出会いは中学1年生だった。
同じクラスではあったけど、まだみんな緊張してて周囲を見渡す余裕はなかったし、男子の観察するなんて全然…。
早く友達作らなきゃ!とか浮かないようにしなきゃ!とか、1日過ごすのが精一杯。
でも隣のクラスの幼馴染み、和葉なんて早速「3組の青山君見た?イケメンなんだけど〜」とか余裕で羨ましいくらい…。
ーーー
今日は部活見学の日。
放課後に部活を見学して回るんだけど、まだそこまで親しい子がいない私は和葉と一緒に回ろうと約束を取り付けていた。
「冬香は部活なんにするの?大体決めた?」
と和葉。
「和葉は?」
「私はバトミントンもしてみたいし〜、テニスの山本先輩がカッコいいからテニスもいいし、吹奏楽も楽器弾けたら女子力もupじゃない?悩むぅ〜」
はいはい…まだ未定な感じね。
「私は吹奏楽かなぁ〜。運動はイマイチだし、昔ピアノや習ってたから。文化系は少ないから消去法でね」
なんて。ナサケナイ…。
「いいじゃん。冬香に似合ってる。ピアノ弾いてる冬香、羨ましかったよ。」
「そ、そう?ありがとう」
和葉がそんなこと思ってくれてるなんて、ちょっとウレシい。
「じゃー私も吹奏楽にしよっかな。冬香と一緒ならなんか安心だし。」
「私も嬉しいけど…いいの?じゃあ順番に見て行こー!吹奏楽はミニコンサートだって。行ってみようよ。」
「よし、行こー!でも山本先輩はお顔を拝みに行くよ!」
「りょーかい!」
私と和葉ははしゃぎながら音楽室に向かった。
ーーー
音楽室ではもうミニコンサートが始まるところで、見学にきた新1年生が集まっていた。吹奏楽の先輩がプログラムを振りながら、勧誘の声をあげていた。
プログラムを和葉ともらう。
「ほら、冬香!あそこ空いてる。あそこ座ろ!」
和葉に引っ張られながら、空いてる席に座った。やっぱり吹奏楽は女子が多めだよね。
「新入生のみなさーん、こんにちはー!吹奏楽のミニコンサートに来てくれてありがとう!ついでに入部してくれると、とーっても嬉しいです!では楽しんで行きましょう!」
演奏が始まる。ノリのいいアイドルの曲だ。ちょっと制服を着崩して、演奏していない先輩達が踊る。
「なんか仲良さそうで楽しそうだね!もっとクラッシックばっかかと思ってた!」
「そうだね!私も思っていたよりも雰囲気良くて、いい感じだね。」
他の生徒達も同じように思っているみたいで、みんなキラキラした顔で演奏を見ている。
「よーし!盛り上がってきたところで!一緒に演奏してもらおうかな!といっても簡単なやつだからか大丈夫!新入生はマラカスとかタンバリンとかで簡単なセッションして、雰囲気感じてもらえたらと思いまーす!」
あわわわわわ…。ちょっと人前は苦手だから見ているほうに回りたい。
「私やりたーいです!」
和葉が積極的に手を挙げる。マジ尊敬。
「いいねー!じゃああなたと、君と君と…」
司会の先輩がピックアップしていく。
男子も何人かいるようだ。
和葉はマラカス渡されて担当の先輩にレクチャーを受けている。きゃはは、と楽しそうに選ばれたメンバーで合わせるように各々の楽器を振っている。
「じゃあ次の曲ー!始まりまーす!」
先輩達にフォローを受けながら馴染んでいる和葉が本当に楽しそうで、吹奏楽部にしようと私も決めたのだった。
もちろん山本先輩は見に行ったけどね。
ーーー
部活の決定と同時に忙しい日々が始まった。
中学生が忙しいって本当なんだなーとか実感。教科ごとに連携とってないのかってくらい各課題はあるし、部活はあるし、友達とおしゃべりしなきゃならないし、塾も行かなきゃならないし…。
今日も元気に部活だー!
