プロローグ
「佐藤」「斎藤」
席が前後だったのは偶然だった
もしそうで無かったら仲良くなんて慣れていなかったかも
いや、私が莉愛羅に関心を持たれる事など無かったかもしれないな
中学入学4日目
忘れようも無い実に衝撃的だった佐藤莉愛羅
ピンク髪解禁
それはもう堂々としたものだった
まだまだみんな愛想よく振る舞う友達作りの序盤も序盤だと言うのに強烈な個性の主張
私の感想は当然「このこやっばー!不良かよ」だった
自由な校風で髪を染めるのは茶髪程度なら何も言われないが「1年生はしてはいけない」と言う暗黙の了解があった上まさかのピンク
当然先輩達に目をつけられた
「あのさー、1年でしょ?初っ端からその頭何?スカートも切りすぎだし、今年の入試レベル低いって思われるよ?」
呼び出されてる莉愛羅を見て私は
まじで呼び出しされてんじゃん
あーあ……どーやり過ごすつもりなんだろ
そう思っていると莉愛羅は先輩に対して
「うるっせぇんだよ、お前ら学校の支配者でも気取ってんの?えー?何?学校の風紀は私が守る〜的な?風紀委員会無いのにセルフ委員?ちょー痛くね?」
うわ、喧嘩売ったー
「は!?親切で言ってやってんのよ生意気だな!」
そういうと先輩は莉愛羅を突き飛ばした
「……う、うええええええぇん」
「うわー泣き出したんですけど!さっきまでの勢いどーしたー?」
先輩にそう言われると莉愛羅は携帯を取り出し
「……はーいおっけー、こっち向いて、動画の最後に目線もらって良いですかー?あーもう肘打ったじゃんいったーい、つかあからさまな呼び出しに何の準備もしないわけねえだろ、ずっと撮ってんだわばーか!今時そんな可能性も考えず呼び出したん?頭悪すぎ!お前らの代の入試大丈夫〜?もうパソコンに送ったんで大事に保存しますね、せっかくだし良い感じに編集して知らない先輩に殴られましたって教員室で泣いてこようかな〜?あーSNSで公開した方がいい?それともデータ親御さんに送りましょうか?」
「は?ちょっ……」
「ねぇあんたら、今後私にごちゃごちゃ言ってきたらテメェらの人生に一生消えない傷を付けてやるからな、陰湿にずぅーっとね」
莉愛羅が先輩を堂々と追い払った話は広がって怖がる子がいる一方で武勇伝の様な扱いをする子も居た
名前入れるの忘れてました
5:&◆T.:2020/06/01(月) 09:55 莉愛羅はクラスの中心だった
派手で物言いがきついが何もなければ明るくよく笑う人で積極的に人を引っ張り主導権を取りに行くし楽しい事を提供するのが上手だった
大人しい組は莉愛羅を敬遠したが逆らいはしなかった
私は最初の段階では中間くらいに属していてそれほど他人との人間関係を計算していなかったから楽しそうで良いなくらいに思っていた
だけどあの時
「ねぇねぇ斎藤さん、つまんなそーな顔してんね?」
私はたまたま莉愛羅の視界に入ったのだ
そしてそれは私を少し変えていく
「学校って楽しまなきゃ損だよ?何か悩んでるの?」
さ、佐藤さんに話しかけられた!
「いやー……ちょっと親と喧嘩しててさ」
「親?何でー?」
「いやー……まぁ色々……」
「仲悪いの?」
「んー……微妙」
「へぇ、自分の言い分分かってもらえなくてむかついてんだ?」
「え?」
「だって親の意見にはいはい納得してたらそんなふてくされないじゃん、莉愛羅と一緒だねー、言っても言っても聞いてくれないの、莉愛羅が髪染めたのそれが原因だもん」
「えっ?」
「莉愛羅ねぇ、親別居してんの、ここの中学結構難関じゃん?だからこの中学受かったら家族で久々にご飯行こうって約束してたのにお父さんがやっぱ無理とか言い出すから腹たって罰としてピンク髪にしてやったわけ」
重っ!
そんなさらっと言う!?
