大規模宇宙戦争で巨大ロボにパイロットとして乗って地球外生命体と戦う未来はまだまだ遠いし、陰謀とサスペンスに満ちた戦国時代は遅すぎた。
争いの無い縄文時代から戦争の絶えない時代を経て、また争いのない令和へと時代が一周回った。
別に戦争をしたいわけではないけど、刺激がないのもある種の苦痛を産む。
日本の裏側の側面の反対側とかは紛争が起きているんだろうけど、俺にはコンビニで五円玉を募金箱に入れるくらいしかやれることがない。
なぜなら俺はごく普通の男子高校生だからだ。
ヒーローでもない、スパイや殺し屋でもない、無能力で、使い魔もいない。
この世に世界征服を企む悪の組織はいないし、道端でいきなり怪人が現れることも無い。
異世界への扉は無いし、神様の間違いでチート能力を持って転生することも無い。
日常アニメにありがちな怪しい部活や同好会の一つでもあれば入ってみようと思ったが、どれも健全な運動部と文化部しか無い。
フィクションに夢を見すぎたことを後悔して、それでも主人公になりたくて、廃棄ビルやら夜のビルの屋上やら、怪しそうな場所には進んで行ってみたりしたが、結局不良のたまり場で、絡まれて4000円カツアゲされただけだった。
俺はこのままずっと、モブみたいな人生を編んで眠るのだろうか。
別に特殊能力なんていい、宇宙戦争なんかなくったっていい、使い魔だっていなくていい、異世界に転生できなくったっていい、変身してヒーローになれなくったっていい。
ただ、普通の高校生とはちょっと違う、秘密を持った主人公に、俺はなりたいだけ──。
>>6
ありがとうございます!!
「あの……」
この人、異世界から迷い込んだ魔法使いだったりしねーかなぁ、くらいの軽い気持ちで歩み寄ってみると、その男はこちらに気がついたのか、のっそりと顔を上げた。
ざわりと木の葉を揺らす風がなびいて、前髪の隙間から充血した双眸が覗く。
視線が交錯する。
木々の葉の擦れる音だけが流れていく。
金でも銀でも財宝でもなかったが──ある意味、金でも銀でも、いやそれ以上の財宝を持ってそうな、男──。
「ニュースの……!」
顔はあまり覚えていなかったが、何度もテレビに映るし新聞一面に掲載されるので見覚えはある。
「殺人鬼社長……!」
彼はすぐに顔を背け、赤黒い足首を引き摺って地を這う。
アスファルトの窪みに血が溜まっている。
「やってない……俺はやってない……」
乾いた声で繰り返し呟き、逃げようと試みているようだった。
死に物狂いで死刑から免れようとしている。
なんとなく、この人本当にやってないんだろうなぁ、と働かない頭で思う。
人命を奪った人間が、狂ったように命に執着するとは思えなかった。
俺は殺人鬼に遭遇した驚愕と興奮で、暫く言葉を紡ぐことができなかった。
山でクマに遭遇したみたいに、立ちすくんだまま、
痛々しい傷を開きながら逃げようと足掻く彼を見ていられなくて、俺はようやく声を絞り出した。
「別に……警察に突き出したりしないんで。あなたの首に300万かかっていようと」
俺を導いた猫が塀から飛び降り、ぱしゃんと血溜まりが跳ねた。
赤黒い血液に似つかわしくないような、肉球のスタンプがアスファルトに並ぶ。