「おーい、北見。」
後ろから声をかけられる。北見は私ね、北見冬香。今更だけど。
「一緒に行こうぜ」
同じクラスの森崎だ。
続く
森崎は吹奏楽に入った貴重な?男子で、結局新入生で吹奏楽部 に入ったのは17人。1学年160人だから約1割か。その内男子は3人だから希少価値高い。
「いーよー。今日は楽器発表だね。希望通るかなぁ」
2人で音楽室へ向かう。入学から1ヶ月、私もやっと馴染めてきた。緊張せずに話せるようになったし、話しかけてくれるのは嬉しい 。
「俺はパーカッションじゃないと無理だなー。色々吹いたけど!音出せそうにないし。北見は?」
「私はトランペットかパーカッション。でも先生が適性と人数考慮して決めるみたいだね」
「そーなの?」
森崎はあまり音楽のセンスはなさそうだけど…同じクラスの同じ部活は心強い。もうまわりと大分打ち解けてたまにアホなことしたりしてる明るい奴だ。結構女子人気もあるらしい。
「希望通りになるといいねぇ」
そんなことを話しながら行くと、もう和葉が来ていた。
「冬香!相変わらず2組はホームルーム長いね〜」
「担任の話がちょっと長いんだよなぁ」森崎が答える。
「森崎は楽器希望なに〜?」
和葉が聞く。
「パーカッション、あ、小林〜!」
と森崎は数少ない男子の方へ行ってしまった。
近くにいた先輩達とももうキャっキャしてる。
「あいつ明るいやつだね。タンバリンが似合うわぁ。私フルートがやりたいなぁ。フルートって女の子って感じだよね」
「和葉らしい。でも似合うよ。」
和葉がうふふと笑う。
各パートに振り分けられる新入生は1〜3人。ドキドキだなぁ。厳しい先輩じゃないパートがいいな、なんて考えてるうちに顧問の田中先生がやって来た。
ーーー
先生からパートの発表があり、各々のパートに別れて行く。
和葉は希望通りフルートになれて良かった。
「冬香ちゃん、敬太君よろしくね」
敬太とは森崎のことだ。
私と森崎はパーカッションに配属された。
「よろしくお願いします」
2人で簡単に自己紹介して、先輩達の紹介も受ける。
6人の先輩は、全員女だ。森崎大丈夫かなぁ。
ーーー
なんて心配は無用のようで、もう先輩方と打ち解けてる…。
和葉といい、森崎いい懐こくて見習いたい。
「北見は同じクラスで〜。なっ北見!」
森崎が話を振ってくれる。
「あぁっ!はい!そーなんですぅ」
じゃー連絡取りやすくていいね、と先輩が言ってくれる。
2年の須藤先輩だ。
「そうですね、都合いいかもです〜」
都合いいってなんだ。でも森崎のお陰で一緒に早く馴染めそう。
先輩方もフレンドリーで幸先いいぞ!
頑張ろう!
ーーー
毎日部活と勉強に勤しんで、あっという間に夏休みだ。
吹奏楽は夏に大会がある。夏休みに入ってすぐに地区予選があるから、期末テストが終わってからは毎日部活も残業で、部内全体がピリピリしている。
「もう来週だな、コンクール」
「緊張するね〜。どんな感じなんだろ…」
部活はパート練習から入るので、まず森崎と確認しながら練習する。その合間にクラスのことを話したり、部活の話しをしたりと、割りと仲良くなったんだよね。
森崎はクラスでもおバカな(性格的なね)部分を隠しきれなく
なってきたのか、友達とはっちゃけて踊ったりふざけたりして、クラスのムードメーカーになっていた。まぁいわゆる人気者の部類?に属しているようだ。
「コンクール楽しみだな!北見はどうよっ!」
といいながら、ドカドカ練習台を叩く森崎。
「ははっ、それちょっとテンポ違くない?私は楽しみより緊張〜!」
合奏が始まれば嫌でも緊張する。それまでなんとなく2人で緊張をほぐそうと軽口叩きながら練習台を叩くのが最近のルーティンだ。
なんだかんだと初心者の私と森崎はペア行動が多く、クラスも一緒だから2人で過ごす時間も他の人より必然的に多い。こんなに長い時間2人で過ごす男子は森崎が初めてだった。最初はぎこちない時間だったけど、森崎は明るく心理的壁の低っくいやつで、遠慮とかない。ほとんど裏表がないから、余計な気を使わなくて素直に接することが出来た。男子とかたまに忘れるくらい。
まぁ皆に同じ態度だから私と特別どうってワケじゃないけど、割りと人気のある男子を部活の時に独占できるのは単純に嬉しく、テンション上がるシチュエーションだった。
森崎はそのキャラクターのせいか先輩方にももう
「敬太〜!こっちおいで〜!」
とか
「敬太、昨日のTVみた?」
とか
名前で呼ばれ、とっても!かわいがられていた。
私も一緒に呼んで欲しい…先輩。
「冬ちゃんもおいで!」
と西田先輩が手招きしてくれる。感謝!