「ピンクが何で罰なの?」
「え?だって罰っていうのはさ人に対して不自由を与える事とか恥をかかせる事だと思わない?娘が急にこんな頭になってぐれたら親にとって恥でしょ、だから罰」
意外に思った、堂々として気の強い莉愛羅が親に対してそんな子供っぽい反抗をしていて一瞬少し悲しそうな顔をした事
言葉にはしなかったがその理論なら髪を染めた事で目をつけられて不自由があるのでは?
親を罰すると同時に自分自身も罰して居るのでは?
そう思ってしまって何かむず痒かった
この日を境に莉愛羅とたまに話すようになった
もっぱら親の悪口で盛り上がった
「まじー?大概にしろよって感じだよねー」
「ねー、自立するまで逆らえないの辛すぎ、何かいい方法ないかなぁ」
「あははは、じゃあ愛菜も染める?髪」
「え?」
「愛菜染めたこと無いっしょ?少なくともちょーびっくりすんじゃない?茶髪くらいなら学校的にもどうって事ないし何か言われても莉愛羅がいるし?もしかしたら本気が伝わるかもだしだめならだめでしてやったりかもよー?」
莉愛羅が居なければ無かった発想だ
それから莉愛羅と別れた後美容院で髪を染めて家に帰る
リビングに行くと母親から強くビンタを食らった
「何考えてるの!?あなたはまだ中学生でしょ!?今すぐ戻しなさい恥ずかしい!!!!」
私を見た妹は
「きゃっはっはっ!お姉ちゃん金って!笑い止まんないわー」
「雪菜はあっち行ってなさい!!!!」
母と2人になると私は口を開く
「……私が何でこうしたのか興味無いわけ?」
「どうせ大した理由じゃないでしょ、後で聞いてあげるから戻すわよ」
そう言われて母に髪を引っ張られると私は母親の頬をバシンッと叩いた
そして
「虐待かよババァ」
そう言った
やって良かったと思った
この人には分からないんだと確信が持てた
最も強い絆で結ばれて最も長く側に居る人
愛せるはずの人を愛せない
私の苦しみが
「し ねよ」
私は母親にそう言った
それから妹と私は部屋に行かされた
リビングでは父と母が話し合っている
「何だあの頭は、あれで学校行くつもりか?」
「そうみたい、今までにないくらいの反抗ぶりなの」
「荒れるなんてお前がちゃんと見てないからじゃないのか」
「は!?全部私のせいだって言うの!?ふざけないで!!!!大体あなたはいつもいつも……」
「お前は何の話がしたいんだ」
両親は私が突然反抗した事にショックを受けていた
まあそうであろう、私が不満を持っているなど思っていなかったのだから
部屋で私と妹は
「あーあ……ちょーもめてんじゃん、お姉ちゃんどーすんの?」
妹の話を無視して私はガチャっと扉を開け親の前へ行き
「お父さん、お母さん」
「愛菜、雪菜も」
「心配かけてごめんなさい、叩いてごめんなさい、思ってたより明るくなっちゃって、八つ当たりしてごめんなさい」
「あ……そうなの?じゃあ元に戻しましょ」
「髪がすごく傷んじゃったから良くなってからにしたい」
「いやでも学校で浮くでしょ、校則……あー……」
「他にも明るい人沢山いるし大丈夫、金髪だからって非行に走ったりしないからお願い」
母さんはいつもより少し怯えていて弱かった
私は説得を押し切った
次の日学校に行くと莉愛羅は愛菜を見て
「……愛菜、せいぜい栗色くらいかと思ったら金って!!思い切り良すぎでしょ!!んで、親どうだった?」
これは決意の証拠でもあるからなんだかんだ理由をつけて気がすむまで戻さない
「一層嫌いになった」
「あー……そっかー」
「でもすっきりしたよ、ありがとう」
「私は何もしてないけどどういたしまして、愛菜、あんたかっこいいよ」
これをきっかけに莉愛羅といつもつるむようになった
髪についてはしばらくの間戻せ戻せと言われたが私の態度があまりに頑なだった事やあの時の反抗ぶりを考慮した両親が折れた
