ちょっと待ってよ福司君!

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1:匿名さん:2020/02/05(水) 16:16


──私は死者が見える。


ちなみに"私"は僧侶でも霊能力者でも無く、どこにでもいる女子高生だ。
サラリーマンのお父さんに専業主婦の母、自宅は団地の6階、都内の公立高校、好きな俳優は菅田将暉。
クラスに同じような女子は多分あと5人いる。


この力に目覚めたきっかけで思い当たるのは、1年前に友人の墓参りをしていたら、墓石に思いっきり頭をぶつけたこと。
幸い出血は無かったけど、それ以降どういうわけか見えないものが見えてしまっていた。
帰り道に渋谷のスクランブル交差点で足が透けてる人を四、五人見た時は思わず立ち止まってしまい、人の波に呑まれたのを思いだす。
一応魂と会話はできるが、接触や除霊はできない。

なんだかアニメや映画などのフィクションにありがちな設定だと思われるかもしれない。
けどフィクションは幽霊を誤解している。


彼らは未練を残して成仏できずにこの世にいるわけではなく、ただ魂が消えるのを待っているだけだ。
100日すれば、未練があろうと無かろうと、魂も泡がぱちんと弾けるように消える。


人は二度死ぬ。

一度は肉体が機能を停止した時。
そしてもう一回は、魂が消滅する時。

肉体が機能を停止してから100日は生前の姿のままふらふらと漂っているが、100日すれば魂ごと消える。
この世からあの世への移行期間というわけでもなく、本当に消滅してしまうらしい。
私からすれば仏教の輪廻転生、極楽浄土なんて詐欺もいいところで、報われもしないのに仏道修行に励む寺の人を冷めた目で見ていた。
どうしてこんなものを何百年間、何万人も信仰しているんだろう。


「あーあ、なんの為に生きてんだろ。どうせ魂は消えんのに」

霊が見えるようになって実害は特に無かったが、なんだか生きる気力を失ってしまった。
死ぬのは嫌だけど、生きる意味も見つからない。

どれだけ現世で良い行いをしても、来世で報われるわけでも極楽浄土に行けるわけでもない。
だから私は、少しずつ、人の見ていないところでサボったりズルをするようになっていた。
どうせお天道様は見ていないから。



>>02 あらすじ、人物紹介

2:匿名さん:2020/02/05(水) 16:30

実藤 奏葉(さねとう かなは)
霊が見えるようになった女子高生。
黒哉が犯人を殺そうとしているのを止めるよう依頼されるが……。

福司 黒哉(ふくし くろや)
奏葉のクラスに転入した男子。
クールなイケメンで女子からの人気が高いが、人との関わりを避けている。
中1の妹を誘拐の末に殺され、犯人の復讐を目指す。

福司 桃亜(ふくし ももあ)
3か月前に殺害された、黒哉の妹。
黒哉の復讐を止めるため、霊が見える奏葉に頼む。

3:匿名さん:2020/02/05(水) 18:16


高校一年に入学したばかりの5月上旬。
家庭の事情で入学が遅れたという男子が教壇に立たされ、改めて紹介された。

「実質転入生みたいなものね。自己紹介して」
「……福司黒哉です。よろしく」

学ランの下には紫のパーカーが覗いており、軽い気崩しが垢抜けている。
黒髪はところどころハネが目立つ天然パーマ。
確かに整った顔立ちで少しドキリとしたが、それよりも私が釘付けになったのは、彼の頭上を浮遊する少女だった。
彼とお揃いの黒髪天然パーマを肩まで伸ばした、紺のセーラー服を着た女の子。

──死んだ身内か。


「先生、もういいですか」
「あぁごめんなさい、どうぞ席について」

担任に促されて嫌々というような感じで紹介をした彼は、一秒でも早く着席したいと言わんばかりに自己紹介を切り上げ、自席に戻った。
てか、その自席って私の隣じゃーん!

当然、彼の頭上を浮遊していた少女もふよふよとこちらへ飛んでくる。

「クールな感じでかっこいいよね」
「でもなんかサブカル男って感じ〜。beatsのヘッドホンなんかしちゃってさ」
「別にそれくらいよくない?」

後ろの方でコソコソと耳打ちする女子の声が私にまで聞こえていうことは、恐らく福司君本人の耳にも入っているのだろう。
彼は気に留めることなく、スマートフォンで高速タイピングを続ける。

『くろ、ホームルーム中なんだからスマホいじるのやめなよ〜。また事件の記事なんか見て』

女の子は福司君の彼の目の前に降り立つと、彼の目の前で手を振っておーいと呼びかけていた。
もちろん福司君の目はスマートフォンの画面に落とされたままだ。

4:匿名さん:2020/02/05(水) 18:29

『もう事件の記事見るのやめてよくろ〜!私くろが刑務所に行っちゃうの嫌だぁぁあ! 復讐なんてしなぐでいーからあ゛ぁあ!』
「げっ」

あまりの大声に、思わず声を漏らしてしまう。
彼女は周囲の人に聞こえないのをいいことに、声帯の限りを尽くして喚き散らした。
一応幽霊同士は存在を認識することなく、互いの姿も声も聞こえないらしいのだが、その存在を認識できてしまう私にとってはうるさくて適わない。

基本的に霊はそれを自覚しているからか、いくら声を出してもいいと思って大声で歌ったりする。
霊が見えるようになった当初は不思議な力を手に入れたと興奮の絶頂にあったけど、こういうデメリットもあるので萎えた。
空気中を振動して出す声ではないからなのか、耳栓しても幽霊の声が聞こえるのはかなり不便だ。


──ごめん、もう少し静かにしてくれる?

声を出すわけにもいかず、私はそう走り書きしたメモを女の子の前へ掲げて見せた。
幸いにも福司君の目は下に落とされたままなので、こちらに気づいていない。

『え、私のこと見えるんですか!?』

何十回と見たリアクションに心底うんざりしながら、軽くこくりと頷いた。


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