「はーい!」
合奏までの隙間時間だ。西田先輩キレイめタイプでひとつ上とは思えないほど大人っぽい。気がつくし、落ち着いているし。
私はというと、背も小さい方だし、引っ込み思案だし、私服だと小学生で余裕で通用する。森崎は背も高めだから、それだけでも小学生は回避出来るよね。明るいけど、空気壊すことはないし、1人で本読んでるときもあるし、雰囲気イケメン?
顔の好みは人それぞれだからなぁ〜。
「敬太は」「!「」
最後の1文はミス入力です
9:サクラー ここで書いていいのかな?:2020/01/25(土) 00:14ーーー
10:サクラー ここで書いていいのかな?:2020/01/25(土) 23:59 集合の声が掛かり合奏が始まる。
私はチャイムと銅鑼だ。森崎はティンパニー。
タイミングがずれないよう一音も聞き漏らさないよう神経を集中させる。
先生の細かい指示や注意も聞き逃さないようにしなきゃで、吹奏楽はなかなかハードだ。
「お疲れ様〜」
「お疲れ〜」
部活も終了時刻になり、各々片付けた順から下校していく。
「北見お疲れ〜。また明日〜。」
「お疲れ様〜。じゃあね、明日〜。」
森崎や先輩と別れ、和葉と一緒に自転車に乗り帰路に着く。
「冬香、ちょっと報告があるんだ。」
「なになに、なんかあった?」
「実は、同じクラスの田村と付き合うことになりました〜!」
「はい!?え?突然すぎて今現在理解不能!そんなこと言ってたっけ?」
「いや〜私もこんなことになると思ってなかったんだけどさ、田中ってテニス部じゃん。山本先輩と少しでも繋がり作りたくて、田村にちょいちょい話しかけてたらさぁ。勘違いされたのか、すっごい私を特別扱いしてくれるようになっちゃって」
「うんうん、それでそれで!?」
「まぁ悪い気はしないから、いっかなと思って勘違いしてもらってたままにしてたわけ。でも、先週冬香が部活残業で別に帰った日にさ、自転車パンクしちゃってて。自転車置き場で押して帰るのめんどくさいなぁ、とかどうしようか考えてたら」
「うんうん!」
興奮してきた。田村って家が医者だとかで、お坊っちゃまタイプだった気が。パーフェクトメンに近いスペックで、背も高めだし、顔立ちも整ってたし、中学男子には珍しい穏やか〜な雰囲気を醸し出してるんだよね。育ちの良さが出てるのかな。
「ちょうど部活終わった田村がきてさ。大通りのサイクルショップまで自転車押してってくれたの!私無計画で夏休み前に持ち帰る辞書だのシューズだので荷物いっぱいだったからめちゃくちゃ嬉しくて。田村ってバス通なんだけど、ほっとけないからとかなんてキャー!照れる!」
和葉のテンションが爆上げだ。
「田村って優しいし、医者の息子さんだし、まぁまぁイケメンだし、とにかくその自転車パンクの日に、お子様には言えないあれやこれやがありまして付き合おうと。初彼でぇす」
「お子様にはって。優しくされて恋に堕ちたんでしょ。和葉は
惚れっぽいからなー。羨ましいけど」
「うへへへ。夏のイベント前に彼氏って楽しいことしか浮かばないよ!花火でしょ、プールでしょ、お化け屋敷でキャーでしょ」私も楽しくなってきた。今年の夏は和葉とは行けなそうだけど、花火やプールを思い浮かべた。
「や〜もう、和葉にもう彼氏が!早いよー!でもおめでとう〜!逐一聞かせてね!」
「了解!のろけます!」
初彼には興味ある。でも和葉のことだから上手くやるのだろう。
一歩先にでた和葉の後ろ姿が眩しかった。
ーーー
明日はついにコンクール地区予選だ。
指揮をする先生もめちゃくちゃ熱い。毎年地区予選は突破しているが、ギリギリ感があるし、毎年メンバーが変わるから地区落ちると今年の新入部員の能力も疑われる…なんて考えすぎかな?