まぁ金髪であること以外はちゃんとしてたし、成績も礼儀も
どうせ思春期のずれたおしゃれくらいに思ったんじゃないかな
あぁそうだ、あの時私は謝ったけど母親は謝りませんでしたね
それから莉愛羅といて分かったのは楽だという事
この人は自分を世界の中心に出来る人だから、子供ばかりで制約だらけの教室の操作なんて難しくない
いつのまにか莉愛羅に情報が集まっていて支配されている
嫌な事は人にやらせて、楽しい事は見逃さない
そして、莉愛羅の良いところは側近には自分に準ずる待遇を認める事
何もしていないのに一目置かれる
まるで自分が優れているかのように錯覚が出来る
あぁ、何て気持ちいい
家に不満がある分学校で上位にいれるのは凄い嬉しかった
「今日帰り道に坂道の裏に出来たあそこ行こう」
「良いよ!」
そんな会話をしながら廊下を歩いていると先生に睨まれる
そうやって敵を作る事もあったが
「大人気ないねー、すぐ顔にでる」
莉愛羅がいれば全然怖くない
自分の能力では得られないはずの特をしている
そうか、こうすれば良かった
人生は常に競争
凡人の私は黙ってたら常に誰かに負け続け常に損をし続ける
そんな私が地道に努力するより合理的に良い待遇を受けるにはこういう人間を利用すれば良い
こういう自らの力で上位に行けるような特別な人間を
莉愛羅の側にいて少し嫉妬していた
莉愛羅は今までどれだけ私より得をしたんだろう
分けてもらっても罰は当たらないわ、あまりに不公平よ
家はもう諦めたけど学校でならまだ間に合うわ
初めは純粋だった友情が狂っていった
莉愛羅の機嫌をとって気を遣って過ごして確かに良い思いはする事が出来た
けれど時々ふっと虚しくなる
私って本当につまらない人間
私は何をしている?
自分が得しようとして人の為に動いている
私の意思は必要とされてない
私の価値はどこに?
私でなければいけない事は?
莉愛羅自身も次第に私の扱い方が変わり我儘になった
私より瑠奈の方が動くから私は補助的だったけど
そんな莉愛羅に従い彼女を増長させた事が安西の件の一因だったのかもしれないな
少し話が逸れたがとにかく私はまともな友情すら失った
それを無視して時間を過ごしているうちにかつて親に対して中身を見ていないなんて思っていたのに私は本当に中身が無くなっていた
中身なんてないから居ても居なくても良くて、繋ぎ止めるものがないから少し離れたらすぐバイバイ
誰にも泣きつく事が出来ない、孤独だなぁ
そんなある日
安西と莉愛羅の親が不倫しているのをちょうど莉愛羅達は見つけた
それを見た私は
「り、莉愛羅……」
「そういう事、あっそう」
次の日
莉愛羅は愛菜も瑠奈も連れず安西里奈を呼び出した
里奈は取り巻きなしの2人きりの状況に内心ビビっていた
「あ、きたきた、やっほー安西さん、急にごめんねぇ」
「良いけど……何……?」
「これ見て」
そう言って莉愛羅がスマホを出すと1つの写真を里奈に見せる
そしてこう聞いた
「この2人、知ってる?」
「え、男の人は私のお父さんだけど女の人は……どこかで見たような……?」
「この人莉愛羅のお母さんだよ、安西さんのお父さんと同じ病院の看護師、この2人ね、付き合ってるよ」
「……へー」
里奈がそう言うと莉愛羅は里奈の腕をがしっと掴み
「ねぇ安西さん協力しよ!親同士が不倫とかいかれてる!急に言われて困っていると思うけれど私達に罪は無いんだから歪み合わずに協力して別れる方向に持っていこ!やっぱ2人でいるところを抑える?それとも病院の偉い人にちくるとか、取り敢えず作戦練らなくちゃ、私お父さんに知られたくないんだよね、そっちはお母さんどんな感じ?そこ考えないとね、安西さん、一緒に家族取り戻そうね!」
「……勝手に話を進めないでよ」
