「しーね!しーね!」
「アイツマジでうっぜ〜」
「キモいからはよ消えろやw」
―男子による暴言の嵐。汚ならしい笑い声。
持ち込み禁止のスマホをいじったりメイクを
したりしている女子。これが私のクラスの
日常である。
「ちょっと男子、もうすぐ授業始まる!静かにしてよ、せめて座って!」
クラスの学級委員である私が声を上げるが
注意を聞く者はいない。はぁぁぁ。私は
大きな溜め息をつく。これは最早、学級崩壊だ。
私の名前は逢見 蘭(おうみ らん)。
この学級崩壊しているクラス、2年1組の
委員長という役割。勿論、クラス委員長だって
強制的に押し付けられただけだ。しかも、そうやって
押し付けといて、私の注意は何一つ聞かない。
たまに反応があるが「うるせーよ」というもの。
最悪。最悪以外の何物でもない。
私がはぁぁぁと溜め息をついていると、
私の一番の親友であり、理解者である
七川 実子(ななかわ みこ)が私の元へやって来る。
「蘭ー。大丈夫?相変わらずヤバイクラスだね〜」
苦笑いをして、実子が言った。
「本当にね。もう最悪!」
私が怒りながら答えると、実子は溜め息をつき、
また口を開く。
「でもさ、まだ良かったんじゃない?今年でさ。だって来年こんなクラスだったらヤバイっしょ!受験生だよ?」
実子はしかめっ面をした。私は、実子の言葉を聞いて
考える。確かに、来年こんなクラスに当たったら
私はきっと耐えられない。地獄だ、地獄。
「まーね。来年は良いクラスに当たる事を祈るわ。あ、てか、もうチャイム鳴るよ?座んな。さっき注意したばっか」
悪戯っぽく私が言ってやると、実子は慌てて
自分の席へと戻る。―全く。実子って結構抜けてん
だよなぁ。その事を実子に言うと
「蘭がしっかり者過ぎるだけ!」って言われるんだけど。
授業担当の先生が教室に溜め息をつきながら
入ってくる。ウチのクラスは授業中も
お構い無しにうるさいので、先生もこのクラスで
授業をするのが嫌みたいだった。ま、当たり前か。
先生の言うことも聞かないもんなぁ。私が授業担当の
先生だったら、こんなクラスで授業をしたいなんて
絶対思わないだろう。
ちなみに、この一時間目の授業は英語。
英語の先生は市原 綾(いちはら あや)先生。
若くて綺麗な先生で、慕われている。
男の先生が多いこの学校では珍しい女性である。
―て言うか。まだ皆座ってないんだけど。
いつものことながら悲しくなる。どうせ無駄だとは
思うが、私は再び声を上げることにした。
「ちょっと!もう先生来たでしょ?座って!」
私の注意も虚しく、皆まるで聞いていない。
座ろうとさえしない。―しかも。一人の男子が
先生の立つ教卓に忍び足で近付く。この男子は
この学校崩壊しているクラスの中でも目立つ
リーダー的存在。だから私はもの凄く嫌な予感が
したのだった。
「きゃあ!」
―ペロッ。
あろうことか、その男子が綾先生のスカートを
めくったのである。
「綾先生おっとな〜!パンツの色黒じゃん!」
おまけにパンツの色まで暴露する。最低だ。
そんな小学生みたいなことして。もう中2なのに。
「お前やっる〜!流石〜‼」
その男子を称えるような声まで聞こえてくる。
綾先生は涙目になっている。
もう最悪!我慢の限界!
「あんた達、良い加減にしなさいよ‼」
「あんた達、良い加減にしなさいよ‼先生困ってんの分かんないの?大体、いつもそうじゃない!私がいくら呼び掛けしても聞いてくれない!ギャーギャー猿みたいにわめく!授業中でもお構い無しにうるさい!もう中2でしょ?少しは大人になんなさいよ!てか、先生に謝って!スカートめくりとかあり得ないから!」
私は気付いたら、大声で叫んでいた。
いつも動物園みたいにうるさい教室がしんと
静まりかえった。こんなこと、今まで無かった。