でも足を引っ張らないように皆真剣に取り組んでいる。
「ついに明日だなー」
森崎。
「そそそそうだだね」
緊張しいの私はもう緊張。
「なにお前、もう緊張してんの?早くね?」
「うーん、考えるとどうにも。繊細なもんでね」
「うはっ繊細かぁ。自信ないの?」
「自信ないわけじゃ、ないけど…。万が一ミスったらとか余計な心配しちゃって。はぁ。」
「それ繊細じゃなくて心配症だろ、大丈夫だーって。お前上手いし」
「初心者の森崎に誉められてもねぇ」
と明日のことに気をとられ、どうにも可愛げない返答だ。
「なーんだよ、誰か1人でも誉めてくれればとりあえず頑張ったかいもあるって」
……自己肯定感超強い…!呆気に取られアホ面で見ていると森崎が私の両肩をバンバン叩いてきた。
「なによう」
ちょっと恥ずかしい。
「どんな結果でも誉めてくれる人はいるって。俺は誉めるよ。俺をね」
はぁ?
「ついでにお前も誉めてやるから頑張ろうぜ」
ふぅ。こいつアホだけど、ちょっと心に響いた。
「絶対誉めちぎってよ!絶対ね!」
少し赤くなった顔を隠し、お返しに森崎を叩きながら言う。
わははと森崎が笑う。
緊張しても仕方ない。ミスしても森崎に誉めちぎってもらおう。
森崎って癒し系の笑顔なんだなと、少し緊張が溶けて気がついた。
ーーー
コンクール当日。
本番前の練習もあるので早朝から集まって最終確認だ。
「プリントで知らせた通り、練習は9時まで。速やかに楽器をしまって打楽器の搬送に取りかかること!」
『「はいっ!!」』
「冬ちゃん、そこのねじ外して。」
すぐ先輩から指示が飛ぶ。打楽器の運搬って超力仕事。
こんなことがあるなんて思ってもみなかった。
音楽室は特別棟の3階だ。そこから人力で楽器を降ろす。
入部前に説明すべき事項だ、と心のなかで呟く。
「よし、そっちもって。冬ちゃん。じゃあ、行くよ!」
「はいっ!」
「せーの」
「よっ」
えっちらおっちら、ほぼ女子メンバーが運ぶからスムーズには行かない。でも楽器をぶつけないよう慎重に運ぶ。
嫌でも吹奏楽って体力つくよなぁ。
「北見〜ぃ頑張れ!先輩も!」
森崎が後ろから叫ぶ。
「敬太ありがと!」西田先輩。
「森崎も気をつけてねー!」
「おー」
森崎は小林と大物を男2人で運んでいる。
口では余裕そうだが、なかなか大変そうだった。
ーーー
なんとか全ての楽器を降ろし、会場へ向かうバスに乗り込む。
バスの中は遠足みたいで、これからコンクールなんて嘘みたい。
みんなわーわーキャーキャーおしゃべりが止まらない。
意外と男子も交じって盛り上がってたりする。
仲良いことはいいことだけど、一体感? 女子と意識されてない?
緊張と期待の中、会場へ近づくのだった。
いよいよコンクール本番。ステージには楽器も全てスタンバイOKで、いやでも緊張が高まる。
地区予選とは言えど、強豪校も毎年メンバー変わるからどんな結果になるかはわからない。私もここに向けて、精一杯頑張ったつもり。
先輩がステージを見渡して、1年生を安心させるように微笑みかけてくれる。来年はそんなことができるだろうか…。
バチを持つ手が震える。横を見ると森崎も見たこと無い顔して立ってたけど。
私の視線に気付いたのか、こっち見てニカッーと、またまた今まで見たことない顔をしてきた。大丈夫か…?
ともあれ。
結果どうあれ、集中だね。
先生のタクトに合わせ、演奏が始まる。