「え?」
「私は良いよ、そういう工作」
「安西さんも無関係じゃ無いんだよ!?」
「佐藤さんの家には幸せがあったんだね、私の家は不倫がなくなっても別に幸せじゃないの、これ以上疲れたくないし乱れたくない、ごめんね」
里奈がそう言うと莉愛羅は里奈をどんっと強く突き飛ばした
また名前入ってなかった、ごめんなさい
21:&◆T.:2020/06/01(月) 14:43 莉愛羅は里奈を睨みながら
「幸せがあった?そうね?そう言う時もあったけど?その幸せを現在進行形で壊してんのは誰だと思ってんだよ!つか、誰が好き好んであんたと仲良くしようとすんのよ、お互い様と思って我慢してたのにまじくそだな、あんたもあんたの父親もごみだわ、選んだのは自分自身よ、出来るだけ早くし ね!」
そう言って莉愛羅は走り去っていった
次の日莉愛羅と愛菜と瑠奈と里奈は水道場にいた
瑠奈は里奈を押さえつけ愛菜は動画を撮影するために携帯を用意した
莉愛羅はと言うと
「漫画やドラマのいじめ描写でさぁ、顔に水つけるやつあるじゃん、あれ私意味あんの?って正直思ってたわけ、だって水じゃん?絶対ぬるいよね、そこでここに理科部からぱくってきた青虫が3匹」
そういうと莉愛羅は袋に入った虫達を足で踏み潰す
そして袋を持ち上げ袋から青虫を滑らすように出す
「私虫嫌いなんだよね、ビニール袋があるとは言え持ってくんのきもかったわー、とりまこれ安西60秒で飲み干して、よーいどん」
里奈は泣きながら飲んだ
「はいおつかれー、少しは頑張ったんじゃん?大分大目に見たけど」
瑠奈は莉愛羅に
「ちょ、ちょっとこれはやりすぎじゃない?」
「何言ってんの?甘すぎ、これで終わるわけないでしょ、んじゃ次は洗い流しまーす」
そう言って莉愛羅はバシャバシャと里奈に水をかける
「いくら洗っても性根の汚さは取れないけどねー」
そんないじめが半年も続くと次第に安西は学校に来なくなった
それから2年に上がるまでは莉愛羅も大人しくしていたものの2年に上がってまた1人の女の子を連れてきて
「ねぇみてみて!莉愛羅達の新しいオトモダチ!」
「え?お友達って……」
「安西居なくなって寂しいじゃん?だから見つけてきたの!せっかくだし安西の時みたいにあそぼーよ!」
莉愛羅がそういうと私は莉愛羅を突き飛ばしていた
「うわっ、何すんのよ!」
まず、この人達を断ち切るのが第一歩
「変わらないねぇ、莉愛羅は悲しいほどに、本当にくずだよね」
「はぁ?何その言い方?散々仲良くしてあげたのに私に喧嘩売る気?」
「してあげた、か、そうね、私は仲良く、してもらってたね」
友達じゃ無かった、それでも良いと思ってた
「良い加減さ自分を磨く事で自信を持てるようになりなよ、そんなやり方でしか自分の価値を認められないの?自分はいじめられてるこいつよりましだ、そう思いたいんでしょ?」
愛菜がそう言うと莉愛羅は愛菜を蹴り飛ばし
「さっきから調子乗んなよ、何様のつもりだこら」
「ぜーんぜん怖くないよ?今莉愛羅に嫌われても何も困らないの、しがみ付く理由が無い、変な噂流されようがなんか痛い写メやら拡散されたとしても実際出るとこ出たら困るのそっちだしね……私ね莉愛羅の事嫌いじゃないよ……結構やってることくずだけどさでも周りを黙らせて付いてくる子分を作って……そういう人を従わせる力は莉愛羅の才能だと思う、そこは素直に凄いと思うよ」
「……頭沸いてんのか?まじ何言ってんの?って感じなんだけどくっさ」
「残念だよ、報いが来るまで気づくつもりが無いのは」
「……ちっ、し ねや」
そういうと莉愛羅は瑠奈を連れて去って行った
もう2人には会えないな
でも良い、それで良い
私は自分に出来る事をしたと思う
だからこの選択を後悔しない
100%綺麗じゃなくても、もう十分でしょう
End