうしろと。
そのときである。
「でしょ」
「ハハハ」
私は背筋がびくっとなった。誰かの話し声が聞こえる。間違いない、人がいるのだ。このままなら、そのうちこっちに来るだろう。
どうする……。こんなところ誰かに見られようものなら……。だとしたら、私にできることといえば……。
私は全力で逃げ出していた。
きっかけは前触れもなくやってきた。
女子大を卒業して、とある会社に就職した私は、
この日、新人の仕事として、先輩と一緒に営業先を回ったのだった。
仕事自体は特に問題はなく、そのまま私は先輩と別れ、
自宅に向かうバスへと乗り込んだ。
ここまではよかった。
ところが、バスが発車してしばらくしたときである。
「ぐるぐるぐる」
最初はお腹が鳴っただけだと思った。
しかし、それからすぐ、そのお腹に強烈な痛みが襲ってきたのだ。
慣れない仕事からくる緊張感から解放されたせいだろうか。
それとも、普通の生理現象だろうか。
要は、私は帰りのバスの中で猛烈にうんちがしたくなってしまったのだ。
私は今すぐにでもトイレに駆け込みたかった。
しかし、そこはバスの中である。トイレなどあるはずもない。
途中のバス停で降りようかとも思ったが、
次のバスを待たなければならないし、
トイレがどこにあるのか分からない。
その結果、私は自分が降りるバス停まで、我慢する選択をしたのだ。
帰り道の公園にトイレがあるのは知っている。
もう少しなら我慢できそうだし、
知っている場所を使った方が確実だと思ったからだ。
私は必至で便意を耐えた。しかし、思わぬ誤算があった。
バスが渋滞に巻き込まれたのだ。
私は焦った。途中、二回ほど本当にやばい時があった。
少しでも力を緩めれば、スカートの中をトイレにしてしまう。
体はじっとしているが、心の中では大声で叫ぶ。はやく動いてと。
それは祈りにも近い感覚だ。
しかし、それでも私は耐えきった。
目的地のバス停についたときは、本当に天に昇るかのようであった。
あとは近くの公園に行けさえすればいい。
私はお腹を押さえて、一歩一歩ゆっくりと歩き出した。
足を出すたびにお腹に衝撃が響く。
そのかわり、公園の入り口が少しずつ近づいてくる。
あと少し、あと少しで、うんちが……。
そして、私はついにたどり着いたのだ。天国への入り口に。
勝った。私はお腹に勝ったのだ。
あとはトイレに向かって思い切りうんちを……。
しかし、トイレの前まで来た時である。
私は天国から地獄に落とされた。
なんと、そのトイレが工事中で閉鎖されていたのだ。
うそだ……。そうだ、これは夢なのだ。
夢から覚めればトイレは空いていて、私はそこで……。
しかし、これは夢ではなかった。間違いなくトイレは閉まっているのだ。
終わった……。
こんなことなら途中でバスを降りればよかった。
もう我慢できない。漏らすのは時間の問題だ。
私は泣き出しそうになった。まさか大人になってうんちを漏らすことになろうとは……。
これでも、女子大では合唱部に入って、清らかな歌を歌ってたのに。
残念ながら今日でそれも終わりらしい。
さようなら私の清らかな人生……。
しかし、そのときであった。
私がふと目を向けると、一筋の救いだろうか、
公園の隅に小さな茂みがあったのだ。
それを見た瞬間、私は思った。あそこまでなら何とか間に合うと。
しかし、しかしである。それは外でうんちをするということだ。
さすがにそれは……。
23歳の大人の女性として、外でトイレはやはり問題だろう。
そもそも、人が来たらそれこそ人生終わりだ。
やっぱり家まで頑張ろう……。
私がそう思った時である。
「ぎゅるるるる」
お腹が最後の悲鳴をあげたのだ。
「あぁぁ、も、もう、だめ……」
私はいつのまにか、茂みに向かって走り出し、
気づいた時にはそこにしゃがみこんで、無我夢中でうんちしていた。
公園中に音が鳴り響いていたが、もはやそんなことを気にしている余裕はなかった。
とにかく、お腹の中のものを出したくて仕方がなかったからだ。
幸い公園には誰もおらず、私は見られずに済んだのだった。
「はあ、はあ、はぁ」
用をたすと、私は天国に昇るような気持ちなった。
よかった。どうやら私は漏らさずに済んだらしい。
お腹の痛みが嘘のようになくなっていく。
しかし、現実は厳しい。新たな問題が容赦なく襲い掛かる。
お尻をふいて立ち上がると、当然だが、
地面の上には、どっさりと私の落し物が山になっていた。
なんという量だろうか。体のどこにこんなものが……。
これが私がやってしまった行為の真相である。
私は生まれて初めて外でしてしまったのだ。それも大人になって。
お腹がすっきりすると、私はとたんに恥ずかしさが込み上げてきた。
それに、このうずたかく積まれた茶色い山をどうすればいいのだろうか。
声が聞こえたのはそんなときだ。
私は足がちぎれんばかりに走った。
こんなに全力で走ったのはいつ以来だろう。
それでも私は走った。
その翌日である。
私は朝になると、いつものようにバス停に向かった。
昨日のことは忘れようと思っていた。
しかし、例の公園に来た時である。
何やら、小学生の男の子らしき子供たちが、
茂みのところに集まって騒いでいるのを目撃したのだ。
まさか……。
私は嫌な予感がして、彼らの声をそっと聞いてみた。
すると……。
「やべー めっちゃでっかいな」
「これ象のうんこだろ」
まちがいない。彼らがはしゃいでいたのは、私の落し物に関してだ。
それが分かったとたん、私は昨日に引き続き、バス停まっで一目散に走り去った。
終わり
おっおう
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